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野良豹だって生きていく。  作者: 智古川 ゆかりオ
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化け蛙 負けるな野良豹 これにあり

「皆、集まってくれてありがとう。これから明日の依頼についての会議を行う。」

 ストレイパルド戦士団の事務所の会議室。珍しく全団員が集まっていた。と言うのも今団長が言ったように明日の依頼は全員で行うらしい。六人掛けのテーブルには六人が思い思いに席に収まっていた。テーブルには大きな周辺地図が広げられている。

「明日の依頼はバンダーフロッグの討伐。目的地はヒランヤ鍾乳洞だ。」

ストレイパルド戦士団のスナイパー、ヨハンナ・ハートアーチは不満そうな顔を俯かせた。ヨハンナはバンダーフロッグが好きでは無い。厳密に言えばこの場にいる団員でバンダーフロッグが好きと言う者はいないのだが。ヨハンナは自分の好き嫌いを顔に出してしまう事がある。悪く言ってしまえば、精神が幼いと言えた。

バンダーフロッグは巨大化した蛙の化け物で、最大の物は一メートル程になる。武器は口及び体に纏う酸性の粘液と、前後の足の爪だ。とは言え爪の方は短いし、鋭いともいえない。そもそもバンダーフロッグの手足の筋肉は切り裂く、突き刺すと言った動きをするための物でなく、跳躍力に焦点を絞った物であるので爪を警戒する必要はあまり無い。冒険者でバンダーフロッグに引っ掛かれた、なんて者がいたなら何日間かはからかわれる程だ。

それともう一つ。普通、壁や天井に張り付く事が出来る虫や動物はその質量であるから可能である所が大きい。例えば、ナメクジは壁や天井に張り付く事が可能だが、一メートルの体長になったときには自重に耐えきれず剥がれ落ちてしまう物らしい。その大きさのナメクジがいないので、これは学者の言い分なのだが。しかしながら、このバンダーフロッグはこの体躯ながら壁、天井に張り付く事が出来る。奴らの最大の武器はその粘液であるから、壁或いは天井からの奇襲は最も恐れなくてはならない戦法となる。

…と、ここまで団長は基本的なバンダーフロッグの対処法を話す。特性は理解しているものの根が真面目である副団長、イオン・アットルギナと槍術士、ハルヴァリー・デモニア、そしてバンダーフロッグの討伐は始めてとなる剣士ヴァカッラ・トゥはこの話を聞く姿勢でいる。残りの二人は特性を知っているから聞き流している魔術師、マトビャク六世は良いとして、ヴァカッラと同じく初討伐であるヨハンナは聞いているべきである。にも関わらずヨハンナは上の空でいた。

「…ヨハンナ、あなた、随分余裕ねぇ。」

団長の話が一区切り付いた時にハルヴァリーが切り出す。問われたヨハンナは面白く無さそうに"別に"と答えた。

団長は口をへの字に曲げているが介入する事は無かった。自分が言うよりハルヴァリーが言った方がヨハンナには効果があることを知っているからだ。

ヨハンナはバンダーフロッグが嫌いだ。嫌いな物の事なんて何故知らねばならないのか。ヨハンナの主張はこんな所だろう。

通常危険がない所で生きる人間ならそれでも良かろう。だが、戦場だ。命のやり取りだ。"敵を知り、己を知れば百戦危うからず"。古い異国の言葉ではあるが、戦場に身を置く者ならば異論はない言葉であろう。これを否定出来る程、ヨハンナは手練れで無い。

「…ヨハンナ。何故わたくし達が複数人で依頼を行おうとしているか解る?助け合えるからよ。助け合わなきゃいけないのよ。一方的に助ける訳にはいかない。それは自分の命まで危険に晒す恐れがあるから。…あなた、今の団長の話を聞いていなくて死にそうになったって、わたくし達は誰もあなたを助けないものと思いなさい。」

ハルヴァリーお得意のお小言ではあるが、今回のはやけにキツい。完全にヨハンナは拗ねてしまった様だ。

「…助けない、とは言わないが…。まぁ、最低限自分の身くらいは守れる心構えでいてくれた方が助かる。」

等と団長がフォローを入れる程度には突き刺す様な発言だった。

「それ考えると私も行かなきゃなりませんかね?前々から申していますが私はあまり戦闘に自信がありませんので…。確実に足手まといかと思われますが…。」

小さく手を上げてイオンが言う。華奢で小さな体故、武道は何もやってこなかった。魔術はそれなりの事は出来るが逆に言えばそれなりの事しか出来ない。戦士団内で一番戦闘力に乏しいのはダントツでイオンなのだ。

「ご謙遜を。この前は中々のナイフ捌きでいらっしゃいましたよぉ?」

マトビャクがいやらしい笑みを浮かべた。いつぞやの太股に突き刺した事を言っているのだろう。渾身の意趣返しだ。

「えぇ、そりゃあ雑魚相手ならそれなりには戦えますから?」

と返しながらもイオンは目で黙るよう物申す。

「イオンに付いてきて欲しいのには勿論訳がある。粘液の弱点は温度の上昇なんだな。少し火で炙ってやるだけで無害な物に分解されてしまうんだ。だから、魔法が使える存在は貴重なんだよ。例えショボ…ってぇ!」

"例えショボい炎魔法でも、な"と言おうとした団長の脛をハルヴァリーのブーツが蹴飛ばした。誰の機嫌を損ねようが、イオンの機嫌だけは損ねてはならないとハルヴァリーは思っている。それは基本誰が不機嫌になっても対処出来ると考えていたからだ、今までは。しかしながら、このイオンだけは自分の話術ではどうにもならないらしい。先の"団長、レプリカ剣で無駄遣い"事件の後、一週間は激怒状態が続き、団長は二週間ちょい無視され続けた。その間、ハルヴァリーはイオンの機嫌を取り続けたが何の成果も果たせなかった。ハルヴァリーがこの戦士団に所属している二年程で解った事。イオンの精神を揺さぶれるのは団長とストレイパルド戦士団の運営に関わる事しか無いらしい。

「わたくしは少し魔法を使えますが炎には適正が無かったもので。イオンちゃんに来て貰えると助かりますが。」

「…粘液の話は始めて聞きました。それなら、まぁ、行きます。…他に炎が扱える人は?」

「ちなみに自分も適正無かったッス。団長はどうなんスか?」

団長は苦笑いを浮かべた。

「ん?あぁ、俺はな、全く魔術の適正が無いんだ。完璧に一つも魔法を使えない。」

魔法が使えない戦士や冒険者は珍しく無い。しかしそれは魔法を覚えようとしなかっただけで、片っ端から勉強すれば威力は別にしても何か一属性の魔法位は使えるようになるものだ。だから、全く魔法が使えないと言うのは、恐らくはこの世界に一人しかいないと言って良いレベルの稀な才能である。…良いことでは無いので逆才能なのだが。

「そんなコト、あるんスか?あんまし試して無いとか…。」

「俺が読んだ魔導書は五千じゃ利かないぜ?」

ヴァカッラは口をあんぐりと開けたまま止まってしまった。ちなみに五千冊の魔導書を読んだとなればマトビャクと同レベルであるが、彼女は逆にその全てを行使出来ると言って良い。才能、とはそう言う物なのだ。

