幼馴染ヒロインのことをバカにしたら、なぜかリアル幼馴染と同棲することになりました
幼馴染ヒロインの良さってやつを知ってください!
届け! 初凪の可愛さ!
「幼馴染って負け確定の魅力ないヒロインだよな……ってどうした初凪?」
俺がクラスの友人たちと、昨今の流行りのラノベについて話している時だった。
「え……蒼太……今……なんて……」
俺の隣でブルブルと体を震わせながら衝撃を受けているのは、幼稚園よりも前から付き合いのある瀬戸口初凪。
いわゆる幼馴染ってやつだ。家が隣同士で、幼稚園から高校までクラスもずっと一緒だから腐れ縁ともいう。
初凪は大きくクリっとした目のベイビーフェイスで、肩の上で結んだ髪をおさげにしている。そして、この末吉高校で一番可愛いと言われている。
そのため、幼馴染で仲の良い俺は嫉妬の対象になることがある。けど一緒にいることが当たり前になりすぎて、俺からすれば手の掛かる妹って感じで異性としては見れない。なにより幼馴染だし。
それにしても、どうして、初凪はそんなにショックを受けているんだろう、
「だから、時代は幼馴染なんて言う負けが確定した滑り台行き決定の、魅力なんて欠片も持たないヒロインよりも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる年上のおねーさんヒロインが最高だよなって話だけど……初凪?」
「そ、蒼太ってそんなこと思っていたの……?」
「まぁ……」
一時期、「幼馴染ざまぁ」なんてジャンルも流行ったくらいだし。ちなみに補足しておくと初凪も俺と同じオタクだ。あいつは普通に女性向け作品の方が好きだったと思うんだけど。もしかして、オタとして血が騒いだのだろうか? だとしたら幾分かは納得できる。
オタクは、自分の推しであったり理想のヒロインというのは譲れないもので……。
「たとえ、火あぶりにされようが刀で体をくし刺しにされても俺はこの言葉を譲らないぞからな!」
「何がそこまであんたに悲惨な覚悟をさせるのよ……幼馴染ヒロインだって健気で一途でいいじゃない!」
初凪は少し呆れた表情から一転、動揺していた。そんな表情するなんて珍しい。
「初凪の方こそどうしたんだよ? いつもならこんなに食い下がらないだろ?」
「なんでそこがあんたには分からないのよ! 蒼太のバカ! バカ! バカ!」
まさかのバカ三連発。
思い当たる節は一つもない。だが仮にだ。仮に、初凪が自分のことを幼馴染ヒロインと重ねて。それでも、そんなに怒ることではないと思うんだけどなぁ。ましてや、俺のことが好きっていうわけじゃないだろうし。
そんな俺の疑問が顔に出ていたんだろう。
「くっ……このニブチンめ……」
初凪は顔を真っ赤にさせながら、何かを小さく呟いたのだが俺の耳には届かなかった。
「あんたに幼馴染の良さってやつを教えてあげるんだから覚悟しときなさい!」
※
初凪が俺に宣言したその日の夜。俺は夕飯の後片付けをして、リビングでまったりしていた。説明しておくと、俺は父と妹の三人家族で、現在独り暮らしをしてる。高校に進学する直前、父さんの転勤が決まって妹は同行したんだけど俺は地元に残ったからだ。最初は俺も着いていくつもりだったんだけど、初凪にめちゃめちゃ引き止められたこともあって残ることになった。
今、思い出しただけでも苦笑いしてしまうくらいにはいろいろとあった。
あと、母さんは俺がまだ小学生のときに病気で他界している。
──ピンポーン
家のインターホンが鳴った。
(こんな時間に誰だ? 初凪かな……)
寝る時間にはまだ早いけど、誰かが訪ねてくるような時間でもない。心当たりがあるのは初凪くらいだ。家が隣なので、初凪のお母さんがたまに夕飯のお裾分けをしてくれる時があるから。
「はーい!」
返事をして、ドアを開けるとそこには初凪とじいちゃんの秘書である柿原さんがいた。
「お久しぶりです。蒼太くん、元気にしてましたか?」
柿原さんは30代前半の女性でスーツ姿に眼鏡をビシッとかけている。いかにも、仕事ができそうな雰囲気だ。
初凪がいるのは予想通りだったんだけど、柿原さんは予想していなかった。加えて言うなら、柿原さんはじいちゃんが社長を務める会社の秘書を担当している。うちのじいちゃんは一代で会社を築き上げた化け物でお金持ちだ。だからと言って、うちが特別裕福というわけでもない。じいちゃんの会社は完全能力主義だから、父さんもコネ入社こそさせてもらえたけど、平社員どまりだし、会社を継ぐのも他の誰かだろう。
「えと……どうして柿原さんが? それに初凪も」
