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朱に交われず、赤くなる  作者: なおさん
3/4

悪貨と悪貨は潰し合う

遂にアレストの転機です!これからも出るキャラクターたちの心情にもご注目ください!

ルーベル紀1421年10月1日 11時

人類救済連盟軍デキム支部

人類救済連盟軍とは、他種族の魔の手から文字通り人類を守護し、救済することを目的として20年ほど前に組織された独立治安維持部隊、通称人救連である。5種族による戦争においてこの組織は、本来は自衛を目的としていたものの、戦争の激化に伴い守ってばかりではいけないという思想を持つものが現れ始めたために、他種族領土への侵攻を開始し、本格的武力衝突へと発展させてしまった。他種族へ侵攻させようとするために世界の各地に支部を築き上げ、人類はその各地から侵攻のための作戦行動を進めるのであった。が、もちろん他種族達がこれを見過ごすわけもない。事態を重く捉えたヴァンパイア達は人間たちの領土内に同胞を送り込むことによって内部から組織を崩壊させようと考えた。力あるヴァンパイアなら外部からの攻撃も出来なくはないが、人類の化学兵器によって激しく抵抗される恐れがある。そうなれば自分たちの被害も拡大するために、内部からという陰湿な方法でこの組織及び組織に所属している人間を抹消しようとの考えであったのだ。今回アレストたちの目の前で爆発したビルもその支部もその一つ。だが、今回は今までとは勝手が違い、多くの犯罪組織が点在しているデキム街の支部であった。この街の治安の悪さを少しでも解消すべく、デキム街に人救連の支部を築くことによって警察組織と連携して街の秩序を保つことが目的だったからである。その効果は絶大で、犯罪組織らが表で派手な悪事を働くことは大幅に減少し、多くの悪人が制裁を受けた。人斬りの生き残りがアレストとノーネイムだけになった要因の一つにもなっている。が、それでもかなりの数の犯罪に手を染める者はたむろしており、しかもそいつらは報酬さえ用意されればいかなる汚れ仕事でも請け負うもの達であった。それがたとえ他種族の殲滅だとしても彼らは迷いなく戦いに身を投じる。だからこそ、今回のこの街の脅威は他にあり、ヴァンパイア達はそれらの対処に頭を悩ませた。自分たちが根城を構える街で爆発事件などと起こそうものなら奴らが黙っていないのは当然のことであるからだ。そこで狡猾なヴァンパイアが考え出した作戦は、爆破予定のビルに裏社会で暗躍するものたちを集めてまとめて始末するというものであった。今回アレスト達に依頼を出した人物こそがその主犯であり、異常な動きをする男たちはその誘導役。まとめて始末すればいちいち手の込んだマネや証拠を残さずに済むことが奴らにとっての何よりの利点だ。しかも、もしおびき出した者の他に生き残りがいたとしても、人救連のビルに大勢の犯罪者が爆発前に集まったとなれば人々はそれらと爆発の要因を関連づけて考える。罪をそのままそいつらに着せるという魂胆だ。今、それに巻き込まれたアレストとノーネイムはまさにその容疑者に仕立てあげられようとしているところであった…


爆破ビルに向かうとある車の中

「大変です!たった今例の情報通りに人救連の支部が爆破された模様との事です!」

「そんな…間に合わなかった…知っていても何も出来ないなんて……世界は更に混乱の世と化してしまう……」

車の中で配下からの報告を受けた一人の人物は自身の不甲斐なさに絶望した。その人物はヴァンパイアたちによるビルの爆破に関する情報を事前に察知していたにもかかわらず、防ぐどころか裏社会の人間までも巻き添えにするという想定以上の被害を出してしまうこととなったからだ。

「早く!1人でも救出に向かわないと!」

「お気持ちはお察ししますがそれは行けません。貴方様の存在はトップシークレットであるが故にこの様な騒ぎで大勢の者が集まる中でそのお姿を堂々と晒すことはさらなる混乱に繋がりかねます。それによる二次被害や、貴方様の身に危険が及ぶ恐れがございますが故に。」

