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金木犀

作者: 柊 紫音

 朝、いつものように窓を開けて深呼吸をする。ふわっと甘い香りが入ってきた。やってきた! 僕の大好きな季節が。

 秋なのか冬なのか、真ん中くらいのこの季節。僕が大好きな季節。始まりの合図は金木犀の香り。普段は息をひそめている金木犀が、井戸端会議や季節の挨拶に登場しはじめる。小さな橙色の花。花言葉は「謙虚」。ほんとに、その言葉通りの花だ。

 

 ***

 

 いつだったか、普段は香水もつけない君が金木犀の香りを纏って現れたことがあった。「珍しいね、君が香水なんか」って言う僕に、君は恥ずかしそうに笑ってこう言ったんだ。

「あまりにも金木犀の香りが素敵で、散った花びらを拾い集めて遊んでたの。その時に香りが残ったのかも」

 

 そんな君を好きになる。

 

 ***

 

 あの日から十年。金木犀の季節が廻ってくるたびに思い出す。

 君にこの話をすると、決まって顔を赤らめる。

「もう……やめてよ。大学生にもなって金木犀で遊ぶとか、恥ずかしいよね」

 そんな君が愛おしい。

「ぎゅーってしていい?」

「どうしたの急に」

 不思議そうな顔をする君を「なんでもないよ」と抱きしめる。

「一年間ありがとう。これからもよろしく」

 そう言いながら、金木犀の入った瓶をわたす。

「やだ、もう――」

 そう、今日は結婚記念日。一年前、金木犀の香る頃に式を挙げた。一年ってあっという間だ。本当は金木犀の苗木をプレゼントしようと思ってた。でもそれは、いつか家を買ったときにしよう。

 泣きながら笑う君を、もう一度ぎゅーっと抱きしめる。

 幸せな日常をありがとう。君に出逢えてよかった。君を好きになってよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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