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野次馬になってみた

メイルーさん達はカインに身内がいると知らずに驚いてましたが、ギルドマスター含め一部ではわりとレインが弟ってのは有名な話だったり。あと、カインとは知らずとも腕利きの狩人の弟ってのはわりと広く知られていたっぽい。



 一階のギルド受付に戻ると、ちょうどいいところにウェルさんが居た。

 向こうも気づいたようでこっちへと向かってくる。


「時間大丈夫でしたかね?」


「えぇ、いいタイミングです。無理を言ってすみませんでした」


 眉を八の字にして謝ってきたので、俺は「いいって、これくらい」とパタパタ手を振りながら答える。


 あまり長居して仕事の邪魔をしてもいけないので、とっとと退散することにするか。

 一度は引き止められたものの、ウェルさんも仕事中なのでわりとあっさり引き下がった。ミルティはどこか疑わしそうな目で俺を見ていたけれど……一応「ありがとうございました」ときちんとお辞儀してお礼を言ってくれたので不問にしておこう。


「それじゃ、僕はこれで」


 軽く手を振って商人ギルドをあとにする。

 その際、背後でこんな会話がされていた。


「ミルティ、勉強になった?」


「はい。商品のことについてはとても……ただ」


「うん?」


「あの人、何者なんですか? 喫茶店経営者とか言って、八千万もする商品を買うか買うまいかで悩んだりしてましたよ……危ない筋の人ではないんですよね?」


「あはは、八千万かぁ。それは確かに驚かせたかなぁ……彼は有名な狩人の弟さんで、彼自身も一部で有名でね。信用はある人だよ」


 聞こえてないと思って言うにしても……危ない筋の人って。

 俺、そこまで酷く思われていたのか……微妙にショックだな。


 その辺りはウェルさんがフォローしてくれると信じて、このまま立ち去るのが花だろう。

 振り返って突っ込みたい衝動を抑えて、狩人ギルドの方へと足を進める。


 こっちは人が多い。


 狩人はもちろん、ギルドに依頼を出す一般人もいるからね。


「あら、マスター? どうしたんですか?」


 きょろきょろしていると、ギルド職員のお姉さんが話しかけてきた。

 以前からここで働いていて、何度か話したことのある人だ。

 店にも時々来てくれる。


「ギルドマスターって今いらっしゃいますか? いなければ伝言を頼みたいんですが……」


「ギルドマスター、ですか。ええと……確認してきますね。ご用件は?」


「先日、義兄に書類を渡しておいて欲しいって頼まれた件です」


 少々お待ちください、と言い置いて奥へ引っ込む。

 ギルドマスターってほいほい簡単に会える人じゃないんだけど、何人かは俺の顔を覚えていて話を通してくれる。

 もっとも、今までは腕の立つ狩人の身内らしいってだけで、黒い狼の弟だと知っている人はほとんどいなかったみたいだけど。


 待っているあいだ、手持ち無沙汰なのでどんな依頼が出ているのか見ていく。


 数が多いのは護衛の仕事か。

 討伐の依頼はあまりない。と言うのも、もともと狩人の発祥は食料をとってくる人という意味からだ。魔物を殺すのが目的じゃない。


 ギルドでは食料となる魔物、獣に加えて果物や食べられる木の実等の買取を行ってる。

 そうなると自然と狩人たちはそれらを狩って持ってくるので、わざわざ依頼を出す必要がない。

 もちろん商人が個別で狩ってきて欲しいものがあれば依頼を出している。


「あ? なんだ、餓鬼。てめぇも狩人かぁ?」


 まじまじと依頼書を眺めていると、後ろから男の声が聞こえた。

 割と近い。


 …………まさかとは思うけど、俺に声をかけた?

 なんとなくそう思って振り向いてみる。


「この仕事は誰にでも務まるってもんでもねぇんだぜ? 餓鬼がこんなところうろついてんじゃねぇよ」


 明らかに俺を見てる。

 

「……えっと、僕のこと……ですか?」


「てめぇ以外に誰がいんだよ? ってか、へらへら笑ってんじゃねぇ!」


 えー……?

