1-13 世界の構造その2
【13】世界の構造その2
「大魔王を知っているか?」
ディーンが全員に質問した。その場の全員、それこそディーンのパーティーたちも驚いている。もしかしたら事前の打ち合わせにはなかった内容なのだろう。
「その質問、今からそのまま続けるようだったら、みんなであなたをボコるわよ。」
オードリーが焦れて言った。ディーンは、まあまあと手振りをした。
「そういう意味じゃない。大魔王とは何だ?どんな存在かと聞いているのだ。」
「どんな存在って…人類の敵だろ?今更何を。」
セリイグが答えた。
「だろうな。そう答えるのは当然だ。それ以外の答えの奴は?いないのか?」
「だから、何だと言うんだ!」
野次が飛んだ。
「この世界は、人類世界と魔界との半分でできている。1000年前、空から火を噴く巨大な玉が地上に落下した。そこから、大魔王が誕生したと言い伝えではある。大魔王は、強力な魔王を次々と生み出し、魔王たちはさらに魔物を生み出し、町を世界を蹂躙した。そして、それとともに制圧した領域を、陽の光を通さぬ深く闇が支配する、暗黒の世界へと変えていった。魔物が跋扈し、光なき闇の世界、人が住めぬ世界、それが魔界だ。」
全員が静まった。何度も、いや何千何万回と幼い頃から、勇者学園に在学してからさらに嫌になる程見聞きした世界の姿だが、ディーンの語りに淀みなく全員が聞き入った。
「魔物たちはある程度、集団を維持するために拠点を作る性質がある。形は様々で、城のような形の構造物、塔、ジャングル、私たちが今いる洞窟の形態…これをダンジョンという。一定規模の魔物たちを増やすと、ダンジョンから魔物は放たれ、虫が新たに巣を作るように、さらにダンジョンを増やし、闇の世界が広がっていく。それが魔界の侵食だ。」
「だから俺たち勇者が、これ以上俺たちの世界が魔界に浸食されないようダンジョンを潰して回ってるんだろ!」
「それにダンジョンをまとめる核の、魔王一匹をを倒せば、少なくても数千単位のダンジョン、数万の魔物を一瞬で消滅させることができる。」
「一発逆転だ!」
「そうだ。そこだ。」
「そこって?」
ほぼ全員が疑問と不安な表情にかられた。
「人類は何をした?」
「何って…」
「まず魔物は光を嫌い闇を好む。逆に光の中では活動が鈍る。その性質を利用して作られたのが…」
「光の世界樹セインデリアでしょう?」
シルキーが不意に答えた。全員がシルキーの方を向いた。シルキーは、高所のディーンを見つめている。
「そうだ。セインデリアだ。時に貴様ら、セインデリアとは何かわかるか?」
「またか…何何シリーズはもううんざりだ。」
「先を言えよ!」
「そうだなセリイグ、そしてカイン。これはわかりやすくするための確認作業だよ。言うまでもなくセインデリアは、大昔、12人の勇者たちが作った巨大な魔力結晶だ。光を常に生み出し、人類側の世界を照らし続けるためのな。つまりは魔物たちが入ってこれない永久の結界だ。」
「光の世界が人類の世界。」
「だから、大勇者それぞれの始祖たちが興した国、これが12の王国があるんでしょう?」
「アルバート王国もその1つ。」
生徒たちが口々に言った。
「そうだ、そしてその12人の勇者たちの子孫が私たち勇者、選ばれし民だ。私たちは、ダンジョンを破壊し、そして魔王を討伐する。新たに討伐して得た光射すエリアを、討伐した勇者の属する国が接収する。これが今の世界の法だ。」
「そんなことは分かっている!何を当たり前のことを!」
「そう、それこそが世界の真実だ。この世界は魔力が無ければ成り立たない。魔物を排除するのに魔力を使い、いまや魔力結晶で動く気球船や魔導具まで、魔力が無ければ暮らし…いや社会自体が成り立たなくなっている。では、魔王…いや大魔王を倒してしまったらどうなる?」
「ど、どうなる?」
「どうなるんだ?」
「別にどうにもならないわ!世界が平和になるだけよ!」
シルキーが大声で叫んだ。
「いいや。そうじゃない。これを見ろよ。」
ディーンがライタルストーンをかざした。
「このライタルストーンは、これも約1000年前に、12勇者の1人、ライト・ボイスが発見したもので、魔力を吸収して貯蔵することができる物質だ。この巨大なものがセインデリアと言っていい。私たちは、魔力の塊である、魔物を倒してこの中に魔力を集め、そしてギルドへと納める。毎月の莫大な褒賞と引き換えにな。勇者たちの集めた魔力は、ギルドから魔力結晶を作る工場へと流され、魔導具や、ひいてはセインデリアの光へと転換される。わかるか…いやこれで分からなければ貴様たちは愚か者だ。」
「だから…」
「俺たちは…」
「わたしは…」
「そこだ、この矛盾、世界の、王国や学園の欺瞞。私たちは魔王を、大魔王を狩り尽くしても良いのか?そう考えるのは至極当然。だがそれを世間一般に向かって言うことなど出来るはずがない。これは、既にセインデリアを作った段階で12の大勇者たちが感じた自己矛盾だと言われている。それは半ば不文律として世間に伝わり、各国で魔力量や魔界の浸食をコントロールする共同機関ワールドエンドのような調整機関が生まれた。私たち勇者学園もワールドエンドの一組織だ!もう一度いう、大魔王はこの世界になくてはならない。私たち勇者は、自ら組織を作り、そしてその世の中をコントロールする側に立たねばならない。勇者をやる者は、ごっこだ。それではなく、富を名声を豊かな暮らしをしたいもの、賢い者は私と来い!」




