邂逅
「ここは…どこだ?」
オレはコンビニに行くために夜道を街灯の光を頼りに歩いていたはずだ。
それが唐突に視界が暗転した。
落ち着けオレ。まずは安全確認だ。
右良し! 左良し! 上良し! 下良し! 前後良し!
「って!違うだろオレ!」
そもそも、光源がなく何も見えてないのに良しなわけがなかった。
とにかく、落ち着いて身辺確認からしよう。
財布は? スラックスのポケットに確認した。
それじゃ服装は? 紺色のパーカーに同色のスラックス、そして黒のスニーカーという見知らぬところを探索するのには少し……いや、かなりの不安があるがまあ、なんとかなるだろう。 というか、なんとかしないと死んでしまう。
と、現状把握に全力を注いでいたら不意にぎぃっという音が鳴り、暗闇に一条の光が差し込んだ。
光のおかげで見えてきたものは荘厳な飾りが施されているきれいな壁と奇怪な文様、魔法陣とでも呼ぶにふさわしい様なものが施された床だった。
どうやら、その魔法陣の中央にオレは立っているらしい。
「勇者よ、よく来てくれた!!」
突如、部屋にバリトンで深みのある声が響いた。
声が聞こえた方を向くと人(頭にツノがあるのを人と言うのなら)がいた。
逆光によりはっきりとはわからないが髪が長く、腰まである事が窺える。年齢はおそらく青年と呼ばれるくらいだろう。
その人物はこちらに近づいてきた。それによりわかったのは動く度に揺れる髪はサラサラのストレートで、黒く、目はつり目気味で光量が少ない現状だとほの暗く光って見える緋色ということ。 そして、オレの地元に行けば間違いなく女子から「観賞用イケメンキタコレ! 」と言われるような美形だということだった。
「私は巷で魔王と呼ばれている。そして、お主を異世界から呼び寄せたものでもある」
……徐ろに口を開いた美形から出たのはとてつもなく痛々しいことばだった。この外見年齢でそんな厨二みたいなセリフが飛び出すとは思わなかった。
「魔王……? なんでオレを? それに、勇者? を呼び寄せたって……」
「正真正銘、私は魔王だ。そして、私がお主を、つまり勇者を召喚したのだ。人間たちの召喚魔法……異世界勇者召喚を使ってな!! 」
「ドヤ顔が最高に素敵です……じゃなくて!! なんで魔王が敵である勇者を召喚してるんだ!? というか、オレが勇者とか色々と可笑しいだろ!! 」
「ふむ、疑問を解決するのもいいがまずは召喚が成功した祝いだ! 向こうに歓待の準備がある。付いてくるが良い」
そう言って長い髪を翻し、くるりと反転するとそのままスタスタと歩いていってしまう。
そんな残念自称魔王に現状が飲み込めないままオレは後に続くのだった。