「すいません蒼太君。場合によっては時間がかかるかもしれないので、家に上げてもらって大丈夫ですか? 来ておいて図々しいんですけど……」
「分かりました……」
俺は柿原さんと初凪を玄関に上げてリビングに案内する。ソファに座ってもらうと、俺はお茶の準備を始める。
「柿原さんはお茶と紅茶どちらにしますか?」
「すいません、お茶で」
柿原さんはお茶っと。
「蒼太―! 私は──」
「カフェオレだろ? シュガースティックも二本入れておくからな」
「うん!」
付き合いの長い初凪の好みは把握している。
俺はキッチンで手早く三人分の飲み物を用意すると、リビングにまで持っていく。
「ありがとうございます」
柿原さんは律儀にお礼をしてくれるけど、お客さんが来たら当たり前のことだ。
「ほれ、初凪も」
「へへ、ありがとう。すっかり好みを把握されたわね」
「そりゃぁ、こんだけ付き合い長かったからな」
「私、蒼太の入れてくれるカフェオレが一番好きよ」
「ありがとうな。特別なことはしてないけどな……あ、でも牛乳とコーヒーの比率は気を付けてるかな」
「そうなの?」
「うん、初凪が美味しく飲めるように、いろいろ試したからな」
「嬉しい。ありがとうね蒼太」
そう言って、幸せそうに満面の笑みをこちらに向けてくる。カフェオレ一つで喜んでもらえるのなら安いものだ。
「はぁー、胸やけしそう……あからさまにイチャイチャを見せつけてきて、独身の私に対するあてつけですか……まぁ、それだけ仲が良いのなら大丈夫でしょうけどね」
暗くどんよりとした表情で、恨めしそうに俺を見ている。
「?」
「まぁ、いいです。蒼太君、今日私と初凪さんが来たことは、社長から何か伺ってますか?」
「いえ……」
確認のために、初凪を見るといつもみたいに不機嫌な表情ではなく、若干顔を赤らめながらも緊張した表情だった。
「わかりました。では、」
そう言って、一度ゴホンと咳払いすると初凪に視線を向ける。続きは初凪が話すのか。
「昼言ったこと覚えてるわよね? だから、幼馴染の良さを教えるために、蒼太と同棲してあげる……」
「………………は? え?」
初凪の言うことがわからなさすぎて、変な声を漏らしてしまった。
「蒼太は幼馴染よりも年上おねーさんがいいっていうから……同棲くらいしないと幼馴染の良さを分かってもらえないと思って……」
初凪も同棲というのは流石に恥ずかしいようで耳まで顔を赤くさせている。
だからって、そこまでしなくても──
「それに火あぶりされようが、刀でくし刺しにされても譲らないって言うから……」
(だからかっ! そこまでの強行にでるのは)
「い、いや……でもな、初凪? もし、何かあったらどうするんだよ?」
「……何かあるの?」
期待と不安が混じったような表情で初凪は顔を輝かせている。割合的には期待の方が多そうだけど。
「いや、ないけどさ……」
「ないんだ……」
俺の返答に少しシュンとしている。何でちょっと期待してたんだよ。
「はぁ……」
俺の正面ではわざとらしく柿原さんが頭に手を当てながらため息をついている。
なんだろう……このまるで俺が悪いかのような空気は。
「と、とにか──」
「蒼太は……私とじゃ嫌?」
俺の言葉を遮って、初凪は不安そうな表情でこちらを見上げてくる。
「うっ…………」
この表情はズルい。瞳まで潤ませてくるなんて反則だ。
「嫌じゃないけどさ……」
絶対に俺が折れるにきまっているから。
「嫌じゃないんだ! よかったぁ……」
パッと表情を華やかせながら、初凪はほっと胸をなでおろしている。
「私としても言質がとれたので安心しました。それでは、向かいましょうか。車を取ってきますのでその間に荷物をまとめておいてください」
「え、車? それに荷物?」
まるで今から引っ越すような口ぶりだけど。
「その通りの意味です。お二人のために社長がマンションの一室を買いましたので。孫と初凪さんにプレゼントができると喜んでましたよ」
わざわざこのために家を買ったのか!? いや、自分の孫のように初凪のことを甘やかすじいちゃんだから、おかしくないかもしれない……。
「ね、ねぇ……蒼太。お願いした私が言うのもなんだけど大丈夫なの? 普通に私、蒼太の家に住むことになると思ってたんだけど……」
さすがの初凪も戸惑っていた。そりゃそうだよな。
「ま、まぁ……大丈夫じゃないか? じいちゃんお金はたくさん持っているし」
俺たちの声が柿原さんにも聞こえていたようで
「その点は気にしなくても大丈夫かと。もしお二人が実家に帰ることになっても、その部屋は社宅として貸し出すと言ってましたので」
それを聞いて幾分か、初凪も安心していた。流石に俺も初凪も家をもらうのは気が引ける。
