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朱に交われず、赤くなる  作者: なおさん
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無差別に手を捻る

急ぎめに書いたんでおかしな所があるかもしれませんが御容赦ください。

瓦礫の壁の近く

ニシロ・テルマは自信が発砲した大型ライフルがもたらした結果に慄いていた。重傷を負った人斬りにトドメを刺すべく発砲したつもりが、錯乱のあまり手の震えが収まらず、狙いも定めぬままに発砲したせいもあって玉は外れ、柱に命中して天井を崩す結果となってしまったからだ。だが、自身の職場だった所を自身の手で更に崩壊させたとはいえ、それによる人斬りへの復讐が成し遂げられたならばと開き直って状況を確認すべく瓦礫でできた壁に向かって駆け出したのだった…

が、側まで行くと人斬りの一人が瓦礫の前で膝をついて呆然としていた。仕留めきれなかったことにいらだちを覚えつつも、この深い悲しみを堪えようと事態を楽天的に考えることにしたニシロはさらなる手を打つべく思案した。

(くっ、しとめきれなかったか…でもあの女の方が見当たらない…そうか、瓦礫の下敷きになったのか。だからこいつはこうやって呆然としているのか。今なら…やれるかもしれない。)

銃に弾を装填した二シロは音を立てないように細心の注意を払ってこの世でたった一人きりになってしまった人斬りに歩み寄るのだった………


アレストは突然起きた悲劇に困惑しながらも考える。ノーネイムが残した言葉の意味を。ノーネイムが今まで自分にしてきたことを。…思い返してみると自分は人斬りという身分でありながら、人を斬りはしても殺すことはなかった。なぜだかは今の自分でも思い出せない。ただ、トドメをさそうとすると、心の奥底にあるセーフティのようなものが作動してその腕を動かさなくするのだ。ノーネイムは不思議がりながらもトドメを刺さないアレストを責めたりはしなかった。だが、生かすわけにもいかないのでいつもノーネイムが変わって始末していた。仕事の依頼で自分よりも格上のものと対峙したこともあったがそんな時はもう仕事を諦めて逃げに徹していた。自分のこともよく分かっていないアレストはよく分からない相手に殺されるのは真っ平御免だから、という考えの元であった。だが、ノーネイムは対照的に相手がいかなる強さを持とうとも逃げることはしなかった。傷つき、ボロボロになりながらも命の灯火が尽きるまで、という覚悟でひたすらに一生懸命に刀を振るった。そんな姿を何度も見てきたアレストは尊敬し、憧れながらも自身との違いを痛感し、人それぞれだろうと割り振って改善に努めることはなかった。楽を選びたがるアレストはノーネイムよりも成長が遅れていた。今回の悲劇はそんな自分の心の弱さから来るものだとノーネイムの死を持って理解した。逃げんなよ…その言葉がアレストの胸に深く突き刺さり、やがて溶け込むようにしてアレストの心と同化した。自身の非と、それを認め、改善する決意。これらを頭で認識した瞬間、アレストの心の中からは大きなゆうきが生まれるようにして現れ、ドンドンと大きくなっていった。それは新たなる力となって形として現れる………


ニシロが音を立てないように細心の注意を払いながら銃のセーフティを解除したその瞬間、目の前の人斬りからおびただしい何かしらの『気』を感じた。それは何とも形容し難い強い感情に満ち溢れた表情を向けられることによってさらに強まった。動揺のさなかで二シロはある変化に気づいた。目の前の人斬りの片目の色が変わっている。さっきまで綺麗な金色の両眼をしていたのに、いつの間にか左眼が透き通った紫色に変貌していたからだ。それは強い眼差しでじっと二シロを殺気を抑えることもなく睨みつける。あまりの圧迫感に怖気好きそうになりながらも二シロは声を振り絞って人切りに語り掛けた。

