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運命の人は男の子でした  作者: 甘語ゆうび
4章【図書館編】
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悲鳴を聞きつけ、執務室の扉を開き、訓練場へと出る。


「何事だ!」


姉様が声を張り上げ、訓練場に響かせる。それを聞きつけた騎士達が全員、視線をこちらへと向けた。その眼差しは、一緒にいた私達にまで向けられている気もする。


「あ、第一王女殿下⋯⋯」


フォルテが私達の存在に気付き、顔を青ざめた不安そうな表情を浮かべながら、私達の元へと歩いてきた。


「フォルテ。何があった」

「それが⋯⋯」

「あああああ!!痛い!痛い!骨が!骨が折れる!」


フォルテが説明をしてくれようと口を開いたと同時に、耳を劈くようなそんな声が鼓膜を震わせてくる。思わず、そちらの方に視線を向ける。するとそこには、騎士を地に寝かせ、背中に跨り、掴んだ腕をあらぬ方向へと折り曲げたらしいノアラが居た。


「の、ノアラ!?」

「一体なにが起こってる⋯⋯!私はこの件の対処をする。ラディ、医務室に行け。誰か居たら誰でもいいから連れてこい。もし団長と会ったら団長もだ。会えなくても無理に探さなくていい。治療出来る者が最優先だ。リュサールとフォルテはそこから動くな。何かしようとするな。お前達は客人だ」

「分かりました!」


姉様からの的確な指示を受けて、騎士団を飛び出し、城の方へと向かう。

ドレスはいつまで経っても走りにくいが、この世界に来た頃に比べたら大分慣れた方だろう。ずっと速く走れている気がする。


***


「誰かいますか!?」


医務室に入って早々、声を張り上げる。静かな医務室には、私の声だけが響き渡る。あまりの静けさに、誰も居ないのではと不安になる。しかし、少しして、部屋の奥から誰かの声が聞こえてきた。


「おい!もっと優しくしろ」

「優しくって、手加減ムズいんだよ⋯⋯」

「大丈夫だ。集中して、ちゃんと俺を感じろ」

「そう言われたって、つい力が入っちゃうんだよ」


(⋯⋯ん?)


ここは今は誰もいない医務室。魔が差した男女がそういった行為をしたって何も不思議ではない。しかし、これでは声を掛けるタイミングを見失ってしまう。というか、どう考えても女性が優位に立っているような台詞なせいで、色々と勘繰ってしまう。


「おい!だから、それじゃ傷口が広がるだろ!何の為に俺がお前に魔力を流してやってると思ってんだ!」

「だから黙ってろって!てか、これ必要あんのか?」

「お前が操作難しいって言ってるから、俺が魔力の扱い方を直に教えてやってるんだろうが」

「お前の魔力あっちこっちに行くから分かりづらいんだよ。ミヒリ教えんの下手なんだよ」


「⋯⋯んんん?」


よく聞いたら聞き覚えのある声に、聞き覚えのある名前。それに、傷口が広がるとはどういうことなのだろうか。しかし、私の勘違いでありそうということが分かったお陰で、奥の部屋に入れそうだ。

薄い扉を開けて、奥の部屋へと入っていく。


「ミヒリ、ロレッタ、ちょっといい?」


私の登場に、二人は驚いたように振り返り、私の方を見た。


「あ、偽善女じゃん。やっほー」

「お前⋯⋯」

「あはは⋯⋯。やっほー⋯⋯」


図書員と同じ服装をして、相変わらず手錠がはめられているロレッタの言葉に、私はつい苦笑を浮かべてしまう。ロレッタみたいな直球な悪口を久しぶりに浴びたせいで、どんな対応をしたらいいのか分からなくなってしまう。というか、この二人はいつの間にこんな仲良くなっていたのだろうか。接点なんてほぼ無かったはずだが。


「えっと、色々と聞きたいことはあるんだけど、今急いでて⋯⋯。二人は、治療って出来る?多分、骨折してる人が今騎士団に居るんだけど」

「は?それなら医者呼びにいけよ。バカか」

「その医者が居るのがいつもはここなんだよ。今日は誰もいないけどな。⋯⋯ラディ様、事情は後程話します。今は騎士団へと急ぎましょう。怪我人が居るのでしょう?」

「うん」

「ロレッタ、ついでにお前も来い。勉強になるはずだ」


ミヒリはいつもの女性的な声色を出したかと思えば、すぐにまた聞いたことのないような低い声を出した。これが彼の地声だったのだろうか。


「ラディ様、参りましょう。事情は移動しながら聞きます。⋯⋯行くぞ、ロレッタ」

「あいよー」


ミヒリはテーブルに乗せられていた子猫をひとなでした後、私と一緒に医務室を後にした。そして、急いで騎士団へと戻った。


***


「姉様!戻りました!」


騎士団の扉を開け、中へと入っていく。事の始末はある程度済んだのか、先程痛めつけられていた騎士はおらず、ノアラがしょんぼりと項垂れながら、姉様といつの間に戻ったらしいダーシルテルタ騎士団長の話に耳を傾けているようだった。


「フィナ様。事情はラディ様から聞きました。怪我をした騎士は、今はどちらに?」

「案内する。付いてこい」


ミヒリとロレッタは、姉様に付いていき、別の部屋へと移動していった。取り残されたのは、私と団長、リュサール。それから事の発端のノアラと、傍に居たであろうフォルテだ。


「それで、ノアラはなんであの人をあんな風に傷つけたの?」

「⋯⋯それは、あのクソ野郎が、フォルテに触りやがったからッス。それに、ヤバいこと平気で言ってて、自分とフォルテを馬鹿にするようなことも言って⋯⋯。それで、カチンときちゃって⋯⋯気付いたら、あんなことになってたっス。手合わせの域を超えてるってことは理解してるッス!でも、どうしても⋯⋯」


納得出来なかったのだろう。私には、その気持ちが理解出来る。実行に起こす勇気はいつも持ち合わせていなかったけれど。


「君の気持ちは分かるし、医務室送りになるほど殴りたくなる気持ちも分かるよ。俺もアイツの態度はよく目につくなぁとは思ってたからね。ま、かといってナイスとも言えないかな」

「そうッスよね。やりすぎたことは反省してるッス。でも、あのクソ野郎が悪かったことは訂正しないッスよ!」

「あはは!図太いなぁ。いいね、気に入った。そのくらいで丁度いいよ」

「⋯⋯怒んないんスか?」


騎士団長の言葉に、ノアラは目を丸くする。


「え?なんで怒る必要があるんだ?君はラディ様のお客さんだし、俺があれこれ叱りつけるもんでもないただろ。まぁ、後で確認することは何点かあるんだが、今はなんも言わないよ。もう疲れただろう?ゆっくり休んだ方がいい」


ダーシルテルタ騎士団長の言葉にノアラはゆっくりと頷き、彼女を心配したフォルテと共に部屋に戻ることとなった。ランカ兄様の言葉を思い出し、二人で歩かせるわけにはいかないため、私とリュサールも付いていき、ノアラを部屋まで送ることになった。

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