「…ヨハンナは?どうだったかな?」

努めて優しく団長は問うた。

「…使える。でも、規模が小さ過ぎて今回は役に立たないと思う。」

ヨハンナが使える炎魔法は薪に火を付けられる程度なので確かに今回は意味が無さそうだ。

「えー、じゃあ魔法使えない組はどうするんですか?松明でも振るうんですか?」

イオンは意図してマトビャクに聞かなかった訳ではない。マトビャクが炎魔法を使える事は周知の事実であったから流しただけの事だった。

「いえ。炎に弱いとは言え、バンダーフロッグの表面が延焼する訳ではありませんので松明の火では大きさが足りないかと。…例えば、表側全てを燃やした盾で押し潰す、とかであれば効果あるでしょうね。」

「ほー、それ良いですねぇ。やって欲しければいつでもどうぞ。ワタシもどうなるか見てみたいですし。」

「わたくしは盾を使用しませんので。団長かヴァカッラに。」

「自分、嫌ッス。盾新調したばっかりなんで。」

「…そもそもそんな高温に耐えられる盾があるか!却下だ。」

「…そう言えば」机上の地図を見詰めていたイオンが団長に目を移した。「どうすれば良いんです?依頼の目標は?」

「あぁ、そうだな。…依頼ではヒランヤ鍾乳洞にてバンダーフロッグが大量発生。原因を調査せよ。と言う事らしい。」

「こーゆー事って良くあるんスか?」

「そうねぇ。繁殖期後に、ある年はある…と言う位かしら。毎年って訳でも無いし、頻度はそう高くないわよ。」

「…原因の調査ねぇ。そんなものは解ってる事ではありませんかぁ。」

マトビャクは含み笑いをしていた。

「…言いたきゃ勝手に言ってどうぞ。」

イオンが吐き捨てる様にそう言う。

「繁殖でしょう。…バンダーフロッグの繁殖って皆さんご存知ですぅ?」

一様に首を捻った団員を見回し、マトビャクは更に続けた。

「バンダーフロッグは卵生ですぅ。メスが卵を産んでソコにオスが精子をブッかけるんですよぉ。そこまでは普通の蛙や魚なんかと変わりありません。ただ、バンダーフロッグには父体がいるんですねぇ。」

「…ふたい、ッスか?」

「えぇ。母体の逆と申しましょう。この父体は群れの中で一番強い奴じゃなきゃなれません。群れで父体以外のバンダーフロッグは全てがメスとなるそうです。強いオスで無いと後世に子孫を残せないんですねぇ。いや、厳しい厳しい。」

「…群れが何匹で成り立っているかは解りませんが、全ての卵に一匹のオスが精子をかけて回るんですか?理由は解りましたけど効率悪すぎですね。」

「…そう思うでしょう?ここからが生命の神秘ですよぉ!」

マトビャクは大袈裟に両手を大きく広げた。

「ヒランヤ鍾乳洞の中に変晶光の場、なる場所があるんですぅ。鍾乳洞の中でも太陽の光が差し込む所でして、まぁ、そう言う裂け目みたいな場所は多々あるんですけど。そこは途中太陽光が魔力を持った水晶に何度か反射して地面に届いています。普段はただの射し込んできている光でありますけれど、先程ハルヴァリーさんが仰った繁殖期、この繁殖期の光がバンダーフロッグに変化をもたらすのですよ!その光を何日か浴びる事で父体は進化するのです!」

「…どうなるのかしら?」

「体に纏う粘液全てが精子になるんです!」

団長は一様に顔をしかめた。

「そうする事で卵の上を這い回るだけで受精卵の出来上がりという訳ですぅ!…ただ、繁殖期が終わればそのまま父体は死ぬらしいですが。いやー、厳しい厳しい!」

「…あー、質問、良いか?」

黙していた団長が声を上げると、マトビャクは手で続きを促した。

「お前、何でそんな詳しい?」

「嫌ですねぇ、人を変態みたいにぃ。次の依頼がバンダーフロッグだからって言うんで懇意の生物学者に聞いて来たんですよぉ?」

「あ~…。それはすまなかった。気遣い感謝する。」

「…いや、それにしたって…いりました、この情報?私、聞きたく無かったんですが。」

「何を仰います!人が折角仕入れてきた面白…貴重な情報を!」

「そうだな。この話だけでも対処の方向性は決められそうじゃないか?」

団長は顎を撫でながら言葉を続けた。

「一つ。大量発生した物は幼生だ。まだ成長しきってない。二つ。父体は既に死に絶えている。ならば新たな父体が産まれないようにすれば良い。三つ。群れをなした時点で爆発的増加が見込まれる為、本気でやるなら完全駆除しないと意味がない。そして、四つ。ならば変晶光の場、とやらを無効化する方法があれば爆発的増加は防げるのでは無いか。…以上だ。」

静まり返る会議室の中、マトビャクだけが嬉しそうに諸手を叩いた。

「流石、団長殿!ワタシも同じ意見ですぅ!」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って下さい。速すぎて理解が追い付きませんって。」

「…つまり、完全に絶滅させるか、変晶光の場を乱すか。どちらかの対処が必要、と言う事ですね?」

「あ、そう言う事ッスか。」

話が理解出来たからかテーブルに身を乗り出し、積極的な態度を見せる。…ヨハンナ以外。

「…全数駆除は無理でしょ。」

「でしょうねぇ。鍾乳洞の中は入り組んでいる上に隙間も多いです。それこそ爆破でもさせないと…。あぁ、良いですねぇ!ワタシ、張り切っ…!」

「らなくて良い。駄目に決まっているだろう。」

「では、変晶光の場の方。マトビャクさん、こちらはどの様な所になっているのですか?」

「別に綺麗なだけで人間にはなんの効果ももたらさない場所ですよぉ。光が屈折して届いてる訳ですから、どこか一つの水晶さえ破壊してしまえば良い、のですが。」

「…なんスか?」

「高いんですよぉ。破壊する術がないんです。」

「あなたの十八番があるでしょう?魔法で届かないんですか?」

「魔力を帯びた水晶と言ったでしょう。吸収されてしまうんですよぉ。」

「弓とかはどうスか?」

「弓は届きませんでしたねぇ。一番届きそうな水晶でも五割増しで飛んでくれないと駄目な感じですぅ。」

「…くっ。」

会議室に似つかわしくない圧し殺した笑いの元は団長からだった。視線が彼女へと集まる。

「…いや、すまない。正に俺達向けの依頼だと思ってな。うちの戦士団にはいるじゃないか。魔法でなく、弓でもなく、遠距離から攻撃出来る人間が。」

今度は一斉にその人物へと向く。それは服の革紐を手で遊ばせていた。

『…ヨハンナ!』

呼ばれた少女は肩を大きく震わせた。

「…え?…な、何?」

「ヨハンナ、お前の武器はどの位まで届く?」

「…え?っと、水平距離で百五十メートル位が致傷距離、かな。」

「…では、上方…そうですねぇ…六十度上を撃つとしたら、どうです?」

「…風は?」

「ありません。」

「……百、いや八十位。」

「…一番手前の水晶に弓で射った時はあの位の飛距離で、弓の射程範囲が九十程だから…。ギリギリいけるかも知れません!」

「…ヨハンナを魔法で宙を浮かせて撃って貰えば良いんじゃ無いですか?」

「…魔法で宙に浮かすのは、要するに魔力で体を包むのですが…。水晶からどのくらいの距離で魔力が吸収されてしまうか不明瞭ですので危険かと。十メートル上げた所で落ちても結構危ないですよ。」

