【11 決意】
朋日の口から語られる決意。
藤森は茫然自失の体で車に放り込まれ、連れてこられた店でもんじゃ焼きを食べていた。
朋日と藤森が並んで座り、享日は朋日の向かいに座った。
藤森と享日がヘラを使って食べ始めたのに対し、朋日はヘラを皿に置き享日を見据えている。
「食わないのか?」
るんるんとヘラを口に運んでいた享日が食べようとしない妹を不思議顔で見た。
「亨兄、来期から私も参戦する」
「おまっ、はえーよ」
「早くなんかない! こんな長い休暇初めてだ。いい加減…つかれる」
「???」
来期だの、参戦だのという突然の話の展開についていけないでいる藤森は口を挟めないでいた。ただ、戸惑ったようにもんじゃ用のヘラを咥えて二人の会話を聞いていた。
「あいつらだってとっくに始めてる。私だけこんなところでのんびりはできないよ。親父や母さんには悪いけど、どだいムリな話なんだ。亨兄だってわかってるでしょ、ここは私の国じゃない、この国を故郷だなんて思えない。私はあそこで生まれた。帰る場所はそこにしかない」
「朋日」
本気か? と享日が窺うようにみてくるのに、朋日は苦い笑いを浮かべた。
「ここにいて私が学べることなんて無いよ。こんなことになんの意味があるの? そりゃ、親父や享日兄には、思い出の場所かも知れないよ。一生の友達ができて楽しい事一杯で、でも私には…わからない。学校なんてまともに通ったことないのに、今更学生なんてやれないよ。ホント、いまさら過ぎて…」
俯く朋日。
深刻になりそうな空気を享日が笑い飛ばした。
「お前が決めたんならそれでいい。俺や親父が何を言おうと、そんなもん選択肢の一つに過ぎねーよ。選ぶのはお前だ。だろ?」
茶目っ気たっぷりに笑う享日に朋日も顔を上げ、力強く頷いた。
帰りの車中。満たされた胃をおさえ藤森は後部座席に収まっていた。
「ご馳走さまでした」
「いやいや。俺が奢りたかったんだし、今日は懐もぬくいから気にするな〜」
腹が膨れて上機嫌の享日が言うのに、そういえば、と藤森が尋ねた。
「パチンコですか?」
「いや、スロット」
にこやかに返す享日に藤森はほぇーと感心の声をもらすが妹・朋日は冷めた目で呟いた。
「…詐欺だ」
享日が慌てて助手席に座る朋日に言う。
「兄ちゃんに向かって詐欺はねーだろ」
「だって、数字見えてるんでしょ。自分の動体視力わかっててやってんじゃん」
「数字が見えるんですか」
「あ〜」
詐欺だーとジーッと視線を注ぐ朋日と、まさか、と驚く藤森の視線をかわすようにスィーッと窓の外に視線を飛ばした。
次いで、はっはっはと笑って、うやむやにしてしまおうという意図がバレバレな乾いた笑い声をたてた。
「笑って誤魔化すな」
「イテッ」
軽いパンチが享日の頬を叩いた。
「謹慎とけたら、これ出してくる」
シャワーを浴びてさっぱりした様子の朋日が白い封筒を享日の目の前に置く。
「俺も行くぞ」
缶ビールを片手に天気予報を聞いていた享日が言うのに朋日が戸惑いの声を出す。
「えっ?」
「なんだよ。俺だって一応ここではお前の保護者だぞ。最後のお勤めだ」
朋日の濡れた髪をくしゃっとかき混ぜて享日が笑う。
俯いた朋日の表情は見えない。
「サンキュー、亨兄」
言った朋日の声が、少し震えた。