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観察結果


「どう思う?」


「仕事の依頼者、という可能性もある」


 ぼそぼそと話をする二人をバランと観察中。お客さんも徐々に増えてきたので会話を聞き取るのは至難の業だ。裏技あるけど、それをするほどでもないし。


 怪しさ満載の商人風な男が素人狩人に何を依頼するんだろう?

 それとも、狩人の子が怪しい男に何か依頼しているとか?

 可能性としてはそっちのほうが高いかな。情報を買うとか、ちょっと表の世界でおおっぴらに売れない品物を買うとか。

 暗殺といった闇商売とされるモノかもしれないよね。


 ただ…………


「狩人の子は乗り気じゃないようだね」


「……金のためにやむを得ず。が妥当じゃないか?」


「うーん。そうなんだよねぇ……ここから見ても悲壮感がかなりなモノだよねぇ」


 見てたら可哀想になってきたな。

 まぁ、事情もなにもわからないのに勝手な感想ではある。


 そうやってこそっと見ていると、男のほうが机の上にお金を置いて立ち上がった。

 どうやら先に出て行くようだ。


「ありがとうございました」


 空になっているグラスを取りに行った時に彼女の表情を伺う。

 ぼーっとしているし顔色も悪い。

 うーん。


「お客さん、おかわりはいかがですか?」


 声をかけてみるけど反応なし。くすん。

 聞こえていなさそうだし、ここは一度大人しく引き下がったほうがいいかね?



 




 さて。

 もうすぐお昼ですよ。


「…………流石にそろそろ動いてもらわないとだね?」

「だな」


 あれから動かない彼女。

 ちょっと可哀想だからそっとしておいてみたけど、お昼で混む前に動いてもらわないと困るしね。

 商売と私情はまた別物なのですよ。

 よし。行きますか。


「すいません、お客さん」


 何度か声を掛けたが反応はなかったので、今回はいきなり肩を揺すってみる。


「へ、は……はいっ!?」


 返事とともに顔に生気が戻ってきた。

 驚いて見開いた大きな瞳。こうやって見ると思ったよりも幼く見える。


「もうすぐお昼で混み出すんで、このままここに座るなら何か注文していただけるとありがたいんですけど? それとも何か事情があるようでしたらお伺いしますよ?」


「え……お昼? えぇっ!? もうそんな時間!? ご、ごめんなさい!!」


 あたふたわたわた。

 意味もなく手を動かしたり目をきょろきょろ彷徨わせたり……と思えば思いっきり頭を下げて謝られた。

 そして、おかわりは頼まずに急いで店を出て行く。

 大丈夫かな?


 


    ◇     ◇



「ってことがあったんだよね」


 夕方近く、狩りから戻ってきたイグニートに朝のことを話してみた。

 ジャックやドットは微妙に口が軽そうなので、こっちの話を聞かないようにとバランが相手をしている。マーニャさんはよく分からないので迷ったが、ジャック達と一緒に騒いでいるので放置だ。


「狩人のハイリスクはこういった点も含んでいるな。闇業の奴らに目をつけられやすい……そういう意味でもギルドは重宝されているわけだが」


 ふぅん。

 ギルドって一応、保護目的もあるんだな。ちゃんと機能しているとは言い難いみたいな現状だけど。


「今のところ実害がないから放置したけどね。事情もなにもわからないし。ただ気になったからさぁ」


 だから何か知ってたら教えて?


 そんな思いを込めてイグニートを見つめてみる。


 …………うん。

 無視された。しゃーない、白状するか。


「精霊って結構意思があってね。僕もカインも精霊術を使うんだけど、カインなんかは精霊に好かれる筆頭なんだよ。イグニートはそれが何故か知ってる?」


「そうなのか? 初耳だ。知らないな」


 本当に知らないみたいで、瞳に好奇心の色を浮かべる。


「精霊術ってのは魔術と違って、途中で使えなくなる人がいるのは知ってるよね?」


 これは有名な話だ。

 それ故に、精霊術を使えても魔術を学ぶ人は多い。イグニートも頷いた。


「あぁ」


「そもそも使える人が少ないんだけど、それでも世界で認識されているよりも使える人ってのは本当はわりと多いんだよ。ただ、大半は途中で使えなくなるのと、使える素質があっても使う必要がない、もしくは使い方がわからない場合が多いからだね」


「どういうことだ?」


「単純にね、精霊は子供を好むんだよ」


「子供を……好む?」


 本当に初耳みたいだね。

 まぁ、精霊術を行使する者ならともかく、そうでない者が詳しいことは稀か。


「赤子は使える素質を持ってる子は多いよ。ただ、赤子だから使えないし、周りも気づかない。物心がつく頃までには大抵の子は使えなくなってる。この状態が一般的。幼少以降でも精霊術を使える人っていうのは、たまたま精霊に気に入られたとか加護を与えられるようなことをしただとかかな? この辺は曖昧なんだよねぇ」