マトビャクに否定され、イオンは再び思案に入った。

「…ワタシはコレでいけると思います。鍾乳洞内に侵入し、変晶光の場に到着後、ヨハンナさんの狙撃によって水晶を破壊。道中の戦闘はなるべく避け、ワタシらの依頼が終わった後に改めて大規模な討伐作戦でもやって貰えば宜しいでしょう。…如何ですか、団長殿?」

「…ヨハンナ、いけるか?」

「……実際の所は現地を見てみないと解んないよ。…いま聞いた限りでは…いけんじゃない?」

「良し。マトビャク、その作戦で俺も異存はない。皆も良いな。」

他は小さく頷き、全員の賛成を以て作戦は決定したのだった。

「…。」

その中でイオンはマトビャクを見詰めていた。今さっきまでのマトビャクが何ともまともそうに意見を述べていた物だから一体どうしやがったのか訝しんでいるのだ。

「…何ですぅ、イオンさぁん?…ワタシに惚れちゃいましたぁ?」

「私があなたに惚れる時は私の脳みそが腐った時、今は残念ながら正常の様です。あなたこそさっきから随分まともそうですが脳みそでも腐りましたか?」

「嫌だなぁ。ワタシはいつだって真面目ですよぉ?」

「真面目の意味も解らなくなるくらい腐ってしまいましたか。」

「こら、いい加減になさい。」

二人の言い合いにハルヴァリーが仲裁に入る。二人とも馬鹿でもなければ子供でも無い。その一言でぴたりと言い合いを止めた。

「…団長、続きを。」

「あぁ。先も言った通りバンダーフロッグの武器は体皮を覆う酸性の粘液だ。…そこで作戦中はこれを装備してくれ。」

部屋の隅に置かれた椅子の上に折り重なった布をテーブルに置く。団長は軽々しく人数分を抱えていたが、手に取ると一人分でも結構な重量がある。

「リヴォルフと言う川辺に生息する狼の革を使ったフード付きのマントだ。粘液を通しにくい。」

「…随分重いですね。」

「分厚目に作られているからな。ちなみに前のボタンは二重になっている。止め忘れるなよ。」

団員が試しに羽織っている所に第二陣を団長が持ってくる。

「次は同じ素材で作られた手袋だ。余裕が出るように作られているから手首の紐はしっかり縛ること。苦手な奴は誰かに手伝ってもらえよ。」

「…いや、こんなブカブカな手袋じゃどうやっても無理でしょう…。」

「あ、じゃあわたくしが手本を見せるわね。…こうして…。締めるときはこう!」

紐の端を噛み、口で締めていく。普通に手で結ぶのと遜色ない速さで、正直参考にならない。

「…や~…。多分無理ッスわ。イオンさんに結んで貰うッス。」

「…え?じゃ、私は…。」

「ワタシにお任せ下さぁい。」

「アンタ、絶対固結びするでしょう。嫌ですよ。…全員、ハルさんに結んで貰えば良いんじゃ無いですか?ハルさんは一人で結べる訳ですし。」

「あらぁ、駄目ですよ。」

にっこりと微笑んで手袋をつけたままイオンの手の甲を撫でる。

「痛ぁ!!」

リヴォルフの革はざらざらとしていてまるでヤスリの様な手触りなのだ。

「自分で出来る様になりましょうね?役に立つ、とは言わないけれど役に立つかも知れないから。」

「…ハル姉、これで良い?」

ヨハンナの手にはしっかりと結ばれた手袋。

「流石。器用ね、ヨハンナ。…ほら、ヨハンナは出来たわよ?」

「個人差って物があ…解ったから手を握ろうとしないで下さい!」

「はいはい、お嬢さん方。最後に長靴だ。これで全部、鍾乳洞に入る前に着用する事。良いな?」

返事を聞き届けると更に続けた。

「これで会議は終了とする!諸君、明日は宜しく頼むぞ!」

『はいっ!』

「解散!」

 今し方支給された衣類を部屋に置きに行こうと事務所二階へ上がり始めた時、イオンの耳に自らの名を呼ぶ声が聞こえた。声から察するに振り向きたくない相手だったが、辟易しながら仕方無く振り向いた。

「…何です、マトビャク。」

「明日の必勝祈願に夕御飯でもどうかと思いまして。」

「…私と、あなたが?…冗談でしょう?」

思わず笑いが出てしまった。何だか、あの横領&私用物品購入&過剰宿泊事件以来、やけにマトビャクが突っ掛かって来るのだ。突っ掛かるといっても、敵意をぶつけてくる訳では無く、こうして食事であったりお茶に誘われたりする。

「はっきり言っておきますが、私はあなたが嫌いです。あなただってそうでしょう?」

「…逆ですよ、イオンさん。ワタシ、あなたが気に入ってるんです。」

マトビャクはイオンの頬を指の背で撫でる。明日の装備を持っている関係でそれを払えず、首を振って逃れた。

「…あなた、凄いですね。ここまで私の嫌がる事が出来るなんて。背中の鳥肌がまだ治りませんよ。」

「この戦士団は面白い人が多そうだとは感じてましたが、あなたは素晴らしい。一番まともそうにして、一番イカれてます。クク…、最高ですよ。」

「生憎ですが一番イカれてるのはあなたにお譲りします。」

「それは光栄な事で。まぁ、今回は引いておきましょう。次の機会は是非ご一緒に。では、ご機嫌よう。キヒッ!キヒヒヒヒヒヒ!!」

耳障りな奇声を残し、マトビャクは事務所から出ていった。

「…あぁ、うぜぇ!!」

壁を思い切り蹴り飛ばす。気は少しも晴れなかった。何気無く振り返ればそこには目を丸くしたヴァカッラが。

「…いやっ、自分っ、なんも見てないッス。」

イオンの喉からは潰れた蛙の様な声しか出なかった。

 

 ヒランヤ鍾乳洞は斜めに口を開けている斜洞に分類される。規模は大きく、一番旅経験のある団長でさえこれより大きな鍾乳洞は見たことがない。内部は何本も枝分かれした道がそこかしこにあるが、そう言う支線は通るのがやっとと言える程に細いし行き着く先は大体が水没していた。団長が初めてここに入ったのは大分前で、戦士団も無かったし、もっと言えばシガレア中央町を拠点としてすら無かった。その時はシェルスライムの討伐をしたと記憶している。殻を被ったスライム種で命を奪われる程の脅威は感じなかったものの、殻に籠られると剣では対処が難しく魔法を使える仲間が要ればなぁ、と感じた事を思い出した。

中の構造が変化していなければ入り口から斜めに下って二百メートル。若干水平に歩ける様になって三百メートル。そこまで着くと二手に道が別れる。どちらの道を選んでも行き着く先は最後の空洞部分、変晶光の場で終点だ。変晶光の場の隅に水場があって、深く底が見えない部分がある事からその先を確認したければ人魚にでもなるしか無さそうだった。

「団長、準備整いました。」

鍾乳洞前の出っ張った石に腰掛けていた団長はそれを聞いて腰を上げた。この重装備が初めての物がメンバーの半数いる。準備に時間が掛かるのも致し方あるまい。

「良し、準備は良いな?では、行こうか。」

「団長、剣。」

先程団長が腰掛けていた石の近くに剣が突き刺さっている。

「…忘れてた、すまん。助かる。」

全身をすっぽりと覆うマントのせいで剣を鞘に納めておけない。同じくヴァカッラも抜き身の剣を手にしている。ハルヴァリーの扱う槍は元々が抜き身。イオンの扱う指揮棒の様な杖もまぁ、抜き身と言えば抜き身。マトビャクは空手だ。

