それは花泥棒という
ゼノさんのキャラ迷走続行中。
若干、レインも迷走。あれぇ?
あ、やばい。
そう思ったときには遅かった。
およそ人体からそんな音がするのかというような、ドゴォン という鈍い音がする。
「…………ま、生きてるよね?」
地面に伏している男は若干痙攣しているが、死んでいるわけじゃないだろう。
「ごめんね、当てるつもりはなかったんだー」
聞こえていないだろうが、とりあえず謝っておく。
バランの溜息がそっと聞こえた。
俺たちが街を出て数刻。
見事、黒薔薇伯爵邸の前に到着。その間、それなりに戦闘があったりもしたけど割愛。だって雑魚だし。
今いるのは玄関といったらいいのかな?
で、庭はこの奥。
現在は誰もいません。一家全員が容疑者だからねー
あっと。例外に、先ほど倒しちゃった男。彼、この家の使用人で留守番してたみたいなんだけど、人の話を聞きもしないで追い出そうとしてきたから反撃しちゃったんだよ。そしたら、思った以上に弱いわ間抜けだわで倒してしまったんだよね。
……流石に放置しておくのは可哀相なので、バランに邸内に運んでもらうことにしよう。
その間に俺とゼノは庭の方へ。
精霊使いが二人いるっていう条件は、この庭にある。
毒を含む草花が多いこの庭は、毒の耐性がなければ立ってるだけで致死にいたる凶悪な庭なのですと。
……なんで枯らさなかったか、黒薔薇伯爵の子孫ども!
なんて思いもしたが、毒は使い方によっては薬にもなるので致し方なし。
毒素を凶悪なまでに振りまくこの庭で平然としていられるのは、耐性があるか毒素が自分を蝕まぬようにできるかだ。
俺とゼノは後者。
それなりに精霊術が使えれば、精霊たちが大気中の毒素から守ってくれるというわけ。
これだけなら別に二人もいらない。
一人がそうやって空気中の毒素から二人を守り、もう一人が毒素を含む黒薔薇を触れずに手折る必要があるからだ。
ゼノは精霊に複雑なお願いが出来るほどの腕はない。
毒素から守ってもらいながら黒薔薇を手折ってもらうというお願いが出来ないらしいのだ。
ちなみに俺は一人で両方のお願いをすることが出来るので、精霊が力不足というわけではないよ。
自分で出来なければ精霊がどの程度のことが出来るのかもよくわからないというもの。多分、ゼノは俺が一人で出来ちゃう事に気づいてないだろうね。そして、俺も言う気はない。
さらに言ってしまうなら、毒の耐性が多少なりともある俺はわざわざ精霊から守ってもらわなくても死ぬことはないわけだけど言わぬが華だろう。
「俺はあくまで協力者だから、浄化はゼノにお願いするね。俺は毒素から守る役するから」
庭に入る前にさっさと精霊にお願いする。
うん、対応が早くて助かる。瞬時に清浄な空気を作り出してくれてありがとうね。
その素早さに面食らったような顔をしたけど、何食わぬ顔で庭の中へと歩を進める。
「……これだな」
黒薔薇はその名前のとおり、黒い花びらだ。中央が若干青みがかった紫で、いかにも毒々しい色である。
黒薔薇伯爵の趣味の悪さが伺えるというものだ。
「じゃ、とっとと浄化しちゃって帰りましょう」
こういうのはぱっとやってちゃちゃっと帰らなきゃ。
今まで、余裕と思って油断するととんでもない面倒事が起きるのがカインだったわけで。
つい急かしてしまうのはご愛嬌。
ゼノは精霊にお願いして数本の黒薔薇を優しく手折る。
これ、浄化したあとに普通に手折ればいいじゃんって思ったんだけど理由があった。
浄化してから折るまでのほんの数秒の間に、浄化した範囲にまた毒素が回るらしい。浄化したと思って触っちゃうと毒素に犯されるという迷惑な植物だ。回避方法としては折ってから浄化すること。こうすると毒素が回らないらしい。
ということは、根のほうから毒素が回っているということか。
ま、それはいいとして。
