表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

2. 学校の見回り


 ふむ、どうしたものか。 


 最近、夜に学校にやってくる生徒たちが多い。


 生徒たちの話を聞いてみると、夏ということもあってか最近テレビで心霊特集をよくやっているらしい。


 それに加えて、動画配信者が廃墟に行ったりして、肝試しをやっているらしく、ここの生徒たちも感化されてしまっているみたいだ。


 そして、また今日も夜の学校に忍び込もうとしている生徒たちがいた。


 生徒たちは四人組で、高学年くらいの男女のように見えた。


 生徒たちは私を見る素振りも見せずに、校舎の中に侵入していく。


 ……校舎に入るというのなら、見過ごすわけにはいかないな。


 私はそう考えながら、生徒たちが校舎に入っていくのを横目で確認するのだった。




 さて、さっきの生徒たちはどこに向かったのだろうか。


 私はそんなことを考えながら、暗い廊下を歩いて生徒たちを探す。


 生徒が夜中に学校に忍び込んで肝試しをするということは別に珍しくはない。


 こうして見回りをするのも慣れたもので、生徒たちが行きそうな場所というのもなんとなく想像がつく。


 トイレや音楽室、理科室やプールなどは肝試しをするのに定番な場所だ。


 そうなると、彼らも気っとそこに向かっているのだろう。


 優先的に定番の場所を探すか、一階の隅から探して彼らを見つけ出すか。


 ……とりあえず、いつも通り一階から見回りをしていくか。


 結局、いつも通りの巡回ルートになってしまうな。


 私はそんなことを考えながら、真っ暗な廊下を歩いていった。



 すると、廊下の曲がり角にさしっかかったとき。私の体にトンっと何かが当たる感覚があった。


 なんだと思って見降ろしてみると、そこには先程私が見た生徒たちの一人がいた。


 ふむ、生徒たちの最後尾にいた眼鏡の女子生徒か。


 私がじろっとその女子生徒を見ると、女子生徒はギギギっと錆びた金属でも動かすかのように首を動かす。


 そして、手に持った懐中電灯で私を照らしたあと、大きく息を吸い込んだ。


「きっ、きゃああああああああ!!!!」


 女子生徒は夜の静かな学校に酷く響く大きすぎる声を上げるや否や、一目散に走りだした。


 ま、まちなさい!


 ガラガラッ、ガランッ。


 私は逃げる背中を追おうとしたのだが、すぐ後ろで何かが落ちる音に気づいて振り返る。


 ……また落してしまったか。


 私はライトを振り回しながら逃げる女子生徒の背中と、落した荷物を交互に見てから、溜息を漏らして腰を下ろす。


 仕方がない。荷物を拾い集めてからまた追うとしよう。


 私はそう考えて、散らばった荷物を拾い集めるのだった。




 さて、仕切り直しだ。


 私はまた一階から学校に忍び込んだ生徒たちを探し始めることにした。


 先程、女子生徒が私とぶつかってからすぐに、遠くの方で階段を駆け上がる音が聞こえていた。


 ということは、まだ校舎の中にいるということだ。


 もしかしたら、他の生徒たちが一階に残っている可能性もあるが、それよりも二階より上にいることが確定している女子生徒を先に見つけてしまおう。


 とはいっても、二階へ続く階段を上って耳を澄ませるが、物音は一つも聞こえなかった。


 移動することをやめたのか? ということは、どこかに隠れているのだろうか?


 校舎の中でかくれんぼということか。


 ……面倒だが、仕方がないか。


 私はそう考えながら、近くにあった教室の扉を開けた。


 月明かりに照らされる教室は静けさしか感じることができず、そこに脅える生徒が隠れているようには思えなかった。


 ふむ、焦って隠れようとすれば机が乱れるものだが、特にその様子は感じられない。


 この教室はハズレか。


 そう考えて教室の扉を閉めたとき、チカッと光が私を照らした。


 その方向に顔を向けると、三階の窓から私に懐中電灯を向けている男子生徒と目が合った。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 二階まで響いてくる悲鳴を聞いたと同時に、私は今度は逃がすまいと廊下をダッシュした。