そう言って、柿原さんは俺たちに一礼をすると車を取りに家を出た。俺も慌てて大きめのリュックに着替えなどを入れ始める。初凪はすでに準備ができているようで俺のことを見守っている。
「ねぇ蒼ちゃん」
蒼ちゃんというのは、初凪が動揺しているときや気を抜いているとき、二人きりの時の呼び名だ。ちなみに、昼休みの時は初凪もギリギリ隠せていた。
「うん?」
「これからよろしくね! あと、幼馴染の良さを教えてあげるんだから覚悟しときなさいよ!」
そう言って、初凪は嬉しそうに幸せそうに笑っている。まぁ、初凪は手の掛かる妹のようなもんだし同棲してもなんとかなるだろう。
こうして、トントン拍子であっけないくらいに俺と初凪の同棲が決まった。
※
柿原さんの車に揺られて10分ほどで着いた。
じいちゃんが用意してくれていたマンションは、2LDKの間取りでかなり広いように感じた。まぁ、リビングの他に、お互い一室ずつ持てるからいいかもしれない。加えて、家具類も備え付けてある。掃除機はルンバ、洗濯機はドラム式、食洗器まであり高級家具のオンパレードだ。至れりつくせりってやつである。
今日は急ぎだったので、着替えくらしかもってきてないけど、パソコンだったりこまごましたものは明後日の土曜日に運持ってくる予定だ。
今日は夜も遅いので、俺も初凪も家に着くとすぐに風呂に入った(もちろん別々だ)。そして俺がお風呂から上がった時だった。
「ほら、蒼ちゃん、こっちに来なさい」
そう言って、初凪は自分の太ももをポンポンと叩いている。今の初凪の格好は、淡いピンクと白のボーダー柄のフワフワモコモコパジャマを着ている。加えて言うのなら、パジャマは短パンタイプだ。
「えーと……」
「聞こえなかった? ほら来なさいよ」
自分の太ももを再度、ポンポンと叩く初凪。一応言っておくと、初凪の声も聞こえてるし何をしたがっているのかもわかっている。だって、初凪の隣には綿棒があるし。
「蒼ちゃん?」
初凪は恥ずかしくないのだろうか?
短パンだよ?
膝枕だよ?
耳かきなんだよ?
いくら初凪が家族のように思えてても恥ずかしいものは恥ずかしい。
「というか蒼ちゃん、顔赤いけど……あーそっかぁ……ふーん」
俺の考えていることが分かったようでえらくニヤニヤしている。なんら少し嬉しそうだ。
「まぁ、そんなことより早く来なさいよ。幼馴染ヒロインの良さってやつを教えてあげないといけないしね」
「……行かないとダメ?」
「ダメ」
「……恥ずかしくないの?」
「うん」
「……えーと」
だめだ。いい言い訳が想いつかない。
「というか、早く来ないと小学校の時のスフィンクス事件のこと、クラスのみんなに話しちゃおっかなー?」
イタズラめいた口調で楽しそうに俺のことを見ている。
「それは待とうか!」
幼馴染というのは卑怯だ。だって、小さい頃から一緒だと、お互いの弱みの一つや二つ持ってるもんね。
俺は渋々、初凪に近づくしかなかった。
「もう、最初からそうすればいいのに」
そう話す初凪だが嬉しそうだ。
ゆっくりと俺は初凪の太ももに後頭部を預けた。初凪の太ももの甘い感触とぬくもりが伝わってくる。
胸がすっごくムズムズしてきた。想像以上に恥ずかしい……。
「これが蒼ちゃんの重みなんだ……太ももが出てる分、髪がくすぐったいかも……でも、心地いいな」
どこを向いていいのか分からず、視線をキョロキョロとさせていると初凪と目が合った。初凪も照れくさいのか、赤面しながら苦笑していた。
(恥ずかしいなら言わないといいのに……)
こっちだって、初凪の息遣いが感じられる距離にいてドキドキしっぱなしだ。体温も匂いも触れられる距離にいるって言うのに……。
「なんか蒼ちゃんの温かさが私に染み出てくるみたい……嬉しい」
そう言いながら俺の頭を優しく撫でている。
(やばい、頭を撫でられるとすごく落ち着く……)
さっきから、胸がドキドキしっぱなしで、ムズかゆくて仕方ない。俺が顔を上げようとすると
「ちょっと動かないでよ。まだ少ししか経ってないんだから。それにもう少し顔を見せなさいよ……」
俺の頭を掴む初凪の優しい声が耳に響く。
その時、少し冷たい初凪の指が俺の右耳にふれた。その感覚に脳みそがしびれてしまったかのように快感という電流が奔ってしまった。その影響で体が一瞬だがビクッとしてしまった。
「蒼ちゃん……?」
俺の反応をおかしく思ったのか不思議そうな顔をしている。幸いにも気づかれていないみたいだ。
「も、もういいだろ……」
胸が爆発しそうなくらいに高鳴って仕方ないのだ。
「えい!」
初凪の白魚のような指が甘く耳を引っ掻いてくる。
──ビクッ!
