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所詮は他人事

み じ か い





 最近は喫茶店業務が中心であったので、昼間に山を歩くことなど久方ぶりだ。


 ピクニックでないのは残念ではある。

 けれど、俺にとってはちょっと懐かしい日常に近かった。


「うーん。やはり俺も毒されているということか」


「な、毒? なんだ、具合でも悪ぃのか?」


 毒という単語に過剰反応するゼノ。 

 今回の目的地を思えば当然なのかもしれない。


「いやいや、具合は悪くないよ。むしろ良いくらい」


 慌てて否定し、無意味に肩をぐるぐる回す。

 俺なりの無意識健康アピールである。


「今の独り言は、俺もカインに毒されて旅とか好きになってたんだなって思ってぽろっと言っただけ」


「なんだ。驚かすなよ……お前ぇも旅が好きなのか?」


「う~ん、喫茶店をはじめるまではほとんど旅生活だったから、好きとか嫌いとかあんまり考えたことなかったけど。旅に出ていれば街に落ち着きたいなって思うし、街に落ち着けば旅もいいもんだなって思うしってかんじ」


 我ながら我侭だと思う。


「……そうだな。わからないでもない」


 バランが俺の言葉に頷く。

 ゼノは否定も肯定もしなかった。ただ、少しだけ考えるような素振りを見せた。


「カゼロインスはやっぱ旅が好きなのか?」


「旅が好きなんじゃなくてじっとしてられないんだよ、あれは。思いつくまま気の向くまま、あっちへこっちへ。まだ歩き出した子供の方が落ち着いてるよ」


 やれやれと肩をすくめてみせる。


「そ、そうか」


 まだ小さかった頃は、カインの後ろを付いて歩くだけでも大変だった。

 歩幅が違うので当然歩く早さも違う。ほとんど俺は走っていたんじゃないかってくらい必死で後を追っていたな。


 その追うべき対象が、何の予兆もなしに方向転換したりするのだ。

 人の多い場所で見失えばそれこそ必死で探し回らなくてはならない。また、人のいない森やら谷やらで見失えば命の危険が待っていたので本当に必死だった。今ではいい思い出である。


「基本的にずっとカインと一緒だったから、普通の旅ってのはほとんど経験ないんだよね。バランやゼノは旅とかした?」


「俺は拠点近くを生業にしていたからな。旅というほどの長距離・長期間はほとんどない」


 バランは首を振って答える。

 それに対してゼノは街から街へ拠点を変えてきたタイプらしい。


「いろんな国をまわってみてぇんだ。体力があるうちはある程度回るつもりだ」


「国によって習慣や考え方が違ったりして新鮮だよね」


「あぁ」


 行きは緊張感もあってかなりギスギスした雰囲気だったゼノも、目的のモノを手に入れたからか随分と柔らかい雰囲気になっていた。

 うんうん。

 たまにならあぁいう雰囲気もいいけど、やっぱりこっちの方が好きだな。

 シリアスって肩凝るよねー


「ゼノは違う国からこっち来たんでしょ? どの国出身?」


「おぉ。俺はナルートスだ」


「ナルートス?」


 バランは地元密着型だから地理には疎い。

 聞き覚えのない国名に首をかしげた。


 その点、放浪しまくった俺はまぁまぁ知っている方だと自負しております。


「あぁ、南国だっけ? あったかい地方だよね?」


「知ってるのか!?」


「まぁね。行ったのは大分昔だから細かいことは覚えてないけど……ご飯が辛かった記憶があるよ」


 あれは唐辛子だったかな。

 子供の舌にはきつい刺激だったなぁ


「さすが喫茶店経営者、記憶に残ってるのは飯のことか」


 ふっと顔をほころばせる。

 故郷のことを思い出したんだろうかね?


「昔から料理に興味があったのか?」


「そうだねー、食には積極的だったかも。あと、カインの食べっぷりがね、気持ちいいんだよね。だから余計、料理が楽しかったのかも」


 でも、基本的に定番メニューが好きなんだよね。

 細かい味付けや盛りつけには興味がない。凝った料理よりも簡単に作ったほうが好まれた時の脱力感。


 あぁ、だから俺は本格料理屋じゃなくて喫茶店に落ち着いたのか。


「二人は子供の頃から狩人になりたかったの?」


 何気なく尋ねる。


 バランはそうだな、と頷いた。

 元より口数の多い男ではないので、子供の頃にどう思っていたかなどといった言葉は出さなかった。

 ただ、少し昔を懐かしむように目を細める。


 一方のゼノは、しばし悩む素振りを見せる。

 そうしてから言った。


「子供の頃は騎士になりたかったな、俺は」


 騎士。

 なるほど、騎士ねぇ。


 子供の憧れの職業の一つでもある。

 狩人は自由で夢がある。騎士は煌びやかで威厳がある。


 だが。


「平民だったからなぁ……結局金がなくて学校にいけなくてな。諦めちまった」


 騎士の多くは貴族だ。

 貴族でなくとも、最低限学校に通えるだけの資金がなくてはならない。


 当然、その国々によって体制は違うが、未だ多くの国では一平民が簡単に騎士の道を歩むことはできない。


 俺も騎士が格好よく見えた時期があったなぁ、などと思う。

 もっともすぐにその感想は打ち消されることになった。他ならぬカインの所業である。

 賄賂やらイジメやら悪質な世界を垣間見ることが度々あったがために、今の自分にはあまりいい印象がないのが現状だ。


「……まぁ、騎士なんて堅苦しい生活になってたと思うよ。狩人の方がゼノの性にあってると思うし」


 とりあえずそう声をかけておいた。


 憧れは憧れのまま置いておいたほうがいいこともある、と思うからだ。

 もっとも、今後の動き方次第ではその騎士を敵に回すんだけれど。


 このまま街に戻っても、簡単にティティが解放されるはずもなく。


 さて、どうなるかね?

 などと今は他人事、気軽に想像するだけである。

 

 

主人公の性格がだんだん悪くなって言ってる気がする

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