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寿命一年戦記  作者: フーカ
ファンタジー編
1/13

大地の少女と空翔る青年

 プロローグ



【SIN SINDOU】


 ――ごめんね、信君


「アヤカっ!」


 ――さようなら


 窓辺から光が射し込み、薄暗い部屋の中で埃が輝きを持って舞う。

信と呼ばれた青年の手の中で一人の女性が眠りにつく。


「アヤ――っ!」


 その刹那、女性の体が――消滅した。


「……え?」


 信は唖然として自分の両手を見つめる。そして――。


「俺、何してたんだ? あれ? なんで俺、泣いてるんだよ……訳わからん」


 信は涙を拭い辺りを見回す。此処が信の部屋である事は間違いない。

しかし、今まで何をしていたのか記憶がなかった。


「ん?」


 信は足元に転がっている一冊の銀色の表紙の本を見つける。

信はその本を拾い上げ何気なくページを開いた。


【Foreword】


 ■貴方の余命はあと一年となりました。


 この本【読死本】第二巻を手に取って頂きありがとうございます。

読死本は読んで字の如く、読めば死ぬ本です。ですがご安心下さい。

猶予は一年間あります。


 読死本のルールに従い目標を達成出来た場合に限り、貴方の命は助かります。

しっかりと読死本に目を通し、熟読し、自分の命をお守り下さい。


【It is a rule of the book to die when reading】


 ■ルールを守り、明るい未来を手に入れましょう。


【1】本を読んでから一年以内に残りの読死本四冊を手に入れましょう。

それが唯一死から逃れる方法です。


【2】残りの四冊はそれぞれ白の書(第一巻)黄の書(第三巻)

黒の書(第四巻)金の書(第五巻)となります。


【3】――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【4】それぞれの読死本には特殊能力が備わっています。


【5】読死本の持ち主(以後マスターと呼ぶ)が存在している間

他者が読んでも真っ白な本にしか見えない。


【6】読死本はマスターがいない状態で手に入れなければならない。

持ち主不在の読死本を集めなければならない。


【7】24:00~1:00の一時間は読死本はただの本と化す。

その為能力は使えなくなる。


【8】読死本は他マスターの居場所を探知する能力を有している。


【9】読死本の破棄は不可能。


【Postscript】


 それでは、命をかけたゲームスタートです。



 第一章 大地の少女と空翔る青年


【YUKI KISARAGI】


「はぁっはぁっ」


 丸い月が自己を主張する真夜中。

多くのマンションや一軒家が密集する住宅街で、

黒い艶やかなツインテールの髪を揺らしながら一人の少女が

誰かから逃げるように走っていた。少女の名は如月 ユキ。

如月の背後からは複数の足音、暗闇で姿は見えない。


「もう、しつこいわね!」


 如月は逃げる事を辞めた。足音の方向へと向き直り、

一冊の黄色い表紙の本を取り出す。如月は暗闇を見つめる。

暗闇から人の輪郭が、そして姿が現れた。


「そこまでだ、糞ガキ!」


 暗闇から現れた漆黒の兵装をした男達。

その男達のリーダー格と思われる一人が声を荒げる。

男達の手には、ライフルが握られている。

たった一人の少女に大の男が五人、ライフルを少女に向けて構えていた。


「お前の命も終わりだな、糞ガキ!」

「……いいわよ、相手してあげる」


 睨み合う両者、地を照らす満月に黒い雲がかかった刹那、五発の銃声が鳴り響いた。


 五つの金色の弾丸が如月に向かって空気を裂き奔る。

その軌道、全てが如月にとっての致命傷。


 その距離あとわずか一メートル。

このままでは、あと零コンマ一秒にも満たず如月は絶命するだろう。――だが! その弾丸、如月に命中せず。一体どういう事か。

如月の足元から如月を守る大きな壁となって大量の土が盛り上がっていた。

弾丸は全てその土に飲み込まれ、失速した。


 男達はその現実離れした光景に金縛りにあったかのように動きを止める。

その隙、如月は見逃さない。


「飲み込めっ!」


 如月のその一言に壁となっていた大量の土が再び蠢き、男達に覆いかぶさるように襲い掛かる。


「う、うわぁっ」


 砂の高波に男達は飲み込まれた。否、リーダー格の男だけなんとか逃れていた。


「糞ガキっ! 我々国家軍に逆らってただで済むと思っているのかっ!」


 黒尽くめの男達は国の正式な兵士であった。


「うるさいわねっ! こっちは命が懸かってんのよっ!」


 如月が叫ぶ。すると三度土がうねり、リーダー格の男を今度こそ飲み込んだ。


「はぁ……はぁ……もう、疲れたわよ」


 如月は肩を上下に大きく動かしながら呼吸をし、

その場からよろよろと立ち去ろうとした。だが、すぐに足を止める事になる。

如月の前に二人の男が立ちふさがっていた。

一人は短髪のまだ若く見える青年、もう一人は三十代後半ぐらいだと思われる、長い白髪の男だった。


 如月は二人の男の軍服に付いている紋章を見て凍りつく。

その紋章、国家軍の中でも選りすぐりの選ばれたエリート兵士、

たったの十人の「一級兵士」にのみ与えられるモノだった。


「しかも、もう片方は……」


 二人のうち若い方は一級兵士、そしてもう一人は「特級兵士」の紋章。

国家軍でたった一人しか存在しない、英雄兵。

一師団を一人で壊滅させた伝説を持つ。


「すごいねぇー! それが不思議な能力を持つ本の力かー。政府が欲しがるのもわかるわー。ねぇ、キリヤ先輩?」

「……」


 よく喋る一級兵士とキリヤと呼ばれた寡黙な特級兵士。

如月は再び本を開き、戦闘態勢に入る。


「あれー? お嬢ちゃん、俺ら相手にやるつもり? マジで!? ありえねー

 俺らはそこで倒れてる一般兵とは次元が違うんだぜ? 

