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出席を確認し終えた先生は、ニュースを見てた人は知ってると思うがと始める。
「最近、この辺も物騒になった。登下校、気をつけろよ。以上、ホームルーム終わり」
ホームルームが終わるといつものメンバーが窓側の一番後ろ、その席に集まる。
「なあ、物騒って何かあったのか?」
「は?!麟騎、お前知らねえの?」
「知らん」
麟騎は、ニュースなどそういったものには疎い。
「最近、この辺りで変死体が見つかってるんだ」
「変死体?」
「ああ、血が全て抜かれていたり、身体の骨全部が粉々に砕かれていたり、ナニカ大きな動物に喰いちぎられたような跡...とかね」
クイッとメガネを上にあげて説明もし終える楽。そんな事があったのかと麟騎は1人驚く。
「こういうのに疎いのにもほどがあるよ」
「深夜も知ってるのかよ」
「あたしを何だと思ってんの。麟騎ぐらいしか知らない人いないと思うけど」
もはや周りは呆れている。
「犯人は捕まっていないのか?」
「んー...みたいだよ。楽は知らない?」
一番頭の良い楽なら何か知ってるんじゃと無茶振りをする深夜。楽は少し考えると答えた。
「そういえば、手がかりは掴んだみたいだったよ...ネットで。死体が出る度にパーカーのフードをかぶった美少女があらわれるからその子が関係してるんじゃないか...とかね」
楽の言葉に麟騎と深夜がひっかかる。
「ってそういえば1時間目、英語の単語テストじゃない」
瑠魅は机の中から英単語ブックを取り出すと4人に見せる。楽と麟騎は、そうだぞと余裕な顔を浮かべ、蒼空と深夜は、忘れていたと急いで取り掛かる。だが、取り掛かるのが遅かったため、すぐにチャイムが鳴った。
ガラガラと教室に入ってきたのはいつもの英語の先生ではなかった。
「今日は、先生がお休みのため自習をしてください」
先生の言葉に皆が喜ぶ。何せテストがなくなったのだから喜ばずにはいられない。先生は告げると教室を出た。
「よかった...今やってたら俺、0点だわ」
蒼空と深夜は安堵の息を吐く。そこの麟騎が思い出したかのように話す。
「その、さっき言ってた美少女...朝会ったかも」
「は?」
突然の言葉に皆が目を開く。そこで深夜がああ、と納得する。
「そういえばそうかも。あの子とは断定はできないけど....美少女で、フードつきのパーカー着てたし...」
「でも、これといった事件は起こってない...チンピラに絡まれてたくらいしか」
携帯を使って調べてみるが、やはり今日は何も起きていないみたいだ。
「予兆...とか?」
ボソッと瑠魅が呟く。その言葉に皆が黙る。その空気を破ったのは麟騎だった。
「帰りも...あの道通って帰るか?」
帰りといっても6月の今は6時でも明るい。学校は5時に終わるから大丈夫だ。それに1人で帰るわけではない。麟騎はそれを分かったうえで聞く。
「私は...うーん見てみたいかも」
瑠魅が答える。それに続けて蒼空と深夜も答える。一番最後は楽だった。
「危ないと思うけど...」
「どうするの?」
「...仕方ない。麟騎達が行くなら僕も行くよ」
結局、皆で放課後に行くことになった。
放課後になり4人が集まる。荷物を持って校門を出ると、近道に向かう。やはり人は自分達しかいない。
「何もないな」
「朝のあの子供もやっぱりいないか」
朝いた美少女が、夕方までここにいるわけがない。結局何でもなかったなと少し安心をする5人。しかし、その時だった。
「うわあああああああああああああああああああああ」
誰かの叫び声が辺りを響かせた。5人は急いで声のした方に行くと今朝のチンピラが2人いた。
「ば、化物!!」
「ぎゃあああああああああああ」
