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小話 カインの通常運転

残念な子、カインです。

実ははじめの設定は、クールな人だったんですがねぇ……




 護衛任務。

 随分久しい仕事内容だ。


 レインから言われて引き受けたが、隣町までならば散歩がてら丁度いい距離だろう。


 レニーがギルドで受注している間、近くの街路樹の枝に座る。

 街の木はあまり元気がない。

 自然に根付いたわけではなく、無理やり根付かされたからかもしれん。


 だが、人の手で育まれたこの木は、人の手なしに育つのは難しいだろう。

 家畜も同じ。家畜として生まれれば、野生に戻るのは困難だ。


 ギルドは好きじゃない。

 人が多いし、臭い。

 昔は面白い依頼とかあって頻繁に足を向けたものだが、今はそれほど積極的に依頼を受ける気にもならん。


 金を稼ぐ必要性も感じない。

 いや、酒は欲しい。

 出来れば美味いメシも食いたい。

 だが、そんなもんだ。それらが揃うだけの金があればいい。


 無ければ無いで、どうとでもなるけど……

 有れば有るに越したことはない。


「カイン、待たせたな。行こう」


 レニーが木の下から声をかけてくる。


 ギルドも人ごみも嫌い。

 それでも戻る場所はこういった人のいる場所。


 俺もレインも、野生に戻ることのできない家畜と同じ。


「……」


 木から飛び降りる。

 レニーに向かって。


「え……って、わっ!?」


 少しだけ精霊の力を借りて、地面に着く直前に体を浮遊させる。

 腕の中にはレニー。

 ぶつかったりはしないけど、驚かせはしたようだ。


 眦を釣り上げた顔をしている。


 だが、そんなのは瑣末なこと。

 腕のぬくもりは消えることなく、留まり続ける。

 人の手なくして育つのが困難なこの木と同じように、人の手なくして育つことのない俺。


 ぎゅうっと抱きしめて確かめる。

 

「か、カイン!?」


 このぬくもりが失くなったら、俺は育たない。


「んー……うん。レニー……」


「っ何だっ!?」

 

 くん と鼻をひくつかせる。

 レニーから甘い香りがする……


「レニーから美味しそうな匂いがする」


「~っそれは! えぇと、何だ。あれだ、その……」


 ぐいっと俺を引き剥がそうと足掻くが、何の匂いか特定したい。

 くんくん


「あ~う~……そ、そう! さっき、アイスクリームを食べた! クラの実の!」


 クラの実…………!?

 甘酸っぱくて、赤いやつか!?


「ほ、ほら。カインも食べるか? 一緒に買いに行く?」


「行く」


 アイスクリームの上にクラの実がのっているのか、混ぜ込んであるのか。

 俄然興味がある。

 早速行こう。


 レニーが抱きついたままだと歩きにくいだろうから離すと、少しほっとした顔をした。

 息が詰まるほどきつくした覚えはないが……?

 まぁ、いい。

 今はアイスクリーム。

 それと酒があればいいな。仕事中は禁止だとレインはうるさいが、レニーはその辺は甘いからねだってみよう。




 ◇  ◇  ◇




 ガラン っと音を立てて崩れ落ちていく積み上げた石たち。

 ぬぅ。

 手強い。


「…………」

「…………」


 ひとーつ ふたーつ みっつ よーっつ いつつーっと。


 ここまでは比較的簡単だ。

 慎重にむっつ目を…………


 ガタンッ


 という音と共に衝撃。

 そして非情に崩れていく積み上げた石たち。


 ガラガラガラ!


「……」


「……っ!?」

「ひ……」

 

 依頼者が小さく悲鳴を上げた。

 やはり彼らも俺同様、残念に思っているのか。


 護衛依頼者の荷台にただ乗っていても暇なので、石をどこまで積み上げられるかゲームを実施中だったが……

 場所が悪い。

 土台となるのが荷台のため、道中揺れる。

 そして、たまにさっきのように石か何かの上に乗り上げたりなどしてすぐにダメになる。


 俺の積み方が悪いのか?

 いや。それほど悪くない積み方だったはずだ。

 ならどうする?


 むぅ…………


「おい」


「ひぃっ!?」

「はひぃっ!?」


 依頼者は奇妙な返事の仕方をするんだな。


「もっと静かに動かせ」


「す、すみばぜんっ!!」

「がんばりまひゅ!」


「?」


 いくら田舎の人間でもこんな訛りは聞いたことがないな?

 まぁ、いい。


 また一からだ。

 ひとーつ ふたーつ みっつ




 ◇  ◇  ◇




「……遅い」


 暇だ。

 暇すぎる。

 石積みは飽きた。


「レニー」


「うん? 呼んだか?」

 

 前の方にいたレニーが声に反応してこっちへやってきた。


「そろそろ飽きたぞ」


 似たような道ばかりで、景色を楽しむのも過ぎた。

 

「…………仕方ないな。そろそろ限界だと思っていた……」


「行っていいか?」


「あぁ。早めに戻ってきてくれ」


「ん。わかった」


 許可が出たので、荷台から飛び降りる。

 この辺りに魔物の気配はほとんどない。人を見れば襲ってくるどころか逃げ出すようなものばかりだ。

 レニー一人で問題ない。


 ぐっと伸びをひとつ。



 そうだな……目指すはあの山。

 

 動くのは好きだ。

 目まぐるしく変わる景色も、感じる風も。

 目的もなく、ただ山を目指して駆け出す。


 人と同じような対話は精霊とはできない。

 それでも感じる存在が心地よく、意味もなく精霊を呼び出しては一緒に遊ぶ。

 風を起こして跳躍し、水をばら撒いて虹を出す。


 時々遭遇する魔物を火で燃やし、人の通る道に悪戯で落とし穴を作る。


 どんな娯楽より、楽しいと思うのに。

 俺以外にこの遊びに興じている奴は見たことがない。





 日が沈むころにレニーの気配がする元へ行けば、まだ街から遠い場所だった。

 休憩で飯を食べていたが、俺は遊んでいる途中でそれなにり食ったので別にいらない。

 それにしてもこんなペースだと、わたあめを食べるのはいつになるかわからない。


「ペースアップさせるか」


 馬と依頼者を置いて、荷台だけ外して先に街へ行っておくことにしよう。

 そうすれば奴らは馬に乗ってここまで来るだろ。



子供と大人が混在している複雑な性格です。

今回はほとんど子供でしたが、作者ですら手に余っている人なので、なんとか把握して書いていきたいと思う人物です。難しい……


ちなみにカインが静かに動かせとか言い出したからスローペースになったとか、もちろん言った本人は気づいてません。

荷台だけ先に持っていったことも告げていませんので、ご飯食べ終わった依頼者はさぞかし焦ったことでしょう。

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