 先程の女子生徒を見つけられていないが、それよりも大きな足音を立てて逃げる男子生徒を追った方がいいだろう。


 隠れた生徒を見つけるよりも、そちらの方が簡単なはずだ。


 ガラッ、ガランッ。


 しかし、私がダッシュで階段を登ろうとしたとき、また何かが落ちる音が聞こえた。


 振り向くと、そこには先程と同じように背負っている私の荷物が何本か落ちていた。


 ……またか。


 私は走り回っている足音に耳を済ませながら、急いで散らばった荷物を拾う。


 私は聞こえていた足音から大体の位置を割り出しながら、落ちた荷物を拾いきる。


 なるほど、大体の場所は分かったな。


 そんなことを考えて、私はまた荷物を背負い直して階段を上るのだった。




 ここら辺の気がするな。


 私は先程聞こえた足音を頼りに、三階にある音楽室に来ていた。


 月明かりに照らされている大きなグランドピアノと打楽器と管楽器、音楽家たちの肖像画があり、隠れるところはそこまで多くはなさそうだ。


 私はその光景を見て、ふむと頷く。


 こんなにグランドピアノの近くに打楽器があるのは変だ。


 いつもは打楽器はもっとグランドピアノから離れた所にあるはずなのに、グランドピアノの下にある何かを隠すかのように配置されているように見える。


「ふっ……ふっ、」


 そして、少し耳をすませば、恐怖のせいで荒くなったような息遣いが聞こえてくる。


 やはり、そこにいるのか。


 私はそんな確信をもって、不自然に置かれた打楽器を移動させていく。


「ひっ!」


 そんな悲鳴のような声と共に何かが落ちた音が聞こえた。


 コロコロッ、コロッ。


 私の足元に転がってきたのは、落した拍子に灯りがついてしまった懐中電灯だった。


 その懐中電灯に照らされながら私が腰を下げると、私を見た生徒は顔を引きつらせた。


「きゃあああああああああ!!!!」


 む、男子生徒かと思ったが、初めに私にぶつかってきた女子生徒だったか。


 女子生徒は恐怖で顔を歪ませて、涙を流している。


 私がその女子生徒に手を伸ばそうとした瞬間、音楽室の扉が勢いよく開けられた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私が音楽室の扉の方に顔を向けると、そこには大声を出しながら私に突っ込んでくる男子生徒がいた。


 先程、私に懐中電灯を向けていた男子生徒だろう。


 その男子生徒は強い光を背中に浴びながら、何か大きなものを手にしていた。


 そして、その男子生徒は走ってきた勢いをそのままに、手に持っていた何かで私をぶん殴った。


 ゴギンッ!!


「愛華! 早く逃げるぞ!!」


「う、うん!!」


 私が殴られた衝撃でふらふらとしていると、突然現れた男子生徒は女子生徒の手を引き音楽室を後にした。


 すぐに追いかけよう。


 そう思って走り出してすぐ、足元に転がっていた何かを蹴飛ばしてしまった。


 目を落すと、そこには凹んだ消火器が転がっていた。


 先程の男子生徒はこれで私を殴ったのか。それも、消火器が凹むほど力強く……。


 さすがに、頭に来たぞ。


 ようやく何が起きたのか理解した私は、転がっている消火器をそのままにして走り出す。


 勢いよく音楽室を飛び出して、怒りのまま校舎に響いている足音を追いかける。


 一瞬、出遅れたように思えたが、全力で廊下や階段を駆け下りると、生徒たち四人の背中が見えた。


「おい! ヤバいぞ、来てる来てる!!」


「はっ、い、嫌ぁぁ!!」


 私を懐中電灯で照らす顔を見ながら、私はすぐに生徒たちとの距離を詰めた。


 そして、一番後ろにいる女子生徒に手を伸ばそうとした瞬間、ガラガラッと何かが落ちる音が聞こえた。


 私が振り向くと、私が背負っている荷物が勢いよく落ちて、散らばってしまっていた。


 ……またか。


 私がその落ちた荷物に気を取られた瞬間、生徒たちとの距離は一気に広がってしまった。


「はっ、はっ、はぁっ!!」


 私は息を切らしながら全力で逃げていく生徒たちの背中と、落ちた荷物交互に見てから、落ちた荷物を拾い集める。


 そして、私が背負っていた荷物を全部集めた頃には、生徒たちの姿は見えないほど遠くに行ってしまった。


 私は小さくため息を漏らすと、静かに歩き出す。


 そして、校庭と校舎の間にある『二宮金次郎像』が設置されている台座の近くに行くと、私はその台座に手をかけてぐっと力を入れて上る。


 ……まぁ、顔は覚えたし問題はないだろう。


 そんなことを考えて、私はまたいつも通り学校の監視に戻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