気まぐれの偽善
街に戻ってきてゼノは早速例のものを持ってティティの下へ向かった。
対して、俺はギルドへ突撃してみることに。
「やぁ、メイルーさん。お仕事、お疲れ様」
ギルドに入ってすぐ、いいタイミングでメイルーさんを発見。
掲示板に依頼書なんかを貼り付け作業中のところを声をかけたのだ。
「あ、マスター!」
「相変わらず狩人ギルドは忙しそうだね」
フロアにはそれなりの人。
依頼を受ける狩人もいれば、依頼を出す側であろう人もいる。
「おかげさまで。それで、マスターはどういったご用件で?」
「ちょっと依頼を出そうと思ってね」
「依頼、ですか?」
「うん」
「……そうですか。では、僭越ながら私がお伺いします。こちらへどうぞ」
おぉ。流石に喫茶店にいる時とは違って、受付嬢らしい立ち居振る舞いだ。
さすがプロである。
案内されたのは簡単な仕切りだけがされているカウンター。
座るように勧められたので、お言葉に甘えて座らせてもらう。
「えぇと。では、狩人ギルドへのマスターからのご依頼、ということでよろしいですか?」
「はい」
紙にさらさらっと慣れた様子で書いていく。
結構早い。
しかも、意外と字が綺麗。うぅむ、ちょっと可哀想な受付の子とか思っててすみませんでした。
「依頼内容はどういったものでしょう?」
「うん、配達の依頼かな。王都にね。ただ、その配達する品物が危険物だから普通の宅配屋では受け付けてもらえないんだ」
「危険物、ですか……? えっと、どのような?」
途端、表情を引きつらせるメイルーさん。
物騒な依頼ばっかりのこのギルドに何年勤めてるんですか。
「お花ですよ。まぁ、黒薔薇っていう毒花だからちゃんとした保存を維持しないとだめなんだけれどね。本来の狩人ギルドの業務からは外れているのはわかってるけど、特例で受けてもらえるかな? もし通らないなら、適当にお金を掴ませた人に配達させて、それの護衛兼監視の依頼でもいいけど……そっちも手間がかかるだけだと思うよ」
「…………すいません、マスター。すこぉし、時間いいですか? 上司に相談しますので」
「そうですねぇ。数十分程度なら全然構わないですが、あまり時間がかかりすぎるのは少し困りますかね」
「勿論、何時間もかかるようなことはありません! 数分で戻りますので!」
お?
走って行っちゃった。
そんなに急がなくてもちゃんと待つのに。むしろ、ややこしい依頼をしてるのはこっちなんだから。
「ここまでしてあげる必要はないかもしれないけど、ね」
黒薔薇の送り先は王都のギルド。
狩人ギルドじゃなくて、商人ギルドの方で送り主はカゼロインスにしておく。もちろん浄化済みのですよ?
毒花だってことに嘘はないですよ、浄化済みって言わなかっただけで。
そう言っておいたほうが慎重に扱ってくれますし、興味本位で荷物を探ることもしないからね。もっとも探るような奴はいないと信じてますよ。たまに馬鹿な奴がいますけどね。
ゼノを信じないってわけじゃない。
ただ、すんなり事が済むとは思ってないだけだ。ここできちんと浄化された黒薔薇の証明がされなかったら、ティティを含めその家族がどうなるかわかったものでもない。
その上、毒に犯された人もね……
だから保険をかけておく。
これは気まぐれの偽善。
誰を救いたいわけでもない、ただのなんとなく。
なんとなくで救われたからこそ、なんとなくやりたいなって思ったことは、やろうと思っただけの話。
「マスター、お待たせしました! 上司に許可を頂いたので、こちらの書類に目を通していただき、問題がなければご記入をお願いします」
「あぁ、すみませんね。無理を言って」
走って戻ってきたメイルーさんに謝罪し、差し出された書類に目を通す。
特例のために、条件や免責事項などが記載されていてそれらをチェックしていく。予想通りの内容で問題はなさそうだ。必要記入欄にささっと書き込んでいく。
「こんなものでしょうかね? これで良いですか?」
書き終わった書類をメイルーさんに渡すと、素早く確認して肯首してもらった。
よし。
じゃ、これで終了だね。
「ではよろしくお願いします」
「はい、確かに承りました。ありがとうございます」
お仕事モードでメイルーさんがお見送り。
うん、いいね。出来る受付嬢って感じに見るよー




