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第4話 乱入者


「ほら、黙ってても俺のズボンは脱げないぞ」

「ええっ!?そ、そこまで私がやるの?」

「そりゃそうだろ。それも含めてデリヘルのサービスなんだからな」

「あうぅ……」



 エミィは再びうつむいて真っ赤になってしまった。


 しかしデリヘル嬢になるという人間が男の裸に耐性ないのは、どう考えても致命傷だ。

 他がダメだったとはいえ、なぜこの子はデリヘル嬢を志してしまったのだろうか。

 もっとこの子の特性に合った職業はなかったのかと考えてしまう。



 例えば、エミィが他にやれそうな仕事は本当になかったのだろうか?

 俺は脳内で少しシュミレーションしてみた。


 頭脳関係……は絶対ダメだ。即却下だ。多分デリヘル嬢よりももっと向いていない。

 それ以外だとすると、体を使う系かお手伝い系になる。

 しかしお手伝い系もおそらく無理だろう。

 さっきから気づいていたのだが、どうもエミィは敬語が使えないようなのだ。

 職場で目上の人間と一緒になる仕事では、その辺はかなり重視されるはずだ。

 彼女のことだから失敗もする上敬語も使えない。どう考えても心証は最悪になるだろう。

 となると、残るは体を使う系になってくる。

 この町でそういう仕事といえば、真っ先に浮かぶのは治水や道路関連の肉体労働か。

 しかし、これもやめておいた方がいいだろう。

 何せ彼女は見た目は線の細い美少女で、しかもあほの子だ。

 対して、そういう職業についている従業員は、大抵がむさい男達だ。

 どう考えても、誰かしら不幸になる事件が起こるだろう。


 改めて考えてみると、彼女は予想以上にどの職業に対しても適性がなかった。

 それこそ初心なところさえ克服出来れば、風俗関係はまだましな方と思えるほどだ。


 ……いや、エミィの欠点から考えるからダメに見えるのだ。

 ここは彼女の長所を生かす方向で考えてみよう。


 彼女長所といえば一体何なのか?

 当然剣関連だろう。

 実際彼女がその剣を振るう所は見てないが、先ほど見せた表情。雰囲気。そして構え。

 間違いなく並の腕ではないだろう。

 剣の腕が生かせる職業といえば、例えば道場の指南役などだろうか。

 しかしああいう世界は確か、流派がどうとかで結構ややこしかったはずだ。


 後は、冒険者くらいか。

 外敵を防いだり、要人を護衛したり、遺跡の調査等を請け負う。いわゆる何でも屋だ。

 活動するにはギルドへの登録が必要なはずだが、これは身分さえ証明すれば問題ない。

 ……んん?これはエミィに相当向いてるんじゃないか?

 冒険者ならば、普段から剣を背負っていても何を言われることもない。むしろ自然だ。

 そして剣の腕があれば、実入りのいい討伐系の依頼だって受けることが可能だろう。

 更に、新たな遺跡の発見など大きな功績を上げれば、爵位を賜ることすらあるらしい。

 これは向いてるどころか、エミィの天職にすら思える。


 あるじゃないか、もっと良い仕事が。

 それがわかれば、デリヘル嬢という職業に固執する必要はない。

 俺は目の前で未だ葛藤を続ける茹でダコ少女に、早速転職を薦めることにした。



「なぁエミィ」

「ひ、ひゃい!」



 俺の声に、エミィは相変わらず大げさに反応する。

 そんな彼女を落ち着かせるため、俺は彼女の頭に手の平を乗せた。



「……アグリ?」

「やっぱりやめにしよう。どう考えてもこの仕事はエミィに向いてないから」

「え?で、でもそれじゃ私は……」

「いや、他に絶対あるだろ、エミィにぴったりの職業が」

「……それって、例えば?」



 俺の言葉に、エミィはどうやら半信半疑な様子だ。



「エミィは剣の腕に自信があるんだよな。だったらそれを生かすべきだと思うんだ。

 例えば冒険者とか、もしくは道場の指南役とかどうだ?」



 それを聞いたエミィは、しかしなんともいえない表情で首を横に振った。



「冒険者は無理。私、ギルドに登録できないの。

 それに剣も教えるのは向いてないみたいだし、手加減するのはもっと苦手だし」

「うん?ギルドに登録できないって身分証明の問題だったりするのか?

