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どぶの道。  作者: けーりん
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どぶ。1

※幼稚園児にしては幼かったり思考がはっきりしてるとか...はい。そうです。回想です。

絶対に殺してやると、目の一寸先に突きつけられた包丁も。

お前なんて生まれて来なければよかったのにと殴られたことも。

縄で両手を縛り付けられて、車で遠くの県に放り出された時も。


全てどうでもよかった。


僕は生きてるのだろうか。

死んでるのかな。

呼吸を止めてしまえば、僕がいらないと言う両親のためになるのだろうし、死んでしまえば僕も楽になれるんだろうか。

でも、死んだ先に何も無いよ。そう誰かに言われて、死ぬのが怖くて。


こういうことがあった。

幼稚園生の頃、よくアザや切り傷を作っていた僕を先生は心配してくれていたけれど。

四者面談をする機会があった時、僕の両親は口を揃えて、

「うちの息子はよく喧嘩をしにいって外で暴れ回ってくるんです....」

「実はおつかいにいかせると、最終的に猫と遊んでちょうちょと遊んで、怪我と泥まみれになって何も買ってこないんです...」

なんて言うものだから、この世に心から悪い人なんていないなんて思っている先生はすぐに納得して、「喧嘩はしちゃダメ!お使いもしないとダメでしょ!」とその話は終わってしまったのだ。

先生は、役に立たずだった。


先生の発言によって、「喧嘩」とは、無抵抗で殴られるものだと勘違いしてしまい、「喧嘩をしないようにするため」、殴られないためにはどうすればいいのか必死に考えるようになった。


そして身につけたのが、無表情だ。

父が他人の苦しみを見るのが実に楽しい。私の癒しだと、僕を殴りながら毎日言っていて、じゃあ顔に出さなければちょっかいなんて出されないだろうと考えた。無表情を身につけて、感情を制御できるようになるまで時間はかかったけれど、案の定、父はストレス解消に僕をサンドバッグにする回数が少なくなった。


一つ見つけたならいくつもあるはずだ、もっと殴られないようにと考えて母の言動を見つめて、幼いながらもう一つ探り出したのが、

不格好。


不衛生なのを汚い、臭いと母は嫌うが、僕がまともな服を着させてもらえたことは少ないから、きっと僕がきちんとしているのが嫌なんだろうと思った。僕は、毎日、ぼろ雑巾のような服でと、長い前髪で過ごしていた。


いつの間にか幼稚園での僕の周りは人がいなくて、いつも悪口を投げかけられていた、はずだ。


悪口を言われるのなんて覚えることでもないから、よく分からなかった。

僕から見える灰色の風景が何一つ変わることのないまま、小学校に入学した。



入学式も放りっぱなしで、想定通り親が見守らない初日を過ごして、ひとりで帰ることになった。

無性に家に帰るのが嫌で。救われたくて。


学校をブラブラと暇つぶし兼探索に歩き回っていたら、人と遭遇。

廊下の向こう側から歩いてきたのは、同じ年に見える、男の子と女の子の二人組。

明るい青色で、不貞腐れている猫の模様が真ん中にどでかく入ったTシャツと赤色の短パンを着ていて、茶色い髪がはねている満面の笑顔の男の子。

清楚な雰囲気が漂っている白くて左の胸元に向日葵の刺繍が施されたワンピースを着ていて、腰まで伸びる黒くて綺麗な髪に、可愛くちっちゃな花の冠を着けた女の子。

仲良く手を繋いで、会話に花を咲かせている様子。

二人とも目尻が垂れていて、本当に楽しそうだ。

そんな二人が前を元気よく歩いてきて、僕も二人に混じりたいと思いつつ、人と関わっても意味ないって思っていたから、特に目を合わせることもなくすれ違おうとした。


でも。


男の子の方が、突然喋るのを止めて。女の子は少し疑問に思った様子。

そして、僕の横を通る前に考え込むようにいきなり立ち止まって。

「君って、僕のクラスと一緒にいた子だよね。こんなところで何してるの?」

歩きを止めなかった僕の方をしっかり向いて、言った。


でも、僕は彼のことが見えなかったし、まあ擦れ違ったし、いいや。

僕は聞こえなかったふりをして前を歩いていった。

男の子の方が呆然とした声で「...えっ」とつぶやくのも耳に入ったけれど、気にしない。


しかし簡単にこの場は終わらないようで、

軽い足音がトテテと軽く走って、流石にここまできて無視するのは可哀想に思って、振り返ると。

男の子の方が遠くで、手を地面につけて膝立ちしてショックを受けているのが見えて、その次に目の前にいる、仁王立ちをドーンとして誇らしげにドヤ顔をしている女の子が目に入った。

彼女は一呼吸置いて、息を思いっきり吸い込み、詰問口調で言う。

「だから!!ね!!

