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新商品考え中




 三日後、帰還したカインに巨大魚の捕獲依頼を受けるように説得。

 討伐じゃなくて捕獲だと念を押しておいたけど、まだ不安が残ったのでレニーに同行をお願いした。レニーはカインに甘いからまだ不安は多少残るけど、あまり心配しすぎてもなぁ……

 ちなみに、説得するのにとっておきのお酒を三本消費した。


 なんであんなにお酒が好きかな。

 どんなけ飲んでも酔わないくせに……すげー勿体無い気がするんだよな。


 思い出すと思わずはぁっとため息をついてしまう。

 それを正面でモノを食べていたアルテナが聞き、顔を上げた。


「どうしたの? お疲れ?」


「まぁ、うん」


 もうすぐ閉店時間。

 一日の疲れが溜まってくる時間でもある。


 もっとも俺の疲れは別のところにあるんだけど、特に口に出して言うことでもなし。

 それよりも。


「量はもう少し減らして安くした方が良さそう?」


「女の人が多いもんね。私はそっちのほうがいいと思うけど……やっぱり狩人さんなら、これくらいの量は欲しいんじゃないかなぁ?」


 実はいま、アルテナには新作メニューの試食をしてもらっている。

 我ながらメニュー数はわりとある自信があるんだけど、こういう試行錯誤は常にやっていかないと廃れてしまうからね。


 今回作ったのは、簡単に作れるパンケーキだ。

 材料も手頃で値段も手頃で売り出せる。

 

「トッピングも考えどころだな。スタンダードにはちみつだけにするか、フルーツも付けるか」


 バランも加わって考え中。

 元狩人のバランは、とにかく量がほしいタイプだったらしい。

 逆にアルテナはアイスやフルーツをつけたり生クリームを乗せて、おやつとして食べたいものらしい。


「うーん……面倒だけど、四パターンくらい作って選んでもらうようにするか?」


「そうだな。この店はあまりデザート類の種類が豊富じゃない。それくらいなら増やしても構わないと思うが」


「もともと狩人も入れる店ってことで始めたからなぁ」


 実は当初、女性客はそれほど見込んでいなかった。

 ところが現時点での七割のお客さんが女性。ついでにこの店の客の五割がギルド職員だ。


 おかげで想像していたよりも揉め事は少なく済んでいる。




 結局、はちみつがけ、アイス付き、フルーツ付き、生クリーム乗せと、それぞれプラス料金を設定し、ひとつだけでも全部でも好きなものを注文してもらうことになった。同じように、パンケーキ追加もプラス料金で出来るようにする。


「なんか間違えそうだなぁ……」


 若干の不安があるものの、慣れるしかないと割り切って予想売上を計算していく。

 材料はどれくらい買っておこうかなぁ……


 この予想というのが難しい。

 保存できる食材ならまだいいが、生ものはやはり早く使い切らねばならない。余れば自分で処理するか、捨てるしかないので慎重に考える。

 そう考えれば、カインと旅をしているときは案外気楽な毎日だったな。

 もっとも、今はこうやって悩んだりするのも楽しいので旅に出たいと思うこともないけれど。


「よし。こんなもんかな……バラン、来週くらいから一回売ってみようか?」


「そうだな。メニュー表も作り替えたほうがいいか?」


「いや、まだいいよ。まずはお試し作品ってことで、メニューの一番最後に書くだけにしておく」


 わざと書き足しました、って感じでね。


「新作ですってアピール?」


「そ。アルテナはそういうの好きでしょ?」

 

 アルテナの言葉に頷き、逆に聞いてみる。


「つい、どんなのかなって頼んじゃうんだよね」


 あはは、と笑う。

 昔からそういうのがあると気になって、いつもうんうん悩むのだ、この子は。

 女の人は多いよね……それを狙うんだから何とも言えないか。


「そういえばディアも、そういうの好きだな」


「あ。やっぱり?」


 心当たりがあったらしいバランもうん、と頷いた。

 逆に男の人は関係なしに定番を好む人が多いみたいなんだよね。

 でも一回くらいはどんなのだろうか? っていう好奇心はわりと多くの人が持つものだ。


「さて。じゃ、閉店しますか。アルテナはもうちょっと待っててね? 家まで送るよ」


「うん! じゃ、何か手伝う」


 あー、アルテナはいい子だ。試食してくれた上にお手伝い。

 言えば子供扱いするなと怒られるけど。


「それじゃあ、各テーブルを拭いていってくれる? バランは床掃除で」


「はーい」

「了解」


 俺はいつも通り、まずキッチンの片付け、と。

 その前に閉店のプレート掛けてくるか……


 と、外に出るのに扉を開けたら人がついてきた。

 うん?

 おかしい。扉を開けたら人がついてきたって……おかしい!


「…………えっと?」


「お、おう。驚いた……」


 正確には、扉を開けるタイミングがかぶっただけで、俺と同じようにドアノブに手を置いた人が外に立っていた。

 カランカランなる音が滑稽に感じる。


 いらっしゃいませ?

 いや、閉店だから、今日の営業は終わりました、すいません?


 なんと言おうかと逡巡している間、そこにいた人もなにやら考え事をしていた。


「「あの」」


 おぉう。かぶった!


