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百合っと皇女の猫  作者: WAKA
23/36

ソニピア 6

早朝


ソニア「んっ・・・・・・んぅー、朝だね。ピアちゃん、朝だよ~」ゆさゆさ


ピア くぅくぅ


ソニア「・・・・・・かわいい!!」ぎゅう


ピア「うえっ!? ぐぅええ」


お昼


ピア「んく、んく」←水飲み場で喉潤し中


ソニア「あ、ピアちゃん」←稽古サボって徘徊中


ソニア「わーい! ピアちゃん見ーつけた!」ぎゅうっ


ピア「ぶへっ! ぶっふぉおお!」


夕方


ソニア「ピアちゃん今日も頑張ったんだね、よしよししてあげちゃう」なでなで


ピア「頭を撫でないで下さい! 私は子供ではありませんよ」ぷんすこ


ソニア「じゃあ、たかいたかーい」キャッキャッ


ピア「きゃー!」



ピア「いい加減にしてください! 私はソニアさんが思っているほど子供じゃないんです!」バン


ソニア「うおっと。でもピアちゃん12歳」


ピア「・・・・・・」


ソニア「あ、うん! 大人びてるよねピアちゃんは! でも可愛いから」


ピア「オモチャでもありませんからね」ギロリ


ソニア「は、はい」


ピア「ソニアさんはヴェルガ国メルリス騎士団なんです。大人なんですから、もっとちゃんとしてください」


ソニア(人差し指を立ててお説教モードのピアちゃん可愛い)ムフー


ピア「聞いてるんですか!」バン!


・・・・・・・


 次の日、廊下でピアちゃんを見つけた。


「ピアちゃ――」


「アウレリア様」


 私とピアちゃんの声が重なる。やや高揚気味のピアちゃんの声の方が高く響いて、私の声は廊下の隙間に流れていった。


「あら、ピア。どうしましたの?」

「こんにちは、アウレリア様」

「ええ、うふふ。ごきげんよう」


 ピアちゃんがペコリとお辞儀すると、アウレリア様は肩まで伸びる髪をなびかせて微笑んでいた。


 クリステル様の妹、アウレリア・シェファー様。

 金色の髪の元、紺碧に輝く双眸。ここまではクリステル様と一緒。ふんわりな印象が強いクリステル様と違って、アウレリア様はキリッとしてて勝気なところがある。曰くあらゆる試験は満点以外とったことがなく、知略戦略なんでもこいの天才皇女様。でも趣味は動物鑑賞という女の子らしい一面も持っている。庭園で飼育しているリスを見ている時は、年相応の女の子の顔になったりする。


 ええと、二人の間に私が加わってもいいものかな。とりあえず隠れて様子を見よう。

 手近な柱に身を隠し、そっと覗き込む。


「アウレリア様にお借りした本、とても面白かったです」

「まあ、理解したんですの?」

「はい! 論文も書いて提出を」


 うぅ、あんな笑顔見たことない。アウレリア様ずるい。


「その年で素晴らしいですわ。ご両親もさぞお喜びでしょう」

「――はい」


 あれ? ちょっとだけピアちゃんの表情が暗くなった。


「また本を持ってきますわ。あ、でもこれから会議で・・・・・・そうですわね――今夜またわたくしの部屋にいらしてくださる?」

「いいんですか?」

「もちろんですわ」

「ありがとうございます!」

「いいえ。あなたの励む姿は、見ているわたくしも勇気をもらえますの」

「そんな、私はそんなんじゃ。ただ、必死なだけで」

「うふふ、あまり根を詰めすぎないようにしないといけませんわよ」


 アウレリア様が屈んで、ちょんとピアちゃんの鼻をつつく。

 

 あ、ピアちゃんあんなに嬉しそうな顔しちゃって。本だったら私だっていくらでも貸してあげるのに。なにもそんなに喜ばなくてもいいのに。


 最近は笑顔が増えた。なんでもないことでも、とびきりの笑顔を見せて凄く喜ぶ。

街のお菓子屋さんで一緒に飴細工を作った時。形が良かったからって、できた飴を聖剣みたいに空にかざして瞳を輝かせていた。

 曇天が晴れて陽が差した時は、「神様が頑張れって言ってくれてます」なんて弾んだ声を上げていた。

 あの子が笑う一瞬一瞬が、かけがえのないものを見れている気がして。ピアちゃんが喜ぶ声を上げると、私まで嬉しくなるはずなのに。


 この時は違った。

   

 なんでアウレリア様の前でそんなふうに笑っちゃうの? 

 私にだけ見せてくれる笑顔じゃなかったの?

 なんで? どうして?