 止めとけ止めとけ、大人しく本を渡すのが吉ってもんだ」


 一級兵士はうんうんと頷きながら、如月に歩み寄っていく。

だが、如月は本を渡すつもりなど毛頭ない。

眼光鋭く一級兵士を射抜き、攻撃の呪文を言い放った。


「撃ち抜けっ!」


 巨大な土の塊が弾丸となって一級兵士に向かって跳ぶ。


「あらら」


 一級兵士はやれやれと言った表情で背中に装着していた鞘から

自分の背丈はある程の巨大な剣を取り出し――。


「あーら、よっこいしょっと!」


 軽々と砂を薙ぐ。土の弾丸は集結力を失い、

重力に逆らう事なくパラパラと落ちた。


「嘘……」


 今度は如月が唖然とする番だった。一級兵士は剣を鞘に納めると如月の肩を軽く叩き


「安心しろよ、命までは取らないからさ」


 と本を如月から取り上げる。だが、如月にとって本を失う事は死に等しい。


「さて、キリヤ先輩帰りましょうかー」


 一級兵士が振り向き様に声を掛ける。


「あれ?」


 そこにキリヤと呼ばれた特級兵士はいなかった。

すぐに一級兵士は如月の方へと視線を戻す。

そこには、今にも剣を如月に向けて振り下ろそうとしているキリヤの姿があった。


「ちょっと待ったぁっ!」


 地面を力強く蹴り出し、風の如き速さで

キリヤと如月の間に入り込みキリヤの剣を己の剣で防いだ。

金属と金属が激しく衝突し、火花が散り、低く篭った金属音が響き渡る。


「あっぶねぇっ!」


 一級兵士は両手で剣を構え、なんとか防ぐ。

対するキリヤは片手で剣を振り落としている。

にも関わらず、その衝撃はあまりにも重い。


「……何をしている、カタナ」


 キリヤが初めて口を開く。その声は低くその瞳は何の情も抱いていない冷たい眼差しだった。


「何も殺す事ないっしょキリヤ先輩! 無駄な殺生を俺は好まない!」

「……」


 キリヤは無言で剣を納めた。

カタナと呼ばれた一級兵士は、ほっと胸を撫で下ろす。が、その刹那――。


「がはっ!」


 カタナのみぞおちにキリヤの蹴りが入る。カタナは体内のモノを吐き出し、蹲る。


 キリヤは、動く事の出来なくなったカタナの手から離れた読死本を拾い上げると、

腰を抜かしただ怯えている如月の方へと向かっていく。


「あ……いや……来ないで……」


 如月には、キリヤが死神に見えた。自分の死を実感する。

死神はその鎌で確実に如月の首を撥ねようとしていた。

死の恐怖に耐え切れず、強く目を瞑る如月。

どうせ死ぬのなら痛みもなく一瞬で。そう願っていた。


「……」


 しかし、いくら待っても何も変化は起きない。如月がおそるおそる目を見開くと――。


「え?」


 眼前に広がる――空。如月は今、宙高く空に存在していた。

何が起きているのか全く理解できずに呆然とする如月の横に、

同じく宙に浮いている青年が一人。

その青年、宙であぐらを掻き腕を組み、何やら考え事をしている様子であった。


「だ、誰よっ! あんたっ! っていうか、これはどういうことっ!?

 さっきまでいた特級兵士は!? 私の本はっ!?」


 如月は不可解な現状を、突然現れたその青年に矢継ぎ早に問い質す。

すると、青年はゆっくりと口を開いた。


「あー……、俺の名前は新藤 信。君と同じ読死本の所持者」

「なっ!?」


 如月は驚愕する。それもその筈、如月は自分の命を守る為に、

同じ読死本の所有者をずっと探し続けてきたのだから。


「んでー、俺の本の能力で今空にいる。特級兵士からは逃げた。

 戦っても勝てる訳ないしなぁ~。あぁ、それと逃げるついでに

 君の本も返してもらったよ」

「んなっ!?」


 如月は顎が外れるのではないか、と言う程に口をあんぐりと開けて驚く。

キリヤから逃げるだけでも奇跡だというのに、キリヤから本すらも奪った。

如月にとって、今目の前にいる青年は脅威以外の何者でもなかった。


「あ、あんた……その本、どうするつもりよ」


 如月の読死本。それは同じ読死本所有者にとっては

喉から手が出る程欲しいモノ。全ての読死本を集めなければ待っているのは、

死のみ。それをわかっていたからこそ、次の信の行動に呆気に取られる他なかった。


「ほら、返すよ」


 信は如月に向けて読死本を投げた。弧を描いて本は如月の手の元へ。


「――え? いい……の?」

「無いと困るだろ? それに、この読死本のルール、理解できてると思うけどさ」


 信は神妙な顔つきで言う。


【6】読死本はマスターがいない状態で手に入れなければならない。

   持ち主不在の読死本を集めなければならない。


「――つまり、所有者の存在する読死本を自分のモノにするには、

 所有者が読死するのを待つか

 『所有者を殺して所有者が存在してない状態にしなければならない』

 ってことなんだよな」


 自分の命の為に他人の命を犠牲にしなければならない。

それがこの読死本のルールの要。

そして、信には他を犠牲にして己が生き延びるという考えは、出来なかった。

ただ、自分の死を甘んじて受けるつもりも全くなかった。


「見つけたんだよ」

「え?」


 信は己の読死本を開き、ルールが記載されたページのある箇所を指差しながら言った。


「誰も犠牲にせず、全員が生き延びる方法を」

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