「…マトビャクさん、何も持っていらっしゃらないので?」

「えぇ。ワタシ、ナイフとフォーク以上に重たい物持ちたく無いんですよぉ。キヒッ!」

魔術師にとって杖、若しくは魔導書、或いは宝石。これらは魔力の増幅の手助けになる。マトビャクにとってそんなものは必要無いらしかった。

ヨハンナの狙撃銃も普段から抜き身であるので良しとしても、弾丸を入れるポーチを活用出来ず、仕方無くマントに付いていたポケットにそのままじゃらじゃらと入れていた。歩くと少しの違和感と弾同士のぶつかり合う音がする。繊細なヨハンナはいつもと違う点が二つある、ただこれだけの事で一気に機嫌を悪くしていた。

「改めて、準備は良いな?では、行こうか。」

「手袋どうにかならないんスか?めっちゃ剣、持ち辛いんスけど。」

「仕様があるまい。剣術には悖るが力一杯剣を握っていろ。落としたりしたら余計に取り辛くなるからな。」

「…手袋ざらざらし過ぎて持ち手に巻いてる包帯がズルズルになってきたッス。」

「…そんなに嫌なら手袋はずしても良いぞ?粘液で手がえらい事になっても俺ぁ知らんが。」

「はいはい。かりかりしない。さっさと行きましょうよ。」

言い合う二人の肩を軽く小突いてイオンはずんずんと鍾乳洞へ侵入する。

「待て、イオンが先行しては危ないだろう!」

「じゃあ、キリキリ動いて下さい!」

イオンの声は鍾乳洞に反響する。

 

 鍾乳洞内は充分な広さがあるものの、ストレイパルド戦士団は二人三列で進軍していた。先頭を行くのは団長とヴァカッラ。盾を所持し、急な敵への対応に秀でた二人だ。中列にヨハンナとイオン。今回の作戦の中軸であるヨハンナが負傷しては元も子もない。そして、戦闘力に劣るイオン。この二人を守る陣形だった。殿にハルヴァリーとマトビャク。勘が鋭く、広範囲に攻撃出来る両者ならば奇襲にも耐えられよう。

「…いた。」

ヴァカッラの歩調が速まった。どうやらバンダーフロッグを視認したらしい。それを慌てて団長が引っ張り戻す。

「おいおい、作戦を聞いていなかったのか。余計な戦闘はおこすな。我々の目標は変晶光の場への到達だっての。」

「でも、今なら先制攻撃出来ましょう!?後々、襲われるよりは被害が少なく済むと思うんスけど!?」

鍾乳洞内に響くヴァカッラの声に、眼前のバンダーフロッグはこちらに注意を向けた様だった。…襲い掛かって来そうな気配はない。

「言ったろーが。洞窟内のバンダーフロッグ共は大体が幼生なんだって。」

「だから何スかぁ!?」

「…幼生って事はまだ人間を敵と判断する能力に乏しいって事なんです。今こいつを攻撃して他のバンダーフロッグ達に敵と判断されたら大変です。ここは堪えて下さい。」

「そう言われても…納得出来ないッスよ。」

説得を仕掛けていた団長もハルヴァリーも困ってしまって沈黙した。ヴァカッラの言っている事は間違いでは無いからだ。そして、こうもヴァカッラが熱くなるのは団員を怪我させたくないと言う意思の元に言っている事を理解しているからなのだった。

「ワタシも堪えてるもんでねぇ、一緒に我慢しましょうや、ヴァカッラさん。」

次に言葉を発したのはマトビャクだった。

「…あんたもやっつけたいんだ?」

「当たり前ですよ。奴等の粘液はですねぇ、集めて蒸留する事で手間に合わない程の大金で売れるんですよぉ!それを泣く泣く我慢してんです。」

「……阿呆らしい。」

「阿呆とはなんですかぁ!」非難の声を上げたマトビャクだったが、すぐにいつもの嫌らしい笑みに戻す。「…あ、そうだ。ホントに良い稼ぎになるんですよぉ、イオンさん。団の運営費に使えるんじゃ無いですかぁ?やり方、お教え致しますよぉ?手取り足取り。」

「…お生憎。あなたに手も足も取られたくありません。」

答えに間が空いたのは逡巡した証拠だった。

「さてぇ、断られてしまった所でヴァカッラさん。そんなに倒したいのなら昨日言った通り討伐作戦を待ちましょうよぉ。そん時ゃあワタシもご一緒させて頂きますよぉ?」

「アンタと自分を一緒にしないで頂きたい!そんな低俗な考えで討伐したいと言っている訳ではありません!」

「そうですかぁ、なら…。」珍しくマトビャクが真顔を作った。薄暗くよく見えない鍾乳洞の中では、それは酷く恐ろしい物に思えた。「そろそろ大声は止めた方が良い。奴等を興奮させる要因になります。団員を守りたいなら今あなたが出来る事は黙る事だけですよ。」

普段には無い説得力にヴァカッラは押し黙った。その様子を見るとマトビャクはいつもの調子を取り戻した。

「…後は光も気を付けて下さぁい。奴等は自分の弱点が炎であることを知ってるんですねぇ。だから、光を見るとやたらと攻撃的になりますぅ。」

「…これから向かう変晶光の場に奴等が大勢待機しているとも限らん。出来るだけ体力は温存しよう?ほら、行こうヴァカッラ。先頭の我々が詰まっていては皆が動けん。」

努めて優しく団長は締めた。

昔は団長も同じ様に血気盛んだった。命令なんて聞かず、敵に突っ込む事。それが正しい事だと、結果的に敵を減らすことが隊のためになると本気で思っていた。まさかそれを諌める立場になるとは、と内心で可笑しく思っていた。

未だ壁に張り付くバンダーフロッグを気にしながら渋々と歩き出すヴァカッラの肩を団長は軽く叩いた。

「帰ったらなんかケーキでも食べに行こうぜ?奢ってやるから…あ、いや、奢ってあげても平気でしょうか、イオンさん。」

「…いーんじゃ無いですかぁ?」

イオンは機嫌が悪そうに…いや、これは拗ねている、様だ。

「あ、あのっ!でしたらわたくし、参りたいお店があるのですがっ!」

「お、おぉ…。…え?ハルヴァリーにも奢るの?」

「何で団長の奢りでヴァカだけなんですか。全員分奢ってくれるなら許可します。」

「ワタシぁ、甘味には疎いのですがハルヴァリーさんのオススメするお店はそんなワタシが美味しいと感じられる場所ばっかりですからねぇ。今回はどちらに?」

「この前、ブッシュ・ド・ブランを食べたお店を覚えていらっしゃいます?」

「んあ~…。はい~…。覚えておりますぅ~…。」

キレの悪い返答なのはその頼んだブッシュ・ド・ブランを思い出したからだ。マトビャクは甘味に詳しくない以上にそこまで好きでもない。そんな人間が全長三十センチの生クリームでコーティングされたドーナツ体を思い出せばあの時感じた胸焼けも蘇ろう。

