駄目人間、ゲーセンに行く
初投稿です。
文才もありませんし、読みづらいかと思いますが、どうか広いここを持ってご観賞下さい。
朝日が今日の始まりを告げるように、さんさんと照りつけている。
夜勤バイト終わりの俺には、いい感じの目覚ましだ。そして俺の目の前には列をなす数人の人影と固く閉ざされた自動ドア。あと数分。数分後にはこのドアが解放されて、ここは戦場と化すだろう。この何者にも変えられないドキドキを今の今まで引きずってしまったのは、12年前に友人とここに来てしまったのが原因なのだと思っている。ソレに出逢ってからの俺は来る日も来る日も、ここに通い、スマホで攻略Wikiを網羅し、SNSで情報交換、バイトで稼いだ給料をつぎ込み、友人と切磋琢磨の末、地元では少々名の知れた戦士へと成長したのだ。
ん?何?ここはどこかって?ソレとは何かって?まぁ落ち着いてくれ愛すべき民主諸君。ここで簡単に俺のプロフィールを公開しよう。
柳家ヒルマ 27歳。高校卒業後は某大学に進学するも空気に馴染めず半年で中退。もちろん親は激怒していたね。鉄拳制裁の雨嵐。もう虐待レベル。俺の人生もここまでかって思ったけど、やっぱり親ってのは有難い存在。就職して落ち着くまでは家に置いてくれるって言うんだから最後は家族の絆に縋り付かせてもらったよ。ただ、やっぱ関係はギクシャク感ハンパないから高校入って始めたコンビニのバイトも夜勤のシフトに変えてもらって日中は親と顔を合わせないように生活している。大学は続かなかったが、このバイトは随分と継続したものだ。自分で自分を褒めてやりたい。
そして現在、俺が立っている場所は家から数キロ離れたゲーセンだ。そう、俺は今まさにゲーセンの開店を待っているのだ。
店の奥からスタスタと見慣れた店員が自動ドアの鍵を開け始めた。この場に居る俺を含めた、数名の猛者達が待ち続けた時間が訪れたのだ。と、言っても平日の朝。ここに居る客の数は約4名。全員が俺と同じ目的では無かった。俺の目当てのゲームのプレイヤーはここには居ない。
正直、朝イチから並んでまでやるような事では無いのだ。それにまず俺の置かれた現状から、朝から行くべき場所は本来ここでは無く、ハローワークだ。就活するべきだ。自分の将来を考えるなら平日の朝からこんな娯楽施設にわざわざ並び、汗水垂らして稼いだ給料を、ワンコインで数分プレイ出来るゲームに収め、時にストレス、時に歓喜し、そして仲間との交流にひたる。普通ならば何の問題もない事だ。これは趣味なのだ。言うなれば明日をまた生きていく為の糧みたいなものなのだ。
だが俺はアルバイト兵士だ。大学中退。27歳。平日の朝からゲーセン。実家暮らし。この数個のワードから連想される言葉は、人によって違う解釈を生むだろう。自分でも気づいてはいるつもりだ。自覚もしている。だが、心の奥のミニヒルマがそれを認めようとしない。それを認めたら俺が俺で無くなる。いや。あえて亡くなると表現するべきか。現実逃避。俺はこの世界から逃げ出したいのか?もはや逃げているのであろう。現実とはまさにロールプレイングゲームのボス級の存在。逃げる事が出来ないのだ。レベルが足りなくても、装備が乏しくても、回復アイテムがダンジョンの宝箱でのみ入手した個数でも、出会ってしまった以上は死ぬか勝つまで戦闘が続く。今の俺ではこのボスに勝利する事は出来ないだろう。全てが力不足。一体、いつからこんな事になってしまったのだろう。初めてここに来た時は、そんな事微塵も考えずに、ただ純粋にゲームを楽しめていたはずなのに、今ではここにいる事に何らかの罪悪感が邪魔をする。とくに法を犯した訳でもないのに、何なんだろう、この胸を締め付ける苦しみは。
恋?初恋に似ている様な気がする。誰に?ゲームに?それとも、この現状に追い込まれた自分に酔いしれているのか?やめよう。こんなくだらんポジティブシンキングはいつか本当に法を犯すほどの罪人に自分を豹変させてしまいそうだ。
「おはようございます。いらっしゃいませ。」
馬鹿な自問自答をしているうちに開店の時間を迎えていたらしい。俺は入店し、目当てのゲームまで足を進めた。冒頭で出た12年前に出逢ったソレとは、某メーカーから導入されたゲームの事だ。その名も(エースオブエース)。ジャンルは1対1の対戦型ロボットアクションゲームだ。筐体は、コックピットをイメージした様な体感型ではなく、ビデオ筐体に、シンプルにレバーとボタン6つが付いている仕様になっている。レバーとボタンの組み合わせで様々なアクションを繰り出し相手のHPをゼロにするかタイムオーバー後に残ったHPの残数で勝敗が決まる、何処にでもよくあるゲームだ。他と何が違うって訳でも無いのに長らくこのゲームをプレイしている。今まで注ぎ込んだ時間と金は語るまい。それを言ってしまうと、また自問自答を繰り返してしまいそうだから。
