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百合っと皇女の猫  作者: WAKA
30/36

アヤクリ 10

クリステルとアヤメの視点が交差します

 アウレリアとピアと一緒にお話をして。夜も更けたからまた今度、ということでお開きになって。歯磨きをして、スキンケアをして、みんなと別れて、それで、ええと。

 どうして私が冷静にこれまでのことを整理しているかというと、部屋に戻ってきたら凄いことになっていたから。

 

 アヤメさんがアイマスクで目隠しをされ、私のベッドの上で拘束されていた。

 あまりの光景に悲鳴も上がらず、息を呑んで固まってしまった。


「クリステルさま」


「きゃあっ」


 肩を叩かれて思わず飛び上がった。いつの間にか、アリスさんが背後に立っていた。


「あれね、私に挑んで惨めに敗れた哀れな者の姿よ。目に焼き付けておきなさい」


 アリスさんが言う。話から察するに、アヤメさんはアリスさんにあんな目に遭わされているらしい。


「そんな、やめてください。可愛そうです」


 拘束を解いてあげようと足を踏み出した時、アリスさんの低い笑い声が聞こえた。


「あら、クリステル様は優しいのね。けどアヤメは私と勝負をする前にこう言ったわ『負けたら何でも言うことを聞く』と。あの拘束を解けば、約束は反故にされたとみなすわ」


 その気迫? に思わず足が止まる。今夜のアリスさん、ちょっと怖い。


「そ、そんな。アリスさん」


「約束は約束よ。今夜いっぱいアヤメはあのまま、だから――」


 すっと影のように迫ったアリスさんが耳元で囁く。


「あなたの好きにしなさい」


 その声は頭をクラクラさせた。




 クスッと微笑んだアリスさんが出て言った後、私は急いで部屋の鍵をかけた。

 そしてすぐにベッドへ駆け寄り、アヤメさんに声をかける。


「アヤメさん」


「クリステル様――お許しください、このような無様な姿」


 見られたのがよほどショックだったのだろう。こんなに心細い声は聞いたことがなかった。今夜はこのままだなんて、そんな可愛そうなこと、とてもできない。


「今はずしてあげるからね」


 ベッドの上でバンザイをするような形だった。両手はシーツで縛られ、シーツはベッドの金具に縛ってある。一見するだけで、かなり固い結び目締めだと分かった。


「ひどい、痛かったでしょう?」


「クリステル様」


「はい?」


「良いのです、このまま。アリスの言う通りです。私は約束を交わして勝負に挑み、愚かにも敗北を喫しました。この姿はアリスとの約束であり、自分への戒めでもあります」


「え、ええと」


「私たち戦士には、勝者と敗者の関係をないがしろにしてはいけないという暗黙のルールがあり・・・・・・うまく言えないのですが、このままで」


「アヤメさん」


「申し訳ありません、クリステル様。こんな姿はこれきりです、もう決してあなたの前で恥を晒すようなことはしないと約束します」


 悔しそうな声。なんだか私まで辛くなってしまう。


「ねえアヤメさん。どんな勝負をして負けたの?」


「ポーカーというゲームです」


「ポーカー。チップを賭ける遊びだよね。その勝負は正々堂々としたの?」


「はい、間違いありません」


「・・・・・・アヤメさん、損な性格」


「え?」


 ちょっとムスッとしてしまう。私の予想が正しければ、真面目に挑んでいたのはアヤメさんだけということになる。

 彼女にとって勝負とは勝つか負けるかでしかない。裏で何かが仕組まれていても、そんな悪意には無頓着な人。

 でも、そのせいでこんな目に遭ってしまうなんて。


「もう、正直な人は賭け事に向かないんだよ。もうやっては駄目」


 ベッドに寝ころんでアヤメさんの体に肌を寄せてみる。すると――


「んっ」


 アヤメさんがとても色っぽい声を出した。

 聞き違いかと思うほど、可愛らしい声だった。


「ごめんね、驚いた?」


「いえ、その。くすぐったくて」


 切なげな吐息が漏れた。薄く開かれた唇が熟れていて、僅かに震えている。

 首を伸ばし、アヤメさんの頬にキスをしてみる。ちゅっと唇が触れた瞬間、アヤメさんの体がびくりと震えた。


「クリステル様!?」


 アイマスクをしているアヤメさんは、私のことがわからないらしい。

 目が隠れているから表情は伺えないけど、キョロキョロと不安げに辺りを見回している。


「クリステル様? クリステル様」


 なんとなくアヤメさんのことを見つめていると、何ともオロオロした心細そうな声が漏れた。私がどこにいるかわからなくて、気配を探っているらしい。


「側にいるんですか? あの、どこに――」


 ペロリ、と首筋を舐めてみる。


「ひゃあっ、っくぅ」


 アヤメさんが体を捩るほどに飛び上がった。必死に体を縮めようとするが、手足を縛られているので叶わない。

 アヤメさんは耳たぶまで燃えるような赤に染まった。


「クリステル様、おやめ、ください」


 あの凛々しいアヤメさんが、こんなにもしおらしくなってしまうなんて。どうしよう、なんだか首筋がゾクゾクしてきた。


「ア・ヤ・メ・さん」


 ぎゅうっと抱きしめてみる。


「あっ! うぅ」


 抱き枕に抱き着くみたいに、アヤメさんの体を抱きしめる。私の二の腕と彼女の二の腕、胸と胸、足と足。肌が触れ合って、とても気持ちいい。すりすり、肌を合わせて、恐くないように優しく頭を撫でてあげた。

 んぅ、と小さく漏らしたアヤメさんがたまらなく可愛くて。私の心臓はもう五月蠅いくらいに高鳴ってしまっていた。


「ごめんなさい、悪戯が過ぎました」


「あの、クリステル様」


「これからは驚かせないように、何をするか言ってからするね」


「は、はい」


「じゃあアヤメさん」


「はい」


「キスをしますよ」


「んっ」


 唇を重ねる。

 甘い甘い、アヤメさんとのキス。

 小さな蕾のような唇を割って、舌と舌とで触れ合った。お互いのものを絡ませ合い、愉悦に溶けた熱い息を吐き出す。



・・・・・・・・・・


「んぅっ」


 クリステル様の熱い吐息が唇にふりかかる。

 触れ合っている胸や足が柔らかい。私の引き締まった肌に触れると、柔らかな彼女の肌は窪み。そこからじんわりと温もりが伝わってくる。 

 病弱であまり体を動かすことが得意ではないクリステル様。

 弱々しいはずの彼女の体は、こんなにも力強く鮮烈に、私に触れてくる。


「アヤメさん、んっ」


 クリステル様のキスは終わらない。


 唇から首筋、鎖骨、胸へとどんどん下に降りていく。

 彼女の指先がしっとりと私の頬や肩を掴むことも相まって、とても気持ちいい。


 しかし、同時に歯痒くもある。

 縛られていなければ、私だって肌に触れたいのに。


「よいしょ」


 一通り私の体に触れたクリステル様は、そう言って身を起こしたような物音を立て、私の頬にキスをした。


「今夜のアヤメさんは動けないから、私が頑張るね」


 目は見えないが、ガッツポーズをしている光景が浮かぶ。


「ええと、お手柔らかにお願いします」


「だ~め、とりゃっ」


 香しい彼女が体に覆いかぶさってきた。 


ちょっとだけ目覚めたクリステルでした

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