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 重い選択、もしかしたら人生で最大の選択かもしれない。少なくとも今までで一番重い選択だ。


 昨日、ニーネに選択の時間を与えられた麟騎は一睡もできなかった。眠れるわけがない。そこまで呑気にできない。とりあえず朝まで考えてみたものの、しっかりと己の決意、覚悟を決めることはできなかった。...少し気を紛らわせよう。そう思った麟騎はポケットに財布を入れる。今日は土曜日なので深夜が家に来ることはなく、ゆったり...はできないが学校がないだけたくさん考えられる。








 ボーっと歩いていると目的のところに着いた。コンビニだ。自動ドアをくぐり、チャイムを聞きながら一番に目についたおにぎりのあるところに行く。朝のこの時間、通勤の時間帯は商品が全体的に少ないがそれは仕方がない。適当におにぎりやサンドウィッチを手に取りレジに向かう。


「いらっしゃいませ」

「えーと、ジャンボフランク一つ」

「はーい、ジャンボフランクお一つですね~」


 朝からがっつりだなと自分で頼んでおきながらそう思う。


「こら!! 君!!」



 突然店の店員が怒鳴る。何事かとチラッと見れば5歳くらいのやや痩せすぎの男の子がポケットからパンをはみ出させながら店員に腕を掴まれていた。


「君、今万引きしようとしたね?」

「してねーよ!!買おうとしたっつうの!!」

「じゃあ、レジにおいで、ちゃんと買いなさい」

「そ、それは...」


 店員の言葉にどもりながら睨む男の子。麟騎はそっとレジから離れてその場に行くと男の子のポケットからパンを取り出した。


「何すん...!?」

「俺が買う。店員さん、今日は俺が買うんで許してやってください」


 ここでしっかり頭を下げる事も忘れない。


「うーん...」

「お願いします」

「...分かった。坊主、気をつけなさい」


 店員さんは許してくれた...優しい店員だ。麟騎は自分のものと男の子の分まで買うと男の子を連れて店を出る。



「ほら」


 袋からパンを出して男の子に差し出す。


「...あ、ありがとう」



 少しそっぽを向きながらもお礼を言う。



「お前、何で万引きしようとしたんだ。親にばれたら怒られるだけじゃすまねえぞ」


 麟騎の言葉に次は苦しそうな悲しそうな顔になる。


「だって...お腹が」

「何て??」

「何でもねえよ! ってか何でアンタは僕を助けたんだよ!」

「なんでってそうだな...お前くらいの弟や妹がいるからほっとけねえんだよ」

「兄弟がいるんだ...」


 弟や妹といっても本当のではない。孤児院で育ってるため年下の子達のことは弟や妹として接してしまうのだ。この男の子も例外ではない。


「いると言っても、本当の兄弟ではないけどな。それでも可愛い弟、妹だと思ってる」

「ふーん」

「聞いたくせに適当だな...。で、お前はこれからどうするんだ?」

「......」


 麟騎の質問に答えない男の子。


「...そうだ、遊園地に連れて行ってやるよ」

「へ?遊園地?」


 突然何を言い出したんだという顔で麟騎を見る男の子。


「そ、暇なんだろ?」

「う、うん」

「よし、行くか。俺は神木麟騎<<カミキリンキ>>。お前は?」

「...なかじょう、ゆう」


 自己紹介が終わると遊園地に向かう。最初はそんなに乗り気じゃなかったゆう。それもそうだ。知らない人にはついて行かないのが当たり前なのだから。だが、遊園地に着いた途端はしゃぎ始めるゆう。