「…。」

一方、イオンが閉口したのはハルヴァリーとマトビャクが一緒に甘味処に足を運んでいたからだった。そんなに仲が良いとは思っていなかった。

…普通なのか?団員同士でそう言う所に行くのは結構普通の事なのか?と、思案に入った。

「あそこのお店なのですが、新作のパフェを出したそうなんです!なので一度行きたかったのです!」

「…ほ~ぅ。新作のパフェイ…ねぇ?」

マトビャクは猫背を更に丸めた。その店、役所通りにある"タイタンズ・スナック"と言う。名の通り大盛りが信条の店でどんな恐ろしい物が出てくるか、マトビャクには大体予想が付いたのだった。

「…それにあの店、東の方の菓子もあるのですよ。…何て言いましたっけ、あの、ヴァカッラさんが前に好きって言ってた…。ダイーフク?」

ピクリとヴァカッラは後方のハルヴァリーを覗き見た。

「…ホントッスか?」

「えぇ、ホントよ。一度食べたけど、悪くない味でした。」

「そッスか。…ふ~ん、そッスか。」

ヴァカッラは興味無さげに、興味ありげな態度を見せるのだった。


「…別れ道ッス。」

 団長の記憶通り、鍾乳洞内は二手に別れていた。どっちを選んでも終点は変晶光の場だ。距離もほとんど変わらないだろう。

「…ここは先生にお任せしようかな。先生、何か感じますでしょうか?」

団長が戯けながら声を掛けたのはハルヴァリーにだった。

「…右が良いです。」

「了解。じゃ、左へ行こう。」

「はいぃ!?今、ハルさん、右って言わなかったッスか!?え!?左なんスか!?」

「言い間違えていないですよ?…色々あるんです。行きましょう、ヴァカ。」

憐れむような目をするイオンに何も言えず、ヴァカッラは首を捻りながら左の道を進む。一方のハルヴァリーは顔を赤くして俯くばかりだった。

 団長の思惑通りなのか左の道中何事もおこらず、スムーズに広い場所へ出て来られた。ここが目的地、変晶光の場である。マトビャクの説明した通り、水晶に反射した太陽光は虹色を帯び地面に降り注いでいた。

「…綺麗。」

思わず呟いたのはイオンだった。

「おやおや、イオンさんは意外とロマンチストでいらっしゃる様で。こりゃあ、星空の美しい高台ででも告白すればコロリと落ちてしまいそうですねぇ。」

「…あなたも素直に綺麗な物は綺麗と感じられる心を持てる様にお祈りして差し上げましょう。」

「おや、心外。ワタシの審美眼は確かですよぉ。ハルヴァリーさんを美しいと感じられますし、ヨハンナさんもヴァカッラさんも可愛らしいと感じられますものぉ。」

「…左様ですか。」

「あららららら、自分が入ってなくて拗ねちゃいましたぁ?イオンさんも、可愛らしいですよぉ?」

「どうでも良いです。それより、破壊するのはどの水晶にするんですか?」

「…そうだな。ここから見るとあの辺りが一番低そうだが…。どうかな、マトビャク?」

「あぁ、もう少し奥にこれより低いのがございますぅ。…あ~…ちなみに団長殿は~…とても、勇ましい、ですよ?」

「…そりゃ、お気遣いどうも。」

 マトビャクが案内した水晶は誰もハッキリとさっきよりも低いなぁとは思えなかった。

「…ヨハンナ、いけるだろうか。」

「……やってみる。」

ここまで一度も出番の無かった狙撃銃へ弾を込める。ヨハンナが持っているそれは連射の利く物ではない。再度発射するには空薬莢を排出し、砲身内の煤を払うレバーを適度な速度で引き、可能であれば砲身を冷ますためしばらく待ち、そして再び弾丸を込める必要がある。一方、魔法なら増幅器を対象へ向ける。放つ。ワンアクションだ。狙撃銃が廃れていくのも然もありなん、と言う物だ。

 ヨハンナは水晶をよく狙うとその引き金を引いた。発生した発射音は壁に、或いは天井に張り付いたバンダーフロッグ共の動きを活発にさせるのだった。

「…駄目だ。届かなかった。」

空薬莢をピンと飛ばし、ヨハンナは首を横に振った。

「…駄目か。全然届かなかったのか?」

ヨハンナ以外の全員が首を捻った。誰にも視認できなかったからだ。ただ、ヨハンナだけは見えていた様だ。

「…もう少しだった。何か外乱があれば何とかなるかも…。」

外乱とはそのもの以外の要素で結果が上下する事を指す。今回の場合で言えば高低差を利用する位置エネルギー…だが、この要素は重力に逆らっているのでマイナス要因に傾いている。ならばもう一つの要素、運動エネルギーだ。発射する物を発射する方向に動かすか、別の力で後押しするかになる。

「…それは風とかって言う意味か?」

「風って…。上方に吹き上げる追い風でもあれば可能かも知れないけど、そんなの都合良く吹く訳無い…。」

「マトさん、それなら魔法で何とかならないスかねぇ。」

「何ですぅ?上方六十度に吹き上げる追い風を起こせとぉ?…ワタシを誰だとお思いですかぁ?稀代の魔術師、マトビャク六世ですよぉ?…やりましょう!」

「…全く、勿体付けて!」

「イオンさん、お手伝いお願いします。」

「…何を?」

「人が飛びかねないギリギリの強さの風を起こします。ヨハンナさんをしっかり地面に固定させてあげて下さい。」

「…解りました。…ヨハンナ、しっかり長靴してますよね?」

地面と長靴の間に杖を向けた。呪文を唱え、地面と長靴を同化させる。

「…ちょっと、やり過ぎ…。これ、大丈夫?後でちゃんと抜ける?」

不安そうなヨハンナを平気平気、と元気付けた。

「ヨハンナさんの準備が出来次第ワタシも呪文を開始します。」

「…解った。……はい、良いよ。」

先程と同じ様にヨハンナは水晶へ銃口を向けた。

「…では、参ります。」

ヨハンナの後ろから徐々に徐々にと風が強くなっていく。最終的には構えが乱れる程の追い風にヨハンナは歯を食いしばって耐えて…撃ち放った。

ギィン、と言う音が響く。全員が思い思いの歓声をあげていた。そんな中、ヨハンナだけがいやに冷静だった。

「…当たっただけ。次弾装填。」

再び弾丸を込める作業に入る。ただ先程と違うのは、ストレイパルド戦士団に向けて壁や天井に張り付いていたバンダーフロッグ共が一斉に向かってきている事だった。

「…こいつらっ!解るのか!」

「任せろ!三人は壊す作業に注力してくれ!…ヴァカッラ、ハルヴァリー!三人を囲め!近付けさせるなよ!」

「了解ッス!」

「えぇ、お任せを。」

三人を中心に三角形の陣形を組んだ。もう一人入ればもう少し均等な形になるのだがそうもいってられない。

「…はぁっ!」

一息に三突き。ハルヴァリーは正確に三匹のバンダーフロッグの脳天に槍を突き刺す。基本、どの様な槍でも使いこなせるハルヴァリーは、今日切り払う事も出来るパルチザンなる槍を持ってこなかった事を後悔した。突き刺すのみの刺突槍では一対多には向いていなかったからだ。

(だって、パルチザンは研ぎ代高い上にあまり刃先強くないんですもの…。)

