金と銀
国家軍本拠地「ペイズ」。その街にあるカフェに、世界最強となった佐藤 朱音がいた。
「うっひゃー! これうめぇーっ!」
外カフェで朱音はこの世界の料理「ガムデムラ」に夢中だった。チーズのように伸び、大トロのように舌でとろける味わった事のない食感と味に朱音は感動していた。
「朱音さん、僕あんまりお金持ってないんでお手柔らかにお願いしますよ」
朱音は大食いであった。運ばれてくるガムデムラを次から次へと胃袋に収めていく。他にも料理はいくつかあったが、朱音の口には合わなかった。
「はぐもぐもががが(心配すんな、いざとなったら食い逃げだ)」
「えぇ~……」
そんな二人を見つめる一人の人物がいた。国家軍NO5のディスガイズである。
ディスガイズは佐藤 朱音がキリヤとレイアを打ち負かしたという情報をすでに入手済みであった。
国家軍一級兵士は政府にとって、大事な駒である。その為、その駒を傷つけられた場合はすぐに報復行動に
出れるよう、それぞれの瞳には映像通信媒体が備わっている。一級兵士が見た映像は全て政府のとある場所に
送られているのだ。
「こちらディスガイズー、キリヤとレイアをぶっ倒したっつー奴発見。んで、隣にいる奴がマスターか。あーめんどくせぇ」
ディスガイズは通信機器で何処かへ報告をしていた。
「さて、いっちょ仕事っすっかねぇ」
ディスガイズは、通信機器をしまうと地上最強の生物「佐藤 朱音」の元へと歩き出した。
ディスガイズの戦闘能力は、キリヤやレイアに遥かに及ばない。よって、朱音に勝つ事など絶対に不可能。
だが、ディスガイズの表情に緊張は一切見られない。むしろ余裕すら感じる程だ。
ディスガイズは、食事中の朱音とクインツェの目の前まで歩み立ち止まると、二つのダガーを取り出した。
「食事中悪いんだけど、読死本奪いに来た、ぜっ!」
ダガーをクインツェの顔面目掛けて奔らせる。
「ひぃっ!」
急な出来事に小さな悲鳴を上げるクインツェ。そのクインツェに向かうダガーを、朱音は持っていたガムデムラで
弾き飛ばした。ダガーは宙高く舞った後、テーブルの上に突き刺さる。
「もごもごごごっ!(食事中に失礼な奴だなっ!)」
「あ、朱音さん! い、一級兵士ですよっ! や、やっちゃってくださいっ!」
即座に朱音の後ろに隠れるクインツェ。そんなクインツェを見つめ、ディスガイズはテーブルに突き刺さった
ダガーを抜きながら言う。
「お前ついてないなぁ。5冊ある読死本の中で【一番使えない本】を手にしちまったんだから」
「え? 一体どういう……貴方何か知って――」
「こういうことだっ!」
ディスガイズは朱音を完全に無視し、クインツェだけを狙いダガーを向けた。
確かに召喚した佐藤 朱音は至上最強の生物だ。だが、クインツェ本人は全くの一般人。
クインツェの命さえ消えれば、同時にマスターを失った朱音も消える。
人は誰かを守りながら戦うとなると、その戦力は本来持っているモノの十分の一にも落ちると言われている。
よって、クインツェを狙えば朱音も怖くはなく、どの読死本よりも簡単に入手が可能。
そう考えたのだが――。
「もごもごごごごもごごーっ!(だから食事中だっつってんだろー!)」
「なっ!?」
朱音の光速の拳がディスガイズの顔面を捉え、吹き飛ばした。
ディスガイズはたったの一撃で戦闘不能に陥った。
そもそも、朱音は誰かを守りながら戦ったとしても十分の一程度に戦力が落ちただけでは、誰にも負ける事はない。
何故なら朱音は単純にディスガイズの十倍を遥かに越える強さを得ているのだから。
「あ、朱音さんありがとうございますー!」
「もぐもぐ(当然だ)」
だが、難はまだ去ってはいない。いつの間にか、朱音とクインツェの周囲には、国家軍兵と一級兵士数名が取り囲んでいた。
ここは、国家軍本拠地「ペイズ」。世界中の強者が集まる街である。
数時間後、とあるカフェの周囲には国家軍兵の山が出来上がっていた。
「ふぁぁ……食事した後の運動はあんまりよくねぇな。やっぱり」
たったの一人で「ペイズ」に残存する全ての国家軍兵を朱音は倒してしまった。
「一級兵士新人のカタナに、NO7の宗一、NO6のゼータに、NO5のディスガイズ
それからNO4のデスとNO3のユリ……、一級兵士が5人も混ざっていたんですね」
クインツェは山に転がる一級兵士達の顔を確認しつつ、苦笑いをしながら言う。
国家軍の崩壊。それは世界政府にもすぐに伝わった。
だが、今世界政府は国家軍の崩壊などに構っている余裕はなかった。
世界政府には、国家軍と同等かそれ以上の戦力を備えている。にも関わらず、今世界政府はたった一人の青年によって
壊滅させられようとしていた。
「な、なんなんだあいつは! 何故だ! 何故誰も手を出せない!」
世界政府の頂点に君臨する男、リア・クレイはたった一人の青年に慄く。
クレイの周囲には、一級兵士のランテーンと捕らえられたユキがいた。ユキは液晶に映し出されている
青年の姿を見て驚きを隠せずにいた。
「ねぇ、パパ。やっぱり僕が直接行くよ。だってあいつ読死本持ってるんでしょ」
そう告げるのは、クレイの一人息子であり、読死本「金の書」のマスターでもあるシレンであった。
「な、何言ってるんだ。危険だ! 私はお前を守る為に本を集めさせているんだぞ!」
「えー、大丈夫だよ。だって僕の能力は無敵だもん。パパだって知ってるでしょ? ほら」
そう言った刹那、シレンの姿が一瞬にして消えた。
「なっ!?」
クレイはモニターに世界政府に乗り込んできた青年と対峙するわが息子の姿を見た。
「あ、あぁ……なんてことだ。頼む……神よ。息子を助けてくれ……」
若干9歳の少年、シレンと拉致されたユキを取り戻す為にやって来た青年、信。
金の書と銀の書がお互いに共鳴し光を発する。
「お兄ちゃん、読死本貰うね」
「む……、こんな子供が読死本を手に――!?」
「子供だからって油断してると、死ぬよ?」
それは瞬間移動か。一瞬で間合いを詰め、シレンは信の懐に入り込んでいた。
しかし、何かする訳でもなく再び一瞬で元の位置にシレンは戻る。
「これでわかったでしょ?」
「あ、あぁ……」
「じゃー本気で殺し合い、始めよっか」
シレンは屈託のない笑顔を見せると、信へと襲い掛かった。
つづく