 それなら多分、俺の伝手(つて)で何とかできるけど」



 当然エミィが身分を証明できない可能性も考えていた。

 だが、俺には奥の手があるのだ。

 俺は仕事の都合上、何人かの貴族に伝手(つて)がある。

 そして、その貴族に紹介状を書いてもらえば、それが身分証明の代わりになるのだ。


 しかし、エミィはそれでも首を振った。



「ううん、そうじゃないの。

 私、国のある偉い人に追われてて、ギルドに登録すると居場所がバレちゃうの」

「はっ?」



 藪をつついたら大蛇が出た。


 なにそれ、この子超ワケ有りじゃないか。

 つうか国のお偉いさんに追われてるとか、エミィは一体何をやったんだ?

 正直滅茶苦茶気になるが、今それを聞くのは非常にまずい気がする。

 下手すると巻き込まれて、俺まで追われることになりかねない。

 貴族を相手にする仕事を持つ俺に、そういった類の悪評は致命的なのだ。

 気にはなるが、この話は二度と蒸し返さないようにしよう。



「だからね、私、あんまり目立つ仕事には就けないの」



 なるほど。ということは、剣の指南役という線も完全に消えだな。

 エミィは目立っちゃいけないのに、手加減も出来ないらしい。

 この国で強いということは、それだけでステータスになりえるのだ。

 それこそ道場で名前を上げれば、それだけで間違いなく名前が売れてしまうだろう。


 剣の腕を利用出来ないとなると、エミィはただの見た目が可愛いあほの子だ。

 しかもワケ有りだ。

 先ほど考えたエミィの転職プランは完全に潰され、俺は思わず頭を抱えてしまった。

 俺は、無力だった……


 だが、そんな俺とは逆に、なぜかエミィは先ほどより気合の入った表情になっていた。



「そ、そうだよね。

 私、ここでがんばるしかないんだから、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないよね」



 どうやらエミィは自分の置かれた状況を再認識し、気合を入れ直したようだ。

 未だ顔は赤いが、ふらふらと泳いでいた視線は既にしっかりと定まっていた。

 まあ、その定まった視線の先が俺のズボンというのが、なんともアレな話だが。



「じゃ、じゃあアグリのズボン、脱がせばいいんだよね……脱がすね?」

「お、おう……よろしく」



 エミィはゆっくりと近づいてきて、そっと俺のズボンに手をかけた。



「ね、ちょっと立って?」

「お、おぉ……」



 顔を赤らめながらも、柔らかい笑顔でそう促される。

 今の表情はちょっとドキッとした。

 くっ、あほの子の癖に生意気な……

 ベッドの縁から腰を上げると、エミィはズボンの止め具を確認し、カチリと外した。

 彼女はそのまま躊躇する様子もなく、スルリと俺のズボンを板敷きの床まで下ろす。

 太ももにひやりとした空気が触れ、少しごわごわな生地のパンツがあらわになった。


 一気にパンツまで脱がされるかと思ったが、そこでエミィは止まっていた。

 再び恥ずかしさに固まったかと視線を向けると、彼女はある一点を凝視していた。


 そこには小高い山があった。


 それは世界最高峰のエボグランデ峰には及ばないが、土の採れる裏山よりも高かった。

 『コクリ』と、エミィが小さく喉を鳴らす。

 そう。

 先ほどのエミィの柔らかな表情に、透明な声に、鼻腔を満たす甘い香りに、

 俺は忘れていたはずの興奮を、再び思い出していた。



「えっと……こ、これは?」



 先ほどと違った様相をみせる俺のアレに、エミィは少し戸惑った様子で顔を上げる。

 その拍子に俺の視線が彼女の紅の混じった大きな瞳とぶつかり、更に鼓動が跳ねた。


 ……あ、そうか。

 エミィは初心だから、この小高い山が何を意味しているのかわからないのか。



