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平和主義者だけど短気です

ブラックレイン、降臨です




 聞き出した品は、珍しい物もあったにはあったけれど唯一無二の代物というわけでもなく。

 盗賊団の目撃証言というのも非常に曖昧で誰と特定できる要素もなく。


「役にたたない……」


 まさしく情報を聞き出した感想はそれだけだった。


「念のための確認だが、カゼロインスが関与している可能性は?」


 検使官連中はすでに全員手当をした上で縛り上げ、隅っこに置いてある。

 バランは現在、モップ片手に掃除中。

 誰かのせいで床に血痕が付着しましたからね。


 掃除中でもバランは話を聞いておりました。で、先ほどの質問。


 俺は首を横に振る。

 で、補足説明。


「関与、という言葉で言うなら可能性はゼロじゃないけれどね。少なくとも、盗賊団の一味的な意味では可能性はない」


 もし、盗賊団を追いかけている連中と荒事でも起こしていれば一応関与になったりするのでゼロとまでは流石に言えない。

 俺の意図する意味が分かったのか、バランはひとつ頷いただけだった。


「ちなみに言うと『女神の涙』『ルビーアシュラ』『白銀のシルヴィアシリーズの腕輪』はウチで何年も前から保持してる」


 それぞれかなり貴重な品だ。

 『女神の涙』は精製が困難な高価な薬でもあり、王家の秘宝まではいかなくとも王家で管理対象になるくらいには貴重。

 万能薬と思われがちだけど、実際はそんな都合のいいものはない。

 もっとも、大抵のものなら一時しのぎは可能だろう。最も効力を発揮するのは、呪いや毒物。これらはほぼ全てに効き、治癒が可能とされる。故に、神聖な薬として女神だなんて大層な名が付けられる至ったらしい。


 『ルビーアシュラ』も単に貴重な鉱石というだけだ。

 赤い宝石でルビーと呼ばれるものの中でも、黒ずんだ赤色というか、濃い赤色を宿し、それでいて一等透明度と輝きが違う。


 あと、『白銀のシルヴィア』シリーズというものがあって、一昔前の英雄シルヴィアの持っていたとされる武具一式を差す。一人分の武具など世界規模で見れば少ないだろうけど、英雄たるものが武具をひとつしか持っていなかったわけでもなく…………まぁ、数十点は確認されているよね。

 

「……っ……そんなものを持っていたのか……」


 ほかにも探せばいろいろ出てくるかもねー

 なんせ、途中から鑑定とか面倒だったし。もらった際にこれはどういうものでとか説明されたのを覚えていただけだ。


「そういうのを持っていても、自慢するでもなく飾って眺めるわけでもなく。ただ倉庫に眠らせているだけのカインがわざわざ盗賊としてモノを盗む理由なんて俺は考えつかないね」


 検視官たちは俺の台詞に何も言えないでいるらしい。

 てっきり、何年も前から持ってるなんてのは嘘でここにあるのが今回盗んだ品だろうとか言い出すと思ったのにな。


 まぁいいや。


「ところで、なんでカインが犯人だと思ったのか。その経緯について聞きたいんだけど?」


「…………」


 だんまり、かな?


 じっと観察していると、バルトウスは視線を動かさなかったがシャノンと検使官Bはちらりと検使官Aを見た。

 そういえば俺がちゃんと調査したのかと問い詰めていた時に一人激昂していたな。

 こいつがカインが怪しいと言い出し、ほかの三人はカインならやりかねないと便乗したってところか。


 じゃ、なんでカインが怪しいと思ったのか。



 一、単純にカインに恨みがある。


 二、真剣にカインだと推察した。


 三、もともと盗賊団とグルで、犯人に用意したのがカインだった。


 四、何らかのアクシデントで、そうせざるを得なかった。



 取りあえず思いつくまま考えてみたけれど……さっぱりわからん。

 引っ掛けてみるかねぇ。


 検使官Aに狙いを定め、尋ねることにした。


「お前が犯人だね?」


 びしぃっと指を差し宣言するように言ってやった。

 当然向こうはえぇぇぇぇぇえ!? って顔をして、ぶんぶんと首を横に振る。


「こんな曖昧な情報だけでカインを犯人扱いするなんて、実は内部犯じゃないかと思うんだ。君はやけにカインを犯人に仕立てあげようとしていたし、十分に怪しい!!」


 まぁ、半分嘘だけどー


「ち、ちがっ……」


 半泣きになって否定してきた。

 本気? 名演技?


