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百合っと皇女の猫  作者: WAKA
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ソニピア 9

ピアがせめです!

夕刻。


茜色の空がゆっくりと、重苦しい色に押し潰されていく。

昼下がりから見えていた銀色の月は、やがて黄金色へ変わるのだろう。


街は夕方特有の賑わいを見せはじめ、街灯にガスの火が灯る。


私たちの部屋もすっかり暗くなった。


その中に浮き上がる髪、瞳、頬、吐息、唇。


ソニアさんはどこを見ても綺麗。


美しい人は今、ベッドに身を沈めている。


枕に頭を乗せ、真っ直ぐな眼差しをくれるソニアさん。彼女の頬の横に手をついて体を支える私。


今日は私が上。主導権を握るのは私だ。


艶やかに濡れる瞳は、いつも見上げていたのに。

熱い吐息もいつもは上から降り注いでいるのに。逆になると、なんだか変な感じ。


黄金色の夕日が窓に差し込んでいた時から、私たちは求めあっていた。

愛しくて、愛しくて。

夢中になるまで抱き締めあって、気がついたら日は落ちて部屋が暗くなっていた。


息も整い、汗も引き始めた。

でも、私はまだ止まりたくない。だって今日は――


ふと、ソニアさんの手が伸びて私の頬を撫でた。

くすぐったくて、少しだけ震える。


「よかった」


ソニアさんはクスクスと頬笑む。


「傷、なくなったね」


奴隷のような生活を強いられていた時に、ぶたれてできた頬の傷は消えていた。


ここに来てから手に入れた生活のおかげ。それをくれた人のおかげだった。


「はぅ」


親指の腹で頬を擦られ、変な声が出てしまった。


「ピーアちゃん」


ソニアさんは両手を広げて、私が胸に飛び込むのを待っている。

戸惑ってしまう。

だって今、胸に抱きついたら、せっかくの主導権を奪われてしまいそう。


「いいえ」


ソニアさんの手に指を絡める。


「今日は――」


――今日は私がするんです


目で訴えると、ソニアさんは微笑んで頷いた。


「いいよ。ピアちゃんは、体がほぐれてきてからが調子いいんだもんね」


「そ、そういうこと言わないで下さい」


「んっ」


ソニアさんの体に絡み付く。

そうすると、小鳥の囀りみたいや声が聞こえてくる。とっても素敵な声。キスをして、唇を話すと捨てられた子犬のようや声が聞こえてくる。とっても、もどかしい声。


私を感じ、受け入れてくれることが嬉しい。


「ッ!? ピアちゃ」


「あ、ごめんなさい。大丈夫でしたか?」


「ううん、いい。ピアちゃんのしたいようにして」


 ソニアさんの唇が頬に触れた。甘い痺れがつま先まで行き渡る。

 

「ソニアさんは、優しすぎます。無理しないでください」


「無理なんてしてないよぉ」


 ぶぅ、と頬を膨らませる。


 うそ。


 ソニアさんは、私のすることを受け入れる。ワガママを許してくれる。 

 それはきっと私への負い目があるからだと思う。


 『ピアちゃんと一緒にいたいよ』


 あの言葉が私を縛り付けていないか、こっそりと伺う節がある。いつかは私を故郷に返さなければと考えているみたい。


"いつまで、こうしていられるかな”


 ソニアさんの瞳がそう語る。


「私はずっとソニアさんが好きですよ。一緒にいたいです」


ピアちゃん、と――


 瞳を潤ませて、私の名を呼ぶ。

 私はどこにも行かない。それを伝えたい。

 もっと、もっと、この人を喜ばせてあげたい。喜んでほしい。


 強く美しいあなた。


 どうしてそんなあなたが、こうまで私を求めてくれるのか。


 あなたは私を救ってくれた。


 その恩を返したい。求めるのなら、私の全部をあげる。だからわかって。私はあなたが好きだから一緒にいる。どうか不安な顔をしないでほしい。怯えないでほしい。


「今日は私がわからせてあげます。どれだけ、ソニアさんが好きなのか」


「わお、ほんと?」


「はい。いつものソニアさんのように、好き勝手やらせてもらいますよ」

 

汗で湿ったシーツの上、私たちは互いの背中に手を回す。

 

 髪を撫で、頬に吐息を吹きかける。甘いキスをしたら、強張っていた体が溶けていく。滑らかで指通りのいい肌。暗い室内でも、白い肌は浮きだって見える。この人の血は雪のように白いのではないかと錯覚してしまうほどだ。


 けど、ぴたりと合わさったお腹や、絡め合っている足からは、確かにソニアさんの体温を感じる。この人の体には、温かな液体が流れているのだとわかる。


 私にはあなたが必要です。


 だからあなたも言ってください。私が必要だと。どこにも行かないでほしい、と。


 答えはいつでも準備できていますから。


・・・・・・・・・・



「っ!!」


と、ここでピアは目を覚ました。


目を開けると、ソニアがくぅくぅと寝息をたてていた。深夜の自室、いつも通りの光景だ。


――夢


やけに生々しい、というか鮮烈で恥ずかしい夢だった。


――夢、ですよね?


目の前で眠るソニアは答えない。見ていてホッとするほど、気持ち良さそうな寝顔。

先程まで見ていたソニアの顔が思い出される。

強靭な戦士としての顔ではなく、一人の女性としての顔になっていたと思う。

あんな風に、頬を染め、瞳に涙を貯めた姿は見たことがなかった。


恥ずかしくなってきたピアが、ムムと縮こまった時、ソニアの瞳が開いた。


「ピアちゃん」


「ソニアさん」


「どしたの?」



そっと頬を撫でながらソニアが言う。



「いえ、その――なんでもないんです。ただの夢でした」


「夢?」


「はい、寝ましょう。明日もあります」


「そだね」


クスリ、と笑みを浮かべたソニアの抱き寄せられた。

そこで得た、ムニュッ、とした感触で、一気に頭が冷えた。


「ムニュ?」


抱き寄せられるのはいつものこと。自分の頭がソニアの胸元へ的確に収まる位置まで把握している。それくらい毎日抱き締められてきた。

だが、今回のこれはなにか違う・・・・・・なんというか、生っぽい。


「うぇっ!? なに! ちょっ!? えええええ!!」


「ん~?」


「どうして裸なんですかソニアさんっ!」


「ピアちゃんも裸だよ? お揃いだよ~」


「なな!? どうして」


「ピアちゃんは今日タチだったの、あたしはネコ」


「た、ち? ねこ!? バカな! そんなバカな!?」


「ほりゃっ」


飛び起きようとしたところを抱き締められ、二人揃ってベッドにポスンと寝転がる。


「なーんにも恥ずかしいことないよ」


ソニアの胸に顔を埋めているピアは、なにも言えなかった。


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