奇襲
「セラーネ様!大丈夫ですか!?生きてますか!?」
苦しそうなセラーネ様にそう声を掛けると、彼は意識を取り戻したのか、血を吐き出した。
「かはっ。うるさいですね。生きてますよ⋯⋯」
「セラーネ様!!大丈夫ですか!?」
「大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃない方ですが、すぐに大丈夫になります。精霊同士は、簡単に意思疎通が取れますから⋯⋯」
セラーネ様がそう言ったと同時に、すぐ隣に人の気配を感じた。なにかと思って私の横に目を向ければ、そこには兄様の部屋の地下で出会ったフェマが居た。
「うわぁ!?」
「わぁ!?あ、あれ?ラディも来てたんだ」
「え?うん。な、なんでフェマが⋯⋯」
突然のことに驚いて状況が飲み込めない私を前に、セラーネ様がゆっくりとフェマの手を握った。
「早く治療を⋯⋯」
「あ、うん!分かった」
フェマはセラーネ様の手を両手で強く握り、目を閉じた。それから、なにを始めたのか、二人の握っている手からなにか光が溢れ出した。
「大地よ、風よ。尊き種族の血の長れを穢す邪悪なるものを清めたまえ⋯⋯」
フェマがそう唱え終えると、一際強い光の波動が部屋全体に吹き抜けた。その強い風は、私達の頬をも撫でていった。とても心地よくて、涼しい風のようだった。
「⋯⋯どう?大丈夫?もう痛くない?」
「えぇ。そのうち良くなります。ありがとうございます、フェマ。助かりました」
「ううん。また困ったことがあったらいつでも呼んで。セラーネはぼくのお友達なんだから!じゃあね。ラディもじゃあね」
「うん。ばいばい」
わけも分からないまま急に現れて急に去っていったフェマに手を振る。フェマはドアから出ていくこともなく、気付いたら消えていた。魔法の一種なのだろう。
(さすが異世界クオリティ⋯⋯)
「ふぅ⋯⋯。それで、ラディ様達は何用でしょうか」
「えっと、図書館について聞きたかったんですけど、その前に、フェマとはどういう関係なんです?」
「というかそれよりも、フェマとは誰です?先程のエルフですか?」
「えぇ。ランカ坊っちゃまが作った人工エルフです。彼が寂しくないようにとフェマの部屋とわたくしの部屋をいつでも行き来できる魔法具を作って勝手にわたくしの部屋に置いていったのです」
セラーネ様の説明に、リュサールはあまり理解が出来なかったらしく、黙り込んでしまった。
「⋯⋯え?エルフって作れるんですか?」
「作れるわけないでしょう。あの人がおかしいだけです。エルフは普通、自然の力を浴びて人の形を得るのです。坊っちゃまはそれを人工で作ってたった十年でエルフを作ってしまったんですよ。それが普通になってしまっては、この世界の常識が壊れます。そういえば、貴方とこの姿で会うのは確か初めてでしたね。初めまして、わたくしはセラーネ。どうぞよろしくお願い致します」
「あぁ、はい。リュサール・リガルーファルです⋯⋯」
セラーネ様に倣ってリュサールも自己紹介をするが、何を話したらいいのか、お互いに黙り込んでしまった。
「あ、ええと、セラーネ様?」
「はい。なんです?」
「もう、お身体は大丈夫なんですか?出血されてましたけど⋯⋯」
「えぇ。もう治りました。しかし、また刺されるかもしれませんね」
「刺されるって、どこからですか⋯⋯」
私の言葉に、セラーネ様は開けかけた口を再び閉ざし、口元に手を添えた。なにか考え込んでいるのだろう。
「わたくしのことが憎くて憎くて堪らない存在からです。わたくしはそのようなことをしたつもりは一切ありませんが、人間というのは不思議なもので、些細なことでわたくしに攻撃をしてくるのです」
「は、はぁ」
セラーネ様は本当に心当たりが無さそうだが、彼の性格からして、無自覚のうちに相手を深く追い込んでいるということが有り得そうで苦笑いを浮かべることしか出来ない。
「攻撃してきたのは、人間で確定なんですか?今の状況なら、邪龍からの攻撃ということも有り得るのでは?」
「いえ、それは有りません。わたくしは邪龍と対峙したことはありませんけれど、残滓に触れたことはあります。あの何十倍もの力で攻撃されてしまっては、わたくしはとっくに光の粒となり天に還っていることでしょう。それに、エルフの力とも思えなかったので、消去法で人間となります。その何者かの力に、後ろから槍で刺されたような感覚がしたのです」
「え!?で、でも、この部屋には誰もいないし、セラーネ様が安易に誰かを入れるとも思えないんですけど⋯⋯」
もし入れるとしたら、先程のフェマくらいだろう。しかし、彼がそんなことをするだなんて考えたくない。
「えぇ。なので、遠隔からの攻撃で間違いないでしょう。高度な技術と正確な座標の特定が必要ですが、可能ではあります。そんなことが出来る魔法使いでしたら、精霊を操る技術を持ち合わせてもおかしくはありませんので、座標の特定に関してもクリア出来るでしょう」
「精霊?精霊は自然の中にしか生息しないはずではないのですか?」
「えぇ。大部分はそうです。しかし、自我すらもなく、ただ漂うだけの力の弱い精霊であれば、街中にも普通に居ます。埃と同じようなものと思ってもらえれば結構です」
(綺麗な種族が一気に汚く見えてきた⋯⋯)
「その精霊を使って、常にわたくしの位置を探れば、奇襲は可能です。しかし、犯人探しは難しいでしょう。刺された時、属性が感じ取れませんでしたし、刺した後にすぐに気配を消してしまいました。咄嗟のことでしたので、わたくしは相手の位置の特定が出来ていません。分かっていることは、恐らく邪龍に肩入れした人間が遠隔でわたくしに攻撃を仕掛けてきた、ということのみです」
「どうして邪龍に肩入れしていると言えるんです?」
「話せば長くなるので省略しますが、属性を消す手段を持っているのが、現段階だと邪龍のみだからです。ランカ坊っちゃまみたいな化け物が二人も居るのでしたら話は別ですが、そんな人居るとは信じたくないので、邪龍に肩入れしているということになります」
「な、なるほど⋯⋯。ということは、スパイが居るってことですか?」
恐る恐るそう聞くと、セラーネ様は目を伏せた後、ゆっくりと首を縦に振った。
「えぇ。それも、王城の力の無い精霊を操れるということは、城に出入りしている可能性は高いでしょう。居場所を知りもしない精霊を自在に操れるなんて、わたくしですら難しいのですから。⋯⋯まぁ、簡単に言ってしまえば、ラディ様、スパイは貴女の周りの誰かかもしれません」
「⋯⋯⋯⋯え?」
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ナ、ナンダッテー