「な、なんだよ…たかが人斬りの分際でそんな目しやがって…さ、最初に攻撃を仕掛けてきたお前らが悪いんだろうが!!この悪しき人斬りめ!」

そんな言葉に反応するのは最初に聞いた時よりもかなり低く、重くなった声だった。

「俺は人斬りなんて呼び名じゃねぇ。アレストだ。」

その言葉には圧がかかっており、常人ならば聞いただけで震え上がってしまいそうなほど恐怖に満ちていた。二シロはアレストと名乗った目の前の人物の変わりように驚愕の色を隠せないでいた。なぜこの男がここまでの印象の変わりようを見せたかに訳が分からず、半ばやけくそな気持ちで言葉をなげかける。

「気、貴様のことなど知るか!まあいい、仲間を殺した償いを受けてもらう!!」

弾を特殊効果炸裂弾に装填し直した二シロは今度こそ狙いを正確に定めてアレストへ向けて発砲しようとした。

この玉は、用途に応じて様々な種類が用意されている、通常弾とは異なる仕様の弾丸だ。効果は様々であり、着弾した瞬間に辺りを火の海にするものもあれば、地面を液状化させてしまう物など様々であった。効果が効果なだけに、貴重な装備であり、一般隊員ならば1、2発ほどまでしかし支給されていない。今回は広範囲に爆風を起こす効果を持つ弾丸を使用した。アレストを一撃必殺で瞬時に仕留めようと考えた結果の判断であった。が、そんな考えは全くの意味をなさなかったことを自覚させられることが起こる………

アレストは自身から湧き出る勇気を力としてものにしたいと願った。もう逃げない覚悟、悲しみを背負い、過ちを繰り返さない決意。これらが更にその勇気を膨張させた。その願いが行き届いた結果なのか、アレストの勇気が力に変換されるかのように、手にしていたアレストとノーネイムが持っていた刀が光を発して変形し始めた。それは一瞬の出来事であり、その場にいた二シロを含めての一般人からはカメラのフラッシュが作動したかのように見える程度のものであったが知覚速度が引き伸ばされていたアレストからは5分くらいはかかって変形していたかに見えた。だがどうしてそうなったかは今のアレストには分からない。やがて光が収まると、手にしていた二本の刀が驚くべき変化を遂げていた。

アレストが元から持っていた刀は刀身が金色に変わり、より鋭利になっていた。更につばの部分に新たに銃口らしきものとトリガーが新設されていた。ノーネイムから託された刀は、落ち着いた銀色の刀身になって、若干長くなっていた。更に柄の部分にちょっとした大きさの穴があった。一番変わったのは握っているだけで溢れんばかりの力がアレストの体に伝わってくるようになった所だ。その力はアレストに敵を殲滅させる原動力となってアレストを更に奮い立たせた。

変化したのは刀だけではなかったが、未熟なアレストはそれを自覚しない。だが、この場の敵は目前のニシロと先頭を繰り広げるヴァンパイア達と人救連の隊員達。覚醒したアレストにこれ以上の優遇は必要としなかったのだ…


アレストの覚醒に動揺したのは二シロだけではない。その場にいた誰もが戦闘行為を止めて先程までのアレストとの違いに驚愕しながらも、少しずつ冷静さを取り戻していった。

「な、なんなんだアイツは…今まであれ程の強者の風格を感じさせるものだったか?」

「何にせよ、奴はヴァンパイアに魂を売った外道!あんなものは見掛け倒しだ!やってしまえぃ!!」

まず動いたのはヴァンパイアと戦闘していた人救連の隊員たちだった。完全にこの惨劇をアレストたちのせいだと決めつけた隊員たちはヴァンパイアとの戦闘を放棄し、仇だと思い込んでいるアレストに矛先を向けて襲いかかってきた。が、隊員たちはアレストの側までたどり着く前に全員がその場に倒れ伏した。驚愕したヴァンパイアは状況を確認しようとしたがまず、アレストの姿が消えていたことに気がついた。奴はどこだ、と視線を彷徨わせているうちに死角から次々と刃の先が飛んできた。熟練のものはかすり傷で済んだものの、そうでない者たちは腕や翼を切り落とされて絶叫と共にその場にくずおれた。人救連の連中も、ヴァンパイアもお構い無しに敵と認識したものを神速斬っていく。先程までヴァンパイアに背後を取られた人間のはずなのに突然このような力をつけたのでは驚くなと言うのが無理な話だ。頭を回すうちに斬られてしまうのだから。

