義理堅い男なのです
短っ……
今回、短いです。ごめんなさい。
「おかえり~」
夕方、閉店間際。
ようやくバランが帰ってきました。
あ、ようやくと言ったらまるでバランが寄り道して遅くなったみたいだね。
そういうわけではなく、待ちわびていたって意味。用事を思うとむしろ早かったんだけどね。
「どうだった?」
「どうって……大変だったぞ」
がしがしと頭を掻きながらもらってきてくれた手紙を俺に手渡してくる。
受け取ると、労をねぎらうのにアイスコーヒーをバランに渡した。
「ご苦労さま。悪かったね」
「いや、それは構わん。雇われているわけだしな……に、しても。まさか王都のギルドマスターを尋ねることになるとはなぁ……」
そう。
バランのお使い先は、この国の王都。
それも狩人ギルドのトップ、ギルドマスターその人に手紙を届けることだった。
「俺は善人じゃないからね。使えるものは使うに限るでしょ?」
「……」
知り合いであるギルドマスターに、この町の領主がカインに非道いことをしたってチクっただけだよ?
そんな目で見なくてもいいと思うなぁ?
まぁ、ね。
これを知ったらカインは怒って、盗賊団も領主一味も壊滅させるかも~? でも、面倒くさがりのカインのことだからいっそ知り合い以外の街の人間全部ヤっちゃうかもしれない。街だけならともかく、盗賊団は王都に出没するって聞いてるから、王都も壊滅かも?
そうなったら困るから、手をかしてほしいな?
っていう、ちょっと脅しが入った内容だったかもしれないけどね。
カインの過去を知っているだけにあのギルドマスターが断るはずもないだろう。
今は、無闇に人を殺しちゃいけませんと言い続けたから、滅多に人を殺すことはないのは分かっているだろう。
けど、壊滅させるくらいなら普通にしちゃいそうだからね。
顔を青くして、汗を滝のように流すサマが目に浮かぶようだね。
「ま、この件はあの人が上手く落とし前付けるでしょ。それはそうとね、バラン。こっちの盗賊団がらみで新展開」
「新展開?」
頷き、ゼノの話を簡単に済ます。
バランはなんとも言えない展開に、何となく辟易しているように見えた。
俺のせいじゃないのに。
「……まぁ、話はわかったが」
「手を貸すって言っちゃったからには、手を貸してみるつもりだけどね。全くの善意でするのもどうかなっと思ってるんだよねぇ」
「報酬か?」
「うん、それもある。結構な面倒事だしねぇ」
だからといって何かほしいってわけでもないし。
まぁいいや。それは追々考えるとして、と。どうやら来たようだね。
「いらっしゃい」
いつものカランカランという音と共にゼノが顔を出した。
「じゃ、明日の晩から行動開始ということでいいね?」
閉店後、俺、バラン、ゼノの三人で話し合い。
例のレイムトークへは明日の晩出発することに決まった。明後日が休業日なので、明日の営業は通常通りです。
報酬は、俺に黒薔薇を数本。
ついでにバランにも手伝ってもらうことにしたので、彼に臨時ボーナス代わりとしてお金をもらうことになった。
子供が生まれたら何かと入用になるからねぇ。頑張れ、パパ。
「さて。そんじゃ、俺らが無駄足にならないようにしておかないとね」
「あ? どういうことだ?」
俺の言葉に首を傾げるゼノ。
うん?
何を言ってるの?
「どういうって、無駄足になると損でしょ?」
「いや、まぁそうだが。てか、そうじゃなくてだな……」
何が聞きたいのかわからん。
しゃきしゃき話せー
「何をするつもりだ、と言いたいんだろ?」
ゼノの言葉を代弁するバラン。ゼノは「お、おぉ」と頷いた。
……ふむ、そういうことか。
無駄足にならないように、何をするのかを聞きたかったのか。
「ゼノはティティっていう子を助けたくて、山に行くんでしょ? なのに、行ってる間にその子に何かあったら元も子もないからね。これは俺が無駄足踏みたくないっていう理由だからサービスしといてあげる」
「守ってくれるってことか?」
「そゆこと。まぁ、実はゼノから話を聞いた時点で探して見つけてあったんだけどね」
仮とはいえ、手を貸すと約束したからね。
俺は義理堅い男なのです。
ゼノは驚きに目を見開いているね。
うんうん、見直すがいい。おっと、惚れるのは勘弁してね。
「でもどの程度までやったらいいかの加減がわからないから、留守のあいだは道具に頼るのが手っ取り早いかなっと。そこでおすすめなのが、こちら!」
あ、今の俺の言い方ってインチキ商人みたいだった?
まぁいいや。俺はにやり、とあえてインチキ商人を意識して悪どい顔を作る。そして、手にした液体の入った瓶を二人に見えるように掲げる。
「なんとこれは、永久なる眠りへと誘うと言われる超強力睡眠薬! その名も『永眠薬』という不吉極まりない薬です」
「……」
「……永眠って……つまり、死……?」
「むふふー、昔は安楽死用に使われてたみたいだね。ちょっと薬に手を加えてるから、今回のは永眠はしないと思うよ。使い方を間違えなければね」
瓶をゼノの前に置く。
ゼノは非常に戸惑ったような表情で瓶を見つめた。
はっはっは、そんな警戒しなくても劇薬じゃないから大丈夫だよ。
「一対九の割合で薬と水で混ぜ合わせてある。これ、香水とかいれる瓶なんだけどね、キャップを外したら霧状に中の薬を噴射出来るようになってるんだ。敵の顔に向けて噴射すると、その匂いだけでも効果が出て眠ってくれると思うよ」
「へぇ……すげぇなぁ」
俺の説明を聞いて警戒がなくなったのか、瓶を手にしたゼノ。
「薄めてあるけど、効果は抜群だからあんまり乱用すると自分や他の関係ない人まで眠っちゃうから気をつけてもらって。あと、毒とかではないからそこは安心してくれていいよ」
「あぁ、わかった。助かる」
ま、俺が無償でやるのはこんなところかな。
実はこれ、俺がアルテナに持たせているピンチ脱出道具のひとつだ。見た目も大きさも持ち歩くのに無理のないものだし。
今、ティティがどのあたりにいるかの情報を伝え、ゼノに今から届けさせる。
どうやって、どう言いくるめて渡すのかちょっと興味があったけど、それを覗き見るのは野暮というものだろう。
ついでに、バランにも一つおすそわけ。
奥さんは妊婦さんだからねぇ。まぁ、お守り気分で持っててもらえればバランも多少は安心かなぁとかいらぬお節介をやいてみた。
……まぁ、うん。
レニーにも過去渡したことがあるけど、手にして速攻、それをカインに向けて放ったことがあるのを見てた俺としてはそれはバランにとって諸刃の剣となる可能性もあることを知っているけどね。
バランが奥さんに誠実であれば、向けられることもないと思うので口を閉ざしておくよ。
カインには当たり前のように効かなかったけど、バランにはあれを防ぐすべはないと思うから。
ゼノさんのキャラが迷走中。




