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遥かなる娘  作者: 無花果
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第一話 突然の来訪者

2025年10月某日。

26歳の佐伯悠斗は、午後9時過ぎにいつものようにアパートのドアを開けた。

靴を脱ぎ、コンビニ袋からお気に入りのカップ麺を取り出す。激辛のやつだ。

お湯を注ぎ3分待ち、蓋を開け、割り箸で麺をほぐそうとしたその瞬間

部屋の中央で、突然強い白い光が弾けた。まるでフラッシュのような、目がくらむほどの光。

悠斗は思わず目を覆い、後ずさって壁に背中をぶつけた。

「……っ、何だよこれ!?」光が収まると、そこに一人の若い女性が立っていた。

外見20歳くらい。肩までの黒髪、白いニットにミニスカート。白い脚がなまめかしい。

少し息を切らしていて、瞳に緊張と決意が混じっている。

光の残像がまだ網膜に残る中、悠斗の存在を確認すると彼女はゆっくりと口を開いた。

「……パパ」

悠斗は箸を落とした。カップから湯気が立ち上る音だけが、静かな部屋に響く。

「は……?」

「私、遥。2045年から来たの。パパの娘」

悠斗は壁に寄りかかったまま、呆然と彼女を見つめた。

「……待て。急に何だよ。誰? どうやって入ってきた?」

遥は一歩近づき、目をまっすぐ悠斗に向けた。

「タイムトラベルで来たの。信じられないかもだけど……聞いてほしい」

悠斗は喉が乾くのを感じながら、ようやく声を絞り出した。

「……娘? 俺、今26歳だぞ。結婚もしてないし、子供なんていない」

「うん、今はね。でも来年、結婚するんだよ。相手は凛って名前で同じ会社の経理部の女性。」

「経理部にそんな名前の子いたかな?」「来年新卒で入って来て半年後に結婚するの」

悠斗は頭を振った。現実感がなさすぎて、笑いさえ浮かびそうになる。

「そんな予定、俺にないけど……」

「あるよ。未来では、そうなった」遥は少し申し訳なさそうに目を伏せた。

「でも……19年後、私が18歳のとき、パパとお母さん、離婚しちゃうの」

悠斗の表情が固まった。

「離婚……?」「うん。」遥の声は静かだったが、そこに強い確信が込められていた。

「詳しくはわからないけど……パパ、ママに対して気遣いが足りなかったんだと思う。

 仕事ばっかりで、疲れて帰ってきて、話もちゃんと聞いてあげなくて……

 ママが我慢し続けて、限界が来たんだと思う」悠斗は息を飲んだ。

「俺が……そんな父親になるってのか?」遥は小さく頷いた。

「だから、止めにきたの。パパがママとちゃんと幸せになるように。離婚しない未来に変えたい」

部屋は静まり返っていた。時計の秒針の音が、遠くに聞こえるだけ。

悠斗はしばらく黙って遥を見つめ、それからゆっくり息を吐いた。

「……まだ信じられない。でも、もし本当なら……俺、そんな父親にはなりたくない」

遥の目に、うっすらと涙が浮かんだ。「……ありがとう、パパ」

カップラーメンは、もう完全に冷めていた。

遥は小さなキャリーバッグを部屋の隅に置き、静かに言った。

「とりあえず、ここに住むね。来年ママが入社して、パパが結婚するまで」

悠斗は目を丸くした。「は? 同居? いや、1Kだぞ。布団も一組しか——」

「大丈夫。寝袋持ってきたから。ソファで寝るよ」

「……そういう問題じゃなくて」


遥はもう荷物を解き始めていた。

その日から、26歳の独身男の部屋に、未来から来た18歳の娘が住み着いた。

翌日——

夕飯の支度をしながら、遥が「ねえ、悠斗。今日の夕飯 カレーでいいよね?」

悠斗はキッチンに向かって歩いていた足をぴたりと止めた。「……待て。悠斗?」

遥は振り返って、無邪気な笑顔を向けた。

「うん。だって、パパって呼ぶと……なんか、変な感じするでしょ?

今のパパはまだ26歳だし、私とそんなに歳変わんないし、

 一緒に暮らすんだから、友達みたいに『悠斗』でいいじゃん」

悠斗は眉を寄せて、ソファの背もたれに手を置いた。

「いや、ダメだろ。娘が父親を名前呼びとか……気持ち悪い。せめて『お父さん』か『パパ』でいいだろ」

遥はエプロンの紐を結びながら、首を振った。「だーめ。パパって呼ぶと、未来の記憶がフラッシュバックしちゃうの。離婚のときの、パパの疲れた顔とか……ママの泣いてる声とか。そんなの、毎日思い出したくないよ」

彼女の声が、少しだけ低くなった。

「だから、ここでは『悠斗』で」

悠斗はため息をついて、頭を掻いた。

「……いや、でも俺はお前の父親なんだろ?。名前呼びはなんか……抵抗あるわ」

遥は鍋をかき混ぜる手を止めて、悠斗のほうに体を向けた。

瞳がまっすぐで、引く気配はまったくなかった。

「抵抗あるのは、最初だけだよ。一緒に暮らしてれば、すぐ慣れるよ。私が『悠斗』って呼ぶの、嫌?」

悠斗は言葉に詰まった。嫌……というわけではない。

むしろ、遥のその呼び方が、どこか心地よく感じてしまう自分がいて、それが余計に抵抗を生んでいた。「……わかったよ。好きにしろ」遥の顔がぱっと明るくなった。

「やった! じゃあ、悠斗。カレーは辛めがいい?激辛?」

悠斗は苦笑しながら、ソファに腰を下ろした。「……普通でいいよ」

遥はくすっと笑って、キッチンに戻った。

キッチンから、カレーのいい香りが漂ってくる。

遥の鼻歌が、狭い1Kの部屋にやけに温かく響いていた。

悠斗はソファに沈み込み、ぼんやり天井を見上げた。

昨日まで、この部屋には自分一人しかいなかった。

仕事して、コンビニで飯を買って、帰って寝るだけの生活。

それが今は——

未来から来た娘?が、キッチンでカレーを作っている。

「……意味わかんねぇ人生だな」

思わず小さく呟く。

するとキッチンから、すぐに声が飛んできた。

「聞こえてるよ、悠斗!」

悠斗は苦笑した。

カレーの匂いと、軽い足音。

そして、自分を名前で呼ぶ声。

まだ信じられない。

でも——

この日から、悠斗の未来を変えるための

少し不思議な同居生活が始まった。

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