ヤンキーの逃げ足は速い
ゼィゼィ…。
澤田は息を整えながら、走っていた。
右脇に大きな包みを挟み、足と左手を一生懸命に振る。
走り続けて約1分ほどたっただろうか?
時間は定かではないが、いいニュースが一つ。
あの男が追ってこないことだ。
先ほどから後ろのようすを見ているが、あの男はいない。
いや、骨を折ったから当たり前と言ったら当たり前なんだが…。
それでも、とても嬉しいニュースであり、澤田の心も少し落ち着いてきた。
しかし光あれば影あるように、いいニュースあれば悪いニュースもあった。
悪いニュースは、道に迷ったことだった。
いや、これは仕方がない事なんだよ?
だってここ、《迷宮》だよ?
裏道、またの名を《迷宮》。
裏道は昔からある道で更にドンドン増えていき、それに従って道も変わっていく。そこら辺の住民の家と家の間が裏道であり、つまり家が増えるほど道の数も増えるといるわけで裏道を全て把握している奴はほとんどいないのだ。
ほら、見てみ?あれ、三つの分かれ道があるやろ?
ここ、さっきも通ってんで?
さっきは右を通った。だから今度は真ん中。
そのまま真っ直ぐに走る。
数分後、澤田は歩いていた。
何故なら追いかけられてないからだ。完全にまいていた。
走れば体力を消耗し、いざという時に走れなくなるかもしれない。そうなれば本末転倒だ。
ところで澤田はまた三つの分かれ道のところに来ていた。完全なる迷子である。
澤田はしかめっ面をしながらまだ行っていない左の道を見る。
じっと見つめる。
しかしそのまま進もうとしない。
澤田は限界だったのだ。
澤田の気の短さ、それは皆さんもご存知だろう。
数分もぐるぐると同じ所を回り、澤田はたえれるか?
無理です。
澤田にしてはかなり我慢したほうであり、できることならば壁を壊して突き進みたいとずっと考えている。
考えてるだけ!
いつもならここで澤田なら大声で叫びながら周りの物を破壊しまくるとこだが事情があり追いかけられている身でそんなバカなことはできない。
ハァー
澤田は大きくため息を吐きだし、近くにあった木箱に腰をかける。
そして今まで半分忘れかけていた袋の存在を思い出す。
バカか、お前?
うんうん、分かりますよ。そんな大事な袋を忘れるわけないですよね?普通。
しかし、分かってあげてください。彼も逃げ延びることで必死だったという訳です。
まあ、今思い出すところ、バカを否定することはできませんが。
「あ、やべっ、生きてっかな?こいつ」
こいつが捕まった時と澤田が走った時間を合わせると、こいつが袋の中にいる時間は少なくとも10分ほどある。しかも澤田が走っている間、ずっと揺れっぱなしだったのだ。
生きているか?と問われると、危険だとしか言えない。
澤田は慌てて袋を開けようと、開け口を探す。
あった!…?
最後のハテナマークはなに?そう考える人のために説明しよう。
澤田は袋の開け口を探した。袋は人、1人ぐらいなら余裕で入るほどの大きさ。開け口を見つけるにも一苦労。そして見つけた澤田は開け口の異様に気づいたのだ。だからハテナマークということであーる。
澤田は開け口をじっと見る。
開け口は紐を引っ張ると閉じる形になっており、なんとも言えぬ普通の袋だった。でかいけど。
しかし、そこの模様が気になった。
袋のほとんどが無地で開け口のところにだけちょこっと文字が書いてあった。
文字は日本語ではなく、英語でもなければ、中国語でもない。どこの国か分からないが象形文字のような、絵に近い文字であった。
だが澤田はそんなことに気づいたわけではない。ていうか、澤田は中国語も英語もできない。なんなら日本語も怪しい。国語、27点である。
澤田が気づいたのはその文字が揺れていることであった。
一つ一つの文字が不規則に揺れ、文を作っていたのだ。
文は連なり、曲げられたり折られたりして形を作っていた。星や丸、他にもよく分からん形が文によって作られ、そしてその文字が揺れている。明らかに怪しい袋である。
澤田はゆっくり息を吐き出した。そして鋭く吸うと、勢いをつけて袋の開け口を引っ張る。
袋は開いた。