3番目のルール
「読死本に書かれているルールって本当なのかな」
読死本を読みながら、アヤカは言う。信はルールを疑うなんて考えもしていなかった為に
驚きを隠せずにいた。
「アヤカ! そうだよ! 嘘かもしれない! 一年経ってもアヤカは大丈夫かもしれないんだ!」
一縷の望みが芽生えた。しかし――
――ごめんね、信君
「アヤカっ!」
――さようなら
窓辺から光が射し込み、薄暗い部屋の中で埃が輝きを持って舞う。
信と呼ばれた青年の手の中で一人の女性が眠りにつく。
「アヤ――っ!」
その刹那、アヤカの体が――消滅した。
「……え?」
信は唖然として自分の両手を見つめる。そして――。
「俺、何してたんだ? あれ? なんで俺、泣いてるんだよ……訳わからん」
信は涙を拭い辺りを見回す。此処が信の部屋である事は間違いない。
しかし、今まで何をしていたのか記憶がなかった。
アヤカの存在は世界に存在していた痕跡全てが消え、なかった事になった。
「ねぇ、人が死ぬ時っていつだと思う?」
「ん? 寿命が尽きた時だろ?」
「ううん、自分の存在を誰からも忘れ去られてしまった時だよ」
世界政府最上階。ランテーンは如月 ユキで能力を試そうと考えたが、ふと思いとどまる。
マスター権限の破棄には、24時間という制約がある。今使えば、信に勝つ事は不可能。
一か八かの成功にかけるしかなかった。
だが、ランテーンは知らない。例え、信を無力化出来たとしても、そのあとには世界最強の生物、佐藤 朱音
がすぐ傍まで迫っている事を。
「あれ? なんか警備兵達が全滅してますね」
世界政府に乗り込んだクインツェ達。だが、そこには戦闘不能に陥った者達が転がっていた。二人はすんなりと中に入る。信の一時間後に到着した二人であったが、誰と戦闘する事もなく奥へと進めた為――
――二人は出会った。
対峙する信と朱音。どちらも特級兵士キリヤを打ち負かした人間。果たして、どちらの方が強いのか。
「か……」
朱音は信の姿を確認すると、体を震わせ鳥肌を立てた。そのさまを見てクインツェは信に恐怖を覚える。
今までどんな相手でも余裕を保っていた朱音が明らかに動揺している。強者は相手の力量を一目で見抜くことが
出来るという。つまり、朱音は信が強者だと気づき初めて恐れを――。
「か、かっこいい!」
「え?」
「へ?」
突然の朱音の「かっこいい」発言に、信とクインツェはまぬけな声を出してしまった。
顔を赤らめ、今まで見せたことのない女の表情を露わにしている。
「つ、付き合って下さい!」
そして突然の告白。が、しかし――
「丁度良い! 本を持つ者が二人揃っている! これならば一回の使用で二人を無力化できる!」
そこに現れたのは、全く空気を読んでいないランテーンであった。ランテーンはすぐに本を開き
「お前らの人生もここでおヴぁlがおがえおあがr!」
その刹那、ランテーンは吹き飛んでいた。朱音の光速のこぶしによって。
「今いいとこなんだから、邪魔しないでっ!」
朱音は興奮していた為に、手加減を忘れた。そしてランテーンは、一級兵士であるが
戦闘能力は他の一級兵士には遠く及ばない。よって、ランテーンは朱音の一撃によって
――死亡した。
吹き飛んだ際にランテーンの持っていた本が宙を舞い、信の手元へと落ちた。
信は何気にその本のページを開き――
「読んじゃ駄目だっ!」
クインツェが叫んだ。だが、すでに信の目には読死本一巻のページが映り込んでいた。
読死本第四巻「黒の書」に記載されている三番目のルール。
そこには、こう記されている。
・マスターのまだ存在していない読死本を読めば、読んだ本人はマスターと認識され特殊能力を
与えられる。しかし、マスターのいない読死本を二冊以上読んではならない。万が一読んだその時は――
――全ての読死本のマスターはこの世界から消失する。