ゼノは渡してあった魔法具『ファルムクライ』を取り出し、目の前にある数本の黒薔薇に向けて構える。
そして、手に持った『ファルムクライ』に魔力を込めるとぽわっとした優しい光が出て黒薔薇数本を照らし出した。
この魔法具、浄化という希少な効果を発揮するのだが使用の際は実に地味だ。
ぶっちゃけ効果さえ得られればいいので、地味とかは関係ないかもしれないが人気はあまりない代物であったりする。
それはともかく。
浄化の終えた黒薔薇は幾分先ほどよりも潤い、しっとりと濡れたような状態である。
見た目的にはほとんど違いが見られないそれをゼノが丁寧に『凍牢』へ閉じ込めた。
「かんりょー、だね」
一連の作業を見守り、完遂を認める。
あくびを噛み殺したので舌足らずな響きになってしまったのは内緒だ。
「それにしてもすごい量だよね。全部毒になりうる花ばかり、か」
庭に咲き誇る花々ではあるけれど、その全てが毒を含んでいる。ほとんど、じゃなくて全て、だ。一般的には知られていない毒花もある。根にだけ毒があるとか、葉っぱにだけ毒があるというものだ。
都会から離れた場所に立つ館。
そこで育てられるは毒ばかり、ってかんじか。そりゃ疑われもするよね。
「……ティティは犯人じゃねぇ」
「まぁ、それについては否定も肯定も出来ないよ」
肩をすくめて答える。
本人をよく見知っているわけでもないので答えようがないからだ。
「ただ……」
例の盗賊団はどうやって黒薔薇の毒を使った……そして、手に入れることができたのかってところだ。
咲いている場所は庭だから外部からこっそり持って行くことは可能。
その場合、今回の自分たちのように精霊術を使える奴が行ったか、毒に耐性を持つ奴が行ったか。
仮に精霊術で行った場合、どうやって持ち帰るのか。
黒薔薇自体が毒素を大気に撒き散らすタイプだ。
そのまま持ち帰れば盗賊団内で毒にやられる者が続出する。なら、この場もしくは人のいないような場所で精製する必要がある。
盗賊団に身を落とし、こんな姑息な手段を用いる奴が高度な精霊術を使えるのか疑問だけど……
仮に使えたとして。
手が込み過ぎ。そこまでの手間が必要なら普通に市販の毒物を用いたほうが簡単だ。
黒薔薇を使う必要があったということになる。
毒に耐性を持つものだったとしても、少々割に合わない。
割に合うようにするには、毒に耐性があり毒薔薇を毒物として利用できる範囲に精製できる技術がある、かつ精製する方法が簡単であること、か。
「……そのままで持ち帰るのが良さそうだね」
土にもなにかあるのかもしれないし。
根っこごともらっちゃいましょうかねぇ。久々の研究でもしますか。
持ってきていた凍牢に似た希少な魔道具を使って土ごと数本をゲット。
凍牢と違って、これは魔道具の中が一種の異世界となっている。時間が止まっているのに停止世界ではない。ま、不思議空間だね。
これのすごいところは生きているのに成長しないところだね。
魔道具の名前、考えておいたほうがいいのかな?
ま、外に出まわることのない品だからいっか。
「さて。回収は完了したけど、どうしようか? このまま帰る? 屋敷を探ったりする?」
「……いや、一旦戻る。まずはこれを確保するのが最優先だからな」
「了解。じゃ、帰ろっか」
ゼノの言うことはもっともだ。
屋敷の中や毒花に関する資料も気になるところだけど仕方がない。
バランを回収して帰路に着きますかね。
薬草を知るには毒草を知れ、と言われるくらい毒と薬は紙一重。
薬は用法用量を守って正しくお使いくださいませ。
3/8 修正 名前間違い
誤)カインは精霊にお願いして数本の黒薔薇を優しく手折る。
正)ゼノは精霊にお願いして数本の黒薔薇を優しく手折る。
カインがストーカー疑惑(笑)は解消されました。
驚かせてしまった方、ごめんなさい。




