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クリスマス 特別版①

「カタカタ、カタタタタカタ、カカタ」

「そう、うふふっ。もうすぐ聖(性)なる夜……よね……ふふふっ」


 魔王さえも寝静まる深夜、薄暗いある城の一室で静かに会合はは行われていた。


 ピンクの髪を靡かせ、背に蝙蝠の羽を持つナイスバディの美女が、少し厚めの唇を弧を描くように歪め笑う。


「はぁ~。竜馬……私の愛しい人。待っていて」


 悶えるように全身を震わせた彼女は、身体のラインに合わせた美しいドレスを纏いレフトサイドチェストと名のつくポージグンを決める。

 それを見守る骨が、並び美しい歯を鳴らし、カタタと音を鳴らした。


 闇が深く深く落ちて行く。

 ここは、魔王城――。




 扉のノックに返事を返しつつ、扉を開けた。

 そこには、見慣れた骨が立っている。いつもと違う所と言えば、今日は珍しく骨の首にピンクのリボンが巻き付き蝶々結びされている事と、その骨ばった手に手紙を持っていた事だ。


 骨ばった手から手紙を受け取ると骨は、律儀に頭を下げた。

 が……どうやら上手く嵌っていなかったらしい頭蓋骨が転がり、慌てて拾い嵌めてやる。


「ほら、もう落とすんじゃねーぞ?」

「カタタカタ」

「おう、きーつけろ」

「カタッ」


 骨しかない手を振る骨を見送り、受け取った手紙を持って部屋に戻る。部屋と言っても相変わらず広すぎてなんのまとまりも無い部屋だが……。


「ふー。最近やたらさみーんだよな。この部屋……せめてストーブ欲しいよなぁ」

 

 勇者たちを撃退して早数カ月、城ヶ島組若頭、斉藤竜馬は未だ異世界でのんびりと魔王城ライフを送っている。

 目的だった魔王討伐は、する必要がなくなりただただ日々、錦鯉の花子の世話をするだけとなっていた。


「なぁ、花子。この部屋広すぎねーか? おれにゃーちーとばかし広いよなぁ?」


 話し相手として選んだ花子は、口をパクパクさせるだけで何も言ってはくれず……竜馬は、溜息を零すと広いだけの部屋を見回した。


 雪が降る季節となり、この魔王城でも暖房が使われ始めているらしい。だが、竜馬に与えられた部屋は、謁見の間であることから暖房の類が一切存在しないのだ。

 そこで、竜馬なりに考え色々してみたがどうにもこうにもならず、現在は室内でボヤを起こさない程度のたき火を炊いて暖を取っている。


『旦那様ぁ~』


 突然天から舞い降りてくるマブを抱きしめ受け止める。

 相手はよく見知った女神で、俺のコレだ。(竜馬は小指を立てている。)


「おー。メルディスか……どうした?」

『聞いて下さいませ~。

 ルミルスが私の仕事をバカにするのですよぉ~。私一生懸命しているのに……』


 涙ながらに仕事が辛いと愚痴るメルディスをどうにか元気づけてやりたいと思いながら、メルディスの頭を撫でてやりつつ親父の言葉を思い出す。


「そうか……おめーも辛いな。でもな、親父が前に言ってたんだよ!

 『辛く当たる人間こそ、本当におめーのことを見てくれてるんだ』ってよ。

 ルミルスってやつはきっと、おめーの才能を育てる為にきつい事を言ってるだけだ。

 だからよ、メルディスお前ももう少しだけ頑張ってみろ。なっ?」


 そうだよな……親父っ!

 暖かそうな湯がが上がる屋台(暖簾にはおでん・ラーメンと書かれている)に座った親父が、牛筋と思われる竹串から一切れ口に含むと、熱燗と思われるカップをクイっと飲み干し、こちらを振り返るとカーァと言いながら大きく頷いた。

 やべぇなぁ、最近は親父の妄想が段々俺の欲望を忠実に叶えるようになってきちまった!


