表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合っと皇女の猫  作者: WAKA
10/36

アヤルリ 3

アヤメとルリの視点が交差します

同じ部屋に暮らしているのに、会話はほぼしない。

 

時折、ルリは布団に紛れ込んでくるが、朝目が覚めると自らの布団に戻っている。なんとなく目が合うと、相変わらずそっぽを向かれてしまう。


そんな私たちの奇妙な生活は続いていった。

暮らし始めて数か月が経つ。さすがにこのままではまずいのではないかと思い始めた。


ルリも新しい生活に慣れ始めた頃だろう。けれど、友達はできたのか、授業を抜け出したりしていないのか、という心配はあった。


ああ、わかっているとも。お節介が過ぎるだろう。

ただ私は、ルリのことを放っておけないのだ。


今日も朝起きて、「おはよう」とだけ挨拶を交わしたきりで会話がない。


「ルリ」

「・・・・・・ん?」

「・・・・・・いや、なんでもない。先に行くぞ」

「ん」


 駄目だ。話せなかった。


私から話題を振ればよいのだろうが・・・・・・私は話をするのが苦手だった。しどろもどろになりながら会話をしたのでは意味がない。むしろかえって鬱陶しく思われるだろう。


何か方法はないものか、そう考えながら半ば憑き物状態になりつつ教室へ向かった。席に着いたあとも悶々としてしまう。

いや、ひとまず頭を切り替えなければならない。今日の語学の授業はヴェルガ語――ヴェルガ語?


ドキッと胸が弾んだ。


しまった。昨晩机の上で予習をしたきり、教科書を鞄に入れていなかった。


部屋を出る時、何か忘れているような気がしていたのだがルリのことで頭がいっぱいで失念していた。 今から寮に戻っても間に合わない。


私としたことが迂闊だった。一日の始まりが失態続きでへこむ。

仕方がない、ここは正直に先生に謝ろう。


ガラッと引き戸を開けて入ってきた先生が私の方を見た。


「アヤメ、届け物だぞ」


 そう言った先生の手にヴェルガ語の教科書があった。


「ついさっき一年の子が届けに来てくれた」

「え」

「髪の白い子だったぞ」


 ルリだ。

 気づいて、届けてくれたのか。

 私のためにこんなことをしてくれたのは初めてじゃないだろうか。胸にこみ上げてくるものがある――いや、そうじゃないだろう。


私が助けられてどうするのだ。


 

 お昼休みのことだった。

 あたしは名前も知らない男子生徒に呼び出された。


「付き合ってよ」


 なんの用かと思ったらそんなことだったのか。


「なんで? あたしと話したことないよね、お互いを知らないじゃん」

「知りはしないけど、一目惚れだよ。可愛いなって思ったから」

「可愛い? どこが?」

「その髪の色とか、可愛いよ」


 その瞬間。まるでスイッチが切り替わるみたいに感情が弾ける。細めている目を大きく開けて相手を威嚇する。


「ふーん、いいよ付き合ってあげても」

「ほ、ほんと?」

「そのかわりあたしの言うことは何でも聞くこと、反論することは許さない。ぜーんぶあたしの命令通りに動かなきゃだめだからね」


 男子生徒はちょっと引き気味で後ずさる。


「なんだよそれ、それじゃまるで――」

「うん、奴隷だよ。それが嫌なら消えて。一目惚れって、人のことジロジロ見てたんでしょ。気持ち悪い」

「・・・・・・最低だよお前」


 石ころを蹴飛ばし、そう吐き捨てながら去っていった。


 あたしに寄り付こうとした罰だよ。空っぽの言葉ばかり並べて、本当にああいうのは嫌気がさす。

 あたしは一人でお昼休みを過ごし、何食わぬ顔で午後の授業を受けた。

 

 今日の午後の授業は近接戦の格闘訓練。

 もやもやしたものが胸の内にある時はちょうどいい。


 道場での組手は勝ち抜き戦。あたしは五人を吹き飛ばし、クラス一の栄光を手に入れた。ってこんなもの別にどうだっていいんだけど。いや、どうでもよくはないか。これでうざったい虫が寄り付かなくなればそれはそれで。


 もし誰かの素直な気持ちで告白を受け入れることができたら、景色が変わって見えるのかな。そうしたら・・・・・・ああ、あのお姉さんがしつこく聞いてきそう。相手は誰だとか、会わせろとか言うかも。そんなお節介はちょっと笑えるなぁ。

 あたしはよく机に向かったまま寝ちゃうことがあるんだけど、朝起きるとなぜかちゃんと布団に寝ている。一緒に街へ買い物に行った時、花屋のコスモスをじっと見ていたら、次の日にそのコスモスが部屋に置いてあったりした。お節介ばっかりして、そのくせ話しかけてきたりはしないんだ。


 本当にあのお姉さんは何がしたいんだか。


「ルリちゃんやっほー」


 道場から教室へ戻る途中、クラスメイトのサキが話しかけてきた。


「強いねー、ばったばったと男子まで投げ飛ばすなんて。あたしびっくりしちゃった」

「合気だよ、力はいらないの。なんかよう?」

「んん? いやいや、ちょっと小耳にはさんだから話しとこうと思って。お昼休みに告白されたんだって」


 うわ、もう噂になるのか。情報が早いなぁ。でも学校って閉鎖された場所だから、噂なんてすぐに広まるのか。


「誰から聞いたの?」

「うーん、先輩が廊下で話してるの聞いちゃった。アヤメ先輩、告白されたらしいよ」

「・・・・・・・・・・・・え?」


 あたしのことじゃないの?

 っていうか、あのお姉さんが告白されたって。


「ルリちゃんの同室の先輩でしょ? アヤメ先輩綺麗だもんね」

「誰が告白したの」

「ええとね、アヤメ先輩よりも上の先輩で。なかなかの男前らしいよ~」


 ツキン、と胸が痛くなる。

 なにこれ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