貴女にとって
「ふぁ〜⋯⋯」
いつも通り、ノアラとフォルテに起こされて朝食を摂ったが、今日は今までより眠気が取れなくて、いまだに眠い。昨日、ノアラと喋りすぎたせいだろうか。
「殿下、眠そうだね。欠伸までしちゃって」
「そっ、そうッスね」
フォルテの言葉に、ノアラの声が一瞬裏返る。夜更かしさせた側からしたら、はらはらなんて言葉では足りないだろう。そんな冷や汗を垂らすノアラを見て、フォルテは何かを疑うように、ノアラを見つめた。
「⋯⋯ノアラ、うちになにか隠してる?」
「なっ、なんでそうなるんスか?」
「ノアラ、気付いてないと思うけど、うちに何か隠す時って、声が裏返るんだよ。知ってた?」
「うっ⋯⋯」
白状したように呻き声を上げたノアラを見て、フォルテはため息を吐き、ノアラから離れた。
「ま、追求はしないけど。どうせうちがどんだけ詰めたってノアラは話さないし。昔からそうだよね」
「そうッスか?」
「そうだよ。⋯⋯さて殿下、今日はどうするの?夜には帰るんでしょ?」
「うん。あ、そういえば、このドレスってどうしたらいいの?」
ここに来た時から着せられていた真っ黒なドレスとも、今日でお別れだろう。
「あぁ、それなら、帰る前の着替えられる時に渡してくれればいいよ」
「そっか」
「⋯⋯それ、初めて着せた時にも言ったッスけど、ベラリヤでの黒いドレスって、リガルーファルの花嫁って印象が強いんスよ。でも、殿下の場合は白色のウェディングドレスな気もするッスね」
「え?なんで?」
「だって、リュサール様は綺麗な白髪じゃないッスか。黒色のウェディングドレスが出来た起源って、黒髪であるリガルーファルの夫の色に染まるってところから来てるみたいッスよ。だから、それだったら黒より白じゃないッスか?」
「そういうもの?」
私が頭に疑問符を浮かべていると、前の方からメイドさんが走ってきたのが見えた。
「殿下!ようやく見つけました⋯⋯」
「え、さ、探してました?」
「はい。リュサール様からの伝言です。『見せたいものがあるから僕の部屋に来てください』とのことです」
「え?でも私リュサールの部屋がどこにあるのか知らない⋯⋯」
「なら、うちらが案内するよ。多分、その想定なんでしょ」
「本当ッスか?⋯⋯あ、伝言助かったッス。あとのことは自分達でやるから、ここは任せてほしいッス」
ノアラの言葉に、メイドさんはお辞儀をして、背を向けて歩き出していった。
「⋯⋯要件があるなら、自分で言いにくればいいのに」
「事情があるんだよ、多分」
「事情とかなんでもいいッスけど、さっさと行かないとあの人多分めっちゃ怒るッスから、早いとこ行くッスよ」
***
二人に連れていかれるまま、薄暗い廊下を歩いていき、ある部屋の扉の前で止まる。
「それじゃ、自分達はこれで」
「え?一緒に来てくれないの?」
「だってあの人、うちらが居たら絶対絞め殺すじゃん。やだよ」
「えぇ⋯⋯。そんなことしないと思うけど」
二人の中で、リュサールは一体どんな印象なのだろう。そんな聞けもしないことを考えている間に、二人はいつの間にか遠くの方へと行ってしまっていた。
私はそんな二人から目を離し、目の前の扉へと向ける。そして、一回深呼吸をして、扉をノックした。
「リュサール?ラディです。その、入っていい?」
そう言うが、ドアの向こうからはなにも返答が無い。
「あれ?居ないのかな?」
開けていいのかどうか悩んでいると、ドアノブが回される音がする。ちゃんと居ると安堵したのも束の間、勢いよくドアが開かれたと思ったら、抱きしめられ、部屋の方向へと引っ張られた。
「ちょ!?」
私が部屋に入った瞬間、ドアがバタンと閉まる音がした。その音を聞いたと同時に、私と、私を抱きしめたその人はバランスは崩し、床に倒れてしまった。
「あはは。ごめんなさい。バランス崩しちゃいました」
「リュサール、何やって⋯⋯」
起き上がった私は、文句の一つでも言ってやろうとリュサールの方を見つめたが、彼の服装を見て、言葉に詰まってしまった。彼が着ているその服は、以前に二人で街に出掛けた時に購入したものだ。
「その、服⋯⋯」
「⋯⋯覚えてます?あの時、貴女がユエナを見たいって言った時に買った服です」
「あぁ、そういえば、リュサールが持ってたね」
あの時は、ユエナちゃんに会いたい一心で、リュサールに無茶なお願いをしてしまったが、今はもう不要になったものだろう。
「えぇ。見たがってたから、貴女が帰らないうちに見せないとじゃないです?」
「⋯⋯うん」
確かに、少し前の私なら大いに喜んで、成長したユエナちゃんに会えたと思っただろう。しかし、今の私では、どれだけ彼女に近い服を着た彼を見たって、リュサールにしか見えない。
「⋯⋯ラディ。今の貴女にとって、ユエナってなんですか?」
「え?」
「この服を買いに行った時、僕とユエナを重ねていた貴女だったら、今の僕の姿を見れば、抱きつく程に喜んでいたでしょう。でも、ユエナではなく、僕を好きだと言ってくれた貴女は、僕の姿を見て逆に落ち込んでいる。なら、貴女にとって、ユエナってなんなんですか?」
「それは⋯⋯」
かつて運命だと思ったあの子は、もう運命ではないのだろうか。
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