「蒼ちゃん、耳が弱いんだ……知らなかった……えいえい!」
「……ひゃっ!」
「ひゃって言った! かわいい……カッコいいところはいっぱい知ってたけど、可愛いところも知っちゃった」
そう言いながら初凪の表情は嬉しそうにとろけ切っている。そして、俺と目が合った初凪はほころぶような笑顔を浮かべると、
「こうやって蒼ちゃんの顔見てるのすきだなぁ……ほれほれー」
初凪の指が頬を甘く引っ掻いてきた。
「くすぐったいって」
「フフッ……可愛い」
優しそうに目を細める初凪が大人びて見えた。
相手はただの幼馴染だというのに、このムズかゆい状況がそうさせているんだろう。
「一番好きなのは蒼ちゃんの高い鼻かなー」
頬から鼻に向かって指が伸びていく。初凪は鼻筋を確かめるようにゆっくりとなぞっていく。
好きという言葉の甘さと心地よさに、頭がボーッとしそうになってきた。
「なーぎー!」
もう勘弁してくれという意味も含めて名前を呼ぶ。
「もうなの? こんなに緩んだ表情しているのに?
そう言って、スマホで撮影した写真を見せてくる。
「え、写真……ってこれ」
そこには目を細めて力の抜けきったような表情を浮かべている俺がいた。確かにこれは……。
「ほら見なさい」
勝ち誇ったようにドヤ顔している。悔しいけど、今の俺には何も言い返せない。グヌヌ……。
「まぁ、キリがなし耳かきもしないとね」
そう言って再び俺の頭を優しく撫でる。
初凪に言われ思い出したけどそうだった。もともとは耳かきをするつもりで……。
「ほら、耳を上に向けて」
もぞもぞ、と初凪は少し足を動かすのに合わせて、俺も顔の向きを変える。お腹とは反対側の方向を見る。
「あら、意外ときれいじゃない」
「意外とはよけいだ」
初凪は俺の耳を覗き込みながら、綿棒で優しく掃除してくれる。先ほどまでとは違う気持ちよさが広がる。
「気持ちいい?」
「……ノーコメント」
「答えを言ってるような物じゃない、もう。次は反対側ね」
お腹側に顔を向けると、先ほど以上に密着する形になった。すると、フワッと甘いにおいが漂ってくる。先ほど収まりかけた胸のムズムズが再びぶり返してくる。
「ねぇ、蒼ちゃん?」
「うん?」
バレバレだとは思うができるだけ平静を装って返事する。
「こんな胸がムズムズするような恥ずかしいことができるのも、蒼ちゃんの考えていることが理解できるのも、幼馴染だからなんだよ。少しは幼馴染の良さ分かってくれた?」
「……少しは」
悔しいけど、幼馴染の良さに落ちていきそうだ……。
「そう良かった、はい、耳掃除おしまい!」
そう言って初凪は無邪気に笑う。
「ありがとう」
初凪の太ももから顔を上げる。
「明日からも幼馴染の良さを教えてあげるから覚悟しときなさいよ!」
そう笑う初凪からなぜか俺は目が離せなかった。
これから俺、どうなるんだろう……
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