人工エルフ
密室に緑の自然というミスマッチに驚いていたが、更に驚くことに、そこはに人が居たのだ。その人は、兄様に気付いた途端、顔を輝かせて兄様へと飛びついた。
「らんかぁ!おかえりなさい!」
「ただいま、フェマ。いい子にしてた?」
「うん!」
兄様はフェマと呼ばれた青年を自分から引き離すと、振り返って私達の方に目を向けた。
「紹介するよ。彼はフェマ。俺の契約精霊で、人工エルフ」
「じ、人工エルフ⋯⋯?」
聞き慣れない言葉に耳を疑いつつも、フェマと呼ばれた青年に目を向ける。好青年のような垂れ目に草原のような黄緑色の瞳。そして、エルフというのは本当らしく、セラーネ様達と同じように、耳は鋭く尖っていた。すらりとした高い背丈に見合わないだぼだぼのシャツと、地面に付きそうなくらい長い髪は、私達と同じ金髪だった。
(え?金髪?)
金髪は、私達王族の特権だったはずだ。事実、私は家族以外の金髪の人を見たことがない。
「ほらフェマ、自己紹介は?」
「えっと、こんにちは!ランカの契約精霊で、エルフのフェマ、です。アルノ、と、誰ですか?」
「え?あぁ、私はラディ・ピアグレータ。ランカ兄様の妹って言ったらいいのかな?」
「あ!そうだったんだ!それなら、ぼくのおねーさんだ!」
「お、お姉さん?」
八重歯を見せながらにっこりと笑うフェマさんに、こちらは何も理解できていなかった。
「だって、ぼくはランカに造られたから、ランカの子供でしょ?そして、ラディはランカの妹だから、ぼくのおねーさん!」
「⋯⋯兄様、どういうことです?隠し子ですか?」
「違うよ!いや、まぁ、隠してはいるから隠し子⋯⋯って、違う!そもそも、フェマは元々俺の契約精霊なんだよ!確かにエルフとして人型になれるようにはしたけど、フェマ自体は元々精霊なんだってば!」
ランカ兄様の声に、フェマさんの方に目を向けるが、彼はアルノに飛びついてじゃれていた。まるで大型犬だ。
「精霊って⋯⋯。どういうことです?そもそも、エルフって、人が作れるものなんですか?」
「それを語るには、まずはエルフがどうやって誕生するかを話さないとね。エルフは、精霊が大木の力を浴びて、人の形を得た姿なんだよ。つまり、セラーネ師匠やネヒアも、元は実態の無いふよふよ浮かぶ精霊だったってこと。それが長い年月を経て、人の形へと変化していくんだって。その状態がエルフ。んで、今回のフェマのケースについては、エルフの里にある大木の霊気を模したエネルギーを編み出して、それを使用したんだ。この部屋には、そのエネルギーが充満してるってこと。でも、それだけじゃエルフとして形を成すには当たり前だけど不完全だったから、俺の魔力を継続的に実態の無かったフェマに流し続けたんだ」
「え?実態無いんですよね?どうやって魔力を流して、フェマさんの身体に溜め込んだんですか⋯⋯?てか、さらっと言ってるけど、霊気を模したエネルギーって⋯⋯」
いつもろくに仕事に打ち込んでいる姿を見ていないせいで、ギャップを受けてしまう。この人は、本当に実力があって王国図書館司書に成り上がったのだ。
「あぁ、それは、特殊なカプセルにフェマを入れて、その中に魔力を流し込んだんだ。そして、それと同時にフェマの学習も始めた。人間とか、魔法についてね。でも、最初の方は全然上手くいかなくて、十年経って、一週間前ようやく成功したんだ」
「え!?十年?てことは、司書になった辺りから、この実験してたってことですか⋯⋯?」
「うん!セラーネ師匠から、エルフの起源について聞いた時、人工でも造れないかなって、ずっと思ってたんだ。それに、司書の部屋には、前任のユマラ師匠の趣味で、こういった秘密部屋があったからね。ま、あの人は造るだけ造っといて、自分はまた使わなかったんだけどね。とにかく、うってつけな実験部屋もあったんだから、これはもうやるしかない!と思ってね〜。俺は人間だからエルフの里には足を踏み入れられないみたいだし、エルフは人里に降りてくることもないしエルフを研究する学者も居ないから、文献も本当に少なくてね!だから、一から全部自分で調べなくちゃいけなかったってわけ。まず初めに、エルフの生態について詳しく調べたんだ。じゃないと誕生させようにも出来ないからね。師匠やネヒアはあまり協力的じゃなかったから、人語を話せる精霊達を使って情報を集めたんだ。まぁ当てにはならなかったけど。そして!エルフの魔力の流れは人間と同じなのか、外部からの圧力にどれほど耐えられるのか、エルフが長寿の理由とか、俺なりに調べて論文にまとめたこともあったんだよ。あ、ちなみに結果からいうと〜」
「ちょ、もういいもういい!」
口を手で塞ぎ、兄の暴走をなんとか抑える。この人がこんなに何かに熱中するように暴走する姿は中々見たことがない。
「え〜?こっからが面白いのに〜」
「だって、その話無限に続きそうじゃないですか。私は重要なとこだけ、聞きたかったんです。でももういいです。兄様がどれだけ凄い人かってことが分かりましたから」
「そう?俺がどんだけ凄いか分かっちゃった?」
「はいはい。分かりました分かりました。それで、何がどうなったら、フェマさんは今回の件の協力者になるんです?」
私が訊ねると、兄様は忘れていたのか、あぁ!と声を上げた。その様子に、私は呆れるしか出来なかった。
「フェマは、精霊だった頃から、全体的に感知能力に長けているんだ。だから、こういった探偵みたいな仕事には、持ってこいってこと。それに、フェマは俺が初めて契約した精霊だったから、俺には結構懐いているし。ね〜?フェマ」
「え?なにがー?」
アルノに抱きついていたフェマさんは、くるりとこちらに振り返り、子供みたいに口をあんぐりと開けていた。
「フェマは、俺のこと好きだよねって話してたんだよ」
「うん!ぼくランカ好きだよ!アルノもロレッタも、ラディも皆好きだよ!」
「う、うん⋯⋯」
青年のような体格をしているのに、出てくる表情は子供のように幼稚で、どこか違和感を覚えてしまう。エルフとは、産まれながらにして多少の知識を持っているものではないのだろうか。
(エルフも、産まれたてはちゃんと赤ちゃんなんだなぁ⋯⋯)
「む!ラディ、ぼくは赤ちゃんじゃない!」
「え!?」
私の考えていたことを見事に当てられ、そんな声を上げてしまう。
「どう?驚いた?」
「え?はい。フェマさんって、心の声が読めるんですか?」
「フェマさん、じゃなくていいよ。それと、ぼくは赤ちゃんじゃないからね!」
ふんす、と効果音が付きそうな怒り方をするフェマの頭を、ランカ兄様は背伸びをして撫でた。
「そだね〜。こんなに大きいのが赤ちゃんなわけないもんね〜」
「そだよ!ぼくは人間の中ではちゃーんと大人だからね!」
大きい赤ちゃん⋯⋯大人の頭を撫でる光景に、私はとうとう目を逸らしてしまったのだった。
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マジでどうでもいい裏話
フェマの部屋の植物は、当然ながら全て人工です。ランカが頑張って用意しました。フェマは部屋が出来ていく過程を見ていたというのもあり、凄く気に入っています。