 いや、だめだめ。


 コツンと柱におでこをつける。セルフパニッシュ。そんなふうに思うのだめ。

 でも胸の奥がもやもやする。ズキズキ痛むんじゃなくて、もわっと染みていく感覚に近かった。


・・・・・・・・・・



「と、いうことがあったのね」


 これまでの経緯をアヤメちゃんに相談中。


「そうか」


アヤメちゃんはさらっと私の話を流す。

ちゃんと聞いてんのこの子?

そういえば、アヤメちゃんてクリステル様以外の話って興味ないからいつもこんな感じだった。忘れてた~。


アヤメちゃんは運ばれてきたアイスコーヒーをじっと見つめ、グラスにストローをさして氷をガシャガシャしている。

奢ってあげたんだからせめて話だけでも聞いてほしいな。

グラスにささったストローを吸い込むと、氷がカランと鳴って、苦いコーヒーの香りが鼻を突いた。


私が所属するメルリス騎士団は街のパトロールが当番制。

本日の当番は私だったりする。

私はパトロールするとき道を歩いたりしない。街の屋根から屋根へ飛び回って、上から道を見下ろすことにしてる。そうすると、街全体がよく見える。通行人にパンツもよく見られるけど。

でもこの空中散歩は気に入っていたりする。風を切っていると、嫌なことも流れていくことがあるから。そうしていたら道を歩くアヤメちゃんを見つけた。

いつもクリステル様と一緒なのに珍しい。せっかくだから挨拶していこうかなと思った。


で。ちょうど私とアヤメちゃんが会った場所が、街の角にひっそりと佇むカフェであったりしたわけで。せっかくだからお茶を一杯、ということになった。


――――――――――


アヤメ「・・・・・・」←これまで目にする機会はあったが、飲むのは初めてのコーヒーが物珍しい。どんな味がするんだろう、なにこれ凄い状態。


ソニア「・・・・・・」←ぐぬぬ、真面目に相談してるのに話聞いてくれないのかなキスするぞ。ボルテージやや上昇による軽度の錯乱状態。


――――――――――


「ピアちゃんが冷たいんだよ、どうしてかな」


およよ、と涙を拭う真似をしながら言ってみたけどアヤメちゃんの表情は涼しいものだった。

ぶぅー、と唇を尖らせてみる。アヤメちゃんがハッとしたのが見えた気がしたけどもういいや、勝手に喋ってよう。


―――――――――


アヤメ「ハッ」←おっといけない、ちゃんと話を聞いてあげよう。生真面目発動。


ソニア「はぁ」←もういいやアヤメはほっといて勝手に喋ってよう、フリーダム状態。


―――――――――


「ソニアにも責任があると思うが。というか、話を聞く限り全体的にピアに同情する。ピアは誰よりソニアに認めてほしいのだと思う。それなのに、子供のようにあやされるのが悔しいのだろう。一度、きちんと話す機会を――」


「素っ気ない態度は私のことが好きな裏返しかなぁ~」


「私の話を聞いていたか?」


「やっぱり年の差を気にしてるのかな。ピアちゃん12歳で私21歳だから。でも、愛があれば年の差って関係ないと思うんだよ」


「今回の件とそれは関係ないと思うが」


「年の差って言っても私エルフ入ってるから。外見はそんな老けないんよ、20過ぎてても10代に見えるってよく言われるし」


「それは落ち着きのなさから言われているのではないか?」


「いやぁ。それにしてもアイスコーヒーがおいしい季節になりましたなぁ」


「・・・・・・帰っていいか?」


・・・・・・・・・・


 その夜。


 ピアちゃんが机に向かっているのを、私はベッドで横になりながら見ていた。

 橙色の光を灯すランプに照らされる横顔は、いつもより大人びて見える。

 部屋は静かだった。お互いの息遣いも聞こえない。ただ、時折ピアちゃんが本をめくる時に紙の音がするだけ。

 あれは昼間アウレリア様と話していた時の本かな。

 話しかけてみようと思ったけどやめた。きっと意地悪なことを言ってしまうと思ったから。

 寝返りをうつとクリーム色の汚れた壁がある。圧迫感を覚えてもう一度寝返りをうつとピアちゃんが見える。

 

 どうしよう。自分の部屋なのになんで追い詰められなくちゃいけないんだろう。


「今日は静かですねソニアさん」


 ふいに話しかけられてドキッとする。


「ソニアさん?」

「ああ、うん。ちょっとお仕事のこと考えてて」

「お仕事のことですか?」

「うん」

「何か事件でもあったんですか?」

「いやいや、なんにもないよー」

「そうですか・・・・・・ソニアさんがお仕事のことで悩むなんて珍しいので、よほどのことかと思いました」

「ははは」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ・・・・・・うむ、会話がもたない。

 居づらい空気がゆっくりと漂い始めてるのがわかる。

 

