赤髪の少女と赤っ恥
ぼくが眼を覚ますと、綺麗な赤髪の、端正な顔立ちの少女がぼくを心配そうに見つめていた。そしてぼくが眼を覚ましたのに気づくと質問責めを開始した。
「大丈夫?突然倒れたからびっくりしたよ」とと少女は言った。
「大丈夫さ。ところでここはどこだい?」とぼく。
「そりゃ病院よ。怪我人を運ぶところなんて病院くらいしかないでしょう。と彼女は呆れたように答え、「ところであなたの名前何?この辺じゃ見かけないが。ああ、あたしの名前はリリアーノ。リリーでいいわ。カロール出身よ。」
「俺は…」ぼくは言い淀んだ。薄々感づいていた。けど認めたくはなかった。だか今はっきりした。ここは異世界だ。いわゆる異世界転生というやつだ。そうわかった瞬間ぼくの頭は巡るましい回天をし始めた。ぼくはこの異世界に裸一貫で投げ出された、明日からの生活はどうなる、というかここの病院の診察代を払えるかも怪しい。そのようなことを必死に考えていたせいかリリアーノがぼくを呼ぶ声に気づかなかったらしい。とても大きな声で「ねえ!あなた!」と呼ばれるまでぼくは自分の思念の中にとらわれていた。
「ああ、ごめんリリアーノさん。俺の名前は…」
「リリーよ」
「リリー、俺の名前は楠木 英治。英治でいいよ」
「クスノキ エイジ?変わった名前ね。じゃあエイジ。あなたはどこにすんでるの?黒髪黒目の人なんてこの辺の人いや、この国の人じゃないわよね?」
「うん、たぶんそうだよ」
「たぶん?どうしてそんな曖昧なの?」
「実は俺…」そこでぼくは言葉を一度きり、息を吸い込んでこう告げた。
「記憶喪失なんだ」
「え?」さすがに彼女は驚いた表情で聞き返してきた。「どうゆうこと?」
「そのままの意味さ。ぼくは記憶を失ったらしい。おおかた、さっき頭を打った時、打ち所が悪かったんだと思う。だから…」とぼくは言葉をきり、「自分の名前以外ほとんど覚えていないんだ。」と言った。もちろんこれは、嘘である。ただぼくはこの嘘のおかげでこの異世界に関して知らないことは「記憶喪失だから。」の一言で片付けることができる。だが、この嘘は、当たり前だが、リリーに、相当の衝撃を与えたらしい。
「じゃあエイジ…あなたは家族のこととか自分の家も覚えていないの?」とリリーが恐る恐ると言った感じにきいてきた。
「うん。それどころかここがどこの国かすらわからないよ。でもそれより重大なことがあるんだよ」とぼくは言った。
「重大なこと?何?」
「それは…その…」ぼくは今から言おうとしていることの恥ずかしさに赤面していた。もしこの状況を全く関係のない人が見ていたとしたらぼくの顔を見て巨大なリンゴが浮いていると勘違いをするかもしれない。
「何よ、言って」リリーがせかす。
ぼくは息を吸い込み、覚悟を決めて一気にこう言った。
「実は俺、今一文無しなんだ、だから、この病院診察代と、できれば一食分の金を貸して欲しいんだ」