と、誰にでもなく言い訳を思い浮かべた。

「…準備良し。マトビャク。」

「はいはい。」

再び風を起こし、三度弾丸を放つ。周りが剣戟の音に包まれているため命中の音は解らなかったが、少し水晶の欠片が落ちた事でそれを確認できた。

「おぉ。良いですね。次、もう少し根元の方、天井に近い方いってみましょうか。」

「…解った。」

変わらぬ所作で次弾を込めていく。

「うるぁあ!」

薙いで三体。返して二体。突き刺して二体。その姿は正に暴風だった。バンダーフロッグの突撃も少し緩まる。団長は次々とバンダーフロッグの死体を積み重ねていく。

「イオンさーん、団長見惚れてるばーいじゃありませんよぉ?」

「なっ!ばっ!誰も見惚れてませんからっ!」

「…イオン、水は作れる?」

「…はっ、えっ?水魔法って事ですか?使えますけど。」

答えながらヨハンナに名前を呼ばれたのは初めての事かも知れない、とイオンは考えていた。

「…じゃあ、細長く作って欲しい。撃った後、砲身を冷したい。」

「あぁ、そう言う形に。了解しました。」

「…お願い。装填完了。」

「はいな。」

風に乗った弾丸はほぼヨハンナの思い通りに水晶へ届く。まだ完全破壊には至らない。

「…次。」

焦らず、急がず。ヨハンナはほぼ同じ早さで装填を行っていく。

「…水。」

「えぇ。」

砲身の清掃を終えるとイオンの生成した水に浸ける。砲身は一瞬にして触れた水分を蒸発させる音を立てた。その水の中で一度だけ砲身を清掃するレバーを引く。水の中に黒い煤が舞った。

「…発射の度に水は変えて貰いたい。」

「…解りました。まぁ、平気かと思います。」

イオンは周囲の空気に含まれる湿気を集めて水を精製している。十分に湿度の高いこの場なら然程時間も掛からず連続で作る事は能力の低い自分でも可能だとイオンは判断していた。

「ああぁぁぁぁ!ってぃ!」

ヴァカッラはじりじりと攻撃しつつ前進してしまっている。踏み込む事で斬り付ける威力を上げる癖が付いてしまっている事、一体一体に力を込めずにはいられない性格。ヴァカッラはとことんまで防衛戦に向かない人間だった。団長、ハルヴァリー共に少しづつ自分の防衛範囲を拡げる事でこれをフォローしている。しかし、流石に人一人が補うには少々広すぎた様だ。一体のバンダーフロッグがハルヴァリーの横をすり抜けようとする。

「…いけない!」

咄嗟にハルヴァリーは魔法を使った。彼女の一番得意な雷撃魔法。当たったバンダーフロッグは息絶えたものの、周囲の奴等がいやに荒れ狂っている。

「ハルヴァリーさぁん、光は駄目ですってぇ。」

「あー、ごめんなさいっ!」

言ってもあまり余裕は無い。遂に蹴りまで飛び出している。

「装填良し。マト…何あれ。」

「…ホント、無駄に賢いですねぇ。」

水晶には数多くのバンダーフロッグが張り付き折り重なって、ヨハンナとマトビャクは見上げ呆れた。己らの身を持って盾にしているのだろう。

「兎に角撃って下さい。良いですね?」

「…良いよ。」

マトビャクの風に乗せて弾丸を放つ。肉壁はその役割を十二分に果たし、その残骸は地面に叩き付けられた。粘液が弾丸の速度を落とし、威力を最大限殺したのだろう。

「…さて、どうしましょうねぇ…。」

苦笑いで水晶を見つめるマトビャクとあくまでも冷静に次弾を込めるヨハンナ。

「…マトビャク。」

「何ですかぁ?」

「…あそこまでひび割れてても水晶には魔力は残ってるもの?」

「…ま、抜けててもおかしくは無いです。」

「…そう。」

空薬莢を地面に転がし、砲身の清掃前にイオンに弾丸を一つ手渡した。

「…何です?」

「それに炎魔法を込めて欲しい。…出来ればマトビャクもお願い。」

「魔法を乗せた弾丸で肉壁ごと貫きますか…。」

「えっ…。だ、弾丸の中って火薬が入っているんですよね…?炎魔法使ったらこの場で爆発しませんか…?」

「…ちょいと失礼。」

怯えるイオンの手からマトビャク弾丸を掠め取った。魔術で中身の構造を確認している様だ。

「イオン、水。」

「あぁ…。ごめんなさい…はい、どうぞ。」

「イオンさん、火薬はどうやら後ろの方です。先端から一センチ程にかけて魔力を込めて下さい。」

「え…。わ、解りました。」

再び受け取った弾丸の先に言われた通り魔力を込めた。見た目には変わりは無いがそれをマトビャクに手渡す。

「では、ワタシは…これでどうでしょう。弾の回りに魔力を込めました。…ただ、これだとヨハンナさんの持つ銃の方に影響が及んでしまうかもしれません。」

「……。」

無言で手にした狙撃銃を見下ろした。光を反射しない程酸化していて、傷だらけ。ヨハンナは今までこれ一本だけで危機を切り抜けて来た。

「……良いよ。それ、貸して。」

感傷などここでは、戦場では必要ない。目標が達成できるか、それだけがこの場の価値。

「…マトビャク、風、やれるだけ強く。イオン、それに飛ばされない感じで固めて。…もう、体全体覆っちゃっていいから。」

ヨハンナは狙撃銃に弾丸を込めた。もう、最後になるかもしれない弾を。

「…ふーむ。では出来るだけ。イオンさん、ヨハンナさんの体がっちがちに固めたらワタシの後ろへ。」

「…ヨハンナ、大丈夫なんですか?」

「へーき。後でちゃんと剥がせるなら。」

「…解りました。」

言われた通りに地面と同化させた岩でヨハンナの体をかっちり固めたイオンはマトビャクの後ろへ回った。

「…では、いきます。」

ヨハンナの耳には豪風が逆巻く音がしているが体は少しも動いていない。一息吐いて弾丸を放った。まるで狙撃銃が爆発したかの様な爆音にマトビャクが歓喜の声をあげる。空を裂くその弾丸は折り重なるバンダーフロッグの粘液を溶かし、表皮を焼き付け、そしてとうとう水晶を砕いた。

一際大きな欠片が地面に落下する。辺りは一段と暗くなったが、砕けた水晶の欠片が空気中に舞い、キラキラと反射して幻想的な風景を作り出していた。

「素晴らしい爆発でした、ヨハンナさん!ワタシ、興奮してしまいましたぁ…!」

「止めて下さい、こんなとこで!」

股間で手を蠢かせるマトビャクをイオンが制した。

「おっと、ししゅれ…あぁん…、涎が…。失礼しましたぁ。」

「…ぐっ!この、変態…!」

騒ぎの中でも静かにヨハンナは自分の得物を見詰めていた。

(…今までありがとう。)

