第1章 1 魔王城の城門の前で
剣と魔法、世界の救世主となる勇者が誕生する世界。中世風の王国が乱立し、覇権を争っている。空にも届く巨大な光の世界樹セインデリアが照らす。
約1000年前、この世に大魔王が現れた。大魔王は、その強大な力で、魔王を従え世界を席巻した。今や世界の半分が大魔王が支配する世界、魔界と化していた。人々は、これ以上、魔界を拡げないよう、また大魔王を倒すべく、勇者や勇者が率いるパーティーメンバーとなる様々なエキスパートジョブ〈専門職〉を養成する勇者学園を各国に設置した。
過去1000年の人類史上、最強の勇者たちが次々と輩出され、大魔王の勢力図は大きく後退した。今や大魔王を倒さんとする大勇者のパーティーすら台頭したが、あと一歩のところで、パーティーメンバーの裏切りにあって、それは潰えてしまった。
以降、他のパーティーも苦戦を強いられ、大魔王の勢力図、魔界は、再び世界の半分まで侵食した。
最強の剣の勇者、最強の槍の勇者、最強の弓と武術の勇者、大賢者、大魔法使い、大精霊使い、竜の騎士と出会い、次々に仲間にしていく勇者ロビン・クルソンは、実はビギナーズクラス。彼は学問、剣術、魔法、オーラのスキルが習得できていない勇者学校では劣等生だ。
だが彼の最大の武器は、人を守りたいという正義の心と、純粋な優しさだけだった。
7人の勇者の誰もが成し得なかった大魔王討伐を果たす、これは優者の物語。
【1】魔王城の城門の前で
「もう少しで、あとほんのもう少しのところで、大魔王を倒せたのに・・・」
剣の勇者アルクスラインは、薄れる意識の中で、必死に手を伸ばした。
彼の手が指し示す方には、1人の男がニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべて立っていた。
「な、何故だ? 何故裏切った?お前は俺の、俺の一番古くからの・・・うっ!」
アルクスラインがそう言いかけた時、漆黒の矢が彼の胸を貫いた。
「アルクスライン!」
彼のパーティーの4人の仲間たちが、膝から崩れ落ちる勇者の姿を見て、一斉に叫んだ。
全ての攻撃も防御も、剣聖アルクスラインの聖剣の前にあっては無意味、古今東西最強の勇者の1人といわれた英雄が、事もあろうに、魔王城にたどり着けずに、その城門の手前で、最期を迎えてしまったのだ。敵地のど真ん中であっても、誰もが予想だにできなかった出来事に、仲間たちが呆然とするのは、当然のことだった。
パーティーメンバーの誰もが動けない中で、風の妖精を精霊加護にもつシルキーが、すぐさま駆け寄り、防御の風の壁を形成しつつ、治癒の呪文を早口に唱えた。
「シルキー、良くやってくれた!アルクスラインは?」
仲間から問われたシルキーは黙ってうつむいたまま、治癒の呪文だけを続けていた。シルキーの膝に抱えられるようにしているアルクスラインの顔は見えないが、その手その指は動くことはなかった。
風の防御魔法もいつの間にか解けていた。
「シルキー危ない!」
仲間たちが叫んだときには遅く、シルキーもその胸に、漆黒の矢を受けた。
彼女の意識は、混沌の闇に落ちていった。
この物語は過去からスタートしています。