「さぁさぁさぁ、吐いちゃいなよ? 楽になるよ~? 実は盗賊団とグルなんでしょ? 本物の隠し場所知ってるんでしょ? 今なら君だけ無事でいられるように上手いこと話し合わせてあげるからさ、言っちゃえ!」


 軽く拳を彼の胸に当てて、ぐりぐりぐりっと押しながら囁く。

 多分、今の顔は凶悪だろうなぁと思いつつ悪い笑いが止まらないっ! ふふふっ、悪役って心が晴れるよねぇ!


「ち、違います! 俺は……本当に、違う……です…………た、確かに! 黒い狼に罪をふっかければいいって思ったけど……グルってわけじゃ……」


 おや?

 あっさりすぎてつまらない。

 もうちょっと虐めたいのに……しかし、白状しちゃったしな。これすら演技なら大したものだけど、と。


「へぇ~……グルじゃないんだぁ? 捕まったらそう言えって支持されてたの? 切り捨てられるんだねぇ?」


「だ、だから! 俺は違う!!」


「犯罪者を取り締まるはずの人間が、犯罪に加担するなんてねぇ……嘆かわしいねぇ」


 どんどん蒼白になっていく検使官A。

 ぞんざいな態度とカインに罪を擦り付けようとした罪はこの程度で終わらせないよ。


「……マスター……」


 うん?


「なに、バラン?」


 振り向いて何かと首をかしげると、バランは顔を引きつらせて落ち着けと言ってきた。

 俺は落ち着いてますよ?

 冤罪を仕掛けようとしたんだ、冤罪吹っ掛けられて苦労でもすればいい。


 そんな俺の心の声が聞こえたかのように、検使官Aは声を張り上げた。


「お、俺はただ! 言われた通りにしただけだっ!!」


 言われたとおり?

 ふむ、奇っ怪な言い方をする。つまり、


「へぇ? 誰の?」


 背後に誰かいるってアクセントだね。


「う……それは……」


「それは?」


「…………っ……」


 先に言っておくけれど、俺は平和主義者ではあるけれど短気な質である。そこを勘違いしないように。

 比較対象が主にカインなので気の長い人だと勘違いする人が多いんだけどね。


 さて、そんなわけで黙っちゃう奴にはお仕置きだぞ!


 瞬間、ボキっと骨の折れる音が小さく聞こえた。

 犯人?

 俺ですけど何か?


「ぐあぁぁぁぁっ!?」


「おっと。すいませんねぇ、思わず力が入っちゃって。あははは、でも大丈夫ですよ。たかだか指の一本、変な方向に折れ曲がっただけじゃないですか? それより、誰に何を言われたんですかね?」


 骨を砕くような真似はしていないので傷は浅いぞー

 さぁさぁ、早く言いなさいな。


「ウ……ウラバスト様だ……」


「ウラバスト?」


 誰それ?

 様付きってことは偉い様だな。王都の貴族とか絡んでるの?


「……領主がどうして……いや、この街からカゼロインスを追い出すためか……?」


「領主?」


 バランの言葉に反応して首をかしげると、バランが信じられないとでも言いたそうな目で俺を見た。

 そんなに有名な人なの?


「…………え? 知らないのか? ウラバストと言えばこの街の領主の名だろう?」


 へぇ。知らなかったな。

 そんな名前なんだ。っていうかこの街に領主とかいたんだねぇ。


 ふむふむと頷いている俺に、知らないということを感じ取ったのかバランがため息をついた。

 そんなにウラバストとか言う奴のことは常識範囲なのかっ!?


「……まぁいいや。それで、そいつがなんて言ったの?」


「…………」


 ん~?

 まただんまりですかい?


 にっこりと黒いオーラを発動させたのを感じ取ったのか、検使官Aは怯えた表情をして素早く答えた。


「黒い狼が犯人だから、さっさと捕まえて王都に連行しろ、と」

   

「黒い狼が犯人だと断定したんだね?」


 ふぅん……

 俺は顎に手を当てて思案する。


「マスター、どうするつもりだ?」


 おっと。

 またもや黒いオーラが吹き出してしまっていたかな?


 俺はバランが安心できるようににっこり微笑むと、一言方針を口にした。


「抹殺決定だね」





レインは自分のことを分かっているようで分かってません。

平和主義者だと思い込んでいるだけで、彼は真実、平和主義者ではないですよ。のんびり過ごしたいっていうのは本心。のんびり過ごせるはずもないから憧れているだけで、実際何もないと退屈になるわがままな子です。

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