2人は叫びながら自分達の横を通っていく。一体何があったのかと、男どもがでてきた路地をのぞく。そこにいたのはチンピラ男一人とそのリーダーだった...と思われる。というのもチンピラ男は顔面が潰されていて、リーダーの方は
『ぐがあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”』
体が変形して化物になっていたからだ。
「な、何だよこれ...」
あまりの衝撃に足が動かない。化け物はヨダレを垂らしてこちらを見ている。このままでは危ない。麟騎は大声で叫ぶ。
「逃げろおおおおおおおおおおお!」
それと合図に皆が走り出す。化け物もそれが合図だったのか、追いかけてくる。
速い、速すぎる。ダメだ。追いつかれる。
麟騎は近くあった鉄パイプを拾うと化物にかまえた。
「何してんの麟騎!」
「いいから逃げろ!!」
うおおおおと化物に鉄パイプを振りかざすが折れたのはパイプだった。カランカランとむなしく落ちる。化物は目を細めると口を開け、喰らいつく。グジュリと嫌な音がする。
声にならない、口から出たのは息だった。右肩を喰いちぎられた。化物はグッチャグッチャと口を動かしている。
「麟騎!!」
深夜の声に化物が反応し、狙いを変える
「立ち止まるな深夜!!」
楽が前に出る。化物がそれで立ち止まることはなく、そのまま腕でなぎ飛ばした。
『ぐがガく...ウ、喰ウ』
化物はさらにヨダレを垂らし、3人に飛び掛かる。
「にげ...ろ」
目の前が霞ながらも、必死に声に出そうとする麟騎。
自分のせいだ。行くかなんて言わなければよかった。目の前の大事な仲間がなぎ飛ばされてるのを見てどうにもできない自分に怒りを通り越して訳が分からなくなる。
「たの...む」
頼む、あいつらだけでも。
「弱いな」
どこで声がした。聞いたことのある声。無性にイラつく声。バカにしたような声。頭を動かす力を残っていない麟騎は、目だけ声のした方に向ける。
「全く。見てるこっちがイラつく」
今朝の子供だった。いつの間に目の前に来たのだろう。何故ここいるのだろうか。
『ガガガガ!!』
「お前はまだおとなしくしていろ欲望」
襲いかかって来た化物に向けて子供がポケットからした虹色のガラス珠をかざす。と、化物の足元からから蔓がでてきて体を絡める。
『ガ...ガ...』
動けなくなったのを見ると、もう一度麟騎と向かい合う。フードをおろし、見つめる。何だという目で麟騎は子供を見る。
「お前、自分が憎いか。悔しいか? 昔からずっと何もできない自分が」
この子供は何を言っているのだろうか。だが麟騎にとってその言葉は、その通りだった。
「僕ならお前たちを助けてやれる。お前に人を守れる力をあたえてやれる」あいつらはまだ死んでいない。皮肉にも死にそうなのはお前くらいだ」
あいつらと4人をチラッとみる。骨は折れてるかもしないが息はしている。
「もしお前が僕の手を取らなかったら、欲望はまた暴れだし、今度こそお前たちは死ぬ」
これは、脅し。自分の手を取れという。麟騎にとってはある意味救いの言葉。手を取れば救われる。
昔からそうだった。自分の判断のせいで、たくさんの人が傷つく。何にも力がない自分はただ見るだけ。もし、この子供が言うことが本当なら俺は...決まってる。
「...いい目だ麟騎」
子供はしゃがむ。同時に化物がゆっくり動き始める。
「僕はニーネ」
「か、みき、りん、き」
人の間に珠を置く。ニーネは手をかざし、
「もう一度問う」
『ぐガぁぁ』
化物が蔓と全て切ってこちらにくる。
「力が欲しいか...」
化物の手が振りかざされる。
ホシイ、ほシい。
「欲しい!!」
麟騎が心が叫んだ時、あたりが光につつまれる。あまりにも眩しく、化物も怯む。ニーネは口角を上げる。
「契約完了」