「ああ、これはな、男が興奮すると勝手にこうなるんだ」

「え?……ということは、アグリは今興奮してる、の?」

「まあ、そういうことになるな」

「じゃ……じゃあ、じゃあ、私、アグリをちゃんと気持ちよく出来そう?」



 エミィは少々上ずった声で、繰り返し確認してくる。

 ああ、こういう一所懸命なところも彼女の美点なんだな。

 そんな彼女に、また少し鼓動が高くなるのを感じながら、俺は軽く彼女の髪をなでた。



「ああ、というか既にちょっと気持ちいい。この調子ならうまくやれるかもな」

「本当に?じゃあ、私、もっとがんばるね!」



 エミィは嬉しそうに微笑んで、パンツの上からそっと小山に触れた。



「ふおっ!?」



 突然腰の裏を駆け上がってきたその感覚に、俺は思わず変な声を出してしまった。



「あ!ご、ごめん。気持ち悪かった?」



 エミィは慌てて触れていた手を離した。

 先ほどズボンの上から撫でて、気持ち悪いと言われたのを思い出したのだろう。

 しかし、今駆け上がってきた感覚は、先ほど感じたものとはまったくの別物だった。

 それは俗に、快感と呼ばれるものだった。



「いや、気にするなエミィ、今のはいいんだ」

「え、でも……」

「さっきのと違って、気持ち良かったから」

「そ、そうなの?」



 そう、パンツ越しの刺激は、すでにかなり気持ちの良いものだったのだ。

 この調子では、俺の小山は直に触れられるだけで大噴火を起こすかもしれない。

 裏山より少々高い程度のくせに、随分と活発な活火山のようだ。

 というか、開始早々でいきなり大噴火は正直恥ずかしすぎる気がする。

 そう考えれば、先にパンツ越しに触れられたのは、かえって良かったのかもしれない。



「ああ、今のはかなり気持ち良かったから、もうちょっと続けてくれないか?」

「本当に?わは、ちょっと嬉しいかも。じゃ、もっといっぱいしてあげるね」



 エミィはそう言って、にこにことパンツの上から俺の小山を擦り始めた。

 ごわごわなパンツ越しでもわかるエミィの柔らかい手が、断続的な刺激を与えてくる。



「わ、柔らかいのに硬くって……なんか変な感じ。それにコレ、すっごく温かいね」



 うぉ……は、はうっ!……

 こ、これはパンツ越しでもやばいかもしれん。

 エミィは、先ほどと同じように、楽しげに鼻歌を歌いながら俺に刺激を送り続ける。

 どうやら彼女は興が乗ると、こういうことでも楽しめてしまう性分らしい。

 実は結構サドっ気あったりして。

 とにかく少しペースを落とさなければ、俺の小山は既に地響きを立て始めている。

 このままでは地殻変動まっしぐらだ。



「エ、エミィごめん、もうちょっとゆっくりやってくれないか?」

「あ、もしかして痛かったりしたかな?ゴメンね」

「いや、そういうわけじゃないんだけどな」

「私って何か始めると、周りがまったく見えなくなっちゃうみたいだから」



 ああ、それはわかるな。エミィは典型的なシングルタスクっぽいからな。

 そのかわり、彼女は一芸をとことんまでに突き詰めるタイプなんだろう。

 こういう子は、周りがうまく誘導してやるとみるみるうちに伸びるのだ。



「大丈夫だ。ただそこはかなり敏感な部分だから、ゆっくりやさしく擦ってくれ」

「了解です、サー!」



 エミィは少し楽しげに頭を揺らしながら、再び俺の小山を擦り始める。

 こうやって見ると、彼女は本当に素直で勤勉な少女である。

 今足りてない知識さえちゃんと積めば、案外良いデリヘル嬢になるのかもしれないな。



「しかし、最初恥ずかしがってた割にはずいぶん楽しそうだな」

「うん、楽しいよ。だってこうするだけでアグリは喜んでくれてるんだよね。

 こんな私でも人の役に立てるんだって実感できるのが、すごく嬉しいの」



 く……あほの子の癖に!あほの子の癖に!