「き、聞いてないぞ…こんな化け物がいたなんて!」

「熟練の上官たちまでやられ…グフォッ!!」

「た、たす……………………」

その場にいたほぼ全員が為す術もなく倒れていった。二シロもトリガーを引く寸前で背後から斬られた。余りに一瞬の出来事であった為、アレストの姿が消えていたことに気づかなかったのだ。今自分がどうなったのかも理解せずにバタッと倒れるニシロが気絶の寸前で最後に見たものは、さっきまで自分が握っていたはずの細切れにされた一丁の銃だった…


アレストは誰も殺さなかった。だが今回は心のセーフティなどではなく、自分の意思でそうした。それはノーネイムの命を奪ったこいつら全員を自分の理想のためにしっかりと物を見極めようともせず自分の都合や思い込みで決めつけてしまうようなクズ共と認識したが、今コイツらころせばこいつらを失った家族や友人らがアレストのことを同じふうに考えるかもしれないと思い、それだけは絶対に避けたいと思ったがためのことであったのだ。故に、これからもアレストには人を殺す気はない。さっきの神速の技の生き残りがいないか辺りを見回すと……………辛うじてまだ立ち上がろうとするヴァンパイアが一人、いた。

「き、貴様…どのようにしてその力を…」

「答える義理はない。まあ、強いて述べるなら貴様らの愚行に要因があるとでも言っておこうか…にしても手を抜きすぎたか。あまりこの力のことを目に焼き付けてもらっても面倒だからもっと痛めつけてやる。」

それは、何より重く、冷酷な声に聞こえた。アレストがそれを言い終えた瞬間にまた姿が消えた。ヴァンパイアはその消えた瞬間を見てもう逃げることを諦めていた。だがせめてその力の秘密に少しでも迫れれば…そう考えたが、そのヴァンパイアとアレストの実力差ではそんな考えはアマチュアの極みとも言えるほどの愚策であった。何しろ目に見えない位置から高速で蹴りと連発してくるのだから。刀を使わなかったのはより長く痛めつけて二度と歯向かおうとする意志を木っ端微塵に粉砕するためであった。痛みのあまり呻くことも出来ずに攻撃をくらい続けたヴァンパイアは数十秒後に失神した。えげつないほど背中をボコボコにされて。


暴れ飽きたアレストは二本の刀を鞘に収めてその場を離れるべく歩き出した。今回の騒動でアレストの顔を広く人救連に知れることになるだろう。そうなればもう今までどおりに生きられないかもしれない…そんな不安を胸に抱きながらもアレストはどこへ行こうとするでもなく、力ない足で日が沈み、夜を迎えようとする街の影へ吸い込まれるようにして立ち去って行った。心に刻まれた深い悲しみと喪失感と共に…


ビルの倒壊現場近くにいた人間は大半がヴァンパイアに仕留められ、運がよかった者でも大怪我をして失神していた。残った人救連の連中とヴァンパイア達も残らずアレストに倒されたことによってアレストの力を目撃したものは皆起きてはいないはず…………のように思われたが、あとから現れたとある集団がアレストの覚醒から力の行使までの顛末を一部始終観察していた。それらは高級そうな大型のスポーツカーのようなものにのりながらアレストが立ち去るまでの行く末を見守っていたのだ。

「これは…間違いなく«目覚めの予兆»ですよ!」

「感情を強く揺すぶられたことによる覚醒というわけだな」

「彼…ひょっとしたらいけるかもしれないわね」

「と、言うことは!?」

「呼び込むだけの価値はありそうね。新たな戦力として期待できそう!」

「…では参りましょうか。」

その集団はそんな会話を交わした後に目を付けたアレストの後を追うべく車に乗り込み、新たな目的のための行動を開始した。


とりあえずの出だしはこんな感じです。ノーネイムの死への悲しみとと新たな力…ふたつを抱えてアレストが行き着く先は…ご期待ください!

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