アヤルリ 6
その夜、ルリは当たり前のような顔をして私の布団に潜り込んできた。
「何をしているんだ?」
微笑みながら縋りついている彼女は、心なしか少しだけ震えているようだった。
「アヤメちゃんはさ、あたしのこと好き?」
「――好きだが」
「ふふ、ほんとかな」
「もういいから、自分の布団へ戻れ」
「いいでしょ。ねえ、口づけの練習しない?」
「練習?」
私の腕を抱く力を強め、ぐいっと顔を寄せてきた。
「そ、アヤメちゃん奥手そうだから・・・・・・今のままじゃ好きな人ができた時に口づけもできないよ」
「大きなお世話だ」
「だからさ、あたしとしてみよう? ね?」
余裕のある微笑みをしていながら、手が小刻みに震えている。彼女が抱いている私の腕には、胸の鼓動が伝わってくる。
心細さと緊張が混じっているのがバレバレだった。
私はそっと彼女の頭を撫でてやる。
「どうしたんだ、らしくないな」
落ち着きのある私の言葉に全てを察したのか、ルリは丸くなってきゅぅん、と声を上げた。
「何か不安なのか?」
ふるふる、と頭を振る。
「誰にも言わないから。思うことがあるなら言ってみろ」
ルリを慈しみ、頭を撫でていてやると、彼女はそっと漏らした。
「あたし、どうしてこういう言い方しかできないんだろ。練習だ、なんて」
「私は気にしていない」
「あのね、あたし――アヤメちゃんのことが・・・・・・好き、なんだと思う」
そう言ったルリの手に力が漲った。
私を決して離さないというように、痛いくらいに腕を抱きしめる。痛みのあまり目を細めた時、顔を上げたルリと目が合った。瞳が何を求めているのか、はっきりと伝わってきた。
お願いだから、離れていかないで。そう言っていた。
「ルリ」
私が微笑むと、彼女は俯いて泣き出してしまった。
っひっひ、と時折肩を揺らすその泣き方は、しっとりとしていて、敵意をむき出しにしていた面影はまるでなかった。
本当はとてもか弱い子なのだとわかった。
背中を優しくさすってやると、ルリの手の力が少しだけ緩んだ。
「アヤメちゃん、今はこうしていてくれるけど、いつか男の人と結ばれてどっかへ行っちゃう」
「行かないよ」
「嫌だよ、せっかく、アヤメちゃんのことわかってきたのに。あたしだって、人のこと好きになれるんだってわかってきたのに」
「ルリ!」
彼女の頬を包んで持ち上げる。
大きな声を出してしまったから、驚いた顔でキョトンとしていた。
「行かない」
私は微笑んでそう言った。
ルリの小さな体を抱きしめて、背中をさすってやる。
「だから、もう泣くな」
「・・・・・・うそ」
「――お前、ここでそういうことを言うか?」
「だって証拠を見せてくれないと」
「証拠と言っても」
「これ」
ルリは私の頬を包み、唇をそっと合わせてきた。
触れ合ったのはほんの一瞬で、すぐにルリは顔を放した。
私の顔は熱を帯びていて、真っ赤であることがわかったが、ルリの顔もかなり赤みを帯びていた。
ルリは唇の端をペロッと舐めて、恥ずかしそうに微笑む。
「甘い」
涙に滲んだ声でルリは言った。
まったく、警戒心剝き出しかと思えば急にこんなふうに甘えてきて。本当によくわからない子だ。
私はルリを抱き寄せて、静かに目を閉じた。
ルリすっごく大好きです。




