第4話 父のそばで、心を呟く
第4話です!過去の話もぜひ見てください。コメントも募集中です!
「……久しぶり——お父さん」
そういって俺は父の墓の前に立っている。久しぶりに見たその墓は、前に見た時よりも明らかに汚れていた。雨のない日が続いたせいか、土も石肌も乾いてざらついていた。雑草が石の隙間を押し広げるように伸びていた。
「……ごめん、放ったらかしにして」
謝るつもりなんてなかったのに、言葉が勝手に漏れた。足は重かった。なのに、気づけば手はもう墓石を拭いていた。指先に残る土の匂いが、忘れていたはずの温もりを呼び起こした。その瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
掃除が終わった後、今度は持ってきた線香を立てた。その後軽く顔の前で手を合わせる。
「……今年もさ、ちゃんと来たよ」
そう呟いた瞬間、顔の前で合わせていた手の震えが、少しだけおさまった気がした。そこからは、もう止まらなかった。気づけば、学校のことや祖母の料理のこと、最近観た映画の話まで、取り留めもなく話していた。時々セミの声が途切れ、また鳴き始める。その繰り返しで、時間の流れだけがゆっくり積み重なっていった。気づけば太陽の位置が変わり、影が墓石の後ろへと伸びていた。どれくらい話しただろう。時計を見ると、気づけば昼時、ここに来てから二時間が経とうとしていた。
「……大丈夫。ちゃんとやってるよ。だから——見てて」
そういって、俺は重い腰を上げた。そうしてまた墓の前で手を合わせ、一礼する。
「お父さんの夢は、俺がちゃんと引き継ぐよ」
最後にそう残して、俺は墓場を後にした。墓場を出たところで、ふと腹の虫が鳴った。
「……どこかで昼飯にするか」
小さくつぶやいて、周りに目を向ける。さっきまで歩いてきた道のりは田んぼばかりで、人家すらまばらだったけど、この辺りまで来るとぽつぽつと建物が増えてくる。とはいえ、都会みたいに選べるほど店があるわけじゃない。田舎ならでは、というべきか。まして今日はお盆だ。開いている店なんて期待しないほうがいい。案の定、目につく店はどれもシャッターが下りている。
「……まあ、コンビニでいいか」
そう言って、ちょうど道の向こうに見えたコンビニへと足を向けた。
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開いた瞬間、「いらっしゃいませ」という店員の声と、冷えた空気が同時に押し寄せた。さっきまでの暑さが嘘みたいに体が軽くなる。その心地よさに浸りながら、俺は昼飯を選び始めた。とにかくお腹いっぱい食べたい。そんなことを考えていたらカゴの中には焼きそばパンが三つ並べられていた。
「……まあ、いっか。歩いて腹減ってるし」
自分に言い訳するみたいに呟いて、飲み物とアイスを一本だけ追加する。レジに向かうと、店員が一瞬だけ“焼きそばパン3個かよ”みたいな微妙な顔をした気がしたけど……まあ、それは見なかったことにした。会計を終え、袋を片手に店を出る。
「途中の公園で食べるか、いやもう歩きながら」
そう思って自動ドアが開いた時だった。
——突如として大きな豪雨が町を飲み込んだ。俺はひとまず家に急いで戻ることにした。
コンビニで買ったビニール傘は、この豪雨に打たれてバチバチと悲鳴をあげている。正直、もう体はかなり濡れていて意味があるのか分からないが、ないよりはマシだ。道を半分ほど戻ったところで、俺は不意に足を止めた。
——歌が、聞こえた気がした。ありえない。この雨の音でそんなもの聞こえるはずがない。早く帰らないといけないのは分かっている。それでも、今のは確かに“歌”だった。ほんの一瞬、耳に触れた旋律が妙に心に残って離れない。気づけば、俺は歌が聞こえた方向へ足を向けていた。豪雨の中を進むと、再びあの歌声が聞こえてくる。さっきよりもはっきりと、まるで雨音を押しのけるように響いていた。そして辿り着いたのは
——さっき見かけた小さな公園。そこで、俺は見てしまった。天使の輪を持つ女の子が、雨の中で静かに歌っている姿を。
現在、カクヨムをメインに焼きそばにきという名前で行なっています。ぜひそちらの方も見てください。一章は毎日投稿予定です。




