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センコウハナビ  作者: 谷部紗枝利
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第九章の前に その二

「嘘でしょ?」

「こんな嘘をいうやつがおるわけなかろう」

 男の話が終わって、画面が再び暗くなる。

 余裕のない私と違っておじいちゃんは落ち着いていた。

「わしの人工知能嫌いのおかげで、ここには一機もないからの。ここにいる限り安全なのだが」

 そこで一つ言葉を切って、携帯を操作する私の顔を覗き込む。

「ここにいるわけにはいかないのじゃろ?」

「……心配なの。友達が」

 電話をかけてみたものの、予想通りつながらない。

「なら、その友達のところへ行ってきなさい。この銃に弾切れはないからの、きっと友達を助ける力になる」

「でも、おじいちゃんが……」

「この発明品があれば大丈夫じゃ。友達は大事にせい」

 おじいちゃんが私を安心させるように笑う。

 本当に好きだなぁこの笑顔。

「ありがとう」

「よいよい」

「どうにかして連絡するから生きててよね」

「まだ五十年生きるつもりじゃ」

 そのまま研究室から出る。そこでおじいちゃんにかけられた言葉に、あまりにも驚いて、急いでいるというのに立ち止まってしまった。

「あの薬は回収しておくんじゃよ。もしかしたら、抵抗の唯一の手段になり得るからの」

「……なんでそのことをおじいちゃんが知っているの?」

「ほっほっほ。孫のことは何でも知っているんじゃよ」

「もうっ。今度話してもらうからね!」

 そう言って、私は星空の下を駆けだした。

 周りに何もない、静かな研究所から走って数分もすると、普段静かな住宅街とはちがった喧騒が広がっていた。

 私の見える範囲で何か起こっているわけではない。

 でも、大きな音があちこちから聞こえる。何かが割れる音や人の悲鳴、怒声。

 後ろ髪をひかれるような思いをしながらも、私は止まることなく自分の家に向かって走っていく。おじいちゃんの言うように、まず薬を回収しなければ。そして桃たち。桃の家は知っているから、早く向かわなければ。

 そう思って急いで家に向かいながらも、住宅街から大通りに出ると、また違った景色が広がっていた。

 今まで目に入ることのなかった惨状が目の前に現れる。

 すべての人工知能に力があるわけではない。家庭用人工知能なら、普通に喧嘩をしたら人が負けることもないだろう。しかし、人工知能が人間を襲っているのが現状だ。あまりに急なことに立ち向かう人間が少数なのだろう。逃げ惑う人間たちなら人工知能でも勝てる。

 被害が大きすぎて、見えていてもどうしていいかわからず立ちすくんでいると、塾帰りの子どもたちが目に入る。三人組だ。工事など力仕事用人工知能二体に迫られている。

 それを見捨てることはできなかった。

「こどもたちから離れろっ!」

 叫びながら片方に突進する。遠距離から銃を使うには、武器の情報が少なすぎた。

「子ども襲う奴なんか、最低よ」

 そしてよろけた人工知能の頭に銃を突きつけ、発砲する。

 銃を撃つことによる反動はなかった。

 しかし、威力は抜群で、相手の頭が半壊した。

「思った以上の威力ね。さすがおじいちゃん」

 その様子を見て驚いたのか、残った一体が慌てて殴りかかってきた。さすが、力仕事用の人工知能で動きは速い。

 運動が特別得意ではない私は、よけきることができず、肩に当たってしまう。

「うっ」

 殴り合いの喧嘩などしたことのない私だったので、この痛みにはかなり驚いた。

 だが、私をおいつめる相手の前で痛がっている暇はなく、勢いよく転がる。

 距離ができて、一瞬間が開いたうちに銃を構え、何もわからず近づいてきた人工知能に発砲する。

 胸に穴が開いて、倒れていった。

「はぁはぁ……ふう」

 汗が垂れ落ちる。もう暑い季節ではないので、この汗は普段と違うものだ。殺し合いというものがここまで精神をすり減らすものなのだと実感する。

 息を整えて、子どもたちの方へ向く。

「君たち大丈夫? 怪我はない?」

 無理やり笑顔を作って、声をかけると思ったより子どもたちにショックを受けた様子はなかった。

「お姉ちゃんありがとう!」

「ねぇお姉ちゃんの使ってたのってなぁに?」

「見せて見せて!」

 恐怖より、私に対する好奇心が勝っているようだ。私はヒーローのように見えているのだろう。

「これは……」

 なんと説明しようか迷っていると、子どもたちの親から声をかけられた。子どもが心配でこの中探しに来たようだ。親の子どもに対する愛の深さを感じた。

 私に何度もお礼を言って、子どもを連れて行った。

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