魔王の顔が良かったので求婚しました!
その一瞬が、運命を変えた。
「アテナ!!!」
彼女の名を勇者が叫んだ。
喉から絞り出したような幼馴染の悲痛な声に、思わず笑ってしまう。
勇者、魔導士、弓術士、拳闘士、大剣士、そして魔法使いたるアテナは、勇者パーティーとして王国から華々しく見送られ、時に笑い、時に喧嘩し、研鑽しながら背中を預けるに足る信頼関係を築いてきた。
旅路の果てに辿り着いた魔王城。
鉄の扉が軋む音を背に、多くの魔族兵とそれを統率する四天王と相対する。
四天王との激闘の末、互いに消耗するも勇者に分があった。
とどめを刺そうと勇者が聖剣が振り上げたその時、勇者の死角から迫る凶刃がやけにスローモーションで目に映った。
だから動けたのだと思う。
勇者を突き飛ばし、気がつけば敵の手の中にいた。
「チッ」
勇者の闇討ちに失敗し、原因となった人間の女を捕獲した魔族は舌打ちした。
「アテナを離せ!」
「フン、勇者にとって大事な女のようだ。それに、先程から魔法をかけていたのはお前だな、女?」
問われても返事をすることも、そも反応することも出来なかった。
魔族の膂力はまさしく人外で、息苦しさで声も出せない。
目の前の光景が、次第にぼやけていく。
「全く、何という体たらくだ。鍛え直しだぞ」
「すまん」
魔族が四天王たちを回収する間に、兵士が次々と集まり勇者たちを囲む。
「この女が惜しくば追ってくるがいい。出来るものならな」
「クソッ」
「待て!」
勇者と弓術士の静止の声が響くが、すぐに敵兵の怒号にかき消される。乱闘が再開するのを魔族の背中越しに閉まりゆく扉の隙間から見ることしか出来なかった。
「さて人間、貴様には勿体ない栄誉だ。光栄に思うがいい」
石造りの冷たい回廊を抜け、連れて行かれた先にあったのは、何百年もの歴史を感じさせる重厚さで威圧感を醸し出す巨大な鉄の扉だった。
「平伏しろ!!!」
扉が開いた先へ投げ飛ばされ、力の入らない身体では受け身も取れず、酷い衝撃とともに硬い床に叩きつけられた。
視界がブれて平衡感覚が崩れる中、魔族の恍惚とした声がホールに轟く。
「こちらに座す御方こそ、我らが偉大なる王!!!」
頭を押さえながら、目の前をしっかりと見据えた先にいたのは。
「魔王フェガロ様である!!!!!」
カーブを描く豊かなまつ毛が切れ長の目元を縁取り、間から覗くのは深く、冷たく、しかしどこか吸い込まれる輝きを放つ黒曜の瞳。
足元まで流れる黒髪は絹糸のごとく滑らかで、灯りが揺れると紫が差し込む様は夜の帳が下りる薄暮れの空のようだった。
その顔立ちは彫刻のように精巧で、完璧すぎて神が手ずから作り出した最高傑作と言われても誰もが納得するだろう。
頭からつま先まで隙のない、見るもの全てを圧倒する強烈な美の暴力があった。
痛みで震える指先を無理やり握りしめ、腕に力を入れる。
気力を頼りに体を起こし、ふらつく足を叱咤しながら前へ進む。
肺に空気を送り込む。荒く乱れた息を自覚し、もう一度深く呼吸をした。
その美の目の前に辿り着く。依然として無機質な瞳がこちらを映していた。
背後の開け放たれた扉の向こうから聞こえてくる遠い足音も今は意識に残らない。
「アテn「結婚して下さい!!!!!!!!」
勇者パーティの超絶面食い魔法使い─アテナは、運命を見つけました!!!
「…………赦す」
「へっ!? 本当!? 聞き間違いじゃないよね!? やったぁ〜〜〜!!!!! 絶対幸せにするからねハニー!!!!」
「「「「まてまてまてまてまて」」」」
深い意味はまっっったくない始まりが、人間と魔族の架け橋になる………かもしれない話。
こういう話が読みたいんですけど、誰か知りませんか?