ずっと一緒に居て
私の送別会を兼ねたパーティーは盛り上がり、主役のはずの私がついていけなくなってしまう。未成年の子もいることから、お酒を飲んでいる人は居ないみたいだが、それでも騒がしい。使用人であるはずのノアラ達も、シルヴィさんと一緒に食事を取っている。
(あれ?リュサールが居ない)
食堂を見回すも、彼の姿が見当たらない。どこに逃げてしまったのだろうか。
「⋯⋯⋯⋯」
なんだか胸騒ぎがしてしまい、食堂を飛び出してリュサールを探しに行くことにした。
***
リガルーファルの薄暗い廊下を歩き続ける。そして、星の光を薄い窓越しに浴びられる場所にまで来ていた。
(そういえばあの時、シャミアさんが生贄に乗り出した時もキレて此処に来て黄昏てたなぁ⋯⋯)
暗闇に慣れてきた目で分かりづらい扉まで歩き、中庭へのドアノブを回す。
「リュサール」
扉を閉めて、彼の名前を呼ぶ。リュサールは私の声に振り返ってくれた。
「ラディ。食事はどうしたんです?」
「もうお腹いっぱいになったから、リュサールと話そうと思ったの。そしたら、何処にも居ないから、わざわざ探しに来たってわけ」
「おや。それは態々ご親切にありがとうございます」
なんて、いつもの紳士的な笑顔で言われる。
「⋯⋯もう少しで、貴女がリガルーファルから居なくなってしまいますね」
「そうだね。でも、リュサールは一緒に来るでしょ?」
「そうですね。ラディと同じ馬車で出発することになりました」
「え?この話したのって、ギリ朝方だよね?もう準備終わったの?」
どこか驚きつつも心の中で引いてしまう。いや、荷物が少ないからなのかもしれない。
「折角の貴女からのお誘いですから。それに、お城に客人として泊まる機会なんて、ありそうで中々無いものですからね」
「確かに、そうかも?」
お城には客人がよく来るが、皆用事を終えたらすぐ帰ってしまうため、そのまま城に滞在する人は少ない。連日で用事があっても、一度帰宅して、翌日再び城に赴く場合が殆どだ。
「でも、本当に良いんですか?何も話してないのに、こんな夜中に急に客人を泊めろだなんて⋯⋯」
「大丈夫大丈夫。父様でも出てこない限り、皆私の言うこと聞いてくれるから」
(まぁ、一部例外は居るけど⋯⋯)
それがあのエルフとメイドだ。あの三人はいつも大人で、私のいうことをあまり聞いてくれない。しかし、その関係値が私にとっては気楽なのだろう。
「⋯⋯貴女がそう言うのなら、そうなのでしょうね」
リュサールはそう言った後、私から視線を外し、空を見上げた。
「リュサール?」
「⋯⋯『月は我々を導く唯一神だ。月は夜の暗闇を照らし続ける唯一の光。月は我々に力を授け、邪龍を呪った。月を盲信してはいけない。月は我々を裏切り呪う邪神だから』」
「⋯⋯それは?」
「リガルーファルに古くから伝えられている伝承の一つみたいなものです。月、特に満月は、リガルーファルの魔力を最大限高めてくれます。しかし、突拍子のない力には代償が付き物です。我々は、月からの恩恵を授かり、月に呪われるのです」
「呪われるって?呪っているのは、邪龍なんじゃないの?」
震える声でそう問う。こんなの、私の聞いていい話なのだろうか。
「⋯⋯証明のしようのない有り得ない力は、人間というものを理解していないのです。だから、満月の力をいっぱいに浴びて踊る舞姫は、すぐに壊れる。僕達は、月にも邪龍にも呪われているんです。それくらい、月も邪龍も、この馬鹿みたいな一族のことが狂おしいくらい好きなんですよ」
月を見上げるリュサールは、痛ましい表情をしていた。その話が、その声が、私からはとても遠くて、彼のことを恐ろしく感じた。いつか、そのまま私の知らない月の裏まで行ってしまうのでは無いかと思ってしまって。
「⋯⋯⋯⋯」
リュサールに離れて欲しくなくて、服の裾を軽く掴む。
「ラディ?」
「⋯⋯リュサールのことを一番好きなのは私だよ。だから、何処にも行かないでほしいし、死なないでほしい」
「⋯⋯いきませんよ。いきたくないですよ」
「なら、私とずっと一緒に居て」
覚悟の意を込めて、リュサールを見つめる。彼の瞳は、情熱的な赤色なのにも関わらず、なにか迷っているように揺らいでいた。そんな瞳を抱えた顔が、ゆっくりと近付いてきた。瞼を下ろせば、唇に柔らかいものが当てられた。
「言われなくても、僕はずっと貴女の傍に居ます。ラディが許してくれるなら」
「許す許さないの問題じゃないでしょ。元は私から頼んだんだから⋯⋯」
「⋯⋯はは。本当に、貴女は僕のことが好きですね。嫌じゃないんです?こんなめんどくさくて、女みたいな男」
「嫌だったら、此処にも来てないし、王女の権限で意地でもリュサールを城から出禁にしてると思うよ」
「そうですか。それじゃ、最初から僕の勝ちでしたね」
得意気に笑うリュサールの顔は、夜の光を背に背負ってどこか神々しく見えた。
「⋯⋯本当に、貴女をリガルーファルに誘って良かった」
「うん。私も、此処に来れて良かったよ。リュサールのことをいっぱい知れたから」
それに、城に引きこもっていただけでは、体験出来ないようなことも体験出来た。いい事ばかりでは無かったが、楽しいことが多い日々だった。たった数日の出来事なのに、此処に来る前と今では、きっと私は大きく成長しただろう。それは多分、彼も同じ気がする。初めて会った彼だったら、きっと私はこんなにも好きにはならなかったはずだ。リュサールが逃げずに私と向き合ってくれたから、私が根負けしたのだ。
「⋯⋯そろそろ行きましょうか。あまり馬車を待たせてはいけませんし、遅くなるのもよくないですから」
「そうだね。馬車は、村からこっちに来てくれるの?」
「えぇ。だから、村まで歩かずに済みますね」
「良かった。夜道は歩きたくないから⋯⋯」
「ふふ。エントランスまでは歩いてもらいますけどね」
リュサールがそう言って差し出してきた手を握る。
「そのくらいは歩かないと、運動不足になっちゃう」
私達は肩を並べて、まだ騒いでいるであろう食堂へと向かった。
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