「あのさ」

「あの」


 声が重なる。


「え、なに?」

「いえ、ソニアさんから」

「ううん、ピアちゃんの話から聞くよ。どうしたの?」

「・・・・・・」


 なぜ黙ってしまう。うおぉ、何か話してよ。


「ソニアさん、なにか悩みがあるのではないですか?」

「え?」

「ソニアさんがそんなに静かだなんてよほどのことです。なにかあるなら話してください」


 ピアちゃん・・・・・・・・・・・あーたのことで私は四苦八苦していますよ。 


 ピアちゃんは読んでいた本を閉じ、私に向き直った。

 小さな手を握りしめて、緊張気味に言う。


「私じゃ力になれないかもしれませんけど、いいえ、力になれると思います。だからなにかあるなら話して」


 肩にまで力を入れちゃって。そんなに苦しそうになってまで・・・・・・そういえば、ピアちゃんてこういうこと言うの苦手だ。今でこそ笑ったり楽しそうにしている所を見せてくれるけど、ここに来たばかりの頃はずっと気負っていて苦しそうだった。


「確かにソニアさんは天才です。なんでもそつなくこなしてしまうし、でも力になりたいんです。私じゃ頼りないですか?」


 そんなことない。今私すっごく嬉しいから。

 

「教えてほしいな」

「はい?」

「ピアちゃんが読んでる本のこと教えてほしい」

「これですか? ヴェルガ国の医術書です」

「難しい本なの?」

「はい――ソニアさんなら一度読んだだけで理解してしまうと思いますが、私にはとても難しい本です」

「見てもいい?」

「どうぞ」


 本を受け取ってサッと中身を見てみる。

 内容に驚いた。これは国内でも最先端の医療技術。

 大人でも理解できない人が多いはず。

 私は理解できちゃうけど。理解できるからこそ、難しさがよくわかる。


「どうしてこんなに難しい本。まだピアちゃんには早いよ」

「そ、そんなことありません! 頑張ればわかります!」


 ぷう、と頬を膨らませて抗議された。かわいいな。


「ごめん、そういうことじゃなくてさ。焦らなくてもゆっくりここで医療を学べば――」

「駄目なんです」

「駄目ってなにが?」

「父が帰って来いって。私を攫ったような国で勉強しなくても、シャシールだって医療は学べるって」

「お父さんがそう言ったの」


 俯いたまま、静かにこくんと頷く。


「けど私は戻りたくありません、ここで医療を学びたいんです。だから早く色んな事を覚えて結果を出さないと、そうしないと」


 勢い込んで前のめりに話していたピアちゃんが、突然顔を赤くしてまた俯いてしまった。

 唇を噛みしめて、とても言いづらそうにもじもじと体を揺らす。


「そうしないと、ソニアさんと離れ離れになってしまうから。だからアウレリア様に無理を言って、難しい本を貸してもらいました」


 体の芯が揺さぶられた気がした。

 首筋から胸元まで剣で突き刺されたみたい。その衝撃に次いで、じわりじわりと。まるで何かを発症してしまったように。体の隅々まで温かいものが広がっていく。


「ピアちゃん」


 ぎゅうっと柔らかい体を抱きしめる。首元に顔を埋めて、すりすりと髪を擦りつけてみる。

 ピアちゃんの甘い香りが私を包み込んでくれる。


「ソニアさ、くすぐったい」

「うふ」

「え?」

「うふふふ、あはははは。わーい!」


 ピアちゃんを抱き上げて、部屋の中をぴょんぴょんと跳ねまわった。


「きゃー! ソニアさん危ないです! 降ろしてください!」


 だーめ、今のキュンキュンな私にはなにを言っても通用しないよ。

 私のために頑張ってくれたんだね。それがすごく嬉しいから。

 ピアちゃんは誰にも渡さないよ、ずっと私と一緒にいるの。これは絶対なんだから。 

アヤメ「ピアの悲鳴が聞こえた気がします」

クリステル「いつものやつじゃないかな?」

アヤメ「・・・・・・同情するぞピア」


ルリ「うるさっ! 眠れないよもう!」


アウレリア「何か聞こえたような気が」

アリス「エルフが暴走してるみたいね」

アウレリア「なんですのそれ?」

アリス「お子様は知らなくていいの、眠りなさい」

アウレリア「またわたくしを子ども扱いして」むー


ヴェルガ城の夜は更けていく・・・・・・

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