 黒髪を揺らして聖母のように微笑むエミィから、俺は顔を背けた。



 まだ真新しい木造の部屋に、布擦れの音とエミィの鼻歌がハーモニーを奏でる。

 ああ、しかしこういうのってなんかいいな。

 これでエミィが俺の彼女だったら最高なのに。

 彼女の与える緩やかな快感に身を委ねながら、俺はぼんやりとそんなことを考えた。


 そのハーモニーに、実は彼女の剣のチャキチャキ音も含まれたがまったく問題はない。

 あれは金管楽器みたいなものだ。いや、鞘鳴りだから打楽器か?

 このまったりとした流れに、ピリリと刺激を与えてくれるスパイスみたいなものだ。

 つうか鞘鳴りって、確か剣と鞘が合ってないから鳴るんじゃなかったっけ?

 鞘、新調しろよ。

 そして気になりだしたら、今度は鞘鳴りの音ばかり耳に入るようになってしまった。

 やっぱり気にならないなんて嘘だった。

 どう考えても邪魔だよ、その剣……


 っと、こんな小さな邪念に惑わされては、俺のためにがんばっているエミィに失礼だ。

 言うなれば俺達は今、この小高い山を征する登山の最中なのだ。

 山頂の景色を二人で見るため、力をあわせて登っているのだ。

 今はおよそ7合目といったところか。登りきったらその後は二人でご飯でも食べよう。

 運動の後のメシは美味いって言うしな。今から楽しみだ。




 そんなことを考えていたら、8合目あたりで木の打楽器を持ったモンスターが現れた。





 ――えっ?



 俺の意識は、一瞬にして現実に引き戻された。

 大音量で響いた木の打楽器の正体は、俺の部屋の扉が蹴破られた音だった。



 えっ?



 木の扉が消えた入り口の向こうには、モンスターと思しき影が多数蠢いている。

 そして扉をくぐり部屋に入ってきたそいつは、人の形でありながら人間ではなかった。

 俺の1.5倍はあろうかというひょろ長い体を漆黒のローブで包み、

 中から覗く蒼肌と、ギラリと光る紅目が、こいつが人間ではないと雄弁に語っていた。


 えっ、あれ……俺デリヘル嬢は呼んだけど、モンスターって呼んだっけか?


 混乱する俺を尻目に、蒼肌黒ローブは俺達を一瞥して低い笑い声を漏らした。



「クフッ、クフフ……クハハハハハハハハハハハ!

 魔王様を殺した貴様が、よもやこのような場所で情事にふけっているとはな」



 え、ちょっと?モンスターなだけあって何を言ってるのかさっぱりなんですが。

 俺よりも不思議に通じてそうなエミィなら、今の言葉を解読できるのだろうか。

 そう思ってエミィに視線を移すと、彼女は未だ楽しそうの俺の股間を擦っていた。


 おいこのアマ!シングルタスクもいい加減にしろよ!



「ほう、末席とはいえ四天王の我を無視するとは、なかなか良い度胸だ。

 だがその余裕が命取りであることを、我が絶大なる魔法で思い知らせてくれるわ!」



 そう言うや否や、蒼肌黒ローブの両手が青白く発光し、ジリジリと帯電し始める。

 ちょ、アレはなんかやばい気配がしますよ。

 ほらエミィさんや、そろそろ股間擦るのやめて、とっとと逃げましょうぜ?



「んっふふー、もっともっ~と気持ちよくしてあげるからね♪」



 …………



「いいから早く気づけ、このあほ女!!!」

「ふぎゃ!?」



 俺の振り下ろしたチョップが、いつまでも下山してこないエミィの頭頂部に直撃した。

 あ、今なんかすげぇ良い音がしたな。



「ちょ、ちょっとアグリ、何てことするの!今せっかく良いところだったのに」

「それどころじゃないって言ってるだろ!ほらあっち見ろ!」



 エミィの頭を両手で掴み、そのまま蒼肌ローブの方向に無理やり向かせる。

 あ、今なんか鳴っちゃいけない音がしたな……



「クッハハハハハハハハ!今更何をしようがもう防ぎ切れんわ!死ねええぇ!!!」

「えっ……」





 次の瞬間、蒼肌ローブから放たれた光が、轟音と共に俺の視界を真っ白に塗り潰した。





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