俺は筐体の椅子に腰掛けると、準備していたワンコインを入れ、カードリーダーにメンバーズカードをかざした。すると画面に俺のログインが成立し、ゲームがスタートした。俺はオンライン対戦モードを選択し国内にいる同士を待った。マッチングが成立されたら対戦のスタートだ。早速、マッチングが成立し対戦がスタートした。こんな早朝に、ましてや平日に居るんだよな暇な奴。きっと俺と一緒で逃げ場を求めて筐体の前に座っているんだろう。まさにゲーセンは俺たちの駆け込み寺だ。俺は自分の持てる力を発揮し次々にマッチングされる同士をなぎ払っていった。45Win。
俺のステータス画面に本日の記録が表示された。勿論、連勝だ。そろそろ帰宅しないと今夜のバイトに差し支えてしまう。また明日もここに来よう。明後日も。その次の日も。いつまでこんな生活が続くのだろう。一生続くのかな。じーさんになってもこんな感じだろうか。将来への不安とか、そう言う気持ちではなく、何となくそれはそれで良いかなと思う。たった一度の人生だ。何が正解なんて無い。嫌な事あっても前向きに生きてりゃなんかあるだろう。誰かが言ってた明日は明日の風が吹く。
そんな事を思いながら帰宅しようと椅子から立ち上がった次の瞬間、頭を何かで打たれた様な衝撃を感じた。なんだ?何が起こった?周りに人の気配は感じられなかった。不意打ちでもされたのだろうか?いや、衝撃は感じたが流血している訳では無い様だ。何なんだこれ。意識がだんだん遠くなって行く。意識朦朧として行く中で、筐体の画面に身に覚えの無い少女の顔が反射して映っている。誰だ?君は?俺はそのまま暗い闇の中へと落ちていった。————
体が宙に浮いているかの様な気分だ。ふわふわと揺れる感じ。死んだのか俺は?死後の世界とは無の世界だと思っていたが、意外と意識が多少なり在るものなんだな。そして呼吸が出来ないのがわかる。死んでるんだから呼吸が出来ないのは当たり前か。でも、何故かその事が不快に思う。息苦しい。この感覚は身に覚えがある。これは、、、水中だ。俺は今水中に居る。何故だ!?さっきまで地上のゲーセンにいたはずなのに。苦しい。俺はまだ生きてる。死んではいない。誰か助けてくれ!俺は渾身の力でもがいてみせた。すると、何かの音と共に俺を覆っていた水は排水されていった。俺は不足していた酸素を肺いっぱいに吸い込み深呼吸をした。なんだったんだ一体?全く理解出来ない。
「どうやら、成功した様だな。」
「はい。まだ、最終確認は出来ていませんが、第1段階はクリアしたと思われます。」
俺は空っぽの巨大な水槽の中に居た。目の前には2人の人間が居る。1人は色眼鏡の中年男と、もう1人は黒髪ストレートのいかにも仕事出来ます感のある良い女だった。
「誰だお前達は!?」
咄嗟に口を割って出た言葉は、いかにものセリフだった。これを問わない事には先に進まない。
「突然の事で、すまなかった。謝罪しよう。君は選ばれたんだ。どうだい?今の感想は?」
答えになっていない。質問したのはこっちなのに、何故か感想を聞かれている。
「質問に答えろ!何故、俺はここにいる!お前達は誰なんだ!?」
色眼鏡中年が顔をしかめている。
「エリンサ。彼女の喋り口調は、まるで男の様だが?どうなっている?」
「恐らく、適正者の元の姿は男性だったのでしょう。
性別は特に関係無いので問題無いかと思われます。」
水槽の中から見たガラスに薄っすらと俺の姿が反射して見える。しかしそこに映っているのは俺では無く、半裸の美少女だった。
「なんじゃこりゃ〜!」
俺の動きとガラスに映った少女の動きがシンクロしている。100%彼女は俺だった。
「もう訳がわからん!一体どうなってんだ!?」
「わかった。簡単にだが説明させてもらおう。エリンサ頼む。」
「承知しました。過去の君はもう此処にはいない。死んだと解釈してもらって構わない。今の君は戦士として生まれ変わった。以上だ。」
「ちょっ、待てぇーい!簡単すぎるわい!!」
そんな2行にも満たない説明だけで1人の人生がここまで変わって、はい、納得しました笑、なんて事があってたまるか!
「死んだってなんだよ!?お前らが殺したのか!?俺はもう元の姿には戻れないのか!?」
「元の姿と言うよりは、元の世界には戻る事は出来ない。出来たとしても我々がそれを許可しない。君は、MCZに選ばれた。組織の、いや、世界の最後の希望なのだ。」
仕事女子から放たれた言葉に何やら見知らぬワードと危ない匂いが漂っている。