慕われる要素
私達は、城の人達に稀有なものを見るような目で見られながらも、なんとか騎士団へと辿り着いた。
「ここだよ」
「へぇ〜。外にあるんスね」
「うん。でも、ここもお城の敷地内だよ。それじゃ、入ろっか」
私は、騎士団の扉を開き、皆で中へと入っていった。
「たぁ!」
騎士団に入った途端、木刀のぶつかる音と、騒がしい足音、それから勇ましい掛け声があちこちから聞こえてくる。
「わぁ⋯⋯。凄いッスね。こんな入ってすぐのとこに手合わせ出来る場所があるんスね」
「暑い⋯⋯。けど、ノアラはこういうの好きそうだよね」
「ん?まぁそうッスね。でも、フォルテも興味あるんじゃないんスか?人間と手合わせ出来る機会なんて、自分達にはそうそうないッスよ。混ざってきたらどうッスか?フォルテの実力なら、勝ち抜きしたって、余裕じゃないッスか?」
「⋯⋯⋯⋯どうだろうね」
フォルテが変にノアラの話を誤魔化したこととほぼ同時に、手合わせを終えたらしい姉様が、私達に気付いた。彼女は対戦相手に頭を下げると、私達の方へと歩いてきた。
「ラディ。久しぶりだな」
「そうですね。城を出る時も、姉様とはちゃんと話せてなかったので⋯⋯大体一週間ぶり?ですかね」
「もうそんな経ったのか⋯⋯。昨日帰ってきていたとは聞いたが、いつ帰ってきたんだ?あまりにも遅かったし、顔も見せてくれなかったものだから、心配していたんだぞ」
「す、すみません⋯⋯」
騎士団は城からも少し距離があって、移動がどうしても億劫に感じてしまう。それに、城からリガルーファルへの出発の日は忙しくて、姉様に会いにいく余裕も無かった。
(それに、姉様も忙しいみたいだったし⋯⋯)
「⋯⋯いや、無事に帰ってきてくれたなら、それでいいんだ。ところで、そちらのお二人は?会ったことは、無いよな?」
「え!?あ、は、はい!お初にお目にかかるッス⋯⋯じゃなくて!かかります!第一王女殿下。自分、や、私は葬儀屋兼リガルーファルのメイドのノアラ・コーレイン。お会い出来て光栄ッス⋯⋯!」
「あ、う、うちはフォルテ・ミリコフ。ノアラと同じで、葬儀屋兼リガルーファルのメイド。よろしく、お願いします⋯⋯」
ノアラの急な丁寧な物言いに、私やリュサールだけでなく、フォルテまでもが驚きで上手く言葉が発せずにいる。この変わりようはなんなのだろうか。ノアラは、姉様に対してキラキラと憧れらしい眼差しを向けている。
「⋯⋯ねぇノアラ。なんかおかしくない?変なものでも食べた?」
「失礼ッスね!自分は、ただ単純に第一王女殿下をお慕いしているだけッスよ!」
「それは嬉しいことだが、私と君は、初対面なのだろう?私に、そんな慕われる要素は無いと思うのだが⋯⋯」
「とんでもない!貴方は、幼い頃に森で道に迷った自分を助けてくれたッス。自分にとっては、命の恩人ッスよ!」
「そうだったのか⋯⋯。ふむ⋯⋯。ならば、新しく友人となるのはどうだろうか。私は、あまり慕われるというようなことは好きじゃないんだ。私が騎士を志した理由はそんなものではないし、騎士である限り、民や同僚とは、ある程度はフラットに話したいと思っているんだ」
朗らかに話す姉様に、ノアラは珍しく動揺を示していた。
「と、と、友達だなんて⋯⋯!でも、第一王女殿下がそういうなら⋯⋯」
「ノアラ、チョロい」
「チョロくないッス」
ノアラ達のやり取りに苦笑を浮かべながらも、私はリュサールの方をちらりと観てから、姉様に向き合った。
「姉様、少しだけ、話があるんだけど、いい?リュサールとのことについてなんだけど」
「⋯⋯あぁ、構わない。執務室で話そう。部屋を掃除して私の部屋にしたんだ」
「分かりました。⋯⋯ノアラ達はどうする?」
「なら、自分達は騎士団の人達と手合わせでもしてるッス。いいッスか?」
「あぁ、問題は無いが⋯⋯。その、君達は、戦えるのか?ここの騎士達は、皆生半可な実力などではないぞ」
「問題ないッス!自分達は、人間相手に戦うことはあまり無いッスけど、だからこそ、いい経験になるッス。勝っても負けても怪我しても、自分達には経験値ッスよ」
ノアラの言葉に、姉様は暫く悩んだ様子を見せたが、懐から一枚の小さな板を二枚取り出し、ノアラ達に差し出した。
「これはなに?」
「騎士団挑戦権。まぁ、騎士団の者と戦う為に必要な書類だとでも思ってくれ。それを騎士に見せたら、皆対戦を受けてくれるはずだ。快く受け入れてくれるかどうかは別だがな」
「へぇ⋯⋯。分かったッス。皆様が戻ってくる頃には、全員ぶっ飛ばせるよう、がんばるッス!」
「頑張るところの方向性おかしいだろ⋯⋯」
リュサールが呆れるように、板を握るノアラを見つめる。
「大丈夫ッス。例え負けても、勝てるまでやれば全勝ッス」
「ゴリ押し過ぎない⋯⋯?」
「ふふ。君達は仲が良いのだな。羨ましい限りだ」
姉様が微笑ましく見つめてくるせいで、どうにもいたたまれなくなってしまう。そんな気持ちを抱えたまま、私とリュサールは姉様に連れられて、執務室へと向かうのだった。
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