その、亡骸を。

「…あ…っ。ヨハンナ、それ…。」

イオンが見たのは花が咲くようにパックリと先端から裂けた銃の砲身だった。

「…うん。まぁ、しょうがない。」

それを背に担ぐ。ここで捨てていく事はしないようだ。

「おい!終わったのか!?」

水晶を破壊してもバンダーフロッグ共の怒濤の襲撃は終わりを見せない。団長達には水晶の方の結果を確認することなど出来そうにも無かった。

「お、終わったんですが…。どうやってここから脱出すれば良いんですか、これ。」

「終わったんスか!?なら、こう…一瞬で出れる魔法とかっ!あったと思うんスけどっ!!」

「ありますがねぇ、ちょいとこの砕けた水晶が舞ってる空間では御免被りたいですねぇ。目標は達成したのに"石の中にいる"なんて洒落にもなりませんよぉ…。」

「じゃあ、どうするんです?入り口の方まで走りますか?」

「…何でも…良いから…速くお願いするッス…。体力が…限界…。」

「も~…解りましたよぉ…。ワタシが"フレイム・カーペット"で道を開きます。」

フレイム・カーペットは文字通り炎を地面に走らせる魔法だ。いま戦士団がいる位置から変晶光の場の出口までにはかなりの広さがある。

「って言っても魔法使えるんですか?さっき水晶がどうのって言ってたじゃないですか。」

「吸いきれない程の出力でやります。後は指向性を持たせた方が良いのでイオンさんの杖をお借りしても?」

「……………まぁ、…………良いです、けど。」

「壊したり汚したりしませんよぉ。そんなに嫌そうにしなくても良いでしょうにぃ。」

渋々と杖を渡す。

「団長殿、ヴァカッラさん、ハルヴァリーさん、聞いてましたか!?燃やしたら全力で出口へ走って下さいねぇ!」

杖の先を自分の足元に向ける。

「…ふぅぅぅっ…!」

力を込めるとその手を出口の方へ走らせた。

「はいっ!」

後を追うように地面を炎が這い走り、バンダーフロッグは次々と燃えカスへと変わっていく。

「…凄い。」

珍しくヨハンナが感嘆の声をあげた。

「はいはい、急いで下さい!走りますよぉ!」

全力で、とは言ったものの既に体力を消費しかけていた面々は這々の体でようやく鍾乳洞の通路へ出る。

「ここでなら…!皆さん、固まって下さぁい!」

マトビャクを中心に固まると一瞬にして露天の場所へ転送された。

「…どうやら入り口の様だ。皆、無事だな?」

若干名息が上がって答えなれないものがいるが、全員怪我は無さそうだ。

「作戦は成功した。皆、良くやってくれた。…ヨハンナ、良くやったぞ。」

「…別に。」

ヨハンナは特に何の感慨も無さそうな顔をしている。まるで、それが仕事だと言わんばかりに。

「さて、お疲れ様!約束通り甘味屋へ行こうか!」

「ち、ちょっと待って下さいよ…。少し休ませて…。おんなじ位動いてた筈なのに何で息すら上がって無いんスか。マジで団長化けもんっしょ…。」

「何言ってる、この位で。なぁ、ハルヴァリー。」

「まぁ、流石に少しきつかったですね。でも、甘味がわたくしを待っていますから…!」

「……地面に寝ると汚れますよ、マトビャク。杖、返して下さい。」

「…ワタシも結構、限界なんですよ。勘弁して下さい…。」

魔力の大量行使の上、全力疾走。マトビャクにとってはえらく久しぶりの事だった。

「…ほら、置いてかれますよ。皆、頭が甘味になっちゃってますからあなたなんて忘れられてる様ですね。」

「…流石に酷いですぅ!」

「…仕方無いですね。…ほら、立って。」

無理矢理にマトビャクの腕を取り、自分の首裏に回して引き起こした。

「お、おぉぉ…。ど、どうしました、イオンさん…。」

「…今日はまともに仕事してたみたいなので本日限定で少し優しくしてあげます。」

「…キヒヒ…。そりゃあ、どうも。」

よたつきながらもシガレア中央町への帰路に付いた。

 

※今回のストレイパルド戦士団収支報告

 

収入

ヒランヤ鍾乳洞内調査依頼達成報酬

六万ゴルド

後調査における当団の功績への追加報酬

九万五千ゴルド

マトビャクが密かに回収した水晶の欠片

1キロ当たり五千ゴルド×五百グラム分=二千五百ゴルド

 

支出

バンダーフロッグ対策用マント

八千ゴルド×六名分

バンダーフロッグ対策用手袋

二千三百ゴルド×六名分

バンダーフロッグ対策用長靴

三千七百ゴルド×六名分


収入計

 十五万七千五百ゴルド

支出計

 八万四千ゴルド

 

全計

 +七万三千五百ゴルド

備考

 特別報酬出てなかったら足が出てるじゃありませんか。馬鹿なんですか?今後、特殊な装備が必要な依頼はハルヴァリーさんか私に相談なさってからにして下さい。

イオン・アットルギナ

 

 Titan's attack

 

 それは団長がまだ幼く、生まれた故郷の街を駆けずり回り泥だらけになりながら遊んでいた頃の事。

一緒に遊んでいた子が家に招待してくれると言う。おやつも出る、と言われて付いていってしまった。

その子の親が気付いた時にはもう遅かった。泥だらけの子供たちが歩いた、或いは座った場所は当然泥だらけとなっていた。その家の子と叱られ、掃除させられたのだった。

モップやバケツを見るとあの時の事を思い出してしまう。団長にとって、それらは遠い昔に楔打たれた恐怖の記憶。

それから二十年以上後。

それは今、時を越えて。

団長を脅かしていた。

「……。」

バケツの前に俯く団長の姿が、ハルヴァリーに連れられて入店した"タイタンズ・スナック"にて見る事が出来た。

「溶けますよ、団長。」

同じ物を目の前にしながらハルヴァリーの反応は彼女とは違う。

「……これは、何だ?」

ようやく絞り出した声にハルヴァリーはあっさり答えてくれた。

「期間限定、キャラメルマロンパフェですけど。」

但し、入れ物はバケツだ。超弩級の大盛メニューだ。名前なら団長にだって解っている。注文した時、確かに自らこの化け物の名を呼んだのだから。

「……限度、ってもんがあるだろ…。」

気力なくそれだけ言った。

「何ですか、団長。栗、お嫌いでしたか?」

同じくバケツのパフェにスプーンで斬り込んで行くのはイオンだった。自分の目の前に置かれた時は少し驚いた様だったが、彼女も女の子だ。甘味は好きだったと見える。

団長は恐る々る一口目を食した。甘いクリームの味が口に広がる。

「…いや、うまいさ。うまいん…だがな?」

如何せんこの量では完食は遠き果てない道のりだ。

ヴァカッラは塩大福を頬張っていた。この団の中で一番甘味が苦手であるのは意外にもこのヴァカッラなのだ。因みに大福の中の餡は粒、漉、どちらも二つづつ頼んでいる。餡のこだわりは無いらしい。

未だ苦しむ団長を楽しそうにマトビャクは見ていた。マトビャクがつつくのは無花果のケーキ、一切れ。前回、ハルヴァリーに連れられた際は失敗したマトビャクも二度同じ過ちはしない。このケーキを頼む時も再三確認していた。

"一ピースですよ?解ります?一ピース。丸いのを、こう八つか六つかに分けた内の…。え?六つ?六つ切りなんですね?その内の一つ、一切れですよぉ?あぁ、いけない。その切らないままのケーキは直径幾つです?三十?三十センチですね?じゃあ、それ一切れ。一切れですよ?一切れ!"