 俺以外にも一杯人がいるじゃん、普段客商売だから通常運転が笑顔になるのは仕方ないじゃん。


「どうしても狩人の仕事がやりてぇなら、数は少ねぇけどあっちのヤツにしろ。まだ危険が少ねぇ」


 んん?

 口調はあれだけど……この人、単なるいい人?

 

「って、そうじゃなくて。あの、僕は狩人じゃないです。すみません」


「あ? 狩人じゃねぇのか?」


 ……この人、なんでこんな高圧的に喋るのかね?

 野性的な顔立ちだが童顔で見た目は二十代前半。なんとなく強そう。口調がもう少しマシなら気のいいお兄さんなのに。


「どんな依頼があるのかと興味本位で見てただけで……紛らわしい真似をしてすみません」


「なんだ、違ぇのか。いや、ならいいんだ、俺の方こそ悪かったな」


 ぽりぽりと頭を掻いて照れくさそうに笑うお兄さん。

 そんな仕草になんとなく好感度が上がる。


「いえいえ、でもいきなりで驚きました。駆け出しの新人に見えましたか?」


「てっきりそうだと思っちまった。お前さん、強そうだからよ」


「え?」


「ん? 違ったか?」


 更に驚いた。

 初見で、それも戦闘態勢をとってるわけでも何でもないのにそんなことを言われるとは。

 はっきり言って俺は若いし、見た目はどこかの誰かさんみたいに威圧感があるわけでもないし、マッチョなわけでもない。それでも、多少の鍛錬はしているから体格はいいけどね。無駄な脂肪はないよ。


 それでもやっぱり、見た目は強くは見えないと思う。


「いえ、よくわかりましたね」


 肩をすくめて肯定する。


「やっぱりか! 強さに自信があるから報酬の高い依頼を受けて失敗する、なんて奴は多いからな。てっきりそういうタイプだと思ってよぉ」


「あぁ、そういうことでしたか」


 それはよくある、新人が陥る罠というか試練だな。

 これで若い才能を散らすことも少なくない。


「レイン君、お待たせ~」


 受付のお姉さんの声だ。

 何人かがちらっとこっちを見てくる。なんで餓鬼がこんなところにいるんだってところかな?