「私は…後始末もさせて貰えないの……?」

「…でも人間に危害を加えようとしているヴァンパイア達の相手ぐらいはできるかもしれませんよ!今からでも向かいましょう!」

「…そうね、少しでも罪滅ぼしをしないと!」

「…本来はそれも危険なのですから私としてはそれすらも承諾し難いんですがね」

そのような会話を交わした人物等は急いであの場所へ向かう。あの、悲劇の場所へ…


破壊された人救連支部の周辺

「おい!こっちにもけが人はいるぞ!早く来い!」

「怪我の具合から見てそいつはもう助からん!それよりまだ生きのあるやつを瓦礫から救出することが最優先だ!」

「まずは消火だろ!消防隊の到着はまだか!?もうあちこちに燃え広がっているぞ!」

爆破されたビルの周辺にいる逃げ出せた人救連のもの達は混乱と不安から冷静な思考が出来なくなってしまっていた。目の前の仲間の亡骸に泣き叫ぶものがいれば、痛みにもがき苦しむ者もいて、この状況を地獄と例えるには十分過ぎる有り様となってしまっていた。そんな地獄を若くして目のあたりにし、呆然とするものがいた。若手隊員のニシロ・テルマという名の18歳の少年だった。彼は数十分前まで共に任務に就いていた同僚と先輩の突然の別れを飲み込めずにいたのだ…

「…おい、おいおい、なんだってんだよ……今何が起こったって言うんだよ!!何で突然僕らの職場がこうなるんだよ!どうして僕を教え導いてきた先輩がこんな目にあうんだよ!何で厳しい訓練を共にした仲間がいなくなるんだよ!アイツらが何時、何をしたんだよ!おい!!」

ニシロは酷く困惑しながらやがて焼ける瓦礫に向かって歩を進めた。周りが止めるのも聞かずに思い出の中だけの場所となってしまった所へフラフラと頭を天に向けて背中を仰け反らせて歩いていく。やがて何かにつまづいて転ぶと、そのまま近くの瓦礫を握りしめて涙腺がぶち壊れるかのような勢いで泣き出した。怒り、悲しみ、悔しさ…様々な感情が渦巻いて頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱されたかのような感覚に囚われる中、彼が目にしたのはこちらの方向に向かって走ってくる二人の男女だった。二人とも帯刀しており、…同業者が…何とかと呟いているのが耳に入ってきた。

(あの刀…民衆がもてる物ではないはず…それに同業者?……そういえば、突然ビルに指名手配中の奴らによく似たやつらが大勢ビルに侵入したって知らせが……そうか、そういうことか。…あいつらが僕の仲間たちをーー!!)

この瞬間、とある歯車が外れ、全体の回転が狂いだした………


「こっちの方から泣き声が聞こえてきたわね!」

「うぉーい!誰かいるんだろー!無事かー!」

すぐさま状況を飲み込んだアレストとノーネイムは同業者の救出に向かっていた。周辺に人救連の連中が大勢いたため捕まる危険性もあったのだが、それでも仕事を共にしたもの達で、多少なりとも腐れ縁があるが故に見捨てることはできなかったのだ。何とか連中の目をかいくぐった二人が発見したのは人救連の若手隊員だった。