大分鬱陶しい客であろう。

マトビャクは大盛の店である事を知っていたし、団長がそんなに甘味に強くない事も知っていた。にも関わらず団長に注意をしなかったのは、その途方にくれる顔を見たかったからだった。団長の事が嫌いとかそう言う事ではない。ただ、絶望とか驚愕とか。凡その時、人が見せない表情が好きなだけだった。

「あぁ~…。俺もヨハンナと同じもんにすりゃあ良かった~!」

注文する時の話だ。団長がヨハンナにメニューを決めたか問うと、帰ってきた答えはハムチーズトーストだった。団長も結構好きだ。

これを聞いたハルヴァリーは笑顔のまま眉間に皺を寄せた。甘味屋で甘味を選ばないとはどういう了見なのか、と顔に書いてあったが、それも個人の自由じゃないか、と目で訴えてなだめた。ここで団長もハムチーズトーストを選ぼう物ならハルヴァリーの機嫌を損ねてしまうかもしれない。団長は気遣いを発動させてハルヴァリーと同じ物を頼んだのだった。

「…あの、マトビャクさん。」

声を掛けたのは山の攻略を大体半分以上し終わっているハルヴァリーだった。

「ほいほい。どうしました、ハルヴァリーさん。」

「そのケーキ、どうですか?美味しいですか?」

「えぇ。酸味と甘味のバランスが素晴らしい。美味しいですよ。」

「そうですか。実は妹が好きなのでお土産にどうかと思ったのですが。良さそうですね。」

「あぁ。そう言う事でしたら一口どうぞ。自分でお確かめになった方が納得も出来ましょう?」

「お気遣いありがとう。では、少し…。…えぇ。美味しいです。ありがとう、マトビャクさん。」

「いぃえぇ。」

本当にこいつはどうしてしまったのだろう。最近のマトビャクは真人間過ぎてイオンは彼女を見失っていた。

「…そんなに見詰められたら穴が開いてしまいますよぉ?」

マトビャクと目が合う。すぐに反らすとバケツへ意識を向けた。

「あぁ、そうだ。イオンさん。皆さんも居りますがご一緒出来て嬉しいです。」

「…皆と一緒で無い限りこんな事は無いと思って下さい。…あなた、ホントに一体何を考えているんですか?」

「……イオンさんはワタシを何か疑ってらっしゃる様で。…甘味までご一緒している仲です、解りました、ワタシも腹を割りましょう。」

折角皆さんもいますし、とマトビャクは続ける。

「イオンさんは恐らく、この戦士団に入団する前のワタシの評判を気にしているのでしょう?」

「…その他にもありますけど。」

報奨金の着服とか、色々。

「あん。それはすみませんでした。もう二度としませんのでお許しを。」

マトビャクはケーキとセットで頼んだ紅茶を啜った。

「…フリーでやってた時は確かに酷い事してましてねぇ。それは認めます。土壇場で裏切って全部横領、護衛対象の横流し、人質ごとアジト爆破、とか。…しかしねぇ、ワタシに依頼してくる人間ってのは大抵が同じレベルのクズなんですよぉ。こっちから先にアクションを起こさねばワタシが被害被るんですぅ。だから自分の身を守るためには先に攻撃するしか無かったんです。」

いつの間にか全員がマトビャクの話を傾聴していた。…ヨハンナ以外。

「そんな事してましたらねぇ、真面目に本気で命狙われる様になってしまって。…実はこの戦士団に入団したのはその盾にするつもりだったんですぅ。」

「…あ~…。そういや、マトビャクが入った頃、俺めっちゃ暴漢に襲われてたなぁ。」

「は。何ですか、それ。」

「で、取っ捕まえてボス吐かしたら以前にシメた盗賊だったから逆恨みかと思ってもっかいシメた。」

「…そんなこんなでワタシもほとぼりが冷めたもんで抜けようと思ったんですがねぇ。皆さん、良い人って言うか…。こんなクズだーって噂流れてる人間を気にしないどころか頼ってくるから…。ワタシ、嬉しかったんですよぉ。」

「…そんな事仰ったら、わたくしだってクズと噂されておりますから。」

「それ、絶対嘘でしょう。ハルヴァリーさんとちゃんと付き合えばそんな噂すぐ嘘だって解りますよぉ。」

「そうです。ちゃんと付き合えば、噂が本当かどうかなんて、すぐ解りましょう?我々だってマトビャクさんは噂通りの人で無いことは解ります。」

「なっ…!ちょっ…!やめて下さいよぉ…。…そーゆーとこ!そーゆーとこが困るんですぅ!」

珍しく、と言うか初めてマトビャクは赤面を見せた。

「…っと言うわけでですねぇ!ワタシは結構皆さんを気に入ってるんです!…だから、まぁ…まともに、なりたい。あたしは、皆に認めてもらえる位にはまともになりたいんです。」

「…あぁ。解った。見てるよ、マトビャク。」

皆が頷く中、イオンはケーキ用のフォークをマトビャクの前に突き刺した。

「…あなたのこれから次第ですね。人道に悖ることしたら…解りますね?」

突き立てられたそれはまるで先日、マトビャクの足に突き立てられたそれそのもの。

「…善処、しますぅ。」

「あ、あのマトさん。」

「どー致しましたかね?ヴァカッラさん?」

「自分、鍾乳洞内で言った事、謝らないといけないッス。…低俗とか酷い事言ったッス…。」

「あぁ、全然気にしておりませぇん。実際、ワタシは金に執着する低俗な人間ですからぁ。」

「そんな事無いッス。お金は…大事ッス。もし、バンダーフロッグの討伐作戦が出たら一緒に行ってもらえないスか?」

「…えぇ。是非に。」

「…まぁまぁ上手くはいってんだよなぁ…。」

ポツリと団長はこぼす。

「やっぱりさぁ、戦士団とか人の集まり作った時、ギスギスすんの嫌だからさぁ。これはこれで、うちって上手くやれてんなぁと思ってさ。」

「まぁ、社会不適合者の集まりの割には上手く行ってるとは私も思います。」

「社会不適合者と仰られると…何か凄く抵抗感が…。」

「実際、ハルヴァリーさんは真っ当ですしね。私の失言でした。」

「さて…そんな仲の良い皆さんに相談が。」

団長が神妙に言う。

「…このパフェ、食べるの手伝って下さい…!」

まだ半分近く残るバケツを前に団長は大きく頭を下げた。


※ストレイパルド戦士団 追加支出

キャラメルマロンパフェ

四千二百ゴルド×三つ

塩大福(粒餡・漉餡)(セットドリンク・緑茶含)

二百ゴルド×四つ

ハムチーズトーストセット

千六百ゴルド

無花果のケーキ 一ピース(セットドリンク・アウンゲン茶葉使用紅茶含)

千三百ゴルド


計 一万六千三百ゴルド


備考

 値段で気付くべきでしたね、団長?

マトビャク六世


題名

 小林一茶「やせ蛙 負けるな一茶 これにあり」より。

正直、動物の名前が入った俳句だったら何でも良かった。

バンダーフロッグ

 上記題名から今回の敵はカエルに決定。

…ジャイアントフロッグ?…ポイズントード?…大王ガマ?

迷った挙句、鏡の国のアリスのバンダースナッチから拝借。

ヒランヤ鍾乳洞

 鍾乳洞の成り立ちとか知りませんでした。なので調べましたよ。しかも、その成り立ち方から色々種類も別れるそうで。奥が深いぞ、鍾乳洞!

砲身を水で冷やす

 水掛ける位なら良いと思うけど、漬けるのは良くなかった。煤、固まるぞ。

いしのなかにいる

 おおっと!テレポーター!

…世界なんて滅びればいいのに。と思う瞬間ですね。

バケツパフェ

 ホントにあったら一週間かけても私は食い切れる気ありません。

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