ヤンキーの登校時間は12時
ブヴァン ブヴァン
ブゥゥウウン ブゥゥウウン!
うるさいバイクのエンジン音が鳴り響く中、表道ではいつもと変わらない日常があった。あるところでは子供が遊び、見守る親がいる微笑ましい普通の生活。また、あるところではドジな男子が躓き転び、周りの友達がそれを笑う楽しそうな普通の生活。
しかし、そこから細々と伸びている裏道では非日常的な事件が起きていた。
澤田雅希という少年の殺人事件であった。
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話は数時間前の朝にまで巻き戻る。
「起きな!バカ息子!」
敷布団を引っ張りあげられ、ゴロゴロと無理やり起こされる少年。これがこの物語の主人公である澤田雅希だ。
「イッテェんだよっ!いきなりなにすんだボケェ!」
「はっ!私はまだぴちぴちの29歳だよ!ボケるには早すぎるね!」
「充分、ババアだよ!三十路が!だから男一人つれねぇんだ!」
「言ったな!このクソ息子め!」
ドタドタと走って追いかけて来るババアをヒョイっとかわす澤田。
しかし、そのババアはかわされることは分かっていたと言わんばかりにくるりと翻り、また突撃を開始する。
体勢が不安定になった澤田はもう避けられない。
勝った、とそう確信するババア。
しかし、
ゲシッ
澤田の鋭い蹴りがババアの顔を踏み抜き、勢いを完全に止めた。
このババア、実の母親である。
しかし、この家ではこれが普通の生活で日常であった。
非日常の始まりはこれから約一時間後である。
「行ってくる」
「行ってこーい」
そう見送られて出て行ったのは澤田の息子の方である。
その身は少しデカめの黒の学ランで包まれ、なかなか様になっている。
更に生まれつきの目つきの悪さや逆立つ髪まで合わされ知らずとも分かるヤンキー感を醸し出していた。
澤田は道の真ん中を歩き、眩しそうに目を細めながら空を見上げる。
「12時か」
太陽は既に南の高い方角にあり、日差しも少し強くなっていた。
澤田、現在登校中であるが、
これもまたいつも通りである。
この時点で説明はいらないかもしれないが一応言っておくとこの澤田雅希、少しグレている。
どこまでグレているのか?例えば最高が十であった場合、五程度である。タバコを吸わなければ酒も飲まない。健全なグレである。
特徴的なものはだいたい言ったがもう一つ大きな特徴がある。
それは短気なところだ。
「おい!澤田!」
ほら、ちょうどいいところに。あそこに3人の男が立っている。
後ろに立っている体のごつい大男の二人はこっちをニヤニヤと眺めており、前でぎゃーぎゃーと騒いでいる奴は顔中傷だらけであり、絆創膏だらけてある。
コイツは昨日も澤田にケンカをふっかけ、少しじゃない怪我を負ったのだが…、今日も律儀に来たようだ。名は中村奏太といい、同じ学校の学ランを着ていた。
「誰だテメー?」
「忘れたなんて言わせねぇ!俺はオメーの強敵と書いてライバルと読む、中村奏太だ!」
どうやら澤田は忘れていたようで、中村はわざわざ自己紹介と(ほんとは無い)肩書きまで名乗る。
「ああ、昨日のか。…そうか。じゃあな」
澤田はなんとか思い出したのか、用は済んだとばかりに横を通り過ぎようと歩き始めた。
しかし中村が行く末を遮り、それを阻害する。
顔を上げると顔を真っ赤にした中村が手を大きく振り上げていた。瞬時に回避を判断したが中村は逃がさないと言うように胸ぐら掴んだ。
「ナメテッンじゃぁねぇぇぇぇぇええっ!!!」
中村はそのまま大きく拳を振り下ろした。
肌と拳の衝突が大きな音を出し、殴られた中村は数歩後ずさる。
そして殴られたと思われた澤田は少し眉間を寄せた状態で拳を握っていた。
なんと殴られる前に相手を殴っていたのだ。
まあ、早技という訳では無く、ただ、胸ぐらを掴まれた瞬間に澤田の拳が動いており中村が己の拳を振り下げていた時には澤田の拳が顔面にはいっていたのだ。
これをなせるためには人一倍の短気さが必要となる。
短気、ここに極まれり!
なんてことを言っている間に澤田がもう歩き始めて中村から遠くの方で歩いていた。
まるで何事もなく平和だとでもいいそうなくらいに普通に歩く姿は中村が全く相手にされてないことを意味していた。
なんだかかわいそうだがこれもいつも通り。
また中村はピクリとも動かずさっきまで後ろにいた大きな男二人に看病されていた。
これもまたいつも通りである。