浪人生が異世界転生することに
その時間が来るとぼくはパソコンを開き、パスワードを打ち込んで一見すれば意味のない数が載っているサイトにアクセスした。そして、予想通り、ぼくの探していた番号はなかった。
落ちたことはわかりきっていたが、こうして確定するとやはりこたえるものらしい。
ぼくは深々とため息をつき、下の階にいる母親の、楠木 陽子のところに報告にいった。
ダメだった、とぼくが言うと、母は先程のぼくのため息に負けないほどの深いため息をつき、まあ仕方がないわね、後期頑張りなさい。と言って台所の方へ行ってしまった。
ぼくはその後ろ姿をしばらく見つめていたが、首を振って二階の部屋に戻り、予備校の用意を持って台所にいる母に「予備校に行って来る。」と言って家を出た。返事は、なかった。
電車に乗って、予備校の最寄りの駅に着いた。しかし電車を降りてぼくが向かったのは予備校とは逆の、図書館の所だった。
そう、ぼくは本来浪人生としてするべき勉強を放棄して、図書館で世界の文学の名作を読むことに時間を費やしていた。ゲーテ、ドストエフスキー、トルストイ、ディケンズ。このような本を読むときぼくは浪人生であることを忘れることができた。つまり現実逃避ということだ。そして今日もまた、その現実逃避をしようと図書館へ向かっていた。それはいつも通りのはずだった。
しかし、やはりぼくは落胆していたらしい。車通りの多い横断歩道で、信号無視をするという今時小学生でもやらないようなミスを犯した。そしてそのことに気づいた時にはもう巨大なトラックが眼前にせまっていた。体が宙に舞い、地面に叩きつけられる感覚があった。不思議と痛みはなかったが、自分は死ぬ、ということはなんとなく理解できた。そしてぼくの意識はブラックアウトした。