半分は嘘
「そんで、ラディちゃんの身体にある魔力についてなんだけど⋯⋯龍である可能性が高いんじゃないかなぁってのが、あたしの憶測。直接触れた感じ、なーんかドラゴンのあの物騒な感じと似てんだよね〜。つまり、ノアラちゃんの言っていたこととほぼ一緒ってわけ」
「一緒じゃないッスよ!自分は龍だなんて分からなかったッスから」
「しかし、龍とは言ってもなんの龍ですか。僕達は邪龍くらいしか知りませんけど」
リュサールが脚を組みながら、ユマラさんの方を不機嫌そうな顔で向けた。
「え〜?最近の子って、龍について教わったりしないわけ〜?いや、しないか。あたしの時代ですらやってなかったことだし、今の子が今更歴史的価値のあるものを学びだしたりしないか⋯⋯。おけおけ。あたしが龍について一から教えてあげる」
ユマラさんはそういうと、ぱちん、と指を鳴らした。すると、目の前に六つのホログラムが突然現れた。それは、龍をデフォルメしたような可愛らしいイラストだった。
「⋯⋯なにこれ?」
ランカ兄様が不満気にユマラさんの方を睨むと、彼女は何故か得意気に鼻を鳴らした。
「いいっしょ〜?あたしの手描き〜。可愛く描けたと思わん?」
「はいはい。思うって言えばいいんでしょ。それで、このちびっこい色龍はなに?」
「説明用に出しただけだって。えっと〜。まずね、龍はこの惑星、アーシャが誕生した時に、始めの頃に誕生した生物の一種って言われてるよ。ただ、その時は祖先のトカゲが居ただけだから、竜が居るかどうは、学者の間では賛否両論なんだけど、ま、その話は今は置いとくとして⋯⋯。んでまぁね〜。そっから一億年後?経ってアーシャぼっこぼこのべっちゃべちゃになりつつも生存したのね。そんで、そんな中で進化を遂げたのが、ドラゴンってわけよ。ついでに、自然に属性を付けたのも龍だよ。最初に誕生した六種類の龍が、それぞれ属性を付与して、それが勝手に自然の成長で発展していってなうってわけ。今表示してるのは、文献に載ってる可愛くない絵をあたしのセンスでめっちゃ可愛く仕上げたやつ。ただ、今した話も、その絵も、全部人間が研究して語り継いできたものだから、多少の誤差あっても許してちょ。そんで文句は第一発言者に言ってちょ」
「もう死んでるでしょ⋯⋯」
ユマラさんは兄様のそんな言葉を聞き流して、ホログラムをしまった。
「んで、ここまでは前座。問題はこっから。その龍はね、元素与えた後もまぁまぁ生き残ったんだけど、結局、自然の変化に対応出来なくてね。五千年経たずくらいで絶滅しちゃったのよ。ただ、どいつが産み落としたのか、卵が一つ残ってたみたいでね。それがキミ達が邪龍って呼んでる存在。ちなみに名前はインヴィルっていうらしいよ。なんか陰気な名前すぎてウケるよね」
「それには同意しとくけど、いつそんな貴重な資料入手したわけ?」
「そうですよ。僕ですら、邪龍の名前だなんて知りませんでしたよ。というか、その情報も正確なんですか?」
「いんや知らない。てか、大前提歴史なんて半分は嘘でしょ。だって、語り手が嘘ついて、それが嘘って気づかれなかったら、嘘のまま話が後世まで繋がってくっしょ?だから、あたしが今まで話した内容も半分は多分嘘ってこと。歴史なんて、大筋さえ合ってれば、どんだけ盛っても後世の人は分からないからね。だから、この偉人は実際に存在したのか、実は架空の人物なのではないか⋯⋯なーんて話題が上がってくるんでしょ?邪龍の名前だって、インヴィルなんて名前じゃなくて、全然違う名前の可能性だってあるからね。歴史なんてそういうもん。ただの噂の独り歩きだから、過信はしない方がいいよ。ね?歴史を重んじるリガルーファルの末っ子くん」
ユマラさんは長々とそう話した後、リュサールの方へと視線を向ける。急に名前を上げられた本人は、鬱陶しそうにユマラさんを睨みつけた。
「⋯⋯そうですね。肝に銘じておきます。ですが、そういう貴女こそ、長話は辞めた方がいいですよ。年寄りだとバレてしまいますから」
「あはは〜。ちょームカつくー。確かにこれは図書員向いてるわ。マジで試験受けてみたら?合法的にラディちゃんと一つ屋根の下で生活出来るよ。位の高い貴族の図書員は、申請すれば城に住めるんだよ。伯爵ならギリいけたはずだよ」
「素敵なお誘いですが、お断りします。僕が城に住むとなったら、それはラディと正式に婚姻を結んだ時なので、お構いなく」
リュサールの言葉に心臓がドクンと跳ね上がる。しかし、それはユマラさんの吹いた上手な口笛によって少し収まった。
「えー。積極的〜。年甲斐もなくドキッとしちゃった。可愛い顔して大胆過ぎじゃん。あたしの手助けいらない感じじゃない?」
「えぇいりませんよ。ユマラ様は余計なことしかしなさそうなので」
「はは〜。ムカつく〜」
ユマラさんは貼り付けたような笑顔でそう言ったあと、わざとらしく咳払いをした。
「まぁ、話逸れまくってマジ申し訳ないんだけど、結論出すと、ラディちゃんの中に居る魔力は、ほぼ邪龍で確定。んで、まぁまぁ侵食されてるっぽいから、人格生えてるかもね。乗っ取られないよう気をつけて」
「え!?そんな軽く言うんですか!?」
さらりととんでもないことを言われたのに、ユマラさんは一切焦った様子がなくて、逆にこちらが慌ててしまう。
「うん。だって、ラディちゃん、今んとこ全然問題なさげじゃん」
「いや、ありますよ!倒れた時、変な声聞こえてきたんですから」
「ふーん。邪龍の声かな。それはこっちでちょっと調べてみる。でも、今は比較的落ち着いてるけどね。今までも、そういった声が聞こえたことは?」
「無いです。身体に異常が出たこともありません」
「ほーん?なるほどなるほど?了解。なんかしらトリガーがありそうな気がしないでも無いね⋯⋯」
ユマラさんはまた深く悩み始めたらしく、腕を組んで顎に手を当てた。
「⋯⋯うん。おーけーおーけー。やっぱテレポ使って爆速で城に来て正解だったわ。騒動も片付けたせいで、魔力ほぼ残ってないけど、仕事は十分したっしょ。ランカ、後は任せていい?あたしはメイドに部屋用意してもらって少し休むから」
「分かった。今日はもう寝る?」
「うん。また明日ね〜。おやすみ〜」
まだ昼だというのにも関わらず、彼女は夜の挨拶を告げて、部屋から出ていってしまった。私達は、去っていった嵐に、息が吐けた思いになり、黙ってしまったのだった。
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嵐のように場を荒らしていき、台風のように去っていく女、ユマラ・ミナフェイル