『本当にそう思われますか? 旦那様……』

「あぁ、そう思う。だからメルディス、やれるだけやってみろ。なっ?」


 潤んだ瞳で見上げるメルディスの涙を拭いてやりながら、(未来の)嫁に優しく声をかけてやる。できる旦那ってやつはこうやって、女も大事にしてやるもんだ。

 そうだ、ついでだからメルディスに頼みごとするか。


「そうだ、メルディス頼みがあるんだけどよ……」

『なんですかっ?』

「あー、この部屋なんだがよっ。もう少し狭くすることはできねーか?」

『そう言えば、ここって謁見の間でしたね……』

「あぁ。そうなんだよ。こう広くっちゃ幾ら火炊いても暖まりゃしねーんだよ」

『でしたらそこの角に部屋を作ってはどうでしょうか?』

「でもなぁ、工具もネェし……」

『でしたらこちらを……』


 謁見の間の隅に部屋を作ったらどうだとメルディスが言うのでそうしたのは山々だが、的屋の屋台ぐらいしか組んだ事の無い俺がまず家を立てられるかと言えば微妙な所だ。

 だが、いずれ嫁と二人住むとなれば夜にアレコレをこのダダ広い部屋でするのはどうかとも思い。


 一念発起して、部屋を作ることにしたが……そこで問題になるのは、工具がないことだった。その事を嫁に伝えれば、四角い水晶の様なものを渡された。


 なんだ? と思いつつ眺める俺に、欲しい物を想像してみてください。と言う嫁。

 言われるがまま、欲しい物を想像すれば、四角い水晶が光俺が想像した石油ストーブが現れる。


「これは凄いな!」

『うふふ。そうでしょう? これで問題解決ですか?』

「あぁ。解決だ」

『では、私もそろそろ戻りますね。また会いに来てもいいですかっ?』

「おう。いつでも来い」

『はい』


 まったくいじらしい嫁だ。会いに来るのに断りなんぞ入れる必要はね―のによっ。

 可愛い嫁の姿に、気分はウナギ登りで高まり早速部屋を作ろうと立ちあがった。

 とそこに、また誰かが扉をノックをする。


「今日は来客が多い日だな……」そう言いながら扉を開ければ、(未来の)娘が立っていた。

「遊びにきたDeath★」

「おう。来たか……寒いけど廊下よりマシだから入れ」

「ありがとDeath★」

「おめー甘いものは好きか?」

「大好きDeath★」

「そうか、好きか」


 未来の娘のために、昔姉さんに貰った事のある栗のどら焼きを思い浮かべ水晶に触れた。

 すると水晶が光、皿に乗ったどら焼きが現れる。

 それをそのまま娘へと出してやった。


 相変わらず死んだ目をしているが、一緒に居る時間が多くなったおかげか少しだけ表情の違いが分かるようになった。

 どうやら喜んでいるようだと一安心する。


 どら焼きを一つ手に取り、ぱむっと頬張る娘の頭をなでながら、娘にどう言う部屋がいいかを相談した。


「部屋Death★」

「おう。どう言うのがいいと思う?」

「黒多めがいいDeath★」

「そうか、内装は黒の方が好きか」


 娘を膝に抱き、部屋についての話をしながら緑茶をすする。あぁ、こう言うのが幸せつーんだろうなぁ……などと考えていた。

 そこにまたも来客が……。

「僕が行くDeath★」そう言って立ちあがった優しい娘が、扉を開き相手を確認して此方へ戻って来るとこう言った。

「ホモモーンお姉ちゃんが、遊びに来たDeath★」

「そうか、女には寒いだろうから入れてやってくれ」


 そう伝えてやれば、小走りに走り扉を開いた娘が何事か、ホモモーンに伝えると中に彼女も入って来た。

 こりゃ、もう一人分菓子をだしてやらねーとな。


 女の姿のホモモーンの時は、女として扱って欲しいと本人に言われている。

 菓子を用意してやり、冷えるだろうとストーブをもう一個だしてやった。


「お邪魔するわ~ん。竜馬」

「おう、よく来たな。すまねーな、地べたで悪いがここでいいか?」

「あら、いいのよ~ん。今日は竜馬に贈り物があって来たのよ~ん」