「ど、どうぞ」


 とりあえず先を譲る。

 その人……髭のおっちゃんは、おたおたとしつつも野太い声で「す、すまんな」と一言謝ってから用事を言い出した。


「人を、探しているんだが……少し構わんか?」


「人を? はぁ、いいですけど。ちょっと失礼……バラン、アルテナ。ちょっといい?」


 あんまり無視できない内容だったので、仕方がない。

 掃除中の二人に声をかけて、とりあず中断してもらう。


「取りあえずどうぞ」


 入口近くの席に座っていただく。

 一応喫茶店なので、水くらいは出しておくか。


「どなたをお探しで?」


「ティティという名の女性だ。狩人をしていると聞いたことがある」


 ティティ?

 まったく記憶にない名前だ。


 表情で察したのか、髭のおっちゃんは「知らぬか」と肩を落とした。


 バランもアルテナも知らないようだ。

 俺も常連以外の名前なんてほとんど知らないもんなー


「一応、特徴なんかお聞きしても?」


「あ、あぁ。丁度お前さんくらいの年齢だ、確か……十七・八歳。水色の髪と緑色の瞳で、色白」


「ふんふん」


「…………以上だ」


「……え!? 終わり?」


 思わず突っ込んでしまったが、気を悪くした風もなく……むしろ、申し訳なさそうな表情をして頷いた。


「それしか分かっていないんだ」


 こういっちゃ何だが、まったくわからん。

 そんなお客さんいたかなぁ?


「…………あ」


 そういえば、あの子って水色の髪だったな。目の色までは見てないけど……年齢は俺とそう変わらなさそうって思った気がする。


「心当たりあるのか?」


 バランが俺に聞いてくる。

 そんなにわかりやすく表情に出るのかな、俺?

 まぁいいや。


「この前狩人ギルドにそれくらいの年齢の水色の髪した子ならいましたよ。目の色までは見てないんでわかりませんでしたが」


「そうか……いや、すまんかった。ありがとう」


 髭のおっちゃんはにこやかに笑って頭を下げた。

 この人は悪い人には見えないけど、どういう事情で人探しなんかしてるのかねぇ?


 探ってみようかと一瞬思ったけど、やっぱりやめておいた。

 今は気ままな旅人ではないのだ。

 余計なことに首は突っ込まないでおこう。






 ◇  ◇  ◇





 レニーはカインと一緒に巨大魚捕獲に行っているので、しばらくは家にアルテナ一人だ。

 慣れているとは言え、長期間となればやはり不安は募るものだろう。

 もともとアルテナは寂しがりだし。


 そんなわけで、今日はアルテナの家に泊まる予定。

 ここは第二の我が家で、頻繁に止まっていくので俺やカインの私物も結構な量だ。


「レインの喫茶店からもうちょっと近ければ、もっと頻繁に通えるんだけどね」


 時間帯によって、一般人である女の子の一人歩きは感心できない区画である。

 

「アルテナが来てくれるのは嬉しいけど、俺は心配事が増えるから複雑だなぁ。少し落ち着いてきたし、出来るだけこっちに足を運ぶようにすれば拗ねたりしない?」


「拗ねてないもん」


「どーだか?」


「拗ねてはない! ただ、さみしいなっとは思うケド」


 甘えん坊め。

 素直なのはいいけど、子供っぽさが抜けきらないな。

 甘やかしすぎたか?


 なんて思うそばから、よしよしと頭を撫でてしまうのはどうしてだろうね?

 おかしいな、いつから姉と弟の立場から兄と妹になってしまったのか。


「あ、そうだ! この前お店にイグニートさんだっけ、来たよ」


「へぇ」


「傷薬とか、狩人さんが必要なのは雑貨屋さんに置いてあるからどうしたのかと思って話しかけてみたの。したら、漢方がほしいんだって言われちゃって」


「漢方?」


「そー。珍しいよね。でね、もっと聞いてみると、自分の分じゃなくて引退した先輩狩人さんへのお土産にってことだったの。ついでに健康茶を勧めたら買ってくれたよ」


 お土産に漢方……渋いな。


「それにしても、イグニートはマメだねぇ。書類整理とかもやってたし」


「狩人って言ってもいろいろだよね。お姉ちゃんは面倒くさがりだからそんなのやってるの見たことないし、人見知りするから狩人仲間もあんまり聞かないな」


 そうなんだよね。

 アルテナの方が遥かに社交的。


「カインが関わらなきゃ、動きにくいの一言で洋服もワンパターンだもんね」


「一時期よりずっと良くなったんだよ? 一応女の子の自覚あるし、肌とか髪の毛の手入れとか結構マメにやってるんだから」


 うーん。

 そうだっけ?

 まぁ、アルテナが言うならそうなんだろうけどさ。


「レインって本当、そういうのに疎い。この間も髪の毛切ったことに気づいてくれなかったしぃー」


「いきなり俺くらいまで短くなってたらわかるけど、あんなちょっとじゃ分かんないって」


 勘弁してくれ。

 そう思って話題を転換することにする。


「そういえばケーキ焼いたんでしょ? そろそろ食べない? アルテナの手作りケーキなんて久しぶりだし、楽しみだなぁ!」


「ホント!? すぐ用意するね!」


 作戦成功。

 すぐに表情を一転させていそいそ台所へ駆けていく。やれやれ。


 まぁ、でも。

 言ったとおりアルテナの手作りケーキは久々で楽しみなのは本当のこと。


「ふっふっふ~、力作なんだよ。ご堪能あれ~」


 じゃーん、という効果音でもついてそうな表情で持ってくる。

 その様子に笑みを浮かべながら返事をした。


「はいはい、堪能させていただきます」


 

そんなわけで。

一応メインヒロインのアルテナさんです。わりと常識人。わりと普通な人。


親しすぎて恋愛に発展する気がなかなかしない。

カイン&レニーがいるだけに余計、家族愛しか発揮されない現状。

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