「はいは~い、今行きます! 呼ばれているので、失礼しますね」


 お兄さんに断って受付のお姉さんのもとへ。

 お姉さんは俺が来たのを認めると、手招きしてそのまま奥へと進んでいく。そのまま付いていき、奥の部屋まで案内されたところで、


「この奥の部屋にいるわ。中に入ったらお姉さんは仕事に戻るから」


「はい、ありがとうございます」


 俺が頷いたのを見てから、扉をノックして「レイン君をお連れしました」と声をかけると中から返事があった。

 そのままお姉さんに入るように促されたので失礼します、と声をかけつつ中に入る。


 その際お姉さんはばいばいっと気軽に去っていった。

 お姉さんの中では、俺のことはまだ小さい子供に見えるのかもしれない。


 と、気を取り直して。


 実は中に入ったのは初めてじゃない。

 前にカインを連行した時に一緒に入ったことがあるが、その時と代わり映えしていない。


 応接間用のソファと机はあるが、その奥には実用性重視の戸棚が並んでいた。


「おぉ、すまんな。わざわざ」


「いえ、こちらこそ突然の訪問に快く迎え入れてくださって感謝します」


 席に着きつつ、適当に挨拶を交わし合う。

 ギルドマスターなんて物々しい名称だが、この人はそんなに恐れるような人物ではないから気が楽だ。


「預かった書類は渡してありますが、受けるかどうかは不明です。個人的にカインに向いてないように思いましたが?」


「むぅ……向いておらんか。具体的にどういったところが……?」


 バランにも話したようなことを言いつつ、今はレニーと隣町の護衛の仕事に行っていることも告げておく。

 相変わらずカインの扱いは難しいと嘆くギルドマスターに同意したりしつつ。


「そういえば、商人ギルドで耳にしたんですが、王都に盗賊団が出没しているそうですね?」


「まぁ、な。被害がギルドまで及んでいるからな、流石に黙ってはおれん」


「災難ですねぇ……」


「あっさり言いおるのぉ。王都じゃちょっとした騒ぎじゃ、こっちも人手を回しておるから頭が痛いんじゃぞ」


 ギルドも大変だね。


「うーん……じゃ、ギルドマスターのためにひと肌脱ぎますかねぇ。巨大魚の捕獲、説得してみますよ」


「おぉ! 本当かっ!?」


「説得するだけで、受注するかは分かりませんけどね。それでも良いのなら」


 ギルドマスターは目を輝かせて俺の手を握り「構わん!」と叫んできた。

 いや、だから……怖いよ。そして、近いよ。


 顔を引きつらせながら笑顔を浮かべ、そろそろ帰りますと申し出た。

 






 


 

 わーぉ。

 何があった?


 ギルド窓口付近まで行くと、人が集まっていた。

 いや、部屋を出た時点でなんか騒然としてるなーとか思ったけど。


「……えー、すみません。何かあったんですか?」


 取りあえず近くの人に聞き込み。

 ギルド職員のおばちゃんが答えてくれる。


「私らも詳しいことはわからないんだけどねぇ、よくある狩人同士の喧嘩みたいよ。ほら、あの若い狩人の子達があの女の子を仲間に引き入れようとしたところをあっちの男の人が邪魔をしたとかなんとか」


 見てみると、俺よりちょっと上くらいの十代後半か二十代前半くらいの男二人が刃物を持って何やら叫んでいた。

 相対する方向に、同年齢くらいの女の人。で、その子を庇うように男……あれ? この人、さっき話しかけてきたお兄さん?


 ふぅむ。お節介お兄さんが、無茶した若者を止めたのかナンパに苦言を呈したかして揉めちゃった、てところかな。


 はっきり言って、武器を構えてる若い子達に勝ち目はなさそう。

 お兄さん、多分結構強いよ?

 見た目も構えも所作も、若い子達は新人さんぽい。

 これはすぐ決着つきそうだなー


 お兄さんの方は余裕綽々、まぁまぁ落ち着けって、なんて言ってる感じだし。

 女の子はちょっと震えてるかな?

 …………なんか、ミルティに似た子だな。髪の毛の色はほとんど同じだ。雰囲気も、おろおろしてるから分かりにくいけどいいところのお嬢さん的な?

 姉妹だったりして。

 髪の毛の色が同じだってだけでそんなことはないだろうけどねー


 なぁんて思ってるうちに。

 若い狩人が一人、動いた。片手剣を右手に持ち、一気に詰め寄る。低い姿勢から切っ先を振り上げるが、お兄さんは半歩後ろに下がってそれを避ける。追撃があるだろうが、お兄さんの後ろには動かない女の子。これ以上下がるのは無理だね。


 若い狩人その二はその辺り理解していたのかどうか、その間にお兄さんの右を陣取った。

 レイピアのような剣で胸あたりを目がけての突き。


 殺す気の攻撃だねぇ……若いなぁ。

 ま、お兄さんはこの程度でやられないんだろうけどね。うん。


 体を落とし、その場からは動かないまま上体を捻って突きをやり過ごす……うん?

 これは…………

 精霊術、か。


 お兄さんを中心にぶわっと一瞬風が吹き荒れる。

 一瞬の隙を見せた二人。初めに動いたほうがまず蹴り上げられ、次いでもう一人の方の鳩尾を肘打ち。

 どっちも吹っ飛んだことから見て、なかなかの威力だろう。


 ここでやっとギルド職員らしきマッチョなおっちゃんが止めに入った。

 といっても、ほとんど決着付いてたので野次馬がぼちぼちと散っていく。


 俺も野次馬だし、帰るかな。





前回、ミルティの態度の悪さに思った以上に反応がありました。

今回もまだ態度が悪いですが(汗)








ヒロイン候補か?という言葉もいただきましたが、作者はあまりハーレムが好きではない都合で今のところその予定はありません。ハーレム好きな人、ごめんなさい……

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