「麟騎!あれ!!次あれ乗りたい!!」

「おい、呼び捨てすんな! って、走り回るなゆう!」

「何言ってんだよ、早く!」


 子供ってのは単純だなあと思いながらも元気になったゆうを見て少し安堵する。


 にしても、家を出る前に財布にたくさんお金入れておいて正解だった。


「そういえばゆう、お前遊園地は初めてなのか?」

「うん! こういうところずっと来てみたいって思ってたけど...」

「けど...? あ、親が忙しいとかか...?」

「あ、うん、そんな感じ!」


 ニッコリと笑うゆうに少しだけ違和感を感じる。


「なあ、ゆ」

「ねねー俺、あれ食いたい!!」


 ゆうが指さしたのはアイスクリーム。


「仕方がないな...行くか」


 アイスクリームの店員にアイスを頼む。


「チョコレートアイス2つ...」




「いや、3つだ」




 麟騎の言葉を遮ったのはパーカーのフードを被った姫カットの子


「な、ニーネ?!」

「何だ」

「何だじゃねえよ! 何ちゃっかり頼んでんだ店員さんも作ってるし...」

「お姉ちゃん誰...?」


 ゆうはニーネを麟騎の後ろから尋ねる。


「僕はニーネだ。少年、僕はこいつの保護者だ」


 ビッと親指で麟騎の顔を指す。


「麟騎の...?」

「そうだ」

「いや、ちが...はあ、もういいや」


 もう何も言うまいと店員からアイスを受け取り二人に渡す。


 こうしてみると、二人とも普通に、ちゃんと子供なんだよなあ。


「何を先程からジロジロみてるんだ気持ちが悪い」


 撤回、クソガキ。


「で、なんでお前がここにいるんだニーネ」



 ゆうがアイスを食べ終わり、空中ブランコに向かうのを見ながらニーネに話しかける。


「もうすぐ約束の時間だからな。逃げないように来ただけだ。ま、様子見だな」

「逃げねえよ、逃げるもんか」


 逃げはしない。逃げは。どっちにしても早く...。


「そういえば麟騎。時間いいのか?」


 ニーネが指さす時計を見るともう5時半だった。さすがに子供がこんな時間まで外で遊んでいたら親が心配する。ちょうどゆうが戻ってきた。


「ゆう、そろそろ帰るぞ。親が心配するだろ」

「え...大丈夫だって、まだ遊びたい」

「ダメだ」


 麟騎はしゃがんでゆうに目線を合わせるとポンッと頭に手を置いた。


「また連れて行ってやるから。な?」

「......分かった、絶対だよ麟騎...兄ちゃん。ありがとう」


 兄ちゃん...やっと言ってくれたな。頭をさらにワシワシと撫でながら立つ。



「送っていくよゆう」

「ううん、いいよ。僕の家、近くだし」

「そうか? でも一応...」

「大丈夫だってば!! またね兄ちゃん!!」


 門を出るとゆうは走り出す。走り出しながら手を振るゆうに麟騎も手を振る。あれだけ遊んだのに元気なやつだ。


「あの少年、脆いな」

「脆い?」


 ニーネが歩きながら呟く。


「お前は気づかなかったのか? あの少年の服の中を。傷がたくさんあっただろう。打撲に切り傷...おしてあの細さ」

「まさか...」

「虐待」


 確かに風に吹かれて捲れる服の中は傷が少しあったが、見えた部分は少しで気づかなかった。ただコケ他のかと思っていた。


「だからあの少年は帰りたくなかったんだろう。帰れば地獄の再開。だから少年はパンを盗もうとした。ご飯をろくに食べさせてもらえていなかったから」


 冷や汗が流れる。

 そうか、それで親の話になると何ともいえない顔になっていたのか。


「どうする気だ麟騎」

「何って、決まってんだろう。ゆうの後をついて行く」

「家はどこなのか知ってるのか?」

「それは、ゆうが帰った方向に向かって...」

「馬鹿だなお前。...ったく、僕が協力する」

「は? お前が?」

 

 なんか企みでもあるのか。


「なんだその顔は。僕は優しいんだよ。...それにあの少年、少し気になってな...」











































『アンタはイラナコなの』

『ナンデ、ナンデアンタハあのヒトに...!!』


 ずっと、ずっとかあさんにそういわれてきた。とうさんが『ウワキ』してでていってから、かあさんはかわったんだ。毎日、みんなにはみえないところをケラレ、ナグラレ...。でも僕はかあさんがだいすきなんだ。



 フラリとよろめく。


「ああ、おなかがすくよ...兄ちゃんにたくさん食べさせてもらったのにおなか...」



 ゆうはふと立ち止まる。ナニカがいる。



「だれ...?」


 ナニカに話しかける。するとソレはニタァと笑った。



「やあしょーねん。ねえ、しょーねんはこのままでいーのぉ?」

「このまま...?」


 突然何を言ってるのだろう。このままとはなんだろう。ゆうの身体が固まる。


「もっとたべたいとかぁ...もっと【愛されたい】とかさあ~。思わねえ―の?」


 ソレはゆうの耳元で誘う《イザナ》。


「【愛】、だーいすきなおかあさんの【愛】。ねえゆうくん」


 ビクリと反応する。


「俺の手を取りなよ。そうすればだーいすきなおかあさんはお前のことを愛すぜ?」


 スッと手をゆうの前に手を差し出す。


「ほら堕ちておいでユウクン」


 あいされたい。だいすきなおかあさん。ボクをなぐらないで、けらないで、ひとりにしないで。ボクがおかあさんをおとうさんのようなひとからまもるから。

 


 小さな手がソノ手に重ねられる。




契約完了イーブルハート




 黒が白をつつみこんだ。






































「こっちだ麟騎。...ッ?!!!!」

「ここか、よしさっそくインターホンを」

「待て麟騎!!」


 インターホンを鳴らそうとする麟騎を止める。


「...チッ、クソ...!」

「どうしたんだよ」

「...最悪だ。どうやら僕たちは遅かったみたいだ」

「だから何...」


『クゥ...ク、ウ』



「?!!」



 この声は、ゆう? いや違う。これは、この声は...


 ドアノブを少し回すと鍵がかかっていなかった。麟騎は大きな音を立ててドアを開けた。


 この声の主は目の前にいた。



欲望ディグマニティ...!!」



 口の端からは血が滴っていた。欲望の足下には女性が血だらけで倒れていた。



「お前...!!!」


 キッと欲望を睨みつける。


『く、ウ...ナグラ...ナイデ』



 やはりどこかで聞いたことのある声。そういえばここはゆうの家だ。じゃあゆうはどこだ?


「ま、まさか...」

「ああ、そのまさかだ。気づいていただろう? ゆうは...コイツだ」






 『兄ちゃん』そう呼ぶゆうの声が頭を過った。
















       















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