「何だ、人救連のやつか。せっかく生き残りの同業者かと思ったら…」

その言葉が若手隊員のとある考えを確信づける鍵となってしまった。

「それでも同じ人間よ!助けなきゃ!…傷は浅そうね。どう?立てる?」

が、そんな言葉は全く耳に入らなかったようで、

「…お前たちが狂わせたんだ…お前たちがぁぁぁぁっー!!!」

などと絶叫した。

「そんだけわめけりゃ無事だな。ていうか、何を狂わせたって?」

若手隊員の言葉の意味を理解できなかったアレストがそんな疑問を口にした途端に、数人の男たちがこの場に集まってきた。

「どうしたんだ!?ニシロ隊員!」

「何があったって言うんだ!?」

「………間違いない……あいつらなんですよ……この惨状を作り出したのはぁぁぁぁっー!!」

男たちは若手隊員が見る方向に目をやるとそこに立っていたのは帯刀した二人の少年少女。二人の腰の刀から皆は大体のことを察した。

「…なるほど、奴らの仲間が爆発を…よくも仲間をぉぉぉぉっー!!!」

「貴様ら、絶対に許さん!!今この場で我らが掲げる理想、穢れなき楽園を築くために!!貴様らを葬ってくれよう!!!」

「その過ち、死を持って贖え!」

そう言い放つと皆は腰の銃を引き抜いて一斉に発砲した…


二人は抜いた刀をその手に握りしめ、必死にその刀身で次々と打ち込まれてくる弾丸を弾き返していた。

「はあ?俺たちが容疑者?ざけんじゃねえよ!」

「私達も危うくこれに巻き込まれかけて…」

だが、激高した隊員たちにはそんな言葉に耳を貸す者もなく、ひたすら感情のままに発砲している。

それでも、手練だっだ二人は銃口の位置さえ把握出来ればそこへ刃さえ向ければうち返せたので結構この銃弾の雨からは粘れたのだ。しかしそれも最初のうち。疲労の蓄積とともにスタミナがドンドンと消耗されるこの難技は、繰り出すほどに余計に体へ負担をかけ、だんだん二人の動きがとろくなってきた。そしてとうとう二人の身にかすり傷ができ始めた…

「こいつら、どうやってこれだけの力を!?」

「かなりしぶといが、それも時間の問題だ!持久戦となれば、我らに勝機はある!!」

「お、待て!なんだアレは!?」

一人の隊員が発砲を止めて突如上空に出現したものに目を見やった。それは人のような形をしていたが、大きな翼に全身を見たことも無いような物質の鎧で完全武装していた怪しげな集団だった。

「こいつら、やっぱり同士討ちしてますぜ!」

「人とは愚かなものよ。科学の力に溺れ、身近なことですら少し考えればわかるものを自分たちの都合で解釈するようになった。力を手にしたからこそ、自分は何者にもなれると勘違いした結果、その機会を失われたがためにすぐに身近な者のせいにしたがる。だからこそ我らの計画もスムーズに進めたものよ。」

「んで、こいつらどうしやす?」

「…殺せ。生かす意味もない。」

「分かりやしたー。んじゃ行くぞオメーラァ!」

そんな会話を終わらせた後に突然その集団は一斉に襲いかかってきた。凶悪な鋭い牙と引きっった目を露わにして殺意むき出しで猛スピードでこちらに突っ込んでくる。そう、こいつらこそがそのヴァンパイアであった。

「ヴ、ヴァンパイア!?何故ここに!?」

「この2人が呼び寄せたんじゃないのか!?こいつら、ヴァンパイアなんかとも結託しやがって!」

「応戦の用意だ!他の者共を集めて…グハッ!」

一人の隊員が背中を鋭利なもので貫かれた。それに続くように周りにいた隊員たちも次々と襲われていく。銃弾はさっきの戦いでその殆どを切らしていた…

たちまち辺りは恐慌状態の人間で溢れかえった。生き残りの隊員たちが抵抗も出来ずに殺されていく…しかも周りにいた消防隊や野次馬達までも襲って行っている…もはや地獄を通り越して悪夢だ。

「な、なんだってこんなことに…」

その受け入れ難い現実に衝撃を隠せずにいるアレスト。が、ヴァンパイアたちの魔の手は今、自分にも迫ろうとしていた…

気がつけば背後に大槍を構えたヴァンパイアが現れていた。今まで人斬りとして生きてきた中で五感はかなり高められ、アレスト自身もそれを信じて疑わなかったため、後ろを取られたことに酷く動揺して次の判断が遅れてしまった。しかも、先程銃弾を弾くことにかなり多くの体力を消耗してしまったなどの要因が重なって回避行動が遅れてしまった。

