いがみ合い
「なるほど。とにもかくにも、そこのお嬢さん方二名も事情は知っているってことでおけ?」
ユマラさんの言葉に、ノアラは手を顎に当てて、深刻そうに悩み始めた。暫くそうした後、顔を上げてユマラさんに向き直った。
「えっと、まず、自分の名前はノアラで、こっちはフォルテ。自分達は、リリウムっていうエルフが経営している孤児院で世話になってる葬儀屋兼リガルーファルのメイドッス。こっちで勝手にある程度のことは調べさせてもらったッスけど、情報が足りなくて⋯⋯。自分達が邪魔なら、部屋からは出ていくッス」
「部屋から出ても、行ける場所なんて無さそうだけどね。他の家のメイド二人が、なんで城をほっつき歩いてんだって話になるし」
「それは、そうッスけど⋯⋯」
ノアラとフォルテは、二人揃って肩を落として落ち込んでしまった。その様子に、思わず私まで気分を落としてしまう。私があんなトラブルに巻き込まれなければ、今頃は私の権限で、城を案内することだって出来ていたのかもしれない。
「ふーん。キミ達、リリムンとこの子だったんだ〜。それならそうと早く言ってよ〜!も〜!水臭いな〜!」
「え?」
「は?」
暗かった空気が一転して、ユマラさんがノアラとフォルテの二人をぎゅ、と強く抱き締め、腕の中に収めた二人は混乱の意思を示すように、そんな間抜けな声を上げた。
「もう〜!あたしリリムンの孤児院出禁にされてて、子供達と接触することも禁止されてんの!マジ酷くない!?でもリリムンの子に会えたなんて、ほんとラッキー!ねね、孤児院にはいつ帰るの?あたしも連れてってくんない!?」
「ストップストップ!そんないっぺんに話されてもなにがなんだか分かんないッス!」
ノアラが抱きついてきたユマラさんを力ずくでなんとか剥がし、二人で距離を取った。その様子を見て、ユマラさんはがっくしと分かりやすく落ち込んだ。
「師匠〜、辞めなって。女の子達困ってるでしょー?」
「え〜⋯⋯。女の子同士なら、ハグしても問題無いよ。あ、でも息子的立ち位置はノーカンってことでランカもオッケーだよー!ぎゅー!」
「《旋風を巻く人》」
突然巻き起こった小さな竜巻に、私もリュサール達も目を開けていられなくなる。しかし、ユマラさんは例外だったらしく、私が目を開けた時、前髪一本乱れていない彼女の姿があった。
(なに?なにが起こったの?なんでユマラさんだけ平気そうなの?こわっ)
「ふっふっふ。まだまだお子ちゃまだね、ランカ。王国図書館司書になって十年?たるんでんじゃないの〜?」
「まさか。俺は毎日ちゃんと進歩してるよ。師匠だって昔より反応がコンマ三秒遅れてたけど、師匠こそたるんでんじゃなーい?それとも、俺が強くなりすぎただけ?ごめんねー。神童って呼ばれてた最強で」
「えー。やっばランカ。神童って何年前の話?過去の栄光に縋っちゃってる系?そういうのめっちゃイタ男って感じでマジ笑える〜。モテないよ?」
「ごめんけど、俺めっちゃモテてんだよね〜。あとちゃんと話聞きなよ師匠。俺は、神童って呼ばれてたって言ったの。今も自分が自分が神童だなんてことは言ってないけど?まともに本も読んでいないんでいないんだね。あ、田舎に隠居すると、本すらまともに手に入れる余裕がない?」
「あるに決まってんでしょー!?勝手に憶測で結論づけないでくんない?そういうの、マジでランカの悪い癖だよ?人の話聞かないでなんでも自分で解決しようとするとこ」
「はぁ?」
止まらない天才達のいがみ合いに、私達は置いてけぼりとなってしまっていた。どうにかして言い争いを止めたい気持ちだけは持ち合わせているが、その武器をどう振るえばいいのかいまいち分からない。こういった場面で私が発する言葉は、十中八九余計なことだからだ。
そううだうだと悩んでいたら、髪をいじっていたリュサールがめんどくさそうに溜息を吐いた。
「⋯⋯なんでもいいですけど、ちょっと黙ってください。司書殿が起こした風のせいで、髪が乱れてしまったんです」
「え?そうなの?それは悪いとは思うけど、反応して防御魔法発動させられなかった方が悪くない?」
カチン、と怒りが沸騰したような音が聞こえたような気がした。恐る恐るリュサールの方を見れば、今まで見たこと無いほどの不機嫌面で、兄様のことを睨んでいた。
「⋯⋯ラディ」
「は、はいっ」
「僕の兄が図書員じゃなくて良かったと、今しみじみと思っています。逆に、貴女が凄く可哀想でたまりません」
「あ、うん⋯⋯」
怒りを顕にするリュサールに、兄様なにが面白かったのか、吹き出して笑い出してしまった。
「はははっ。リュサール、図書員を馬鹿にするの上手いね。図書員向いてるよ〜」
「ありがとうございます。全く嬉しくありません。それで、ラディの身体は今どうなっているのですか?元を辿れば、その話だったでしょう。貴方達が無駄に逸らしたせいで、本題を見失ってしまいました」
リュサールの言葉に、ユマラさんはやれやれと残念そうに息を吐き、本題へと入っていった。
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