 気まぐれな存在なんだよね、精霊って。


「精霊術って基本的に幼少時から青春期までが一番使いやすい時期なんだよね。最も精霊に好かれる時期だから、精霊のやる気があって構築速度もあるし最低限の魔力だけで済む。もっとも術者本人からすれば、術の構築に慣れていないから容量が悪くて気づかない」


「ほぉ……それで? なんだって急に精霊術講座が始まったんだ?」


 うん。

 やっぱりいきなりの話題に疑問を持ったか。


「焦らないでよ。えっとね……つまり、精霊って例外を除いて子供か子供並みの自然……純粋って言ったほうがわかりやすいかな? そういう存在を好むんだよね。知ってるか分からないけど、カインはまさに純粋な存在なんだよ。子供のように善も悪もなく、思うままに生きてる。故に、最も精霊に好かれる存在なんだ」


 若干、眉間に皺を寄せながら俺の話に聞き入る。

 わけがわからないってことはなさそうだ。俺の言葉を拾い、理解しようとしている。


「気まぐれなんだけど、精霊がその人の指示とは別に全くの好意でその人のために動くことがあるんだよ」


「全くの好意で……動く?」


「そう。本来魔力を差し出す代わりに動いてもらうところを、なにも差し出さずに動いてくれる。ただし、勝手にという注釈は必要。で、本題。その女の子の周りに勝手に動く精霊を感じたんだよね」


「は?」


 お?

 イグニートが珍しく困惑した表情で固まった。


 まぁ、いきなり本題に切り替えたわけだしこの反応は仕方ないか。


「カインがそばにいるからねー、使役してる精霊と勝手に動く精霊の見分けがなんとな~く出来るようになちゃって。密かな自慢だよ?」


「…………そうか。それはすごいな」


 いや、全然凄そうだとか思っていない目だけど?

 ちょっと半眼で睨まれているような気がするんだけど?


 コホン、とひとつ。咳払い、と。


「その勝手に動いてた精霊は、その女の子を気に入ってるというわけではなさそうだったね。商人風の男については近づきたくない! って雰囲気だった。少なくとももう一人、精霊術を使える人が関わっていそうだよね」

 

「ふむ……」


「しかも、心当たりはあるときた」


「……は?」


 おぉ。本日二度目の表情。

 俺はにやりと笑ってしまったよ。


「ギルドでその女の子が絡まれているところを助けた、精霊術を使える男がいたんだよね。見た目二十代前半。野性的な顔立ちで口が悪いけど、お節介。結構いい腕だったよ」


 何か考えているのか思い出しているのか。

 イグニートが眉間に皺を寄せたまま目をつぶる。


「もしかして、ゼノのことか? それともラーサ? いや……」


 おぉ、ぶつぶつ独り言をいいだした!?


 独り言は無視して、こうやって見ると……ふむ。

 改めて考えるとイグニートってわりとイイ男だよね。そういえばモテそうなんだが謎だな。デレてるところが想像できないし。


 どうせイグニートは自分の世界だし、ここはジャックにでも聞いてみるか。


「ねぇ、あのさー」


「あ?」


 話の途中で割り込む。

 すると不機嫌ながらもちゃんとこっちを向いてくれた。変なところ律儀だよね。


「イグニートって結婚してるの?」


「は?」


 あー……うん。

 今のジャックの顔で答えがわかったわ。いないんだね。なら質問を変えてみるか。


「ていうか、イグニートってモテるの?」


「あぁん?」


 おぉ。すごい、こっちもジャックの嫌そうな顔だけで答えがわかった。

 確実にジャックよりもモテるんだね。

 ていうか、ジャックがモテなさすぎるという説もあるな。

 

 うん。

 哀れだな……お前にはきっとそのうち、いい人が見つかるよ。うん。


「いや、いいや。なんでもない、お話どうぞ続けて~」


 ひらひらっと手を振って離れる。


「おい、こら! 何なんだ、てめぇはよっ!? つか、今のって俺に喧嘩売ってんじゃねぇのか!? さっきの憐れんだような目は何なんだよっ!?」


 やだやだ、ジャックの声はもはや騒音だね。

 あっはっは。


「落ち着け、ジャック」

「お前、マスターにいじめられてねぇ?」

「というか、遊ばれてるんじゃないかしら?」


 何か聞こえるけど俺はきっと関係ないな。うん。





イグニートは未婚ですよ。当然、他のメンバーであるジャック、トッド、マーニャも未婚です。

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