その剛腕で大槍を振り回し、その先端がまさにアレストへの直撃確定コースへ入って高速で迫ってきた。理解も追いつかないままに避けることもせずに立ち尽くしていたアレストは自分がまもなく殺されるという事実から目を背け、思考がほぼ停止していた…が、再びアレストの思考を激しく動かすことが起こった。左側からものすごい衝撃がはしり、アレストの体を大きく跳ね飛ばした。この衝撃で再び思考を動かし、現実を見定めることを決意したアレストの目には脳裏に浮かぼうとも思わなかった先程以上に受け入れたくない、理解したくない情報が飛び込んできた。 …腹部を裂かれ、血を流して横たわるノーネイムの姿だった…

「あ…姉御…!」

それでも先程の失態は犯すまいと、かなり混乱しながらもノーネイムの側まで本能的に駆け寄った。

「え、え…何で…何でだよ姉御!!」

かなり深手の重症を負ったノーネイムは酷く痙攣する手で自身の刀を力を振り絞ってアレストに突き出した…まるで死に際に自身の形見を託そうとするかのように…残っていた余力を全て使う覚悟を持ってノーネイムはかろうじてまだ動いたその口でアレストに片言でこう告げた…

「……逃げんな、よ……向き合えよ、現実に……辛くっても、…苦しくっても、…それが…私らが住まう世界だ…自分は関係ない、関わりたくない…そんなことじゃあ…いざっつー時に…ろくな対処もできん…そんな奴が……多いか、ら…この世界は…おかしんだろ…これ、やるから…少しは、今、ま…でよりできるだろ…逃げん、な………が、ん…ば………れ、…ア、レ、ス、ト………………。」

そこまで言うと、ノーネイムは力尽きたようにぐったりと、動かなくなった…彼女は死に際まで弟のような存在だったアレストを気にかけていたのだ。

もう心の中が荒れに荒れまくったアレストは何をどうしていいのかさっぱりわからなくなった。目の前で今、失わようとしているもの。それを見て、アレストは身近な誰かの死に至る時の心の苦痛の感覚を思い出した…あれは自分を育てた人斬りの時以来か…いや、もっと前から経験しているような…そんなことを思いながらも腕が勝手にノーネイムから突き出された刀を掴んでいた。と、その時。

「いたぞ!奴らがヴァンパイアと結託したという忌まわしき人斬りか!」

「この場で制裁を下す。穢れなき楽園の為に散るがいい!」

先程の隊員たちからの連絡で増援部隊が到着し、アレストに向かいいきなりそんなことを言い捨てるやいなやさっきよりも大きい銃で発砲してきた。放心状態のアレストをその銃弾がかすめていく…そんな時、とある一発の玉がそばの柱の根元に命中した。爆破と火事でもろくなっていた柱はたちまち折れたかと思えば、支えていた天井が大きく崩れた。衝撃が地面に走り、また少し飛ばされたアレストの目の前でノーネイムの身体が瓦礫に埋もれていった…瓦礫は雨のように収まることを知らず、ドンドンと積み重なっていく…数分経って辺りが一度静かになったかと思えば舞い上がった塵と砂煙で視界は悪く、周りの状況が掴めない。手をさ迷わせているうちに大きな瓦礫でできた壁に触れた。そこは間違いなく先程までノーネイムがいた場所だった…

「あああ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

悲しみに明け暮れ、深い絶望と共に熱い何かが込み上げてきた。アレストがこんなに感情を露わにするのは実に数年ぶりのことだった…そんなアレストの心境も無視して話を進めるものたちがいた。

「愚かな人間どもめ。そんなに同族を陥れるとはな。」

「黙れ!貴様らの傀儡に成り果てた愚者などもはや人間ではない!我らの掲げる理想のために死ね!邪悪なるヴァンパイアどもめ!」

「それはこっちのセリフじゃ!貴様らのような悪が存在しなければどれだけこの世が栄えたことか…消えろ!世界のために!」

アレストにはどっちもおんなじに聞こえたし、どっちも同じに見えた。自分の大切な人を奪ったのだから、誰がなんと言おうと、アレストにとってはどっちも悪だった。これはただの悪人同士の醜い潰し合いだった。

今回は、序章の中編といった感じですかね。想像以上に長くなりましたが、お楽しみいただけると嬉しいです。

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