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悪いのは誰でしょう


「夜分遅くにすみません、公妃様にお会いしたいのですが」


「バカを言うな! 公妃様に簡単に会えるわけがなかろう!! それもこんな夜更けにっ!!!」


 精霊術を駆使し、こっそりドミル王国の王都にあっさり侵入。

 ここまで簡単に入れたら少し心配になる。

 うん。使っている術は一応高度になるからさ、ちょっと精霊術を使える人どころかかなり精霊術を使える人でも無理なんだけどね。難しいらしいよ。俺的には精霊任せな部分が大きいからよく分からんのだけども。


 一応街には魔物よけの結界が張られていて、安全とはされている。

 そんなわけで、俺らが思うより街中は安全快適な日常を過ごしていたり。


 ともかく。

 王都に侵入。人目の付かないところで擬態解除。そこからは怪しまれないように徒歩で移動。

 で、王城の前には当然ながら衛兵がいたってわけ。


 昼はともかく、夜は嫌だろうな。

 俺ならこの仕事は長く続かないなぁ……


 そんなことを思いながら話しかけたせいか、門前払い。


 ……いや、うん。まぁ。

 彼の言うことはごもっともなんだけどね。


「心得ております。しかし、こちらを」


 にこっと笑いかけて後方を指し示す。

 手首と胴に縄をかけたカインを見せる。顔はフードでよく見えないようにしているが、衛兵は覗き込み特徴である黒髪と黒目を確認した。


「こ……こいつは、まさか……?」


「カゼロインスでございます。酒に酔っているところを捉えまして……しかし、酒が抜けてしまえば私では取り押さえることが困難になってしまうかと。どうか、至急手配していただくことはできませんか?」


 わざと声を抑えて言い切る。

 衛兵は僅かに迷ったようだが「しばし待て」と言い残し中に入っていった。


「案外単純なもんだね」

「楽でいいじゃねぇか」


 そんなものか?


「さって。無事、公妃サマに会えるかねぇ?」


 ニヤニヤと笑ってるカインの表情は実に悪人だ。

 俺は嘆息して、衛兵が戻ってくるのを待った。







 ◇ ◇ ◇




 王城内。


 公妃と呼ばれる彼女は既に寝室へと入っていたが、専属の侍女から衛兵からの言伝を受け取っていた。


「ふふふふ、捕らえましたか。どうしてくれましょうか、ねぇ?」


 暗い笑いをこぼし、美しい面を歪める。

 それを見ても侍女は微動だにしない。すでにソレは見慣れてしまっていた。


「サザラ様、彼奴めの処罰は後ほど如何様にも。まずは、彼奴を捕らえた者へ恩賞をお願い致します。賞金稼ぎのような下賎な輩は、早々に礼をしてやらねばこちらの邪魔だてをしたりと厄介でございます故」


「ふん、卑しい人種よの。構わぬ、通達していた通りの報酬をくれて、とっとと追い出せ」


 まるで本当に汚らわしいものを見たかのような顔つきで、しっしと手を払う。

 侍女は小さく頭を下げ、了承の意を告げると退室した。


「可哀想なパウニール。わたくしが恨みを晴らして差し上げますからね……」


 ふふふ、と再び笑いがこぼれた。





 ◇ ◇ ◇





 見越したとおり、だな。


 受け取った賞金の入った袋を片手で弄びつつ、衛兵に見送られる。


 カインは王城内。多分、地下牢あたりに連れて行かれているだろう。ちゃんと本物を引き渡している。当然カインの特徴だけでなく、カイン自身を見知っている者が王城内にいて本物だと判定を下したんだろう。


 でなければ、身元もはっきりしないガキにこんな大金すんなりと渡すはずがない。


「毎度あり…ってね」


 今はまだ静かな王城を見上げて呟く。


 カインとて鬼じゃない。そして、程度の低い魔物でも話の通じない化物でもない。

 ただの人だ。

 だが、分かっているだろう?

 カインは聖人ではない。何も考えない無能者でもない。そして、世界最高峰の狩人『黒い狼』と呼ばれる存在だ。


 世の中は不公平で理不尽なものだろ、公妃様?


 あんたたちがそうである限り、カインもそうであるだけのこと。


 もし公妃が権力という力を以てカインとそれに関わるものを傷つけるというのなら、カインは純粋たる暴力を使ってねじ伏せるだけ。結果はわかっているけど、それでもあえて祈ろうか。


 お前らに、それを理解出来るだけの利口さがあることを、な。


 僅かに口の端を釣り上げ嗤う。

 夜の街では誰も気づかない。


 そのまま闇に紛れて俺は街から出る…………がんばりなよ、公妃様。



 







 なんて、格好つけておいてなんだが。超眠い。


 夜通し移動とか、ないわー

 俺頑張ったよね、頑張ったよ、よく頑張りました! ご褒美として、本日は休業です!!


 朝方に我が家である喫茶店に戻りましたよ。

 夜のうちにドミル王国まで行って帰ってきました。ちなみにここから隣国のドミル王国王都まで、魔馬車で三日ほどです。そう考えると俺、かなり頑張ったと思うんだけどもね。


 街に戻ってきたときは、またカインのフリをしておいた。

 出て行くのと違って入るのはわりと厳しくなるんだけど、そこはほら。カインの普段はめちゃくちゃな感じを全面的に押し出して無理やり通ってきた。

 もうちょっと詳しく言うと、外から扉ぶっ壊して無理やり入り、それなりの量の魔物よけの結晶と一緒に大金も門番に無理やり押し付け有無を言わさず街の中に入り失踪……もとい、疾走して撒いたって感じだ。


 ちなみにお金は賄賂というより修理代です。

 今まで何度かあの門ぶっ壊しているので、今更賄賂とか意味をなさないのでね。


 一応弁償金は置いていっているし、修理中魔物に襲われることのないよう、魔物よけの結晶も置いていく。

 結果、職人の仕事は増えて……ま、むちゃくちゃ悪い状態にはならない。門を破壊するという非常識に目をつぶれば、それほど困る人間が出ないだけに文句を言うところもなく。ギルドは注意してくるけど、その程度で終わってしまう。


 そんなわけで。

 今回のこの行為に関しては大事にはならないのだ。


 それにしても、俺としては門番の人が転職したいと言い出しても止める術がないな。

 いきなり外から扉破壊って……毎回、心臓にわるいだろうなぁ。

 魔物が出たら悲惨だもんな。


 ま、それも仕事のうち~っとね。


「はぁ~……布団最高…………」


 朝方だからってなんだ。

 眠い時の布団は最強だ。至福だ。天国だ。


 ごそごそと潜り込み、俺はすぐさま眠りについた。





今回、短めです。幕間みたいにしようかと悩んだけどね。


みんな悪い……というよりも黒い?

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