第九章の前に その一
十八時五十八分
「エミリーできたぞい」
「えっほんと?」
「ああ。ほれっ!」
「えっ? っと危ない!」
おじいちゃんが私に造ってくれたものは、今ではタイムスリップ物の映画でしか見ることのない「銃」という武器だ。
「これって弾が必要だって聞いたのだけど」
「ああ、弾の補充なんてものは面倒じゃろ? 科学の発達をなめるでない」
私の手から銃を取り、少し離れた段ボールに向かって発砲する。小さな音とともに段ボールに大きな穴が開いた。
「えっなんで?」
「空気じゃよ」
「……すごい」
「正直使う場面はないと思うがな」
「備えあれば憂いなしってところよ」
「まぁ護身用にはなるじゃろう。むやみに使うなよ?」
「わかってるわ。ありがとう」
「孫の頼みじゃ。断れるわけなかろう」
そう言って笑うと顔のしわが目立つようになる。あれほどの威力がある空気砲が造れる化学なのだから、顔のしわがなくなるようにすることなんてわけもないだろうに、おじいちゃんはそういうことをするのはやたら嫌がる。
でも、私はこのおじいちゃんの顔が大好きだ。見ていると安心する。
「じゃ、また来るから」
「いつでもおいで」
「うん。またね」
そう言って家を出ようとしたとき、普段使うことのないテレビが動き出した。
「こんばんは、人間諸君」
そして悪夢が始まった。