「お? 何か持ってきてくれたのか?」

「そうなのぉ~ん♪」


 ホモモーンに緑茶とどら焼きを出してやりながら、座布団も無い所に座らせる事を謝罪した。流石に客に対して失礼すぎるとは思ったが、まー仕方ない。

 娘を膝に乗せ、ホモモーンと会話を始めれば、贈り物がある言ってくれた。


 何をくれるのだろうかと期待していた俺の前に置かれたのは何かの鍵だった。ホモモーンの説明によれば、聖夜にその部屋を訪れれば必ず素敵な事になるらしい。

 そんないい物を俺にくれていいのか? と何度か聞いたが、くれると言うのでありがたく貰っておいた。


 その後、部屋を作るつもりだと話したところ手伝うわよ~んと言ってくれる彼女の言葉に甘え部屋を作る事になった。

 なんとこのホモモーン、大工仕事は大の得意らしい。

 オークやらオーガやら、トロールやらを使い10日ほどかけ部屋を作ってくれた。



 内装は自分でやると伝え、彼女が美味しいと言っていた、どら焼きをしこたま出して渡してやった。


「ありがとうな、ホモモーン。やっぱりお前はいい女だなっ!」

「あら、私の事好きになってくれていいのよ~ん」

「おう。それは遠慮しとくぜ!」

「もう、つれないんだからっ」


 小指を立てた手を組み、腰をクネクネするホモモーン。見てくれは可愛いが、俺にはもう(未来の)嫁がいるからな、不義理はできねーと断っておく。


 ホモモーンが部屋を出て行った後、室内を見回しながら水晶を握りしめ畳を思い浮かべ床の上に畳を敷いた。次々浮かぶ欲しい物を次々取り出し、置いていく。

こたつ、座布団、そして布団と花子用の金魚鉢も小さいため、大き目の水槽を用意した。


 そして、外においていたストーブを部屋の中に入れ、ヤカンに水、お茶にせんべぇ、みかんを取り出し、それぞれをストーブとこたつの上においてみた。


「おぉ~。いいじゃねーか!」


 和室を見回し、自分の理想の部屋が出来たと喜びの声を出した。こうなったらやっぱり熱燗とおでんが欲しいよな……そう考え、早速水晶を持ち日本酒、カップ、酒タンポ、とっくり、おちょこを取り出し、ついでに出来立てあつあつのおでんも出した。


 久しぶりの炬燵で、晩酌しながらのおでんに気分は鯉の滝登り並みに登る。

 最高の晩餐に下鼓を打ちながら、冬はいいものだと実感した。と、扉の側近くに気配を感じそちらを見れば、ひきこもり女神オタクの魔王がこちらを見ている……。


 相変わらず、目しか見えないんだがこいつ……まぁ、住まわせて貰ってる訳だし礼になるかはわからねーが、お裾分けしとくか……。


「く、くうか?」

「ありがとう……」


 何故、扉を開けて入って来ない! とはもう言わない。人間だれしも苦手なものはあるのだと知った。

 それに、(未来の)娘が懐いている魔王だから悪い奴ではないと思っている。

 魔王が持ち帰りやすいよう小さな土鍋におでんをよそってやり、酒はどうするかと聞けば、ワインを飲むと言うのでワインを出してやった。


「渡すから、嫌なら隠れとけよ?」


 そう魔王に注意を促し、扉を開けて土鍋とワインを廊下に入口側においてやる。魔王はどこかにかくれたようで姿は見えなかった。

 まー、勝手に持っていくだろうと扉を閉めようとしたその時背後から魔王の声が響く。


「ありがとう」


 居ると分かっていても飛びあがりそうになる奴のステルスに、心臓がぎゅっと掴まれた感覚を味わい扉をしっかりと閉め、炬燵へ戻った。


「もう少し、タイミングを測って欲しいもんだ……な。

 流石に漏らしはしねーが、ガキにゃしんどいだろ……アレは」


 愚痴ともとれる独り言を漏らしながら、熱燗をおちょこに注ぎクィっと一気に煽った――。


三話構成になります。

まとめきれずすみません!

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