みんな、ママとパパと一緒に帰ってたけど....もしかして、君もパパとママが来ないの?」

流石にここまでされたら話すしかないなぁって諦めながら、僕は口を開いた。

「うん。僕はパパたちが来ないから、少しの間でも校舎を探検して、慣れておこうと思って来たんだ。」

僕の言葉を聞いた女の子はぱっと花を咲かせる様に笑顔になり、また僕の方をじっと見つめてきた。

あんまり見られると居心地が悪い。恥ずかしい。

そうやって少しの間見られて..

男の子が唐突に、ぱっと目の前に現れた。

いつの間にか復活していたらしい。


男の子が唐突に、大声を僕に向かって殴りつけるように出してくる。

「僕達と友達になってくれませんか!!」


うるさいなぁって言おうとしたけど、友達という言葉を胸の中で繰り返しただけで、文句は消えてながれていってしまった。


友達という、馴染みのない言葉を聞いて、胸のあたりが暖かくなって、僕はなんと返事をしたのかは覚えていない。


でも。

二人が手を取り合って喜んでいた姿は、心の中に刻みついている。


ここで彼等にあったのが、僕の人生の中で一番の幸せなことで、彼等といつも過ごせたのも楽しいことだった。


男の子はあんまり笑顔を見せない僕を笑わせるためにいつも何か面白いことを考えてきてくれた。勉強ができない彼は負けず嫌いだから、僕の読めない難しい本を持ってきて僕に読めというけど、ごめん、なんとなく読めてしまうんだ。


女の子は僕のほつれたぼろぼろ服を直すために、先生や男の子と一緒に裁縫を学んでくれて、ところどころ可愛く、見るだけでまったりするような刺繍を施したハンカチをくれたりした。


二人が一緒にばかみたいなことを全力でやってるのを見て、初めてかな。僕は微笑んだ。

そしたら、二人からとんでもなく珍しいものを見る目でキラキラと見られて。あー、そんな珍妙な動物を見る目をしないの。


「笑顔、初めて見たな。....なんとも言えない...」

「あんまりかっこよくないけど....なんかうれしいね。」


ちょっと微妙な感想入れないでもらいたい。

二人と一緒にいると、感情が、戻ってきてしまう。

嬉しくて、幸せなこと。


何故僕が男の子と女の子と一緒に居れたのかはわからない。


ただ幸せなこの日々が続けばいいなって、願ってしまった。



この平和で幸せな学校での暮らしと対比するように、家の中ではまた一段と死が近づくような日々を過ごした。


貰ったものを隠しきれず、母にハサミできられた。

女の子にもらってきた刺繍のハンカチも、ほつれて縫ってもらったところも、全部。

あんたに大事なものがあることが許せないと、体を切られそうになった。


男の子から教えてもらった生命の神秘について男の子が凄い嬉しそうに、興奮したように話すのを聞いたのを少し思い出して微笑んでしまった。

おや、珍しいじゃないか。笑うなんて。なあ。その様子だと、泣き喚いてくれるか?

最近全くなかったサンドバッグも、一度つけた無表情の仮面が着けれなくなって、足や手が骨折するまで何度も何度も蹴られ殴られた。


僕が休んでいる間にも、あの二人はお見舞いに来てくれた。母も外面だけはいいから、御見舞品だけ貰って帰ってもらおうとしたけれど、僕と初めてあった時みたいに強引だった二人を通したようだ。


「早く治してね。治さないと、遊べないじゃん。」

男の子はいつもの元気そうな笑みではなく、泣きそうな表情を浮かべて。


「· · ·。」

女の子は何も言わずにぎゅっと僕の手を握って、瞳に涙を浮かべながら、黙っていた。


ああ、これから何度もあの二人にこの表情をさせてしまうのだろうか。嫌だな。


しばらくの間、二人は僕の部屋で沈黙していたけれど、僕に何も聞かず、振り返らずに、部屋を出ていった。


勿論、僕の口から呼び止められるような声も出なくて。


母は彼らに何を言ったのだろうか。

学校にはどのように連絡したのだろう。

もう、どうしたらいいのだろうか。


これから先、僕が感情を取り戻していく度に、父からの暴力は酷くなり、母は僕の幸せを壊していくだろう。


僕はこれ以上自分を傷つけたくない。

それに、男の子と女の子を僕の狂っている家庭に巻き込みたくない。

じゃあ、ちょっと辛いけれど。

なんにも言わずにお別れだ。


また、僕一人ぼっち。


学校でも家でも影のように。道具のように。息をしているかもわからないようにひっそりと。そんなふうに生きる。


次の登校日から、僕は彼等と話すのをやめた。


男の子と女の子の姿を、僕は見ることが出来なかった。

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